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9 ニイ
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ニイ
さて、話の中で度々登場した「ニイ」
シイの友人である彼について…少し話をしていきましょう。
シイの養父が、シイの結婚観に大きな影響を与えた「great teacher」とするなら…ニイは、シイの恋愛観に大きな影響を与えた「great teacher」だ。
ニイの存在無くして、私とシイの恋人関係は、始まらかっただろう。
『結婚は惚れた腫れた同士のイベント』である。
ニイの教えがあるからこそ、シイは私のプロポーズを了承したのだから。
私はニイに足を向けて…寝る事はできない。
例え…私とシイの関係が「恋人」から「親友」に変化しても、だ。
*****
ニイの暮らす地域の結婚観は、異世界に暮らす貴方達に似ている。
惚れた腫れた同士が結婚し、お互いの子孫を残す。
無論、そこに細かい諸事情の違いはあるのだろう。
しかし、婚姻関係を結ばずとも、惚れた腫れた相手との間に子を成すことが一般的であり、そこにお家や一族の事情は…多大な影響を与えない。
この点に於いての、価値観は一致するだろう。
実をいうと、私自身は…「ニイの住む地域同様結婚観」を有する地域で暮らした経験がある。
その為、ニイの暮らす地域の結婚観に対し、ある程度の「慣れ」があった。
ところが、シイはニイの結婚観を最初に知った時は、大層驚いたらしい。
「それは、大層複雑な話だ!」
そう言うと、シイは軽く絶句したらしい。
「複雑って…オメエ、どの辺りがだよ?」
ニイは、シイに比べると言葉遣いが、少し乱暴だ。
うん、そうね…そちらの異世界にでは「江戸っ子」という「粋」を重んじるが、物言いは乱暴…いや失礼、「チャキチャキ」してると表現するんだっけ?
ニイの喋り方は、それに近かった。
とはいえ、ニイとシイの公用語は異なる。
シイは、ニイの地域の公用語もある程度話せた。
それ故に、ニイとの会話は常に彼の公用語である「J語」だ。
補足しておこう。
私達の世界の人々は、母国語以外にも「居住する地域が公用語」と定めた言語を話すのだ。
因みに、シイや私が暮らす地域の公用語は「E語」。
シイは「J語」を教科書等から学習した為、ニイとの会話では堅苦しい単語や、文章を多用する。
が、自身の公用語の「E語」は、砕けた喋り方をする。
補足はここまで。
結婚観に話を戻そう。
「『好き』という感情のみで結婚した配偶者が…家に関する諸々の事柄を出来ない状態では、困るのではないか?」
シイが『複雑』と発言した理由を話した。
なるほど、ね。
必ずしも、惚れた腫れた相手イコール、家の事柄を遂行する能力有り、ではないだろう。
「家事なんざあ…家電やロボットに任しときゃあ…」
ニイの反論にシイが直ぐ様、自分の反論を被せた。
「そういう話をしているのでは無い。例えばだ…君が一族の家長だとしよう。
親戚縁者の所用や、一族の財産及び運営に掛かる事柄…配偶者が、その部分に於いて無能では…諸々支障を来たす、という話をしているのだ。」
「何でえ…ひでえ言い方だな?」
シイが、ごちゃごちゃ言い出した事が面倒臭いのか、ニイはあからさまに嫌そうな顔をした。
「何を言う、貴様。もっと分かり易く言えば、だ…我々の婚姻スタイルの方がシンプルである故、上手く機能する…何故ならば、配偶者は家長を支える為にも…スマートに諸々の運用を出来る人間を据えればいい。「惚れた腫れた」に関しては、その部分に支障の無い…他の相手を自由に選択する。これが我々の世界の結婚観だ。」
シイの説明に、ニイがゲンナリした表情で言った。
「オメエさ…異世界モノに出てくる…ブルジョア貴族のジジイみてえだな…俺はぜってえ、そんな結婚ごめんだぜ。」
「複雑な事に心囚われてるのか?…君はシンプルな男だと思っていたが…そういう人間に限って、無いものに心惹かれるのだな…『無いものねだり』とはこの事か?」
「第一印象っつーのは外れねえモンだな、オイ。オメエやっぱりムカつくわ!」
私はこのふたりの「悪友同士」の会話がいつも面白くて、側でくすくす笑ってきいていた。
「…オイ、ロクさんよお!…初対面の時のアンタとコイツとの出会いって最悪だったんじゃねえか?…俺はそうだったぜ?」
*****
「おい!テメエ…何をしてんだ!!
