自惚

喜多ミナミ

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17才、夏。(2)

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 定期考査前日。定期考査が終われば、部活が再開するし、勉強会もなくなる。部活をしている期間の方が長いはずなのに、なんだかもう遠い昔のような、当たり前だったはずのことが非日常に感じた。私たちはこの短期間でぐっと距離が縮まっていた。勉強会がなくなれば、こうして3人で他愛もない会話をだらだらとすることもなくなるのだろうか。
「結ちゃん、そんなに難しい問題ある?」
あぁ、違う。違うけれど集中していないと思われるのも嫌で、
「んん、英語苦手でね。」
なんて咄嗟に取り繕った。

"結ちゃん"。
彼はそう呼ぶ。なんて呼べばいいかなんて聞かれたわけでもなく、呼んでほしいと言ったわけでもなく、最初からそうだった。そんな呼び方をする男の人は、二つ下の弟が小さい頃に言っていたくらいで、はじめは自分だと認識するのに時間がかかったが、今はもう私は"結ちゃん"だ。
「将くん英語得意でしょ。教えてよ。」
だから私もなんとなく、"将くん"だ。
「まぁな、頭良いんだよ俺。どうしてもって言うなら教えてあげてもいいけど?」
にやにやしながら聞いてくる。ちなみにさっき咄嗟に出た言葉だが、私は本当に英語が苦手だ。
「しょうがないから教わってあげてもいいよ。」
負けじと返した私の言葉に将くんは、ムカつくわぁなんて言いながら自分の持っていたペンを置いて私の方に向き合った。
あ、ペン。同じの使ってる。私がそのことに気づく前に将くんが先に
「お、一緒じゃん。これ良いよな、この横のカチってなる部分好きなんだよ。」
なんて熱く語りだした。でも、わかる。その横のカチってなる部分。
なんだよ、真似すんなよなぁなんて言いながらカチカチ鳴らしている。将くんの癖だ。楽しいことがあれば平気で脱線してなかなか戻ってこない。厄介なのはそれが毎回心の底から楽しそうなのだ。そして結構、ハマると長い。
流石に隣で黙々と勉強していた光陽が、顔を上げて諦めたように笑って
「2人とも明日からテストってこと忘れてるだろ。俺は今日は先に帰って追い込むよ。」
と言った。あぁ2人とも、なんだ。
「待てよ!俺らも帰るよ!あ、結ちゃん英語結局全然できてないな。」
「いいよ、全然。家に帰ってぼちぼち頑張るから帰ろう。」
そう言ってその日の勉強会はお開きした。

そんなことは言いつつ、家に帰ってもやる気は起きず、ぼちぼちどころかいつも以上にだらけきっていた。そんな時に一件の通知。
光陽かな、と思った。光陽はあの電話した日以来、よくやりとりをしていた。
けれどこの日は、
《英語してる?》
----《うん。いま休憩中》
送信。それからしばらくして、
♪♪♪~。
『お、もしもし。1人じゃ眠くなるだろ?一緒に英語しよ!』
『将くんと一緒じゃ捗らない、けど眠るよりマシだしいいよ!』
・・・
『結ちゃん、このままじゃ絶対赤点やったやん。もしや勉強してなかった?』
『…他の教科に力入れてるの。得意を伸ばす!』
『期待大やん。これは~75億分の1人と~♫』
『それは平井大ね。ねぇほらすぐふざける!』
『ごめんごめん、何の教科が得意?』
『国語かな。頑張ってるのは世界史』
『よし、じゃあ勝負やね。』
・・・
『ふー、疲れた。いけそうな気がする。』
『俺のおかげやな。教えるの上手いやろ?』
『あはは、ありがと。』
『うわ流された!… あ、ちょっと待ってて。』
伸びをしたついでに時計を見ると、勉強を始めて4時間が経っていた。もうあっという間に深夜だ。
『ごめんお待たせ、妹が起きてきてて。』
『えっ、妹いるの?いくつ?』
_ガチャ。ドアの開く音とともに微かに女の子の声が聞こえた。
『あ、また起きたのか。7才だよ。寝ぼけて起きてくること多いんだ。一緒に寝たいって。』
『可愛い。それならもう終わろっか。遅いし丁度いい。今日はありがとう、おやすみ。』
『そうだな。 怖い夢見たのか?大丈夫だよ夢の中でやっつけるから寝よう。じゃあ結ちゃんも、おやすみ。』

 
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