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17才、夏。(3)
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定期考査が終わり、各教科ごとに赤色のマーカーで数字が書き足された紙が返却される。今日の返却教科は、国語と数学。90点と38点。私はリケジョにはなれそうにない。授業が終わると、廊下でさっちゃんが飛びついてきた。
「ねぇ、どうしよう。数学赤点だ!」
「大丈夫、私さっちゃんの仲間だよ。」
「本当に!?なら大丈夫かも。国語は今までで1番良かったし!」
さっきまでうるうるさせていた目を、今はキラキラさせながらそう語る。私の次の言葉を待っているようだ。
「何点だったの?」
やっぱり、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの顔だ。
「じゃーん!80!頑張ったんだ、凄いでしょ!どれどれ結ちゃんはー?」
マズイ。
「…。やっぱり結ちゃん仲間じゃないー!」
やらかしたと思いながらも、子供のように感情を表に出すさっちゃんは可愛いと思った。
私が宥めている間もさっちゃんはひとしきり騒いだあと、ケロっとして
「そういえば、私に隠してることない?」
と探偵のような雰囲気をだして眼鏡をくいっと上げる動作をした。
うーん、思い当たる節が何もない。私が余りにも真剣に考えていたからなのか、さっちゃんは私の口から出る次の言葉を息を潜めて待っていた。そこでチャイムが鳴る。シンキングタイム、強制終了。ふぅ、よかった。とは言えなんのことを言っているのか、また自分が情報に疎いのだろうかと少し心配しながら頭の中で考え込んでいたものだから、下校のチャイムが鳴ったことにいつもの数秒遅れて気づいた。私は慌ただしく教室をでて体育館へと向かった。
私の高校はかなり部活は活発な方だと思う。陸上部は毎年全国大会に出場しているし、野球部やダンス部もことある大会ごとに表彰されていた。女子バスケ部も例外ではなかった。けれど、やはりベスト4の壁は分厚く、ここ何年もシードの私立高校に敗れて引退となっている。私はまだ2年生なのでこの夏が最後でないが、チーム内の競争は激しい。練習の合間、ふと隣のコートを見た。真剣な顔つきでディフェンスをする人が目に入った。プレッシャーに負けず流れるようにシュートを決める人がいた。__我に帰る。気を抜けばメンバーから外される。私は、自分だけでなくチームの士気を上げるために、大きく声を出してコートを走った。
チーム練習が終わった後も、私は個人練習をすることが日課だった。少しでもシュート率を上げたい。練習量も質も良くしないと試合に出れる時間は増えない。
「体育館、閉めるぞ。」
と顧問の先生が声をかけた。私の他にも数名残って練習している。私達は急いで片付けて、体育館に一礼し、外に出た。昼間は暑くなってきていたが、日が沈んで風が吹くとまだ心地よいと言える季節だった。外の空気に触れた瞬間、身体の緊張が解れたのか頭の奥にドーンと錘が置かれた気がした。なんだ、これ。
「お腹すいたー。定期考査で動いてなかったぶん、最近ちょっと太り気味なのに。」
駐輪場までの道、チームメイトの 竹田 秀花が隣で小石を蹴りながらぼやいている。
わかる私も、なんて言いつつも、どんどん頭は重くなる。
「ね、しゅうちゃん。私寄らないといけない場所思い出しちゃった。」
「えっそうなの。近場なら一緒に行くよ。」
「ありがとう。でも時間かかっちゃうし、急にごめんね、気をつけて帰ってね。」
いきなりそんなことを言ったもんだから何事だろうと困惑しながらも、しゅうちゃんは帰って行った。もちろん寄る場所なんてない。ただちょっと、自転車を漕ぐ元気はなさそうだったので歩いて帰ることにした。連日の練習と季節の変わり目で体調が崩れかけているのだろう。
