I don't like you, but I love you

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8 サン

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先の章で偶に登場した「サン」という、シイの幼馴染。
彼女は、大変癖のある性格をしていた。
癖のひとつを挙げよう。
自分より「格上」だと認識した相手に対しては…自ら腹を見せ、従順を示す「犬」になるが、格下相手だと認識すると、徹底的に相手を卑しめる。
そして、その「判断」が「光速」レベルで早いのだ。
「格上扱い」と「格下扱い」の格差は凄まじく、その格差は格下された相手の恨みを増幅させるのだ。
更には…話を盛り上げる為だと解釈したいが…「話を盛りに盛る…癖がある」のだ…つまりは「大嘘つき。」
彼女を形容する代名詞は、「大嘘つき」だけに留まらない。
「マウンティング野郎」
「性格破綻者」
「サイコパス野郎」
彼女に接した人々は、彼女と自分の間で繰り広げられた「有り得ない出来事」を「怒り」又は「悲しみ」…それらの感情にプラス不信感を積立て、彼女の「有り得ない性格」を周囲に愚痴るのだ。
それは、BOSSやシイのみならず、何故かサンと関係の薄い私自身も「その対象」だ。
このシイの幼馴染であるサンに関しては「誰も彼女について、人格や仕事及び勉学を含め…良い評価を付けない」といった有様だ。
ママ◯ゾンレビューで…評価1ついており、レビュー内容を読んでみると「本当は評価1すら…付けたく有りません。仕組み上、1以上は付けなくてはならない様なので、致し方なく1を付けました。」といった感じだろうか。
因みに、サンの実父は、彼女の今現在の養父でもある私のBOSSの親友だった。
この「サンの実父」は絵に描いたような人格者であったらしい。
残念ながら、サンは実父のそう言った部分は一ミリも引き継がなかった。
「一族が滅ぼされる」という大惨禍の生き残りである「サン」と「シイ」を親友であり、「篤志家」の一面を持つ私のBOSSが、養子としてふたりを引き取ったのだ。
だからこそ、BOSSはサンの性格を嘆き、今後の彼女の生きる道に頭を悩ませていた。
ここまで言っておきながら…次の発言をするのは心が痛い。
「篤志家」でもある我がBOSSの人格を…ディスる事になるからだ。
が、一応は伝えておこう。
BOSSが生き残りである「サン」と「シイ」を養子に迎えたのには、別の意図もあった。
自分が地域一帯を治める領主様の様な存在だった彼は、政治上の駒の一部としてふたりを利用した側面がある。
前の前の章で述べた、ふたりの「政略結婚」でも、その意図は明らかである。
シイは、養父のそういった側面を「全て納得した」訳ではないが、例の…己を「無」にして対応している部分があった。
先の「政略結婚」が諸事情に依り、直ぐに白紙に戻された後…シイはBOSSの部下として側に置かれる。
が、サンはまた直ぐに「駒」として別の婚姻を結ばされた。
(先の章での「里帰りパーティ」はサンの婚姻後の話だ。)

