日常の小さな幸福【食事編】

豆太郎

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磯辺揚げ

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ビー・ビー・ビー

何時もの時間に携帯のアラームが鳴る

午前5:00

何時もの様にベッドの中で目を覚まし携帯のアラームを止め意識を覚醒させながら呟く

「今日がもう始まったか・・・・」

その呟きに感情はなく淡々と過ぎて行く日常に関心が無いように聞こえる

その男は年齢35歳独身一人暮らし

決まった時間に起き、
仕事に行き、
淡々と仕事を行い、
残業をして、
帰る時間は不規則だが、
帰って、寝る
そして決まった時間に起きる

虚しい人生の様に聞こえるが

この習慣をこなさないと生活が出来ないのも事実

人生に張り合いがなくなる世代なのかもしれない

周りは結婚して子供もいる

娘、息子の成長を見ながら日々頑張る男と守る者のない男の差は歴然なのだろうか

たまに
「独り者は自由な時間と使えるお金が有って自由だよね」なんて言われるが

そうでもない

日々の生活費、
親への仕送り、
独り者に優しくない税金、

自由な時間でさえ返上する時がある
残業、休日の突発的な仕事などは優先的に独身者に白羽の矢が立つ

自由な時間でさえ削られる、

そんな事を考えながらベッドの中で30分

いい加減起きるか

布団から身体を起こし仕事に行く支度を開始

顔を洗い、
歯磨きをして
寝癖を直し
服を着替え

ブラックコーヒーだけを飲む

朝ごはんは食べないのが習慣になってしまった

それらをして1時間が経過する

午前6:30 家を出る

駅に向かい、

電車に乗り、

会社に歩く事

1時間

午後7:30 会社に出社

日々の業務開始

デスクワーク、

お客様への営業、

現場の確認、

上司への報告、

トラブル対応、

午後16:45
自分の仕事が片付き、明日の業務の段取りを行い帰る準備をしようとした時に上司からの一言
「すまんが今日の現場で一ヶ所残業になりそうなんだが君行けるかい?」

疑問系にしているが問答無用の残業確定な白羽の矢が自分に突き立てられる

心の中でため息を吐きながらニコニコ顔の上司へ
「大丈夫ですよ」と嫌な顔をせず答える

「そうか、すまないな次は他の者に頼むから今回は頼むな」申し訳なさそうに毎回同じ事を言われる様な気がするが気にしない様にする

さてもうひと頑張りしますか。

午後19:00
残業の仕事が終わり、報告書を提出して帰宅につくが今日は会社から駅に向かう道を一本外れる

毎週決まった曜日に寄り道する日

細い路地を進み暫くすると一軒の小さな居酒屋が見える

ガラガラと入り口の戸を開ける

「いらっしゃい」
亭主の元気の良い挨拶

「おお、君か何時もの時間に来ないから今日はもう来ないかと思ったよ」

亭主の言葉から自分がこの店の常連になっている事が分かる

「少し残業になってしまいましてね何時もより遅くなりました」

たわいもない言葉を喋りながら何時ものカウンター席が空いているか目線で確認すると

「大丈夫だよ何時もの席丁度今空いたばかりだから座りな」

亭主も自分の視線に気づいたみたいでOKの了承の声が

「ありがとうございます」

お礼を言いながら何時ものカウンターの1番奥の席に座ると亭主の奥さんが

「遅くまでお疲れ様、今日はどうするんだい?」

「そうですね~、じゃ~何時もので」

「あいよ、あんたカウンター10番さん何時ものね!!」

「おう、わかった」

カウンター席10席、
座敷は4人席の2つ
小さな居酒屋

ここが何も無い自分が唯一の安らぎの場所

厨房では注文を受けた亭主が料理を作っていく

ジュワ~

油で物が上がる音が聞こえる

その音を楽しんでいると奥さんが
中ジョッキで生ビール御通しの煮物を持ってきてくれた

「もうすぐ出来るからね」

注文しなくても持ってきてくれるビール
私がこの居酒屋の常連客である事実

さて御通しとを一口食べから生ビールを飲む


「か~」

思わず出てしまう声

疲れた体に染み渡るほろ苦い炭酸アルコール

小さな楽しみを満喫していると注文したしなが出来上がる

「おまたせ【ちくわの磯辺揚げ】だよ」

そうこれが私のお気に入り

青のりの風味と衣のカリカリそしてちくわの柔らかな弾力三重のハーモニーが奏でる幸福感

そしてビール

ああ今週も頑張った自分へのご褒美

満足です。








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