自惚

喜多ミナミ

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17才、夏。(1)

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 「もしかして、俺のこと?」
なんだこの、すごい自信。
「まぁ、たしかに。そっくりかも。」
そう言って、スマホの画面に映る変顔をしたお笑い芸人の写真を見せた。
「えぇ?!俺、竹内涼真に似てるって言われるのに。てか、タイプって聞こえたけどこの人が?!」
「全然似てないし、色々失礼!」
そもそも私たちの会話を聞いて勝手に自分のことだと勘違いしたくせに何を言っているのか。
似ていないと否定したはずなのに、その後も昔言われたそっくりさんエピソードを永遠に話している。

 彼、 日渚瀬 将ひなせ まさると話すようになったのは、高校二年生になって少し経った頃、今からほんの一カ月前だ。クラスメイトの 和田 光陽わだ こうようと勉強会をする際、「友達も来るってよ。」とのことで紹介されたのがきっかけだ。今ではこの"勉強会"(という名の雑談会に近いが)が私の楽しみだ。
今からが夏だというのに既にこんがりしている肌、純粋さが滲み出ている瞳、存在感のある整った鼻。お日様のような人だと思った。彼が笑うと勝手に口角が上がった。これは少し経って気づいたが、つられてしまうのは私だけではなかった。人懐っこい性格でそこにいるだけで場は明るかったし、戯けているようで責任感のある彼は輪の中心にいた。彼を知り、一カ月経った今もやっぱり、お日様のような人だと思う。

 まるで漫画の主人公。そう思った人も多いだろう。そうなのだ。だから、そこそこ目立っていたはずなのだ。実際、私の周りも彼のことを仲良くはなくても知ってはいたし、友人のさっちゃん、こと藤井 咲幸ふじい さゆきは同じ中学だった。さらに、私はバスケ部に所属しており、彼もまた同じくバスケ部だ。そう、一年生の頃からずっと、隣で毎日同じ競技に励んでいたのだ。いつかの会話で、
「一年生の頃から、俺プレー目立ってたでしょ?」
とふざけた調子で聞かれたもんだから、困った。言い訳がましいが事実として、あくまで自分は部活に集中していたことを強調して、
「見てない。知らなかったもん。」
と答えた。彼は凄くショックを受けていた。しかも、私のことは一年生の頃から知ってくれていたらしく、流石に申し訳なくて
「ごめんね、私ちょっと情報に疎いのかも?」
とだけ誤魔化した。
本当は違った。私、 中城 結なかじょう ゆいの悩みのひとつ。他人に興味が持てない。友達も少ない方ではないと思う。けれど、思春期特有のいざこざやらで相手が離れていけばそれまでだったし、かといって苦手な人とでも話しかけてくれれば、仲のいい友人にする対応と同じにできた。中学時代だって彼氏はいた。けれど、自分から興味を持っていたわけではなく、嫌いじゃないから付き合った。世の中の恋人なんてそんなもんだろうと思っていたが、次第に自分は相手と同じ熱量の気持ちを持っていないことに罪悪感を感じて別れた。最低野郎なのだ。でもどうすることもできなかったし、今でも解決策は分かっていない。

 定期考査まであと1週間程。勉強会のあとも自宅で勉強するようになった。面倒くさい。だが、この時期の成績は進路に大きく関わる。そろそろ寝ようかなんて考えていたところ、光陽から電話がきた。
「もしもし、何してた?」
「寝ようかなぁってところ。どうしたの?」
「そっか、なら良かった。息抜きにかけてみた。」
「暇人と思ってるでしょ。実際そうだけど。」
そうだ、丁度いい。
「ねぇ、光陽。好きな人っている?」
「なんだ急に。そうだな。いない、かな。」
「じゃあさ、今まで好きな人ってできたことある?」
「そりゃあるよ。あ、誰とか言っても中城の知らない人だよ」
「それは誰でもいいよ。そんなことより、どうやって好きになったの?」
「どうやって?んー、そうだな。良いなと思うことが重なって気づいたら、とか?」
なんだ、ありきたりだ。大体これだ。私が気になるのはその、気づく瞬間なのだ。
「そんなの分かるかよ、人それぞれじゃない?」
光陽はそう言って半分呆れてる。よし、今日のところは諦めよう。その後は全く違う話題で盛り上がって、電話を切った。眠りにつくギリギリまで考え込んでいたせいで、自宅で勉強した内容のほとんどは忘れてしまっていた。
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