ニイが初めてシイに掛けた言葉は、正に最悪だった。
初対面の相手であるシイに…ニイは、いきなりくってかかったのだ。
「君こそ、何だ?…初対面の相手に話をする際は『己の自己紹介と声を掛けてきた目的』を告げる事が先であろう?」
「ああ?!」
「おまけに、ここの公用語は「E語」だ。『郷にいれば郷に従え』という言葉を知らないのか?」
後でシイから聞いた話だが、シイはこの時、かなり機嫌が悪かった。
シイも…多少の八つ当たりの感情を以て、ニイに反撃したのだ。
ふたりが初対面で衝突した場所…そこはマリモの生息する湖のほとりだ。
シイは、亡くなった知人のマリモを…湖へリリースする為に湖へやって来た。
その行為を、ニイに咎められたのだ。
先程、シイがニイを『シンプルな男』と断言した理由は、ニイが咎めた理由にある。
『外来種のリリースは、在来種の絶滅に多大な影響を及ぼす。』
何処ぞで仕入れたこの理屈は、ニイの心に素直に刻まれていた。
シイはニイのその話を知り、『シンプルな男』と判断したらしい。
だが、『ありのままのシンプル』であるせいだろうか…ニイは『マリモリリース』に…杓子定規的な判決を下したのだ。
シイを、「外来種か、在来種かの区別の付かない種をリリースする悪者」と。
シイは後に…この出来事について、こう語っている。
『私がリリースしたマリモは…元は湖の在来種だけども…あの場ではその主張は意味をなさないのだろうね。証明の仕様がないから。』
しかし、やりとりが進む内に…喧嘩とは元の原因が置き去りとなり、別の攻撃材料が次々と「顔を出す」ものだ。
この時のシイとニイも例外では無かった。
『外来種と思しきモノのリリース』
↓
『名乗り上げすら出来ない無礼者』プラス『郷にいれば…を知らないバカ者』
と、クレーム対象は次々と登場した。
ここまで来ると、置き去りにされるのは『元の原因』のみならず、『理屈』も加わる。クレームが口から発せられる度、中身が「感情的」部分にシフトする事も喧嘩というモノの特徴とも言える。
こうなると『泥仕合の様相を呈する』という状態になる。
ニイはこの時の事を、こう回想している。
「金髪の地元野郎に、完璧な「J語」で反論され…おまけにそいつは、エライくスカした態度…気に食わなかった。」
この喧嘩で…ふたりに「褒められた部分」がある。
「泥仕合の様相を呈する」をダラダラと披露する所を…潔く、「力による解決」にシフトさせた事だろう。
最終的に行われる…短絡的且つ、シンプルな解決方法は「力」だ。
かくして、ふたりは殴り合いの喧嘩に…ならなかった。
いや、殴り合いと呼べる代物では、無かったらしい。
その事実は、ニイに同行していた友人からの情報だ。
ニイは、シイから一発殴られ…10メートル程吹っ飛ばされた後、戦意喪失した。
以下、ニイの友人の回想。
*****
「ああ、俺はゴウ。あの時はね…ニイの悲鳴を聞いて、俺は、慌てて声のする方に行ったんだ…そしたら、腰を抜かすニイと、白けた表情を浮かべるシイがいてさ。で、ニイを急いで病院に搬送したの。あ、ニイを運んでのは、俺じゃなくてさ…シイだよ。ニイは身長高いから、俺ひとりだと運べないでしょ?だから、『白けた表情を浮かべるシイ』に、俺は「お願い」したんだ。「一緒に運んで欲しい」って。あ、ニイはね…腰を抜かした時に、ギックリ腰になったらしいんだ。シイは、渋い顔をしながら…ニイをお姫様抱っこしてね…ひとりで病院まで運んでくれた。『悪いから俺も運ぶよ』って申し出たら…シイに言われたんだ。『ふたりで、この大柄な男を運ぶとなると、一方が『頭』、一方が『足』を持つ事となる…この大男の足元は、湖の泥でかなり汚れている。私は今回の件で自分自身が泥で汚れる事は御免被る。しかしながら、君が泥で汚れる事も、良しとは、しない。この大男と、私の身長差は20センチ以上、30センチ未満と言ったところだ。その差分ならば…この様な運び方は可能だ』そう言ってシイは、ニイをお姫様抱っこしたんだ。それからシイは、俺に向かってこう言った。君の身長差では、この大男は『嵩張り過ぎ』だ。幸いにも、私はこの大男をひとりで運べる程の力持ちだ…って。だから俺は、シイに甘えてニイを病院迄お願いしたの…ニイが何で、湖にいたのかって?…うーん、確か「出稼ぎ」だったかな?で、偶々湖迄ね…遊びに来てね…それで、後は話した通りだよ?」
そこから…そのニイの『お友達のゴウくん』?
