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愛の方舟
8 ロマンチストとリアリスト*
艦内時間二十三時五十分。
幸いなことに、レオは自分の寝床の中で、そのまま眠りつづけていてくれた。
ただエドに会いにいくだけなのに、どうしてこんなにレオに対して後ろめたく思ってしまうのだろう。理由はわからなかったが、とにかくウィルは照明を消して、自分の部屋を出た。
ウィルの自室からエデンまでは、普通に歩いていくと五分ほどかかる。絶対に遅刻したくなかった彼は、早めに自室を出て、エデンの自動ドアの前で約束の時刻――〇時になるのを待つことにしたのだった。
食事以外の目的で、エドと時間を決めて待ち合わせるのは、実はこれが初めてだ。いつもならこれくらいの時間になると眠気に襲われているのに、今日は昼寝という名のふて寝をしたせいか、レオとはまったく正反対に目が冴えて仕方がない。
(明らかに浮かれてるよな、俺)
自覚はあったが、感情は抑えられない。
たとえ自分と同じ男でも、もぐりの運び屋をしていても、それ以外の過去は話してくれなくても、それでもエドが好きなのだ。
ウィルがエドを好きな理由の一つに、レオをウィルの単なるペットとしてではなく、相棒として認めてくれているというのもあるかもしれない。
レオも、かつての乗組員たちに対するほど、エドのことは敵視していないようだ。決して仲がいいとは言えないが、ちゃんとエドを案内してきてくれたし、ハシゴがわりにしたとはいえ、エドの体にも触れていた。レオが自分からウィル以外の人間に触れたのは、あれが初めてだったのではないだろうか。
そんなことを考えながら、足どり軽く通路を歩いていたら、あっというまにエデンの自動ドアの前に着いてしまった。
腕時計を見てみれば、二十三時五十四分と、実に中途半端な時刻になっていた。
(エドはもう来てるのかな)
中に入って確認したかったが、もしかしたら〇時ぴったりに来るつもりなのかもしれない。ウィルは最初の予定どおり、自動ドアの横の壁の前で、約束の時間になるまで待つことにした。
たった六分間が、これほど長く感じられたことはない。
だが、これほど幸福感に満ちた六分間もなかった。
最後の一分間は、腕時計を見ながら秒読みをした。
(……五、四、三、二、一、〇!)
結局、エドは姿を現さなかった。
ということは、もうエデンの中にいる。
あの男がウィルとした約束を破ったことは一度もない。この軍艦の支配権をMACから奪うと言って、本当に奪って帰ってきてくれた。
突然声をかけられても驚かないように、心の準備をしてから認証装置に右手を置き、エデンの自動ドアを開ける。
「十秒の遅刻」
あれほど気構えていたのに、やはり驚かされて、二、三歩退いてしまった。
エドは自動ドアのすぐ横の壁に背中を預け、腕組みをして立っていた。
「まだ〇時から一分経ってないんだから、遅刻にはならないと思うんだけど」
一応そう弁明すると、エドは苦笑いして右手をウィルに差し出した。
「まあ、そういうことにしておこう。……ベンチに座るのと、〝生命の木〟の下に座るのとどっちがいい?」
一瞬とまどったが、ウィルはエドの手を両手で握って答えた。
やはり、温かくて大きい。おまけに、自分よりも手触りもいい。
「〝生命の木〟の下」
「そう言うと思ったよ。おまえ好きだよな、あそこ」
呆れたように笑いつつも、エドはウィルを引っ張るようにして歩きはじめた。
ウィルが夜のエデンを訪れたのは、今夜が初めてではない。ただし、夜間の立ち入りは禁止されていため、それは乗組員がウィル一人となり、誰も彼を罰することができなくなってからのことだ。かつては今夜のウィルたちのようなことをしようとした者たちもいたが、あの自動ドアを開けた時点ですぐに警備部にバレてしまい、即刻連行されて厳重注意を受けていた。
夜には誰も入れないことになっていたはずなのに、暗くされた空にはちゃんと星々が瞬いていて、日ごとに満ち欠けをする月が、時間に合わせて移動していた。初めてそれらを目にした日には、ウィルはレオを抱いたまま、夜が明けるまで一睡もできなかった。
植物以外はすべて作り物だとわかっていても、この空間は自分が宇宙船の中に一人きりでいることを、いつも忘れさせてくれた。
でも、今は本当に一人ではない。それを再確認するように、ウィルはエドの手を強く握った。
普通の公園だったら、街灯や夜間照明があるのだが、エデンの夜の光源は、人工の月と星だけだ。
だが、今夜はちょうど満月だった。エドの広い背中も足元もよく見える。〝生命の木〟の下に敷かれているものも。
「ほら、おまえの大好きなレジャーシートだ」
エドはそう茶化すと、今日の昼食のときに広げていた赤いレジャーシートを、ウィルにつかまれていない左手で指し示した。
「きっとこっちに座りたいと言うだろうと思って、事前に用意しておきました」
「別に俺、レジャーシートが好きなわけじゃないから」
口では怒ったように言ったが、この男のこういう気の利き方は、正直言って大好きだ。
「まあまあ、とにかく座れ。時間がもったいない」
エドはウィルに握られたままの右手をダンスでもするように動かして彼を座らせると、その隣に自分も腰を下ろした。
「エドは何時にここに来たの?」
