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【名演技編】第十章 スピード恋愛はごめんだ

1001 和解

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イズルはベッドで仰向きになったまま会社のレポートを読み終わった。
リカの対応はこんなに疲れることとは思わなかった。
妙まことだけを言い放って、肝心なことは何も教えてもらえない。
――
「今教えられるのは、あの女が言ってたことは本当だ。私は人殺し同然のことをした」
――
毒舌で石頭、融通のない、思考回路は理解不能な暗黒令嬢とはいえ、襲撃で自分を守ろうとした、刻印反噬こくいんはんぜいを解いてくれた、優しく妹を見守っていた……
人殺しのようなことをするわけが……
いきなり、エンジェルの尖った叫びは頭の中で響いた。
——
「あんたの家族の死因を知りたいでしょ! 犯人が分かるわ!」
「犯人は……リカだ! すべては彼女のせいなの! 家族の秘密任務に失敗して、その秘密を漏らしたの! だから、あんたの家族はその秘密を知った! 万代よろずよ家はあんたの家族を殺さなければならなかった! 殺すなら、リカを先に殺すべきなのよ!」
――
それとも、やはり「万代家の長女」のリカを甘く見たのか……?

威張ってエンジェルと手を組むとリカに言ったけど、母を利用した人とは到底組めない。
でもリカの信頼を得られない以上、万代家に入っても、当初予定の「協力関係」になれない、復讐のための資源をもらえない。
一体どうすれば……

スマホを握りしめたら、ふいと、父の教えが頭で浮かんできた。
「ビジネスの交渉をする時に、騙しあい、虚勢張り、針小棒大などは珍しくない。お互いにも相手の狡猾さを知っている。自分と同じ、もっと多くの利益を望んでいるのを知っている」
「だけど、いくら偽物を見せても、一つだけ、本物でなければならない」
「相手と協力し合う意欲――協力したい心は本物でなければならない。そうでないと、最初から交渉の意味がない。どれくらい綺麗なことを語っても時間の浪費だ」
イズルは父の話を吟味した。
しばらくしたら、髪と服を整えて、リカの部屋に向けた。

リカのパソコンで、イズルが作ったフェイクニュースが流されている。
確かに、イズルの言ったように、彼は小学中退レベルのドラ息子ではない。
彼の才能と資源は自分の不足を補える。彼の助けがあれば、万代家のトップを争える。
しかし、彼の異能力以外にリカはなにも欲しくない。
それを得るために、彼の家族の不幸の真相を利用して、彼を釣ろうとした。
そんな悪質なやり方にイズルは怒るどころか、もっといい条件を交渉しに来た。
これで、彼は万代家に入ってやろうとすることは明白だ。
復讐のためだ。
彼の望んだものを提供できないと正直に教えたけど、イズルは納得できなかったようだ。
嘘な承諾をして、とにかく彼を取り込むのはできなくもないけど、リカは口だけの綺麗事が死ぬほど嫌いだ。
偽物なら、必ずバレる時が来る。相手はもっと失望する。場合によって、相手に取りつかない損失をさせる。
リカは知っている。そんなことに気にする自分は万代家の継承人として不合格だ。

そして、イズルの言ったように、エンジェルやほかの人なら彼の思うままの条件を承諾するだろう。
エンジェルは他人の欲望を正確的に把握し、協力者のふりをして、自分の欲望のために他人を利用する;
ようこは断られても無理やりを言えるほど粘り強く、おねだり上手;
マサルは暗いと弱い部分を隠して、すべての人にいい顔を見せて、有能で魅力的なイメージを作れる……
どれもリカより人脈作りに優れている。
自分のような「社交下手」な人間より、イズルは彼たちと気が合うだろう。
彼たちと組んだほうが、イズルの目的も早く達成できる……

でも……
リカは密かに拳を握りしめる。
心の底のどこかでまだ信じている。
奴らに負けて、たくさんのものを奪われて、一度断崖絶壁に追い込まれた彼女はまだ挽回の力がある。
まだ奴らのない何かを持っている。
心を背けるようなことをしなくても、「仲間」を得る資格がある。