ちょっと困った様な、だけども、何処かしら可笑しそうな表情でこう言ったの。
「でもね、でもね…何と言ったらいいか…シイに『お姫様抱っこされているニイ』が、ニイの頬っぺたがね…段々と…りんごみたいになっちゃってさ…シイがそれに気付いて、ニイに向かって尋ねたの。『顔色が先程と違う。何処か具合が悪いのか?私が運び始めた時は、「臆病な犬」を思わせる様にあれこれ喚いていたが…次第に無口になっていった…君の事は『既に今の時点でも、かなり嫌いだ』しかし、この変化は心配だ。」
私はそこまで話を聞き終わると…ゴウくんに、尋ねてみたの。
顔色と言っても『頬だけが、薔薇色に染まった感じ…じゃない?』と。
ゴウくんは、少し照れた様な微笑みを浮かべて、こう答えたわ。
「うん。そう。よく分かったね。俺はレストランや街中で、ニイが知らない女の人に…嬉しそうに声を掛けているのを…よく見るから、何となく分かったんだけど。うーん…上手く説明出来ないけど…シイに、お姫様抱っこされている時のニイは…それに関係ありそうな雰囲気を…感じ取ったんだよね。でもさ、それってあれだよね?…あ、思い出した。ナンパだ!ニイが街中で声掛けているのは『ナンパ』ってヤツなんだよ。」
以上、回想終わり
最後に「ナンパの話」で締め括った…ゴウ君は、引いているけど、ちょっとだけ「興味深い雰囲気」を出していた。そのオーラには『知りたいを表す知識欲』の緑の中に、『恋愛を表すピンク』が内包されていた。
私も人のオーラが解読出来るし…それなりの恋愛経験あるから、分かる。
なので、ゴウくん『引いているけど、ちょっとだけ興味深い雰囲気』が何かはわかるのだ。
むろん、それは『頬っぺた薔薇色』のニイの感情に「恋」を感じ取ったのだろう。
因みに『恋を感じ取った件』は、この後も発生する。
それは、シイが引っ越しをした時の事だ。
ニイと私が、引っ越し先にお邪魔した事がある。
シイの部屋は、広くない部屋だった。
それもそのはずだ。
何故なら、物がほとんど無かった。
革のソファーに机と簡易ベットがあるだけだった。
そして机の上に、本が雑多に積まれていた。
更に少し異様な事に…机の上に「木彫りの漠」が数体置かれていた。
雑多な…机の上だけ『みっちり』。
それ以外は…生活感無く『がらんどう』
「なんかよお!凄まじいものを…感じんな!!」
ニイが、早速感想を喚き立てた。
「そう?どの辺りが?」
シイが、掘り下げて来た。
「そのよ…机の上だけ、『物ぎっしり』なのに、『他はがらんどう』なとこだよ。ある意味、バランスいいぜ…」
無論、ニイは…皮肉を込めて答えている。
自分の少し引き気味の気持ちを、皮肉で表している事が、オーラの色や出方からも、わかった。
「簡易ベット?…何だオメエ、これ…使ってねえじゃねえか?」
ベットを包むビニールが軽く埃を被る様に…ニイが素っ頓狂な声を挙げた。
「私は、ソファーで寝ている。簡易ベットは一応は買ってみたが…やはり当初の予想通り…使用する事も無かった。」
シイの返答に対し、ニイの声色に、驚きの音がより加わる。
「熟睡、出来んのか?!」
「問題無い。日中眠くて仕方が無い…という事は無い。」
「寝心地良いのか?このソファー?試していいか?!」
シイの返事を待たずに、ニイがソファーへ腰掛けた。
ソファーにニイの体重がかかり、重苦しい『ギュー』と言う音が…鈍く部屋に響く。
その音をを遮る物が…元より部屋に存在しない為、鈍い音がやけに部屋中に反響した。
「座り心地は、悪かあないけどよお…ちゃんと寝た方が良くね?…オメエ、どうやって寝てんの?」
ニイの質問に、シイは言葉答えずに…ニイの隣に座った。
またもや『ギュー』と言う音が、鈍く部屋中に響く。
シイが、雑多に置かれた本の上に…綺麗に畳んである毛布を広げ、それを自分に掛けた。
「座ってたまま寝てんのか?」
「『座って寝る』『横になって寝る』それぞれ半分程の割合だな。」
「俺は寒がりだからよ…毛布でしっかり包まれてねえと…寝れない派。座った状態だと難しくね?」
すると、隣に座るシイは、またもや言葉で答えずに…行動で応えた。
自分に掛けてる毛布を、ニイ迄伸ばして掛けたのだ。
一瞬だけ、ニイが驚いた表情を見せた。
「何か…結構温ったけえな…オメエと…ぴったりくっついている、からか?」
「革のソファーだ。保温性は高い。」
シイはニイの問いに対し、直接の否定も肯定もせずに答えた。
そしてそこから、ニイとシイは無言のまま…お互いをジッと無表情で見つめ合う状態となった。
すると次第に…ニイのオーラに変化が出て来たのだ。
薄いピンクの色のオーラが発現し、その色と量が増して来たのだ。
私は驚きと戸惑いで、絶句した。
あれ…?ニイは『典型的な女好き』だった…はずでは?