肩が触れあうほど接近されて、ウィルは内心どきどきしながら目を合わせずに訊ねた。つないだままの手は、彼にとってはむしろ安心材料なのだった。
「そうだな。少なくともおまえより前には来てたな。それよりウィル。どうしてパジャマ着てこなかったんだ? シャワーは浴びてきたんだろ?」
突然とんでもないことを言い出されて、ウィルはエドを振り返った。
「シャワーは浴びたけど、パジャマで来るわけないだろ! 自室の外は全部公共空間ってことになってるんだから!」
むきになって主張するウィルを、エドは面白そうに笑って眺めていた。
「ここには俺たち二人しかいないのに、おまえ、妙なところで堅いよな」
「そういうエドだって、パジャマじゃないじゃない」
「俺は寝るとき素っ裸だから」
「え?」
「というのは冗談で、いつ何があってもいいように、服は着たまま寝てるんだよ。何しろ新品の在庫はいくらでもあるからな。その気になれば、軍人のコスプレもできる」
想像したウィルは、つい口に出してしまった。
「エド、とっても似合いそう」
「おまえも着てみるか? 女子用もあったぞ」
「エド、それも着るの?」
エドは眉をひそめてウィルを見やる。
「それ、本気で言ってないよな?」
「半分本気。半分怒気」
「悪かった。冗談だ。俺はおまえを女がわりにしようなんて思ってないよ」
ばつが悪そうにエドは笑うと、自分の右手ごとウィルの手を引き寄せ、その手の甲にうやうやしく口づけた。
(でも、女扱いはされてるような気がする……)
そう思いながらも、決して悪い気はしない。
そもそも、ウィルは年上に甘やかされるのが好きなのだ。しかし、本人はそのことをまるで自覚していない。
「なあ、ウィル。ひとつ訊いてもいいか?」
唇を離した後、急にエドが真顔になって切り出した。
「な、何?」
「おまえ、最初から俺のことは好きだって言ってたよな? 具体的にどこが好きだ?」
ウィルはあっけにとられて、すぐには何も言えなかった。
「具体的にどこって……今さらどうしてそんなこと訊くの?」
「おまえだって、俺に自分のどこを好きになったのかって訊いてきただろうが。同じように俺も気になってたんだよ。いったいどこがよかったんだ?」
ウィルを困らせたいのか、本気で知りたいと思っているのか。少なくとも、エドの表情は真剣だ。
「どこがって訊かれても、すぐには出てこないけど……とりあえず、俺より頭がいいとこ」
赤くなって小声で返すと、エドは意表を突かれたような顔をした。
「え、最初にそれが来る?」
その反応に、ウィルのほうがかえって驚いた。
「そんなに意外? 自分ではどこだと思ってたの?」
「いや、自分で言うのも何だが、てっきり顔だと」
何のためらいもなくエドは言いきった。他の人間だったら事実であっても腹が立つが、エドだとまったく気に障らないのが我ながら不思議だ。
「まあ、顔も好きだけど……それより、声のほうが好きかな」
「声?」
ウィルの好きなその声で、エドは先ほどよりも意外そうに問い返してきた。
「うん。エドの声、声質が俺にはとても心地いいんだ。絶妙な低さでよく響いて、いつまでも聞いていたくなる。もしエドが学校の先生だったら、きっと毎回授業中寝てた」
「何でも訊いてみるもんだな。おまえが俺の声をそんなに気に入ってたとは知らなかった。あとは? もうないか?」
少し考えてみてから、ウィルはふてくされたふうに答えた。
「気に入らないところがない」
「いいね。最高の褒め言葉だ」
エドは嬉しそうに目を細めると、ウィルの耳に口を寄せた。
「じゃあ、おまえが大好きなこの声で言ってやろう。――愛してるよ、ウィル」
意識して出された魅惑的な声に、うっとりとして目を閉じる。その隙を突くように、エドはウィル好みの声を紡ぐ唇を、今度はウィルの唇を塞ぐことに使用した。ウィルは目を開きかけたが、苦笑してエドの不正転用に文字どおり目をつぶった。
こんなにも抵抗なく、男とキスができるとは思わなかった。
本当に、自分はこの男のことが好きなのだ。心だけでなく、この体も。
夢中で互いの口を貪りあった。が、ふと我に返ると、レジャーシートの上に押し倒されていて、上着ごとシャツを脱がされかけていた。さすがにあせってエドの胸を叩くと、すぐに彼は中断してくれた。
「どうした? もうギブアップか?」
エドにからかわれて、すでに上気していたウィルの顔がさらに赤くなった。
「プロレスじゃないんだから……今日は初デートじゃなかったの?」
「だから今してるだろ。もう手もつないだし、キスもしたし、残るは一つだけだ」
悪びれないエドの返答を聞いて、ウィルは思わず叫んでしまった。
「エド、途中省略しすぎ!」
「そういうデートなら、今までさんざんしてきただろ。無駄は省こう無駄は」
「初めからそのつもりだったんなら、なんでここに呼び出したんだよ?」
何だか騙されたような気分になって、唾液で濡れた唇をとがらせる。
男同士の性行為では何をどうするか、おぼろげながら知ってはいたし、恋人になることを承諾した時点で、いつかはそういうこともするようになるだろうと覚悟もしていた。でも、今夜は呼び出された場所が、ブリッジや医務室ではなく、草木しかないこのエデンだったから、キスはされたとしてもそれ以上はないだろうと、すっかり油断していたのだった。
「俺はけっこう、最初を重視するタイプなんだ」
憤るウィルをなだめるように、エドは彼の髪を撫でた。
