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回想2
「実は、シイのヤツ…今、相当弱っていて…でも病院に行こうとしねえんだ…妊娠悪阻ってヤツだと思うって…俺の子持ちのダチは言っている。」
さらりと、ニイから出た『妊娠悪阻』と言う言葉に驚き、私は口に含んだアイスティーを…吐き出す寸前だった。
「ちょっ、ちょっと…待って!展開がっ…に、妊娠って、私と別れた時は…分化なんてっ、」
私は、そこで絶句した。
今度は私の方が、顔を両手で覆う番だった。
私は重いため息を吐き、両手で顔を覆う。
恋愛経験の少ない私は、完全に勘違いをしていた。
ニイの相談事…それは、完全に「シイと恋仲になるにはどうすれば良いか?」と言った類のものだと、疑いもなく思い込んでいたからだ。
それに対し、「お見通しよ」という態度をとった自分も情け無い。
顔を覆いながら、ここに来て私は勘づいてしまった。
シイの置かれている状況を「私は斜め上の展開」と言った。
だが、ニイから今し方受けた話は…おそらく、相談事の「序章」でしかない。
ここで、度肝を抜かれている場合では無いのだ。
私がずっと、黙っているせいだろうか?
ニイは少し心配そうな、それでいて気遣う様に…軽く微笑みを湛えながら、私の顔を覗き込み、相談事の続きを話した。
「実はよ…俺もさ…シイが、いつ女への分化が始まったって…はっきりした事は、わかんねえんだ…シイのヤツも何も言わねえし。」
以下は、ニイの言葉の要約だ。
シイが「ヴァカンス」として、ニイの地元で滞在し始めた当初…ふたりは「悪友」としての毎日を、楽しく過ごしていたらしい。
例えば…魚釣り、畑仕事、日々の料理作り、近隣で開催される祭りへの参加…それはもう…様々なイベントを満喫した。そこには、「入れ替わり立ち代わり」ふたりの知り合いも混ざりながも、賑やかだったらしい。私の知らないニイの友人や親戚…知っている顔では、ゴウくんや、キュウ。
シイは、皆でワイワイ遣り合う以外は…ニイに割り当てられた部屋で、読書や、例の「漠の木彫り」を制作して過ごしていたらしい。
私の耳元で、一瞬だが、シイが「漠の木彫り」をナイフで削る時の音である「シュっシュっ」という音が蘇る。
私と一緒に暮らしていた時も、シイは偶に「漠の木彫り」を作っていたのだ。
しかし、「ヴァカンス先」でも「悪夢」は、シイの側を離れなかったのだ。
私が、シイの「悪夢」の話をすると…ニイは「知っている」と言わんばかりに頷いた。
「俺んとこ…田舎だからよお…虫多いんだよ。けどさ、蚊帳が…ひとつしか無えから、寝床はシイと一緒だったんだよ。畳に布団二組並べてよ。「夫婦みてえだなぁっ!」ってふざけて言ったら、シイから肘鉄くらった。」
ニイは、シイと「一緒の寝床である事」を言い辛そうに告白し、照れ隠しを誤魔化すかの様に、シイの乱暴なエピソードを披露した。
ニイのオーラが、ピンクと赤の比重が次第に多くなっていく様が見て取れた。
ニイのピンクと赤のオーラの出方が、前よりも濃く出ている。シイと一緒の寝床で夜を過ごす環境が、ニイのシイに対する「恋愛意識」に影響を与えた事は確かだ。
ニイは、シイに対する「恋愛意識」を落ち着かせようと試みているのだろうか…自分の組んだ両手を互いに「グリグリ」揉みながら、話を続けている。
「夜中、ふっと目を覚ますとよ…シイのヤツが、上半身だけ起こして…ぼーっと外を眺めてんだよ。俺んとこって「畳」ってトコで、布団敷いて寝ているってさっき言っただろ?シイのヤツさ…わざと品を作っている訳じゃねえ、と思うけどよ…毎日「横座り」して外を眺めている…アイツの姿を見て気付いたんだ。女に分化してるって」
私は目を瞑った。
不思議な事に、まるで今し方「横座り」するシイの姿を…目にしたかの様に、私の脳裏に、そのシイの姿がありありと映る。
「『分化は環境要因』も大きいって、以前シイが言っていたけど…あなたと一緒に過ごす事が多かった事が…シイの「女性への分化」に影響を与えたのかしら…。」
私が呟くとニイが、慌てふためいた。
「いいや、俺はそうは思わねえ。…その、ここからは唯の勘だよ。…シイのヤツが「横座り」してん時の表情をよ…俺、毎日見ていたから分かるんだ。多分、アイツが原因なんじゃねえかな?」
ニイが目を伏せながら話を続ける。
「俺、一度しか見てねえけどさ…シイのヤツが、居間で本読んでて、居眠りこいてたんだ。アイツがよ…シイの側に来て膝掛けを、そのっシイの肩に乗っけて…ただそれだけの事だけどよ、なんかピンときたんだ…」
「ニイ!ちょっと待って!アイツアイツって…名前をはっきり言ってよ!」
私のクレームに、ニイが自分の濃い眉を下げて言った。
「ロクさんもよ…「悪夢」から覚めてぼーっとしてる、シイの顔…ずっと見続けてたんだろ?」
ニイの表情が言っている。
『だったら見当つくだろ?』
そしてニイの表情は、こうも言っていた。
『名前を出す事に躊躇いがある』と。
そこに来て私は気づいた。
私とニイは「同志」だ。
「キュウ。」
ニイが口にする事を躊躇った相手の名前を、私は口にした。
『女に分化したら…俺の子産めよ』
キュウが、シイに向けて放った「このセリフ」が、私の耳元で蘇る。
回想2
「実は、シイのヤツ…今、相当弱っていて…でも病院に行こうとしねえんだ…妊娠悪阻ってヤツだと思うって…俺の子持ちのダチは言っている。」
さらりと、ニイから出た『妊娠悪阻』と言う言葉に驚き、私は口に含んだアイスティーを…吐き出す寸前だった。
「ちょっ、ちょっと…待って!展開がっ…に、妊娠って、私と別れた時は…分化なんてっ、」
私は、そこで絶句した。
今度は私の方が、顔を両手で覆う番だった。
私は重いため息を吐き、両手で顔を覆う。
恋愛経験の少ない私は、完全に勘違いをしていた。
ニイの相談事…それは、完全に「シイと恋仲になるにはどうすれば良いか?」と言った類のものだと、疑いもなく思い込んでいたからだ。
それに対し、「お見通しよ」という態度をとった自分も情け無い。
顔を覆いながら、ここに来て私は勘づいてしまった。
シイの置かれている状況を「私は斜め上の展開」と言った。
だが、ニイから今し方受けた話は…おそらく、相談事の「序章」でしかない。
ここで、度肝を抜かれている場合では無いのだ。
私がずっと、黙っているせいだろうか?