『美しい女性がいたら声を掛ける事は礼儀』
『美しい女性に声を掛けせずに、スルーするのはバカ野郎』
彼の暮らす地域の男性は総じて…そういう国民性なのだそうだ。
彼はその『国民性の申し子』だった。
だからこそ、ニイは自分に特定の恋人が存在しても、他の女性と仲良くする。
私はニイを面白い人と思ってはいるが、恋人や夫にはしたくないタイプだった。
ここまで思いを巡らせたところで、更に私を混乱させる発見があった。
これは…私の『オーラが見える』故の、発見ではあるが。
ニイのオーラに…赤色が出現したのだ。
その分量が、ピンク色オーラの出現時と比較にならない勢いで…増して来た。
そう例えると、ホースから勢いよく噴き出す水、あるいは噴火する火山、それらの表現がぴったりだった。
が、この変化に一番驚いていたのは、ニイ本人だった。
「やべえ…やべえっ!!」
そういうと、慌ててソファーから立ち上がる。
「どうかした?」
シイがキョトンとした表情で、慌てふためくニイに声を掛けた。
「どうすしたも何もっ!…反応…やべえっ!動悸とかっああっ…俺っ!帰えるわっ!!」
ニイは…三秒も経過しない内に、部屋から出て行った。
後は、ひとりだけ『事情を分かりたくない程わかっている私』と…『事情を一ミリも理解してないシイ』が取り残された。
「ニイは、何故…慌てて出て行ったの?」
当然、シイは私に尋ねて来た。
私はなるべく…無表情を装って答えた。
「さあ、私もよく分からない、わ。」
君でも、読めない事あるんだね、シイはそう呟くと毛布を畳み始めた。
「分かりたくない、が正解かしら」
私は心の中で呟く。
それから、ニイとシイのふたりは、基本はただの「悪友」同士として接する日々が続いた。
それはもう…普通に何処にでもいる『悪友同士』
そうね…例えば…私や、シイの暮らす地域では「ママンドラゴラン祭」と言う奇祭がある。
「ママンドラゴラン」とは、こちらの世界でのみ、生息する植物だ。
ドラゴンの形に似た根菜だが、どれも一つとして同じ顔や形が無い根菜。
土の中に埋もれている間は、寝ている為、当然大人しい。
しかし、土から引っこ抜かれた瞬間、大声で泣くのだ。
母の胎内から出て来た胎児が、胎外の空気に驚き…産声を上げる様なイメージだ。
この「ママンドラゴラン祭」は、祭り参加者が2チームに分かれ「抜き立ての
ママンドラゴラン」を相手に投げてぶつけるのだ。
「ママンドラゴラン」の泣き声と泣き顔、更にはぶつけられた痛みに耐えかねて…参加者が、次第に離脱していく。
制限時間内に、多くの参加者が残っていたチームの勝ちなのだ。
最後は引っこ抜いた「ママンドラゴラン」を調理し、参加者全員で食べるのだ。
ニイがシイを誘って参加し、シイは喜んで参加するのだが、お互いに投げる予定の「ママンドラゴラン」に喜んで食用色素でペインティングを施す…そんな調子の「悪友」だ。
余談だか、ペインティングされている時の「ママンドラゴラン」ときたら…擽ったいのか、息絶えるまで…ずっと笑っていたわ。土から引っこ抜くと…数分しか生きられないの。
私はその「奇祭」には、参加せずに…屋上から見ているだけだったけど。
「ママンドラゴラン」が息絶える瞬間を思い出すと…ちょっと悲しくなって来るから、「ママンドラゴラン祭」の話はここで終わるわ。
何はともあれ、『ソファー事件』以降のふたりは、そんな典型的「悪友」だ。
が、偶にアクシデントの様に『ソファー事件』に似た出来事が発生する事はある。
『悪友』と言っても、少しづつ関係は変化して行ってたのかしら?
私はそう思った。
『性別の分化』
シイやサンの一族の特徴のひとつについて、ニイがその事実を知ったのは、『ソファー事件』から暫く経過してからの事だ。
「自分の周囲に男性が多いと女性…逆も環境だと男性に分化する事が多い。とは言え、周囲の環境要因が分化の絶対的な決定打ではないが…」
「特殊体質」の章で、シイが私に打ち明けた「一族の身体的特徴」を、シイは悪友であるニイに対しても、打ち明けた。
ニイは、シイの話を非常に驚いた表情で聞いていたが、少し口をパクパクさせた後、努めて…軽口を叩いた。
「クマノミ……みてえだなっ!」
ニイの軽口に対し、シイは軽く肘鉄を『悪友』に食らわせた。
ニイがそれに対し、大げさに「防御」の姿勢を取る。
そこから、ニイは「防御」姿勢の状態でシイに言ったのだ。
「もしもさ…」
「もしも?」
「も、も、もしも…」
「も、も、もしも…?」
ニイの「どもり」を真似しながらも、シイが話の先を促す。
「も、もしも…オメエ、女に分化したらよ…」
シイが両眉を上に持ち上げて、話の先を促す。
「女に分化したら、俺が嫁に貰ってやろうか?」
「ない。」
シイに秒で返された無機質な返事に…ニイはガクリと…肩を落とした。
ニイを纏うオーラの量が、クレープ皮一枚程度の分量に減ってきた事実からも、彼が『本気で凹んでいる』事が分かった。