「おまえの口にキスするのも、それ以上のことをするのも、絶対ここでと思ってた」
「どうして?」
「たとえ偽物でも、ここは〝エデン〟だから」
目を見張っているウィルの額に、エドは触れるだけのキスを落とした。
「この軍艦の中で何かを始めるのに、ここほどふさわしい場所はないだろ」
こらえきれずに、自分からエドの首に抱きつく。エドはそのままの体勢で、ウィルの耳許に囁いた。
「〝知恵の木〟はなくてよかったな。食べる実がなければ、ここから追放されない」
「エドって、実はロマンチストだったんだ」
「おまえはクッキーなんか作るくせに、わりとリアリストだよな」
「クッキーとロマンは関係ないだろ」
ついむっとして言い返すと、エドは笑ってウィルの首筋に唇を這わせた。
「そういうとこが、リアリストだ」
エドの舌が首から胸へと下りていって、シャツの下に隠れていた乳首を探り出した。
舌先でねぶられて強く吸われたとき、ウィルはたまらず声を上げた。
「続きはベッドの上でするか? リアリスト」
最後に軽く歯を立ててから、エドは意地の悪い笑顔をウィルに向けた。
「アダムとイブの時代には、そんなものはなかっただろ?」
潤んだ目でエドを睨みつける。エドは驚いたようにウィルを見つめ返した。
「このままここで続けるよ……最後まで」
低く口笛を吹いてから、エドはにやりと笑った。
「言うなあ、おまえ。今のでさらに惚れ直した。それじゃあ、遠慮なく続けさせてもらうよ」
エドはウィルを抱き起こすと、上着ごとシャツを脱がせて上半身を裸にした。それから再びシートの上に押し倒し、今度は靴と靴下を脱がせはじめる。
「何で靴……」
脱がせる順番が違うような気がして、つい口に上らせると、エドは上機嫌でウィルを見下ろした。
「だって、靴履いてると、脱がしにくいだろ?」
何が? と訊き返すまでもなかった。
ウィルのベルトを外したエドは、ズボンのファスナーを下げたかと思うと、あっというまに下着ごと脱がしてしまった。
(早っ!)
いま自分が全裸であることも忘れて呆けていると、その表情だけで何を考えているのかわかったのか、エドはにやにやしてウィルの腰骨を撫でた。
「身ぐるみ剥がすのは得意なんだ。おまえがパジャマ着てくれば、もっと短時間でできたのに」
「そんな盗賊みたいなこと自慢して……エドはロマンチストかもしれないけど、デリカシーは欠けてるよね」
またパジャマのことを言われて腹立ちまぎれに切り返すと、なぜかエドは笑うのをやめ、まじまじとウィルを見た。
「な、何?」
ちょっと言いすぎたかなと焦り出したとき、エドはにやっと口角を上げて覆いかぶさってきた。
「ウィル。おまえ、時々鋭いとこ突くよな」
「今のどこが?」
「ん? デリカシーは欠けてるってとこが」
言い様、エドはウィルの唇を塞いで、それ以上の悪態をつけないようにした。
話す言葉はデリカシーに欠けていても、舌と指は別物だった。たちまち息が乱れて、まだ服を着たままのエドにすがりつく。と、エドがすでに立ち上がりはじめていたウィルのものに手を伸ばし、愛おしむように扱き出した。ウィルは狼狽したが、エドの大きな手によって与えられる強烈な快感を拒むことは、どうしてもできなかった。
「エド……駄目、出ちゃう……」
半泣きになりながら訴えると、エドはウィルを擦る手は休めずに、もう一方の手をレジャーシートの下に入れて、白いタオルを取り出した。
そのタオルでもう限界寸前のウィルのものを覆ってから、あの低い声で優しく囁く。
「ほら。もういつでもいっていいぞ」
それが合図のようにウィルは達して、エドの手を震わせた。
(何で、あんなところにタオルが……)
そうは思ったが、射精直後で口を動かすのもままならない。その間にエドが萎えたウィルのものを扱いて、後始末を済ませていた。
「……何で……」
ようやく呼吸が落ち着いてきてから、真っ先にこう訊ねた。
「何で……エドは服、脱がないの……?」
「俺が服を脱いでる間に、おまえに逃げられそうな気がしたから」
靴を脱ぎながら、おどけたようにエドは答えた。
「逃げるって……今さら……」
「今だからそう言えるんだよ。現に今、体に力が入らなくて、ろくに動けずにいるだろ?」
「それはまあ、そうだけど……」
――だったら、自分を動けないようにするために、服を剥ぎとって先にいかせたのか?
ロマンチストかもしれないが、やり口はテロリストじゃないかとウィルが不信感を募らせているうちに、エドはさっさとシャツを脱ぎ捨て、腰を下ろしたまま、ズボンも下着も靴下も器用に脱ぎ去った。
「そら、ご希望どおり、俺も服を脱ぎましたよ。ご期待に添えておりますか?」
全裸になったエドは、ウィルの傍らに腕をついて、にやつきながら彼を見下ろした。
(うう……悔しいけど、服を脱いでも、やっぱり格好いい……)
人工の月の光を浴びた男の体には、贅肉というものがまるでなかった。細身だが鍛えぬかれた筋肉に、つい目を奪われてしまう。
「さっそくで悪いが、ウィル」
エドは急に真面目な顔になって、彼に見とれてしまっているウィルを正気に戻した。
「俺が入れてもいいか?」
「え?」
意味がわからず、ウィルは首をかしげたが、はっと気づいて真っ赤になった。
「エドってほんとにデリカシーないね!」
「何だよ。最初だからおまえに選ばせてやろうと思ったのに。実は俺、さっきから一人我慢大会しててつらいんだよ。頼むから早く決めてくれ」
――我慢大会?