ぼうっとスクリーンを見つめていて、考えていたら、ドアからノックの音がした。

ドアはロックをかけていない。
わずかな隙間を通じて、リカは外のイズルと目が会った。
イズルは小心翼々と扉を押し開けて部屋に入った。
先ほどの鋭くて、狡猾な顔がどこかに消えて、大人しくて忠実な番犬のような表情でリカの目を見つめて、口を開いた。
「さっき、悪かった。お前の言った条件で入るから、あの資料とかをくれ」
「!」
リカはその態度の変化にすぐ反応できなかった。
イズルは空いている椅子をリカの向こうに置いて、リカと対面で座った。
「今夜は書類を済ませて、明日はその洞窟に行って、入族の儀式をやればいいだろ」
「……」
リカはイズルの従順そうな目を見つめて、三秒くらい沈黙したら、彼にゆっくりと手を伸ばした。
「!」
その手の接近によって、イズルの心臓の鼓動は不思議に早くなった――
頬に触れると錯覚したら、その手は横になって彼の額を覆った。
「……」
その動きの意味は言うまでもない。
イズルはせっかくできた真摯な決心が侮辱された気分になった。
「ちょっと待って……」
リカは困惑そうに、机の引き出しから何かを出した。
資料ではなく、手動の血圧計だった。
「お前、わざとやったのか……?」
もうこれ以上の侮辱を我慢できず、イズルは声を沈ませて説明した。
「今のところ、お前の言った条件で入る。だが、オレは交渉の権力を保留する。状況が変わったら、またお前に新しい要求を出すかもしれない。その時また話そうのことだ」
「……そうだよね。状況が変わらない保証はない」
そういうことなら、態度の変化にも納得できるとリカはうなずいた。
「だから、まず今の条件をクリアしよう。オレの家族の真相を教えてくれ」
イズルが今回こそ本気だと理解したリカは、目を少し逸らした。
「……入族の前に教えられない。あなたの家族は万代家の機密を知ったから殺された。その機密は、万代家内部でも、直接にかかわった人しか触れられないものだ。あなたは私の部下として入らないと、それを教える言い訳も作れない」
リカの説明を聞いて、イズルはまた長いため息をした。
「つまり、入族の前にオレはそれを知ったら殺される危険がある。お前の部下にならないと、お前はそれをオレに教える言い訳がない――そういうことだったら、早く言えばいいのに」
「オレの血圧より、お前の表現能力を何とかしろよ」
イズルは頭痛したけど、ふっと気づいた。
リカの最大の問題は、その猪突猛進な表現かもしれない。
結論だけを言って、その結論に至る過程を全部省略する。
だから不可解に見える。
暗黒家族の頂点に立ったお姫様の悪いくせだろうが、リカはそれを変えるつもりがないなら、自分から工夫しないと。
一応、手を組めると決めた「パートナー」だから、うまくコミュニケーションができないと後々面倒なことになる。
そういえば、上下関係ではなく、確かにパートナーだよな……

リカのガイドでイズルは入族資料を書き終わった。
ペンを置いて、イズルはさっきから気になることを口にした。
「確認だけど、お前は言っただろ。上司と部下は名義上のもの、つまり建前。オレとお前の間に上下関係はなく、平等な『パートナー』関係。その認識で問題ないよな」
「ええ、問題ない」
リカはうなずいた。
「ならいい。パートナーだから、オレの考えを教える」
イズルもその答えに満足だ。
「お前は偽物警察が落合の人と言ったが、あいつらは妖怪の名前を白状した。何か裏があるかもしれない。オレはあの妖怪を引き出して、話を聞こうと思う」
「それは私の勘違いだった。先ほど調べた。エンジェルは昇進した。新しい権限を手にいれて、一つの小隊をもらった」
「ほぉ、昇進か?」
イズルは片方の口元を釣り上げた。
「それならちょうど調子に乗っているところだろ。手をかければ、オレへの企みを丸出すかもしれない。それに、オレの家族を利用した代償を払ってもらわなきゃ」
「エンジェルを甘く見ないで。彼女は継承人ランキングで8位もある。新人は上位の継承人を狙うと家に厄介視される」
イズルの計画を聞くと、リカはなぜかよくない予感がした。
「心配するな。彼女に何もしない。オレは根を持つタイプだけど、恩もちゃんと覚える。お前に迷惑をかけない」
「私はあなたになんの恩があるの?」
リカは戸惑った。
「あの妖怪が襲ってきた夜……」
「それは数えなくていい。結局あなたの力で二人も救われた」
「……」
自分を救ったのに恩を売らない。
つまり、それはエンジェル撃退のついでのようなことか。
イズルは心のなかで苦笑した。
(オレの命は安く見られたようだな。)
「お前からみればなんともないかもしれないが、オレは覚えておくよ」
イズルは穏やかな笑顔を見せた。
その話は媚び売りではないとリカは分かる。
だから、複雑な気分になった。
(それだけのことで、恩にならない。)
(私はあなたの家族の仇だから。)