ニイは少し心配そうな、それでいて気遣う様に…軽く微笑みを湛えながら、私の顔を覗き込み、相談事の続きを話した。
「実はよ…俺もさ…シイが、いつ女への分化が始まったって…はっきりした事は、わかんねえんだ…シイのヤツも何も言わねえし。」
以下は、ニイの言葉の要約だ。
シイが「ヴァカンス」として、ニイの地元で滞在し始めた当初…ふたりは「悪友」としての毎日を、楽しく過ごしていたらしい。
例えば…魚釣り、畑仕事、日々の料理作り、近隣で開催される祭りへの参加…それはもう…様々なイベントを満喫した。そこには、「入れ替わり立ち代わり」ふたりの知り合いも混ざりながも、賑やかだったらしい。私の知らないニイの友人や親戚…知っている顔では、ゴウくんや、キュウ。
シイは、皆でワイワイ遣り合う以外は…ニイに割り当てられた部屋で、読書や、例の「漠の木彫り」を制作して過ごしていたらしい。
私の耳元で、一瞬だが、シイが「漠の木彫り」をナイフで削る時の音である「シュっシュっ」という音が蘇る。
私と一緒に暮らしていた時も、シイは偶に「漠の木彫り」を作っていたのだ。
しかし、「ヴァカンス先」でも「悪夢」は、シイの側を離れなかったのだ。
私が、シイの「悪夢」の話をすると…ニイは「知っている」と言わんばかりに頷いた。
「俺んとこ…田舎だからよお…虫多いんだよ。けどさ、蚊帳が…ひとつしか無えから、寝床はシイと一緒だったんだよ。畳に布団二組並べてよ。「夫婦みてえだなぁっ!」ってふざけて言ったら、シイから肘鉄くらった。」
ニイは、シイと「一緒の寝床である事」を言い辛そうに告白し、照れ隠しを誤魔化すかの様に、シイの乱暴なエピソードを披露した。
ニイのオーラが、ピンクと赤の比重が次第に多くなっていく様が見て取れた。
ニイのピンクと赤のオーラの出方が、前よりも濃く出ている。シイと一緒の寝床で夜を過ごす環境が、ニイのシイに対する「恋愛意識」に影響を与えた事は確かだ。
ニイは、シイに対する「恋愛意識」を落ち着かせようと試みているのだろうか…自分の組んだ両手を互いに「グリグリ」揉みながら、話を続けている。
「夜中、ふっと目を覚ますとよ…シイのヤツが、上半身だけ起こして…ぼーっと外を眺めてんだよ。俺んとこって「畳」ってトコで、布団敷いて寝ているってさっき言っただろ?シイのヤツさ…わざと品を作っている訳じゃねえ、と思うけどよ…毎日「横座り」して外を眺めている…アイツの姿を見て気付いたんだ。女に分化してるって」
私は目を瞑った。
不思議な事に、まるで今し方「横座り」するシイの姿を…目にしたかの様に、私の脳裏に、そのシイの姿がありありと映る。
「『分化は環境要因』も大きいって、以前シイが言っていたけど…あなたと一緒に過ごす事が多かった事が…シイの「女性への分化」に影響を与えたのかしら…。」
私が呟くとニイが、慌てふためいた。
「いいや、俺はそうは思わねえ。…その、ここからは唯の勘だよ。…シイのヤツが「横座り」してん時の表情をよ…俺、毎日見ていたから分かるんだ。多分、アイツが原因なんじゃねえかな?」
ニイが目を伏せながら話を続ける。
「俺、一度しか見てねえけどさ…シイのヤツが、居間で本読んでて、居眠りこいてたんだ。アイツがよ…シイの側に来て膝掛けを、そのっシイの肩に乗っけて…ただそれだけの事だけどよ、なんかピンときたんだ…」
「ニイ!ちょっと待って!アイツアイツって…名前をはっきり言ってよ!」
私のクレームに、ニイが自分の濃い眉を下げて言った。
「ロクさんもよ…「悪夢」から覚めてぼーっとしてる、シイの顔…ずっと見続けてたんだろ?」
ニイの表情が言っている。
『だったら見当つくだろ?』
そしてニイの表情は、こうも言っていた。
『名前を出す事に躊躇いがある』と。
そこに来て私は気づいた。
私とニイは「同志」だ。
「キュウ。」
ニイが口にする事を躊躇った相手の名前を、私は口にした。
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キュウが、シイに向けて放った「このセリフ」が、私の耳元で蘇る。
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