そのとき、今まで陰になって見えなかったエドの下半身が視界に入った。
ウィルは息を呑み、どちらも選ばないでおこうかと考えたが、つい先ほど、ここで最後まで続けると宣言してしまった。今さら取り消しはできない。
「いいよ!」
「まあ、おまえならそう言うだろうと思ってはいたけどな」
それなら最初から訊かなきゃいいのにとウィルが思ったときには、エドは彼の両足をつかんで左右に大きく広げ、その間に自分の体を入れていた。
(あれを、あそこに入れられるのか)
ウィルは身を固くしたが、エドはまたレジャーシートの下に手を伸ばすと、今度は小瓶と四角い小さなパックを持ち出してきた。
ひとまず小瓶をシートの上に置き、パックのほうを開封して、円形をした中身を取り出す。それを猛った己のものにあてがうと、慣れた手つきで装着した。
(あれって、コンドーム……?)
男の自分にどうして避妊具を使うのだろうとウィルが悩んでいる間に、エドは小瓶の中身を自分の手のひらの上に垂らし、その手をウィルの尻の間に差し入れた。考え事をしていた上に、その液体が冷たくて、ウィルは驚きの悲鳴を上げた。
「何だ。まだ何もしてないぞ」
からかうように笑ってから、ウィルの腰を少し上に持ち上げ、ぬるぬるとする液体を後孔を中心に塗りつける。と、その後孔をこじ開けるように少しずつ指を突き入れた。
「な、何してんの?」
ただでさえ恥ずかしい体勢をとらされている上に、さらに恥ずかしい場所に指を入れられて、ウィルは大いにあわてた。
「ほぐしてる。痛くないか?」
「い、痛くはないけど……恥ずかしい……」
それと、エドにはとても言えないが、排泄感に似たものがある。
だが、エドのあのきれいな指でそんなところをいじられているのかと思うと、関係ないはずの前がまた疼き出す。すでに一度いっているのに。
「エド……このシートの下には、あと何が隠されてるの……?」
気をまぎらわせようとしてそう訊ねると、エドはもう一本指を増やしてから答えた。
「あとはもうウェットティッシュくらいしかない。……ゴムは絶対あると思ってたが、まさかローションまであるとはな。最近の軍艦の医務室は気が利いてるな」
一人我慢大会をしていてつらいと言っていたわりに、エドの言動には余裕がある。かえってウィルのほうが再点火されてしまって、平静を保てなくなっていた。
「ローションはともかく……どうしてゴムを使うの? 俺、女じゃないのに……」
「男同士でもゴムは使うよ。理由は省略するが、俺が今使ってるのは、おまえに余計な負担はかけたくないから」
さらに指が増やされる。丁寧に慎重に押し広げられているから、決して痛くはない。しかし、気持ちいいかと訊かれたら肯定はしにくい。
それよりも、ぬちゃぬちゃという音のほうに煽られて、自分の前に手を伸ばしてしまいそうになる。
そこはいつのまにかまた立ち上がっていて、ウィルの腹を濡らしていた。
「もういいか」
三本まで増やしたところで、エドは指を引き抜き、ウィルの両膝を胸につくほど折り曲げた。
ひくつくウィルの後孔に、固く膨れあがった熱いものが押しあてられる。
「ウィル、入れるぞ。無理だと思ったらすぐに言え。そこでやめるから」
――できたら、今言いたい。
とっさにそう思ったが、今までずっとあの状態で我慢してきているエドに、そんなことが言えるはずもない。
「うん……」
覚悟を決めて目を閉じたとき、呼吸に合わせてエドが潜りこんできた。
「あっ」
侵入された瞬間は、確かに痛かった。
だが、一気に中ほどまで埋められると、その痛みは熱くて太い棒を突っこまれているような異物感に塗り替えられた。
「ウィル……痛くないか?」
静止したまま、エドが心配げに訊ねてくる。
ウィルは薄目を開けてエドを見たが、ちょうど逆光になって表情はよくわからなかった。
「うん……最初だけ、ちょっと痛かったけど……今は大丈夫……」
だから早く動いてほしいと思うと、まるでそれが体を通して伝わったかのように、エドが腰を動かしはじめた。
「あっ、やっ、あ、あ、あ……」
突き上げられるたびに、内臓を押し上げられるような心地がする。
しかし、それと同時に、自分では擦れない場所を擦られて、あられもない声を上げてしまう。
ウィルは無意識のうちに自分の膝裏をつかみ、自ら大きく足を広げた。
しだいに荒くなる息遣いに交じって聞こえる、体のぶつかる音と卑猥な水音。後孔だけでなく耳も犯されているようだ。
その音に操られたように自分のものを右手で握りしめ、揺さぶられながら激しく扱く。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
エドの抽挿が速さを増してきた。ウィルの手の中にあるものも、もう限界を訴えている。
(初めてだから、一緒にいきたい)
そう思ったが、皮肉なことに、すでに一度いかされているウィルのほうが先に絶頂を迎えてしまいそうだった。
「エ、エド……」
助けを求めるように名前を呼ぶと、エドは下半身は動かしつづけたまま、先ほど使って置きっぱなしにしていたタオルを引き寄せ、ウィルをそっと包みこんだ。
だが、それが刺激になってしまったのか、ウィルはタオルの中で再び吐精した。それに誘発されたように、ウィルの中のエドも弾ける。
「ウィル……大丈夫か?」
ウィルの呼吸が落ち着いた頃、エドが気遣うように声をかけてきた。
「余裕なくて、がっついちまって悪かった……」
だが、ウィルはそれには答えずに両腕を伸ばし、汗で濡れている逞しい胸に抱きついた。
「ウィル?」
エドは驚いたようだったが、黙ってウィルを抱きしめ返してくれた。
ウィルの中で、まだエドが激しく脈打っている。
ウィルとは違うリズムで脈動している。
若干デリカシーに欠けているところもあるが、体臭さえも自分好みなこの男が、ウィルの恋人なのだ。
(でも、俺たち男同士だから、ここから追放されたりしないかな?)