その夜、万代家主催のパーティーでクライアントと情熱な会話を交わすエンジェルのところに、イズルの連絡が入った。
内容を見たエンジェルは、バラ色の唇を嚙み締めた。
「あたしが人を取りに行く? あのゴミ男、何を企んでいる……?」
隣からようこと二人の青年の談笑が届いた。
「アハハ、やっぱりだいちゃん先輩は一番いい先輩だよ!」
「おいおい、話はおかしいぞ。この前、俺のことを『いい先輩』と言ったろ? 大ちゃんは『一番いい先輩』だったら、俺はその下になるんじゃないか?」
「間違いねぇ! ようこちゃんは正直者だな!」
「あらら、小野先生はそっちにいるぅ! もう1っか月も会っていないの! 挨拶しに来る! お二人はまた後でね!」
二人の青年は張り合い始めたら、ようこは満足そうにほかの目標に移動した。
でも、次の目標に着く前に、エンジェルに呼び止められた。
「役に立たないチンピラ釣りをやめなさい。仕事が来たのよ!」
お酒とおだてを楽しんでいる最中に、エンジェルに厳しく命令されて、ようこは悔しそうに膨れ面を作った。
「わたしもお金持ちで優しくてカッコよくてわたしの言いなりになる花婿を釣りたいのよ! そんな相手滅多にいないでしょ? わたしの異能力は自分に使えば、こんな貧乏小僧たちとつるむわけがないでしょ!」
「そんな相手が来たのよ! あんたの鬼畜CEO兄ちゃんから連絡が来た!」
「あのイズルのこと? うひひぃ、あのダサい格好はCEOの名に相応しくないの! 乙女心をめちゃくちゃにしたのよ!」
イズルの狼狽な姿を思い出すと、ようこは汚いものでも触れたように、手で腕を何回も払った。
「あたしの話を聞け!」
エンジェルは大声でようこを抑えた。
「雑魚部下を使ってやつを試しに行かせたのよ。けれども、彼は雑魚たちを捕まって、あたしを脅迫しに来たの! ゴミ男だけのことがあるわ」
「だから、雑魚でしょ~気にする必要はないでしょ~放っておけばいいでしょ?」
「雑魚はどうでもいい。けれども! 彼は『能力』があることを、忘れていないよね」
エンジェルは軽蔑そうにようこを睨んだ。
「彼とリカが無事にあのビルから出たところを見たのはあんたでしょ? あたしの法具は上級の異能力者の攻撃法術にも匹敵するものだわ。彼は本当に高級霊護の能力があるかもしれない。リカに先を走らせるわけにはいかないわ!」
「うん、だから……?」
ようこはやる気なさそうにあくびを呑んだ。
エンジェルは顎をあげて、新しく染めあげたブルーとグレーの髪をさらっと払った。
「行ってやるじゃない。そして、彼に『帰らせたくない』と言ってもらうわ」
「あらら、ハーレムメンバーがまた増えるのね? おめでとう――」
エンジェルの意味が分かって、ようこはつまらなさそうに苦笑いをした。
「これで何人目? 皇后はまだマサルちゃんなの?」
ようこが皮肉を言っているとエンジェルは分かるが、ようこは皮肉しかできないのも分かる。
嫉妬されることは勝利者の証明、寧ろ誇りと思う。
エンジェルは限定品の口紅を出して、唇でちょいっと擦った。
「それは、彼次第だよ。あたしは常にもっと自分に相応しい優秀な男を求めているから」
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