「おい、君。万が一にも、私が女に分化してもだ。君の『国民性』によるナンパの類の気遣いは不要だ…と言うよりも、今のがナンパの類なのか?勘弁してくれ。今の恋人を大切にしろ。それが『君の地域の結婚観や恋愛観なのだろう?」
ニイは恋人が居るが、他の女性ともよく浮気をしていた。
シイも私も『ニイと恋人…プラス偶に浮気相手』の修羅場は、何度か目撃している。
シイのオーラが物語っていた。
『余計な揉め事は御免被る』
無論、シイのオーラには…ピンク色や赤色オーラは微塵も無く、「ドライ」な色を放っている。
そこからも、ニイの心情に…シイが一ミリも気付いていないのは、確かだった。
相手が男性でも女性でも…シイは「恋」も感情が分からなかったのだ。
ニイ
さて、話の中で度々登場した「ニイ」
シイの友人である彼について…少し話をしていきましょう。
シイの養父が、シイの結婚観に大きな影響を与えた「great teacher」とするなら…ニイは、シイの恋愛観に大きな影響を与えた「great teacher」だ。
ニイの存在無くして、私とシイの恋人関係は、始まらかっただろう。
『結婚は惚れた腫れた同士のイベント』である。
ニイの教えがあるからこそ、シイは私のプロポーズを了承したのだから。
私はニイに足を向けて…寝る事はできない。
例え…私とシイの関係が「恋人」から「親友」に変化しても、だ。
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ニイの暮らす地域の結婚観は、異世界に暮らす貴方達に似ている。
惚れた腫れた同士が結婚し、お互いの子孫を残す。
無論、そこに細かい諸事情の違いはあるのだろう。
しかし、婚姻関係を結ばずとも、惚れた腫れた相手との間に子を成すことが一般的であり、そこにお家や一族の事情は…多大な影響を与えない。
この点に於いての、価値観は一致するだろう。
実をいうと、私自身は…「ニイの住む地域同様結婚観」を有する地域で暮らした経験がある。
その為、ニイの暮らす地域の結婚観に対し、ある程度の「慣れ」があった。
ところが、シイはニイの結婚観を最初に知った時は、大層驚いたらしい。
「それは、大層複雑な話だ!」
そう言うと、シイは軽く絶句したらしい。
「複雑って…オメエ、どの辺りがだよ?」
ニイは、シイに比べると言葉遣いが、少し乱暴だ。
うん、そうね…そちらの異世界にでは「江戸っ子」という「粋」を重んじるが、物言いは乱暴…いや失礼、「チャキチャキ」してると表現するんだっけ?
ニイの喋り方は、それに近かった。
とはいえ、ニイとシイの公用語は異なる。
シイは、ニイの地域の公用語もある程度話せた。
それ故に、ニイとの会話は常に彼の公用語である「J語」だ。
補足しておこう。
私達の世界の人々は、母国語以外にも「居住する地域が公用語」と定めた言語を話すのだ。
因みに、シイや私が暮らす地域の公用語は「E語」。
シイは「J語」を教科書等から学習した為、ニイとの会話では堅苦しい単語や、文章を多用する。
が、自身の公用語の「E語」は、砕けた喋り方をする。
補足はここまで。
結婚観に話を戻そう。
「『好き』という感情のみで結婚した配偶者が…家に関する諸々の事柄を出来ない状態では、困るのではないか?」
シイが『複雑』と発言した理由を話した。
なるほど、ね。
必ずしも、惚れた腫れた相手イコール、家の事柄を遂行する能力有り、ではないだろう。
「家事なんざあ…家電やロボットに任しときゃあ…」
ニイの反論にシイが直ぐ様、自分の反論を被せた。
「そういう話をしているのでは無い。例えばだ…君が一族の家長だとしよう。
親戚縁者の所用や、一族の財産及び運営に掛かる事柄…配偶者が、その部分に於いて無能では…諸々支障を来たす、という話をしているのだ。」
「何でえ…ひでえ言い方だな?」
シイが、ごちゃごちゃ言い出した事が面倒臭いのか、ニイはあからさまに嫌そうな顔をした。
「何を言う、貴様。もっと分かり易く言えば、だ…我々の婚姻スタイルの方がシンプルである故、上手く機能する…何故ならば、配偶者は家長を支える為にも…スマートに諸々の運用を出来る人間を据えればいい。「惚れた腫れた」に関しては、その部分に支障の無い…他の相手を自由に選択する。これが我々の世界の結婚観だ。」
シイの説明に、ニイがゲンナリした表情で言った。
「オメエさ…異世界モノに出てくる…ブルジョア貴族のジジイみてえだな…俺はぜってえ、そんな結婚ごめんだぜ。」
「複雑な事に心囚われてるのか?…君はシンプルな男だと思っていたが…そういう人間に限って、無いものに心惹かれるのだな…『無いものねだり』とはこの事か?」
「第一印象っつーのは外れねえモンだな、オイ。オメエやっぱりムカつくわ!」
私はこのふたりの「悪友同士」の会話がいつも面白くて、側でくすくす笑ってきいていた。
「…オイ、ロクさんよお!…初対面の時のアンタとコイツとの出会いって最悪だったんじゃねえか?…俺はそうだったぜ?」
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「おい!テメエ…何をしてんだ!!