ふとそんな不安に駆られてから、ウィルは我に返って自嘲した。
いったい、誰が自分たちをここから追放することなどできるのか。
この世界に、神はいない。
いたのは、MACだけ。
幸いなことに、レオは自分の寝床の中で、そのまま眠りつづけていてくれた。
ただエドに会いにいくだけなのに、どうしてこんなにレオに対して後ろめたく思ってしまうのだろう。理由はわからなかったが、とにかくウィルは照明を消して、自分の部屋を出た。
ウィルの自室からエデンまでは、普通に歩いていくと五分ほどかかる。絶対に遅刻したくなかった彼は、早めに自室を出て、エデンの自動ドアの前で約束の時刻――〇時になるのを待つことにしたのだった。
食事以外の目的で、エドと時間を決めて待ち合わせるのは、実はこれが初めてだ。いつもならこれくらいの時間になると眠気に襲われているのに、今日は昼寝という名のふて寝をしたせいか、レオとはまったく正反対に目が冴えて仕方がない。
(明らかに浮かれてるよな、俺)
自覚はあったが、感情は抑えられない。
たとえ自分と同じ男でも、もぐりの運び屋をしていても、それ以外の過去は話してくれなくても、それでもエドが好きなのだ。
ウィルがエドを好きな理由の一つに、レオをウィルの単なるペットとしてではなく、相棒として認めてくれているというのもあるかもしれない。
レオも、かつての乗組員たちに対するほど、エドのことは敵視していないようだ。決して仲がいいとは言えないが、ちゃんとエドを案内してきてくれたし、ハシゴがわりにしたとはいえ、エドの体にも触れていた。レオが自分からウィル以外の人間に触れたのは、あれが初めてだったのではないだろうか。
そんなことを考えながら、足どり軽く通路を歩いていたら、あっというまにエデンの自動ドアの前に着いてしまった。
腕時計を見てみれば、二十三時五十四分と、実に中途半端な時刻になっていた。
(エドはもう来てるのかな)
中に入って確認したかったが、もしかしたら〇時ぴったりに来るつもりなのかもしれない。ウィルは最初の予定どおり、自動ドアの横の壁の前で、約束の時間になるまで待つことにした。
たった六分間が、これほど長く感じられたことはない。
だが、これほど幸福感に満ちた六分間もなかった。
最後の一分間は、腕時計を見ながら秒読みをした。
(……五、四、三、二、一、〇!)
結局、エドは姿を現さなかった。
ということは、もうエデンの中にいる。
あの男がウィルとした約束を破ったことは一度もない。この軍艦の支配権をMACから奪うと言って、本当に奪って帰ってきてくれた。
突然声をかけられても驚かないように、心の準備をしてから認証装置に右手を置き、エデンの自動ドアを開ける。
「十秒の遅刻」
あれほど気構えていたのに、やはり驚かされて、二、三歩退いてしまった。
エドは自動ドアのすぐ横の壁に背中を預け、腕組みをして立っていた。
「まだ〇時から一分経ってないんだから、遅刻にはならないと思うんだけど」
一応そう弁明すると、エドは苦笑いして右手をウィルに差し出した。
「まあ、そういうことにしておこう。……ベンチに座るのと、〝生命の木〟の下に座るのとどっちがいい?」
一瞬とまどったが、ウィルはエドの手を両手で握って答えた。
やはり、温かくて大きい。おまけに、自分よりも手触りもいい。
「〝生命の木〟の下」
「そう言うと思ったよ。おまえ好きだよな、あそこ」
呆れたように笑いつつも、エドはウィルを引っ張るようにして歩きはじめた。
ウィルが夜のエデンを訪れたのは、今夜が初めてではない。ただし、夜間の立ち入りは禁止されていため、それは乗組員がウィル一人となり、誰も彼を罰することができなくなってからのことだ。かつては今夜のウィルたちのようなことをしようとした者たちもいたが、あの自動ドアを開けた時点ですぐに警備部にバレてしまい、即刻連行されて厳重注意を受けていた。
夜には誰も入れないことになっていたはずなのに、暗くされた空にはちゃんと星々が瞬いていて、日ごとに満ち欠けをする月が、時間に合わせて移動していた。初めてそれらを目にした日には、ウィルはレオを抱いたまま、夜が明けるまで一睡もできなかった。
植物以外はすべて作り物だとわかっていても、この空間は自分が宇宙船の中に一人きりでいることを、いつも忘れさせてくれた。
でも、今は本当に一人ではない。それを再確認するように、ウィルはエドの手を強く握った。
普通の公園だったら、街灯や夜間照明があるのだが、エデンの夜の光源は、人工の月と星だけだ。
だが、今夜はちょうど満月だった。エドの広い背中も足元もよく見える。〝生命の木〟の下に敷かれているものも。
「ほら、おまえの大好きなレジャーシートだ」
エドはそう茶化すと、今日の昼食のときに広げていた赤いレジャーシートを、ウィルにつかまれていない左手で指し示した。
「きっとこっちに座りたいと言うだろうと思って、事前に用意しておきました」
「別に俺、レジャーシートが好きなわけじゃないから」
口では怒ったように言ったが、この男のこういう気の利き方は、正直言って大好きだ。
「まあまあ、とにかく座れ。時間がもったいない」
エドはウィルに握られたままの右手をダンスでもするように動かして彼を座らせると、その隣に自分も腰を下ろした。
「エドは何時にここに来たの?」
肩が触れあうほど接近されて、ウィルは内心どきどきしながら目を合わせずに訊ねた。つないだままの手は、彼にとってはむしろ安心材料なのだった。
「そうだな。少なくともおまえより前には来てたな。それよりウィル。どうしてパジャマ着てこなかったんだ? シャワーは浴びてきたんだろ?」
突然とんでもないことを言い出されて、ウィルはエドを振り返った。
「シャワーは浴びたけど、パジャマで来るわけないだろ! 自室の外は全部公共空間ってことになってるんだから!」
むきになって主張するウィルを、エドは面白そうに笑って眺めていた。
「ここには俺たち二人しかいないのに、おまえ、妙なところで堅いよな」
「そういうエドだって、パジャマじゃないじゃない」
「俺は寝るとき素っ裸だから」
「え?」
「というのは冗談で、いつ何があってもいいように、服は着たまま寝てるんだよ。何しろ新品の在庫はいくらでもあるからな。その気になれば、軍人のコスプレもできる」