「ひとり?」
門を出て少ししたところ、ちょうど曲がろうとした時に後ろから声がした。振り返ると、さっきまでの真剣な顔とは違う、柔らかな表情の顔が見えた。
「あ、えっと、うん、今日は。」
次は私が困惑する側になるとは。そんな私をよそに将くんは自転車を降りて、一緒に歩き始めた。将くんの出身中学は私と真反対の地域だ。さっちゃんと帰り道が逆だから知ってる。
「あの。私今から寄りたいとこあるから。真逆でしょ?帰りなよ。」
「ん?あぁ、じゃあそこまで送るよ。暗い道に1人危ないし。俺は自転車あるから。」
ピンチだ。寄るところなんてないんだって。次に口から出す最善の言葉を考えてみるが、鉛のような頭のせいで何も浮かばない。
「意外やな、結ちゃんも寄り道とかするん。コンビニとか行かなさそうじゃん。」
なぜそんなイメージなのかツッコミたいのを抑えて、普通に行くよと答えた。
「ん、でもコンビニってこっちじゃないよな?どこ行くの?」
気づかれた。降参。これ以上嘘をついて着いてきてもらうのも申し訳なくて正直に話した。
「全然大したことないんだけど、ちょっと気分が悪くって。だからいつもは自転車なんだけど、置いて歩いてゆっくり帰ってたの。」
将くんは穏やかな表情を一変。目を見開いて
「えっ?!気付かんかったわ。大丈夫?よかった声かけてて。家まで一緒に行こう。」
この後から家に着くまで、将くんは心配の言葉はかけてこなかった。その代わりに、国語のテストで読めなかった漢字の話やら、顧問に怒られている時吹き出しそうになった話やらを楽しそうにしてくれた。こっち側来たことないや、とキョロキョロしながら歩く。私よりも長い足の歩幅は、小さかった。
「将くんって、面倒見いいよね。意外と。」
「えぇ?そうか?意外って…ディスってるやん!」
私の家の前でUターンしていく将くんを見送ってから家に入った。心なしかさっきより頭は軽くなっていた。やることを終えて、スマホを開く。
《わざわざ送ってくれてありがとう。迷子ならないように、気をつけてね》
----《ちゃんと帰れたよ。途中少し迷ったけど(笑) また一緒に帰ろう。お大事に。》
「ねぇ、どうしよう。数学赤点だ!」
「大丈夫、私さっちゃんの仲間だよ。」
「本当に!?なら大丈夫かも。国語は今までで1番良かったし!」
さっきまでうるうるさせていた目を、今はキラキラさせながらそう語る。私の次の言葉を待っているようだ。
「何点だったの?」
やっぱり、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの顔だ。
「じゃーん!80!頑張ったんだ、凄いでしょ!どれどれ結ちゃんはー?」
マズイ。
「…。やっぱり結ちゃん仲間じゃないー!」
やらかしたと思いながらも、子供のように感情を表に出すさっちゃんは可愛いと思った。
私が宥めている間もさっちゃんはひとしきり騒いだあと、ケロっとして
「そういえば、私に隠してることない?」
と探偵のような雰囲気をだして眼鏡をくいっと上げる動作をした。
うーん、思い当たる節が何もない。私が余りにも真剣に考えていたからなのか、さっちゃんは私の口から出る次の言葉を息を潜めて待っていた。そこでチャイムが鳴る。シンキングタイム、強制終了。ふぅ、よかった。とは言えなんのことを言っているのか、また自分が情報に疎いのだろうかと少し心配しながら頭の中で考え込んでいたものだから、下校のチャイムが鳴ったことにいつもの数秒遅れて気づいた。私は慌ただしく教室をでて体育館へと向かった。
私の高校はかなり部活は活発な方だと思う。陸上部は毎年全国大会に出場しているし、野球部やダンス部もことある大会ごとに表彰されていた。女子バスケ部も例外ではなかった。けれど、やはりベスト4の壁は分厚く、ここ何年もシードの私立高校に敗れて引退となっている。私はまだ2年生なのでこの夏が最後でないが、チーム内の競争は激しい。練習の合間、ふと隣のコートを見た。真剣な顔つきでディフェンスをする人が目に入った。プレッシャーに負けず流れるようにシュートを決める人がいた。__我に帰る。気を抜けばメンバーから外される。私は、自分だけでなくチームの士気を上げるために、大きく声を出してコートを走った。