ニイが初めてシイに掛けた言葉は、正に最悪だった。
初対面の相手であるシイに…ニイは、いきなりくってかかったのだ。
「君こそ、何だ?…初対面の相手に話をする際は『己の自己紹介と声を掛けてきた目的』を告げる事が先であろう?」
「ああ?!」
「おまけに、ここの公用語は「E語」だ。『郷にいれば郷に従え』という言葉を知らないのか?」
後でシイから聞いた話だが、シイはこの時、かなり機嫌が悪かった。
シイも…多少の八つ当たりの感情を以て、ニイに反撃したのだ。
ふたりが初対面で衝突した場所…そこはマリモの生息する湖のほとりだ。
シイは、亡くなった知人のマリモを…湖へリリースする為に湖へやって来た。
その行為を、ニイに咎められたのだ。
先程、シイがニイを『シンプルな男』と断言した理由は、ニイが咎めた理由にある。
『外来種のリリースは、在来種の絶滅に多大な影響を及ぼす。』
何処ぞで仕入れたこの理屈は、ニイの心に素直に刻まれていた。
シイはニイのその話を知り、『シンプルな男』と判断したらしい。
だが、『ありのままのシンプル』であるせいだろうか…ニイは『マリモリリース』に…杓子定規的な判決を下したのだ。
シイを、「外来種か、在来種かの区別の付かない種をリリースする悪者」と。
シイは後に…この出来事について、こう語っている。
『私がリリースしたマリモは…元は湖の在来種だけども…あの場ではその主張は意味をなさないのだろうね。証明の仕様がないから。』
しかし、やりとりが進む内に…喧嘩とは元の原因が置き去りとなり、別の攻撃材料が次々と「顔を出す」ものだ。
この時のシイとニイも例外では無かった。
『外来種と思しきモノのリリース』
↓
『名乗り上げすら出来ない無礼者』プラス『郷にいれば…を知らないバカ者』
と、クレーム対象は次々と登場した。
ここまで来ると、置き去りにされるのは『元の原因』のみならず、『理屈』も加わる。クレームが口から発せられる度、中身が「感情的」部分にシフトする事も喧嘩というモノの特徴とも言える。
こうなると『泥仕合の様相を呈する』という状態になる。
ニイはこの時の事を、こう回想している。
「金髪の地元野郎に、完璧な「J語」で反論され…おまけにそいつは、エライくスカした態度…気に食わなかった。」
この喧嘩で…ふたりに「褒められた部分」がある。
「泥仕合の様相を呈する」をダラダラと披露する所を…潔く、「力による解決」にシフトさせた事だろう。
最終的に行われる…短絡的且つ、シンプルな解決方法は「力」だ。
かくして、ふたりは殴り合いの喧嘩に…ならなかった。
いや、殴り合いと呼べる代物では、無かったらしい。
その事実は、ニイに同行していた友人からの情報だ。
ニイは、シイから一発殴られ…10メートル程吹っ飛ばされた後、戦意喪失した。
以下、ニイの友人の回想。
*****
「ああ、俺はゴウ。あの時はね…ニイの悲鳴を聞いて、俺は、慌てて声のする方に行ったんだ…そしたら、腰を抜かすニイと、白けた表情を浮かべるシイがいてさ。で、ニイを急いで病院に搬送したの。あ、ニイを運んでのは、俺じゃなくてさ…シイだよ。ニイは身長高いから、俺ひとりだと運べないでしょ?だから、『白けた表情を浮かべるシイ』に、俺は「お願い」したんだ。「一緒に運んで欲しい」って。あ、ニイはね…腰を抜かした時に、ギックリ腰になったらしいんだ。シイは、渋い顔をしながら…ニイをお姫様抱っこしてね…ひとりで病院まで運んでくれた。『悪いから俺も運ぶよ』って申し出たら…シイに言われたんだ。『ふたりで、この大柄な男を運ぶとなると、一方が『頭』、一方が『足』を持つ事となる…この大男の足元は、湖の泥でかなり汚れている。私は今回の件で自分自身が泥で汚れる事は御免被る。しかしながら、君が泥で汚れる事も、良しとは、しない。この大男と、私の身長差は20センチ以上、30センチ未満と言ったところだ。その差分ならば…この様な運び方は可能だ』そう言ってシイは、ニイをお姫様抱っこしたんだ。それからシイは、俺に向かってこう言った。君の身長差では、この大男は『嵩張り過ぎ』だ。幸いにも、私はこの大男をひとりで運べる程の力持ちだ…って。だから俺は、シイに甘えてニイを病院迄お願いしたの…ニイが何で、湖にいたのかって?…うーん、確か「出稼ぎ」だったかな?で、偶々湖迄ね…遊びに来てね…それで、後は話した通りだよ?」
そこから…そのニイの『お友達のゴウくん』?