想像したウィルは、つい口に出してしまった。
「エド、とっても似合いそう」
「おまえも着てみるか? 女子用もあったぞ」
「エド、それも着るの?」
エドは眉をひそめてウィルを見やる。
「それ、本気で言ってないよな?」
「半分本気。半分怒気」
「悪かった。冗談だ。俺はおまえを女がわりにしようなんて思ってないよ」
ばつが悪そうにエドは笑うと、自分の右手ごとウィルの手を引き寄せ、その手の甲にうやうやしく口づけた。
(でも、女扱いはされてるような気がする……)
そう思いながらも、決して悪い気はしない。
そもそも、ウィルは年上に甘やかされるのが好きなのだ。しかし、本人はそのことをまるで自覚していない。
「なあ、ウィル。ひとつ訊いてもいいか?」
唇を離した後、急にエドが真顔になって切り出した。
「な、何?」
「おまえ、最初から俺のことは好きだって言ってたよな? 具体的にどこが好きだ?」
ウィルはあっけにとられて、すぐには何も言えなかった。
「具体的にどこって……今さらどうしてそんなこと訊くの?」
「おまえだって、俺に自分のどこを好きになったのかって訊いてきただろうが。同じように俺も気になってたんだよ。いったいどこがよかったんだ?」
ウィルを困らせたいのか、本気で知りたいと思っているのか。少なくとも、エドの表情は真剣だ。
「どこがって訊かれても、すぐには出てこないけど……とりあえず、俺より頭がいいとこ」
赤くなって小声で返すと、エドは意表を突かれたような顔をした。
「え、最初にそれが来る?」
その反応に、ウィルのほうがかえって驚いた。
「そんなに意外? 自分ではどこだと思ってたの?」
「いや、自分で言うのも何だが、てっきり顔だと」
何のためらいもなくエドは言いきった。他の人間だったら事実であっても腹が立つが、エドだとまったく気に障らないのが我ながら不思議だ。
「まあ、顔も好きだけど……それより、声のほうが好きかな」
「声?」
ウィルの好きなその声で、エドは先ほどよりも意外そうに問い返してきた。
「うん。エドの声、声質が俺にはとても心地いいんだ。絶妙な低さでよく響いて、いつまでも聞いていたくなる。もしエドが学校の先生だったら、きっと毎回授業中寝てた」
「何でも訊いてみるもんだな。おまえが俺の声をそんなに気に入ってたとは知らなかった。あとは? もうないか?」
少し考えてみてから、ウィルはふてくされたふうに答えた。
「気に入らないところがない」
「いいね。最高の褒め言葉だ」
エドは嬉しそうに目を細めると、ウィルの耳に口を寄せた。
「じゃあ、おまえが大好きなこの声で言ってやろう。――愛してるよ、ウィル」
意識して出された魅惑的な声に、うっとりとして目を閉じる。その隙を突くように、エドはウィル好みの声を紡ぐ唇を、今度はウィルの唇を塞ぐことに使用した。ウィルは目を開きかけたが、苦笑してエドの不正転用に文字どおり目をつぶった。
こんなにも抵抗なく、男とキスができるとは思わなかった。
本当に、自分はこの男のことが好きなのだ。心だけでなく、この体も。
夢中で互いの口を貪りあった。が、ふと我に返ると、レジャーシートの上に押し倒されていて、上着ごとシャツを脱がされかけていた。さすがにあせってエドの胸を叩くと、すぐに彼は中断してくれた。
「どうした? もうギブアップか?」
エドにからかわれて、すでに上気していたウィルの顔がさらに赤くなった。
「プロレスじゃないんだから……今日は初デートじゃなかったの?」
「だから今してるだろ。もう手もつないだし、キスもしたし、残るは一つだけだ」
悪びれないエドの返答を聞いて、ウィルは思わず叫んでしまった。
「エド、途中省略しすぎ!」
「そういうデートなら、今までさんざんしてきただろ。無駄は省こう無駄は」
「初めからそのつもりだったんなら、なんでここに呼び出したんだよ?」
何だか騙されたような気分になって、唾液で濡れた唇をとがらせる。
男同士の性行為では何をどうするか、おぼろげながら知ってはいたし、恋人になることを承諾した時点で、いつかはそういうこともするようになるだろうと覚悟もしていた。でも、今夜は呼び出された場所が、ブリッジや医務室ではなく、草木しかないこのエデンだったから、キスはされたとしてもそれ以上はないだろうと、すっかり油断していたのだった。
「俺はけっこう、最初を重視するタイプなんだ」
憤るウィルをなだめるように、エドは彼の髪を撫でた。
「おまえの口にキスするのも、それ以上のことをするのも、絶対ここでと思ってた」
「どうして?」
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ついむっとして言い返すと、エドは笑ってウィルの首筋に唇を這わせた。
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エドの舌が首から胸へと下りていって、シャツの下に隠れていた乳首を探り出した。
舌先でねぶられて強く吸われたとき、ウィルはたまらず声を上げた。
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最後に軽く歯を立ててから、エドは意地の悪い笑顔をウィルに向けた。
「アダムとイブの時代には、そんなものはなかっただろ?」
潤んだ目でエドを睨みつける。エドは驚いたようにウィルを見つめ返した。
「このままここで続けるよ……最後まで」
低く口笛を吹いてから、エドはにやりと笑った。
「言うなあ、おまえ。今のでさらに惚れ直した。それじゃあ、遠慮なく続けさせてもらうよ」
エドはウィルを抱き起こすと、上着ごとシャツを脱がせて上半身を裸にした。それから再びシートの上に押し倒し、今度は靴と靴下を脱がせはじめる。
「何で靴……」
脱がせる順番が違うような気がして、つい口に上らせると、エドは上機嫌でウィルを見下ろした。
「だって、靴履いてると、脱がしにくいだろ?」
何が? と訊き返すまでもなかった。
ウィルのベルトを外したエドは、ズボンのファスナーを下げたかと思うと、あっというまに下着ごと脱がしてしまった。
(早っ!)