チーム練習が終わった後も、私は個人練習をすることが日課だった。少しでもシュート率を上げたい。練習量も質も良くしないと試合に出れる時間は増えない。
「体育館、閉めるぞ。」
と顧問の先生が声をかけた。私の他にも数名残って練習している。私達は急いで片付けて、体育館に一礼し、外に出た。昼間は暑くなってきていたが、日が沈んで風が吹くとまだ心地よいと言える季節だった。外の空気に触れた瞬間、身体の緊張が解れたのか頭の奥にドーンと錘が置かれた気がした。なんだ、これ。
「お腹すいたー。定期考査で動いてなかったぶん、最近ちょっと太り気味なのに。」
駐輪場までの道、チームメイトの 竹田 秀花が隣で小石を蹴りながらぼやいている。
わかる私も、なんて言いつつも、どんどん頭は重くなる。
「ね、しゅうちゃん。私寄らないといけない場所思い出しちゃった。」
「えっそうなの。近場なら一緒に行くよ。」
「ありがとう。でも時間かかっちゃうし、急にごめんね、気をつけて帰ってね。」
いきなりそんなことを言ったもんだから何事だろうと困惑しながらも、しゅうちゃんは帰って行った。もちろん寄る場所なんてない。ただちょっと、自転車を漕ぐ元気はなさそうだったので歩いて帰ることにした。連日の練習と季節の変わり目で体調が崩れかけているのだろう。
「ひとり?」
門を出て少ししたところ、ちょうど曲がろうとした時に後ろから声がした。振り返ると、さっきまでの真剣な顔とは違う、柔らかな表情の顔が見えた。
「あ、えっと、うん、今日は。」
次は私が困惑する側になるとは。そんな私をよそに将くんは自転車を降りて、一緒に歩き始めた。将くんの出身中学は私と真反対の地域だ。さっちゃんと帰り道が逆だから知ってる。
「あの。私今から寄りたいとこあるから。真逆でしょ?帰りなよ。」
「ん?あぁ、じゃあそこまで送るよ。暗い道に1人危ないし。俺は自転車あるから。」
ピンチだ。寄るところなんてないんだって。次に口から出す最善の言葉を考えてみるが、鉛のような頭のせいで何も浮かばない。
「意外やな、結ちゃんも寄り道とかするん。コンビニとか行かなさそうじゃん。」
なぜそんなイメージなのかツッコミたいのを抑えて、普通に行くよと答えた。
「ん、でもコンビニってこっちじゃないよな?どこ行くの?」
気づかれた。降参。これ以上嘘をついて着いてきてもらうのも申し訳なくて正直に話した。
「全然大したことないんだけど、ちょっと気分が悪くって。だからいつもは自転車なんだけど、置いて歩いてゆっくり帰ってたの。」
将くんは穏やかな表情を一変。目を見開いて
「えっ?!気付かんかったわ。大丈夫?よかった声かけてて。家まで一緒に行こう。」
この後から家に着くまで、将くんは心配の言葉はかけてこなかった。その代わりに、国語のテストで読めなかった漢字の話やら、顧問に怒られている時吹き出しそうになった話やらを楽しそうにしてくれた。こっち側来たことないや、とキョロキョロしながら歩く。私よりも長い足の歩幅は、小さかった。
「将くんって、面倒見いいよね。意外と。」
「えぇ?そうか?意外って…ディスってるやん!」
私の家の前でUターンしていく将くんを見送ってから家に入った。心なしかさっきより頭は軽くなっていた。やることを終えて、スマホを開く。
《わざわざ送ってくれてありがとう。迷子ならないように、気をつけてね》
----《ちゃんと帰れたよ。途中少し迷ったけど(笑) また一緒に帰ろう。お大事に。》
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