ちょっと困った様な、だけども、何処かしら可笑しそうな表情でこう言ったの。
「でもね、でもね…何と言ったらいいか…シイに『お姫様抱っこされているニイ』が、ニイの頬っぺたがね…段々と…りんごみたいになっちゃってさ…シイがそれに気付いて、ニイに向かって尋ねたの。『顔色が先程と違う。何処か具合が悪いのか?私が運び始めた時は、「臆病な犬」を思わせる様にあれこれ喚いていたが…次第に無口になっていった…君の事は『既に今の時点でも、かなり嫌いだ』しかし、この変化は心配だ。」
私はそこまで話を聞き終わると…ゴウくんに、尋ねてみたの。
顔色と言っても『頬だけが、薔薇色に染まった感じ…じゃない?』と。
ゴウくんは、少し照れた様な微笑みを浮かべて、こう答えたわ。
「うん。そう。よく分かったね。俺はレストランや街中で、ニイが知らない女の人に…嬉しそうに声を掛けているのを…よく見るから、何となく分かったんだけど。うーん…上手く説明出来ないけど…シイに、お姫様抱っこされている時のニイは…それに関係ありそうな雰囲気を…感じ取ったんだよね。でもさ、それってあれだよね?…あ、思い出した。ナンパだ!ニイが街中で声掛けているのは『ナンパ』ってヤツなんだよ。」
以上、回想終わり
最後に「ナンパの話」で締め括った…ゴウ君は、引いているけど、ちょっとだけ「興味深い雰囲気」を出していた。そのオーラには『知りたいを表す知識欲』の緑の中に、『恋愛を表すピンク』が内包されていた。
私も人のオーラが解読出来るし…それなりの恋愛経験あるから、分かる。
なので、ゴウくん『引いているけど、ちょっとだけ興味深い雰囲気』が何かはわかるのだ。
むろん、それは『頬っぺた薔薇色』のニイの感情に「恋」を感じ取ったのだろう。
因みに『恋を感じ取った件』は、この後も発生する。
それは、シイが引っ越しをした時の事だ。
ニイと私が、引っ越し先にお邪魔した事がある。
シイの部屋は、広くない部屋だった。
それもそのはずだ。
何故なら、物がほとんど無かった。
革のソファーに机と簡易ベットがあるだけだった。
そして机の上に、本が雑多に積まれていた。
更に少し異様な事に…机の上に「木彫りの漠」が数体置かれていた。
雑多な…机の上だけ『みっちり』。
それ以外は…生活感無く『がらんどう』
「なんかよお!凄まじいものを…感じんな!!」
ニイが、早速感想を喚き立てた。
「そう?どの辺りが?」
シイが、掘り下げて来た。
「そのよ…机の上だけ、『物ぎっしり』なのに、『他はがらんどう』なとこだよ。ある意味、バランスいいぜ…」
無論、ニイは…皮肉を込めて答えている。
自分の少し引き気味の気持ちを、皮肉で表している事が、オーラの色や出方からも、わかった。
「簡易ベット?…何だオメエ、これ…使ってねえじゃねえか?」
ベットを包むビニールが軽く埃を被る様に…ニイが素っ頓狂な声を挙げた。
「私は、ソファーで寝ている。簡易ベットは一応は買ってみたが…やはり当初の予想通り…使用する事も無かった。」
シイの返答に対し、ニイの声色に、驚きの音がより加わる。
「熟睡、出来んのか?!」
「問題無い。日中眠くて仕方が無い…という事は無い。」
「寝心地良いのか?このソファー?試していいか?!」
シイの返事を待たずに、ニイがソファーへ腰掛けた。
ソファーにニイの体重がかかり、重苦しい『ギュー』と言う音が…鈍く部屋に響く。
その音をを遮る物が…元より部屋に存在しない為、鈍い音がやけに部屋中に反響した。
「座り心地は、悪かあないけどよお…ちゃんと寝た方が良くね?…オメエ、どうやって寝てんの?」
ニイの質問に、シイは言葉答えずに…ニイの隣に座った。
またもや『ギュー』と言う音が、鈍く部屋中に響く。
シイが、雑多に置かれた本の上に…綺麗に畳んである毛布を広げ、それを自分に掛けた。
「座ってたまま寝てんのか?」
「『座って寝る』『横になって寝る』それぞれ半分程の割合だな。」
「俺は寒がりだからよ…毛布でしっかり包まれてねえと…寝れない派。座った状態だと難しくね?」
すると、隣に座るシイは、またもや言葉で答えずに…行動で応えた。
自分に掛けてる毛布を、ニイ迄伸ばして掛けたのだ。
一瞬だけ、ニイが驚いた表情を見せた。
「何か…結構温ったけえな…オメエと…ぴったりくっついている、からか?」
「革のソファーだ。保温性は高い。」
シイはニイの問いに対し、直接の否定も肯定もせずに答えた。
そしてそこから、ニイとシイは無言のまま…お互いをジッと無表情で見つめ合う状態となった。
すると次第に…ニイのオーラに変化が出て来たのだ。
薄いピンクの色のオーラが発現し、その色と量が増して来たのだ。
私は驚きと戸惑いで、絶句した。
あれ…?ニイは『典型的な女好き』だった…はずでは?