いま自分が全裸であることも忘れて呆けていると、その表情だけで何を考えているのかわかったのか、エドはにやにやしてウィルの腰骨を撫でた。
「身ぐるみ剥がすのは得意なんだ。おまえがパジャマ着てくれば、もっと短時間でできたのに」
「そんな盗賊みたいなこと自慢して……エドはロマンチストかもしれないけど、デリカシーは欠けてるよね」
またパジャマのことを言われて腹立ちまぎれに切り返すと、なぜかエドは笑うのをやめ、まじまじとウィルを見た。
「な、何?」
ちょっと言いすぎたかなと焦り出したとき、エドはにやっと口角を上げて覆いかぶさってきた。
「ウィル。おまえ、時々鋭いとこ突くよな」
「今のどこが?」
「ん? デリカシーは欠けてるってとこが」
言い様、エドはウィルの唇を塞いで、それ以上の悪態をつけないようにした。
話す言葉はデリカシーに欠けていても、舌と指は別物だった。たちまち息が乱れて、まだ服を着たままのエドにすがりつく。と、エドがすでに立ち上がりはじめていたウィルのものに手を伸ばし、愛おしむように扱き出した。ウィルは狼狽したが、エドの大きな手によって与えられる強烈な快感を拒むことは、どうしてもできなかった。
「エド……駄目、出ちゃう……」
半泣きになりながら訴えると、エドはウィルを擦る手は休めずに、もう一方の手をレジャーシートの下に入れて、白いタオルを取り出した。
そのタオルでもう限界寸前のウィルのものを覆ってから、あの低い声で優しく囁く。
「ほら。もういつでもいっていいぞ」
それが合図のようにウィルは達して、エドの手を震わせた。
(何で、あんなところにタオルが……)
そうは思ったが、射精直後で口を動かすのもままならない。その間にエドが萎えたウィルのものを扱いて、後始末を済ませていた。
「……何で……」
ようやく呼吸が落ち着いてきてから、真っ先にこう訊ねた。
「何で……エドは服、脱がないの……?」
「俺が服を脱いでる間に、おまえに逃げられそうな気がしたから」
靴を脱ぎながら、おどけたようにエドは答えた。
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「今だからそう言えるんだよ。現に今、体に力が入らなくて、ろくに動けずにいるだろ?」
「それはまあ、そうだけど……」
――だったら、自分を動けないようにするために、服を剥ぎとって先にいかせたのか?
ロマンチストかもしれないが、やり口はテロリストじゃないかとウィルが不信感を募らせているうちに、エドはさっさとシャツを脱ぎ捨て、腰を下ろしたまま、ズボンも下着も靴下も器用に脱ぎ去った。
「そら、ご希望どおり、俺も服を脱ぎましたよ。ご期待に添えておりますか?」
全裸になったエドは、ウィルの傍らに腕をついて、にやつきながら彼を見下ろした。
(うう……悔しいけど、服を脱いでも、やっぱり格好いい……)
人工の月の光を浴びた男の体には、贅肉というものがまるでなかった。細身だが鍛えぬかれた筋肉に、つい目を奪われてしまう。
「さっそくで悪いが、ウィル」
エドは急に真面目な顔になって、彼に見とれてしまっているウィルを正気に戻した。
「俺が入れてもいいか?」
「え?」
意味がわからず、ウィルは首をかしげたが、はっと気づいて真っ赤になった。
「エドってほんとにデリカシーないね!」
「何だよ。最初だからおまえに選ばせてやろうと思ったのに。実は俺、さっきから一人我慢大会しててつらいんだよ。頼むから早く決めてくれ」
――我慢大会?
そのとき、今まで陰になって見えなかったエドの下半身が視界に入った。
ウィルは息を呑み、どちらも選ばないでおこうかと考えたが、つい先ほど、ここで最後まで続けると宣言してしまった。今さら取り消しはできない。
「いいよ!」
「まあ、おまえならそう言うだろうと思ってはいたけどな」
それなら最初から訊かなきゃいいのにとウィルが思ったときには、エドは彼の両足をつかんで左右に大きく広げ、その間に自分の体を入れていた。
(あれを、あそこに入れられるのか)
ウィルは身を固くしたが、エドはまたレジャーシートの下に手を伸ばすと、今度は小瓶と四角い小さなパックを持ち出してきた。
ひとまず小瓶をシートの上に置き、パックのほうを開封して、円形をした中身を取り出す。それを猛った己のものにあてがうと、慣れた手つきで装着した。
(あれって、コンドーム……?)