『何で私だけ、遠くに嫁がなきゃならないの?」
『シイだけ…ずるい』
サンは、この二つのセリフを…偶に言い方を変えつつも、クレームを繰り返し…更には部屋の物を壊しながら、暴れた。
シイはこの様子を…冷静に観察していた。
頭を抱え、イラつくBOSSにシイは言った。
「サンが嫁いだ後も、向こうでこの様な『狂った醜態』の報告が届いた時に…どうするか悩んだ方が現実的なのでは?」
かくして、ふたりの幼馴染の道は…別れた。
シイが、単純にサンの性格を熟知しきっていたせいかは不明だが、サンは嫁いだ先で…お相手に夢中になり、BOSSも胸を撫で下ろす事となる。
*****
「サンが嫁いだら、落ち着くんじゃないかって…分かっていたの?」
私は先程の疑問を、シイにぶつけた。
いや…シイは軽く否定しながら、自分の視線をスマホから私に移して答えた。
「昔からではあるが…サンは他人との比較し、不満を抱いては駄々を捏ねる傾向がある。嫁ぎ先では当然だけども…比較対象の私はいない。比較対象がいないなら落ち着くかな、と思った。」
そして、再度視線をスマホに落としてこう続けた。
「暫くの間は、だけどね。」
「そうなの…」
「新たな比較対象が出来たら…分からない。が…後はしらん」
シイはそう呟くと、意識を完全にスマホへ移行させ、スマホ没頭状態になった。
ふと、私の目の前で繰り広げられた…最近の「サンのシイに対する付き纏い」が脳裏に蘇る。
それは、飼い主に付き纏う子犬を連想させた。
思わず、私は呟く。
「サンは…あなたの事が好きなんだと、思っていたわ。」
「サンが好きなのは、自分だけだよ…見た目はそれなりに大人だが、中身は5歳児だ。」
私の「呟き」をキャッチしたシイが、答えた。
「誰彼かまわずキスして…相手の反応を楽しむ所なんて、正にその歳の子供だ。」
私も何度か目撃した事のある「それ」が脳内で再生される。
「ああ、そう言えば…」
シイがふっと、思い出した様にスマホから顔を上げた。
「私からサンにキスした事が、一度だけあったな。」
「え、ええっ~!」
私のその驚き様に…シイが戸惑いを示した。
「君ぐらいの大人は…キスぐらいで大騒ぎしないもの、なんじゃないの?」
「シイ、それってまさか…例のご友人からの「色恋事」座学からくるもの?」
「だんだんと…分かってきたじゃないか!」
肯定の返事を寄越してくれたシイは、心無しか嬉しそうだった。
シイの「オーラの色や出方」が物語っている。
『自分に関係ある事を、次第に理解してもらえて嬉しい』と。
前の章で、シイが疑問を呈していた通り…そのご親友は「色恋事」に若干の偏見が…あるのかもしれない。
そう思いを巡らせていた時に、シイが「サンにキスした」時の事を…話してくれた。
「キスとは言っても…敵に囲まれて、切羽詰まった状況だったんだよね。私の両手はニトロで塞がっていたんだけど、『メンタル5歳児』の彼女はその切羽詰まった状況に…一ミリの理解も示さず、ただ喚き散らすだけ。しかも、これまた喚いている内容が…切羽詰まった状況と「一切関係ない内容」だった。」
サンのその様子が、目に浮かぶ様だった。
シイがしゃべり続ける。
「私は…サンに頭突きを食らわせて、黙らせようかと思ったが…直ぐに思い留まった。「頭突きの衝撃」がニトロへの刺激材料になってしまっては、まずい…」
そこまでシイの話を聞いて、私はピンと来た。
「読めたわ…で、自分の口で「癪な音ばかりを出し続ける」サンの口を…塞いだ訳ね?」
シイは、先程よりも…嬉しそうな表情を見せて答えた。
「我ながら…瞬時に下したにしては、良い判断だと思った。その後のサンは「借りてきた猫」の様に大人しくなって…私達は無事に生還を果たした、という訳だ。」
段々分かってきたね、ロク。
シイはそう呟き、再びスマホに視線を落とした。
私はこの話と、その後の「サンの様子とオーラの変化」に合点がいった。
よく覚えている。
ある日を境に、サンがシイを見る目つきが…ガラリと変わったのだ。
そりゃそうだろう。
シイの見た目は、王子様そのものなのだから。
それから…サンは、今まで出ていなかったピンク色のオーラを…シイに向けて放つ様になる。
サンがシイを見る度に、そのオーラの色は濃くなり増していった。
なるほど、なるほど。そんな出来事のせいか…。
もしかしたら、サンが「女性に分化」した要因のひとつに…シイに対する恋愛感情も影響しているのかもしれない。
そして、サンの「再婚」が決まったときの暴れ様を思い出す。
遠方の『顔を見た事ない相手』に嫁がされる事。
シイの『嫁ぎ先でも狂った醜態…』発言。
これらの出来事に…サンの心は抉られ、肩を落としながら嫁いで行った訳か。
しかし、サンはメンタルが幼ない故、新しい環境への馴染み方が早かった。
更には、嫁ぎ先の夫君は…運良くサンが満足するタイプの人物…だったのだろう。
「女性の恋は上書き」何処かで…そう聞いた事がある。
私の再婚は、上書きに失敗したけどね…少し自嘲気味な気分になる。
それにしても…なるほど、なるほど。
上書き完了後のサンは、元通り…いや、素の自分に戻り、幼少期から行っていたマウンティングを…今でもシイに続けているのか。
紆余曲折ありながらも…歴史は繰り返す、だ。
「なるほどって…何が?」
私の「呟き」をキャッチしたシイが、またもや尋ねる。
「いいの。何でもない。」
「ほんと?理由も無く笑っているけど?」
少し怪訝そうなシイを置いて…私は、お茶を入れる為に、ダイニングへ向かった。
シイ、やっぱり分かってないわよ、あなた…女心や色恋を。
分からない故に…その立ち位置なんでしょうけど、ね。
私は、ふっと笑いながらそう思った。
この時までは、余裕を持って笑っていられた。
この時までは、だ。
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