『美しい女性がいたら声を掛ける事は礼儀』
『美しい女性に声を掛けせずに、スルーするのはバカ野郎』
彼の暮らす地域の男性は総じて…そういう国民性なのだそうだ。
彼はその『国民性の申し子』だった。
だからこそ、ニイは自分に特定の恋人が存在しても、他の女性と仲良くする。
私はニイを面白い人と思ってはいるが、恋人や夫にはしたくないタイプだった。
ここまで思いを巡らせたところで、更に私を混乱させる発見があった。
これは…私の『オーラが見える』故の、発見ではあるが。
ニイのオーラに…赤色が出現したのだ。
その分量が、ピンク色オーラの出現時と比較にならない勢いで…増して来た。
そう例えると、ホースから勢いよく噴き出す水、あるいは噴火する火山、それらの表現がぴったりだった。
が、この変化に一番驚いていたのは、ニイ本人だった。
「やべえ…やべえっ!!」
そういうと、慌ててソファーから立ち上がる。
「どうかした?」
シイがキョトンとした表情で、慌てふためくニイに声を掛けた。
「どうすしたも何もっ!…反応…やべえっ!動悸とかっああっ…俺っ!帰えるわっ!!」
ニイは…三秒も経過しない内に、部屋から出て行った。
後は、ひとりだけ『事情を分かりたくない程わかっている私』と…『事情を一ミリも理解してないシイ』が取り残された。
「ニイは、何故…慌てて出て行ったの?」
当然、シイは私に尋ねて来た。
私はなるべく…無表情を装って答えた。
「さあ、私もよく分からない、わ。」
君でも、読めない事あるんだね、シイはそう呟くと毛布を畳み始めた。
「分かりたくない、が正解かしら」
私は心の中で呟く。
それから、ニイとシイのふたりは、基本はただの「悪友」同士として接する日々が続いた。
それはもう…普通に何処にでもいる『悪友同士』
そうね…例えば…私や、シイの暮らす地域では「ママンドラゴラン祭」と言う奇祭がある。
「ママンドラゴラン」とは、こちらの世界でのみ、生息する植物だ。
ドラゴンの形に似た根菜だが、どれも一つとして同じ顔や形が無い根菜。
土の中に埋もれている間は、寝ている為、当然大人しい。
しかし、土から引っこ抜かれた瞬間、大声で泣くのだ。
母の胎内から出て来た胎児が、胎外の空気に驚き…産声を上げる様なイメージだ。
この「ママンドラゴラン祭」は、祭り参加者が2チームに分かれ「抜き立ての
ママンドラゴラン」を相手に投げてぶつけるのだ。
「ママンドラゴラン」の泣き声と泣き顔、更にはぶつけられた痛みに耐えかねて…参加者が、次第に離脱していく。
制限時間内に、多くの参加者が残っていたチームの勝ちなのだ。
最後は引っこ抜いた「ママンドラゴラン」を調理し、参加者全員で食べるのだ。
ニイがシイを誘って参加し、シイは喜んで参加するのだが、お互いに投げる予定の「ママンドラゴラン」に喜んで食用色素でペインティングを施す…そんな調子の「悪友」だ。
余談だか、ペインティングされている時の「ママンドラゴラン」ときたら…擽ったいのか、息絶えるまで…ずっと笑っていたわ。土から引っこ抜くと…数分しか生きられないの。
私はその「奇祭」には、参加せずに…屋上から見ているだけだったけど。
「ママンドラゴラン」が息絶える瞬間を思い出すと…ちょっと悲しくなって来るから、「ママンドラゴラン祭」の話はここで終わるわ。
何はともあれ、『ソファー事件』以降のふたりは、そんな典型的「悪友」だ。
が、偶にアクシデントの様に『ソファー事件』に似た出来事が発生する事はある。
『悪友』と言っても、少しづつ関係は変化して行ってたのかしら?
私はそう思った。
『性別の分化』
シイやサンの一族の特徴のひとつについて、ニイがその事実を知ったのは、『ソファー事件』から暫く経過してからの事だ。
「自分の周囲に男性が多いと女性…逆も環境だと男性に分化する事が多い。とは言え、周囲の環境要因が分化の絶対的な決定打ではないが…」
「特殊体質」の章で、シイが私に打ち明けた「一族の身体的特徴」を、シイは悪友であるニイに対しても、打ち明けた。
ニイは、シイの話を非常に驚いた表情で聞いていたが、少し口をパクパクさせた後、努めて…軽口を叩いた。
「クマノミ……みてえだなっ!」
ニイの軽口に対し、シイは軽く肘鉄を『悪友』に食らわせた。
ニイがそれに対し、大げさに「防御」の姿勢を取る。
そこから、ニイは「防御」姿勢の状態でシイに言ったのだ。
「もしもさ…」
「もしも?」
「も、も、もしも…」
「も、も、もしも…?」
ニイの「どもり」を真似しながらも、シイが話の先を促す。
「も、もしも…オメエ、女に分化したらよ…」
シイが両眉を上に持ち上げて、話の先を促す。
「女に分化したら、俺が嫁に貰ってやろうか?」
「ない。」
シイに秒で返された無機質な返事に…ニイはガクリと…肩を落とした。
ニイを纏うオーラの量が、クレープ皮一枚程度の分量に減ってきた事実からも、彼が『本気で凹んでいる』事が分かった。
「おい、君。万が一にも、私が女に分化してもだ。君の『国民性』によるナンパの類の気遣いは不要だ…と言うよりも、今のがナンパの類なのか?勘弁してくれ。今の恋人を大切にしろ。それが『君の地域の結婚観や恋愛観なのだろう?」
ニイは恋人が居るが、他の女性ともよく浮気をしていた。
シイも私も『ニイと恋人…プラス偶に浮気相手』の修羅場は、何度か目撃している。
シイのオーラが物語っていた。
『余計な揉め事は御免被る』
無論、シイのオーラには…ピンク色や赤色オーラは微塵も無く、「ドライ」な色を放っている。
そこからも、ニイの心情に…シイが一ミリも気付いていないのは、確かだった。
相手が男性でも女性でも…シイは「恋」も感情が分からなかったのだ。
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