男の自分にどうして避妊具を使うのだろうとウィルが悩んでいる間に、エドは小瓶の中身を自分の手のひらの上に垂らし、その手をウィルの尻の間に差し入れた。考え事をしていた上に、その液体が冷たくて、ウィルは驚きの悲鳴を上げた。
「何だ。まだ何もしてないぞ」
からかうように笑ってから、ウィルの腰を少し上に持ち上げ、ぬるぬるとする液体を後孔を中心に塗りつける。と、その後孔をこじ開けるように少しずつ指を突き入れた。
「な、何してんの?」
ただでさえ恥ずかしい体勢をとらされている上に、さらに恥ずかしい場所に指を入れられて、ウィルは大いにあわてた。
「ほぐしてる。痛くないか?」
「い、痛くはないけど……恥ずかしい……」
それと、エドにはとても言えないが、排泄感に似たものがある。
だが、エドのあのきれいな指でそんなところをいじられているのかと思うと、関係ないはずの前がまた疼き出す。すでに一度いっているのに。
「エド……このシートの下には、あと何が隠されてるの……?」
気をまぎらわせようとしてそう訊ねると、エドはもう一本指を増やしてから答えた。
「あとはもうウェットティッシュくらいしかない。……ゴムは絶対あると思ってたが、まさかローションまであるとはな。最近の軍艦の医務室は気が利いてるな」
一人我慢大会をしていてつらいと言っていたわりに、エドの言動には余裕がある。かえってウィルのほうが再点火されてしまって、平静を保てなくなっていた。
「ローションはともかく……どうしてゴムを使うの? 俺、女じゃないのに……」
「男同士でもゴムは使うよ。理由は省略するが、俺が今使ってるのは、おまえに余計な負担はかけたくないから」
さらに指が増やされる。丁寧に慎重に押し広げられているから、決して痛くはない。しかし、気持ちいいかと訊かれたら肯定はしにくい。
それよりも、ぬちゃぬちゃという音のほうに煽られて、自分の前に手を伸ばしてしまいそうになる。
そこはいつのまにかまた立ち上がっていて、ウィルの腹を濡らしていた。
「もういいか」
三本まで増やしたところで、エドは指を引き抜き、ウィルの両膝を胸につくほど折り曲げた。
ひくつくウィルの後孔に、固く膨れあがった熱いものが押しあてられる。
「ウィル、入れるぞ。無理だと思ったらすぐに言え。そこでやめるから」
――できたら、今言いたい。
とっさにそう思ったが、今までずっとあの状態で我慢してきているエドに、そんなことが言えるはずもない。
「うん……」
覚悟を決めて目を閉じたとき、呼吸に合わせてエドが潜りこんできた。
「あっ」
侵入された瞬間は、確かに痛かった。
だが、一気に中ほどまで埋められると、その痛みは熱くて太い棒を突っこまれているような異物感に塗り替えられた。
「ウィル……痛くないか?」
静止したまま、エドが心配げに訊ねてくる。
ウィルは薄目を開けてエドを見たが、ちょうど逆光になって表情はよくわからなかった。
「うん……最初だけ、ちょっと痛かったけど……今は大丈夫……」
だから早く動いてほしいと思うと、まるでそれが体を通して伝わったかのように、エドが腰を動かしはじめた。
「あっ、やっ、あ、あ、あ……」
突き上げられるたびに、内臓を押し上げられるような心地がする。
しかし、それと同時に、自分では擦れない場所を擦られて、あられもない声を上げてしまう。
ウィルは無意識のうちに自分の膝裏をつかみ、自ら大きく足を広げた。
しだいに荒くなる息遣いに交じって聞こえる、体のぶつかる音と卑猥な水音。後孔だけでなく耳も犯されているようだ。
その音に操られたように自分のものを右手で握りしめ、揺さぶられながら激しく扱く。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
エドの抽挿が速さを増してきた。ウィルの手の中にあるものも、もう限界を訴えている。
(初めてだから、一緒にいきたい)
そう思ったが、皮肉なことに、すでに一度いかされているウィルのほうが先に絶頂を迎えてしまいそうだった。
「エ、エド……」
助けを求めるように名前を呼ぶと、エドは下半身は動かしつづけたまま、先ほど使って置きっぱなしにしていたタオルを引き寄せ、ウィルをそっと包みこんだ。
だが、それが刺激になってしまったのか、ウィルはタオルの中で再び吐精した。それに誘発されたように、ウィルの中のエドも弾ける。
「ウィル……大丈夫か?」
ウィルの呼吸が落ち着いた頃、エドが気遣うように声をかけてきた。
「余裕なくて、がっついちまって悪かった……」
だが、ウィルはそれには答えずに両腕を伸ばし、汗で濡れている逞しい胸に抱きついた。
「ウィル?」
エドは驚いたようだったが、黙ってウィルを抱きしめ返してくれた。
ウィルの中で、まだエドが激しく脈打っている。
ウィルとは違うリズムで脈動している。
若干デリカシーに欠けているところもあるが、体臭さえも自分好みなこの男が、ウィルの恋人なのだ。
(でも、俺たち男同士だから、ここから追放されたりしないかな?)
ふとそんな不安に駆られてから、ウィルは我に返って自嘲した。
いったい、誰が自分たちをここから追放することなどできるのか。
この世界に、神はいない。
いたのは、MACだけ。
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