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【名演技編】第六章 迷宮サバイバルの夜

0605 真実の姿

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イズルはエンジェルの話に動揺した一瞬、ロックされた合金扉が何かにぶつかられたでかい音を発した。  
筋肉ウルフは扉を破って休憩室に突入した。
「捕まえろ!」
エンジェルの命令を聞いたら、一人の筋肉ウルフはその巨体でイズルを床に押し倒した。
イズルにとって、これは生まれてから最も重い挨拶だった。
「こいつをどうする?」
筋肉ウルフはイズルの背中に乗ったまま聞いた。
エンジェルは乱れた髪やドレスを整理しながらイズルを睨みつく。
「殺せ」
「けど、こいつはまだ観察対象で、マサルもやりすぎないようにと……」
「あんたも見たじゃない! 何か能力があったら、あたしたちと戦ったはずよ。観察なんかいらない。こいつはただのゴミだよ、ゴミ!!」
「……」
エンジェルは明らかに個人の恨みでイズルを始末しようとしている。
でも、筋肉ウルフはエンジェルのために万代よろずよ家に逆うわけにはいかない。逆にイズルから少し離れた。
イズルはすぐ反抗しなかった。
彼は拳を強く握りしめて、独り言のように呟いた。
「ゴミ……そうだな、ただの、ゴミだ……」
(大事な家族を一人も守れなかったゴミだ……)
イズルの額は冷たい床に当てられている。
熱くなった拳から、薄い橙色の光が現れたことに気付かなかった。

「人はゴミかお宝かあなたの基準で判断するものではない」
破られた扉の方向から、人の声が伝わってきた。
「?!」
エンジェルと筋肉ウルフたちは振り向くと、そこに三階から上がったばっかりのリカがいた。
リカはイズルが捨てた拳銃を拾って、銃口をエンジェルに向ける。
エンジェルは最初にゾクっとしたけど、リカの姿をよく見たら、ププッと笑い出した。
リカは全身びしょ濡れ、髪はもう形というものがない。白いドレスは泥色に染められ、泥水が滴っている。靴はドレスと全く合わない安ぽい運動靴、水が滲む音さえしている。
砂の上でもがいたエンジェルよりずっとかっこ悪い。
「リカお姉さん、美味しい登場を取る前に、ちゃんと鏡を見た? こんな姿じゃ、助けられる人はドン引きするんじゃない。あたしだったら、イケメンや美人じゃないと絶対嫌なの!」
「そんなことどうでもいい。さっさと帰れ」 
リカの声の温度は氷点下だ。
脅迫というより、冷静な命令を下すような口調でエンジェルたちに話している。
姿がかっこ悪く、態度が堂々としたリカに見つめられて、エンジェルの笑顔は歪んでいく。
「……そう、そうなのね。あんたにとって他人の目線なんてどうでもいいのね! だから何なの? まだ継承人のつもりでいたい? 女王様みたいに威張っても、今のあんたはボロクソのゴミなのよ! あんたは自分のことを女王様だと思っても、あんたに従う人は一人もいないのよ!」 
エンジェルの尖った叫びの中で、リカはためらいなく引き金を引いた。弾はエンジェルと筋肉ウルフたちとすれ違って、彼らの後ろのロッカーに命中。
「好きなだけに罵ればいい。今すぐその人を解放しろ。私は任務対象を守る義務がある」
イズルは拳を握りしめて、動かないままリカたちの話を聞いていた。「守る」という言葉を聞いた時、思わず小さく震えた。
「エンジェル…さん、もうリカさんと争っちゃいけない。リカさんはまだ万代家の人だ。勝手に手をだしたらマサルさんは困る」
エンジェルの怒りが爆発寸前と察し、筋肉ウルフは彼女を止めようとした。
頭は筋肉だけど、家のルールをちゃんと守らなければならないことをしつけられたから。
エンジェル自身は戦闘能力がほとんどない。筋肉ウルフは思い通りに動いてくれない。仕方がなく、悔しそうにハイヒールを踏み鳴らした。
「分かったわよ、マサルちゃんのメンツに免じて、今日はここまで――そのゴミ男、あんたにやるわ!」
「オレのことを決める権利はいつお前にやった?」
「?!」
イズルは突然に動き出して、自分を制している筋肉ウルフを飛ばした。
床から立ち上がった瞬間、エンジェルを向けて何かを投げた。
飛ばされたナイフは、避けられなかったエンジェルの上腕で血痕を描いた。
「ぎゃ――!!」
「?!」
エンジェルは悲鳴をあげると、イズルの目に映している彼女の姿も変わった。
「母」ではなく、正真正銘なエンジェル本人の姿になった。
イズルは冷笑して、わざとエンジェルの口調をまねする。
「人の母に化ける前にちゃんと鏡を見た? こんな姿じゃ、人の息子はドン引きするんじゃない」
「あんた……?!」
イズルの不遜な態度は、一晩中怒りを溜まっていたエンジェルを起爆させた。
「こんな……美女を粗末するゴミ男、初めてみたわ! もう許さない!!!」
エンジェルは腕の傷も抑えず、首元の緑の宝石を引き取った。
「馬鹿! 逃げろ!!」
リカは急いでイズルの腕を掴んで、緊急出口の外へ走り出した。
エンジェルはリカとイズルの背中に向かって宝石を投げる。
逃げた二人に触れなかった宝石は地に落ちて、急速的に回し始める。
金色の火花が宝石から飛ばされて、歪んでいる金色の呪文文字になった。
リカはイズルを引っ張って振り返りもせずただ走り続ける。その金色の文字は輝きを増しながら二人を追ってくる。
階段の踊り場まで来たら、リカはちらっと金色の文字を覗いた。
(逃げ切れない……!)
それに悟ったリカは足を止めて、イズルを前に回させようとした。
「?!」
イズルもまた彼女の意図に気付いて、前に出た瞬間、リカを腕の中に囲んで、彼女を抱きしめたまま二人一緒に階段を転げ落ちていく。
その同時に、金色の文字は空中で爆発した。
金色の火花は階段の間で迸って、半径三メートルのコンクリートを粉々にした。

爆音と煙が少し収まったら、イズルはすぐ体を起す。
驚いたこと、近くのコンクリートは粉砕されたのに、彼もリカも無傷だった。
薄い橙色の半球形のバリアは、すべての攻撃を拒むように、彼を中心に張っている。
そう、あの日、家族が遭難した日と同じだった。

「これは、『霊護れいご』……?!」
バリアを目にしたリカは、心臓が大きな鼓動をした。
一度封印された希望は再び舞い上がってくる。
(これがあれば、彼たちを、助けに行ける……!)

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