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17才、夏。(4)
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「そう言えばさ、なんでこの前突然好きな人いる?なんて聞いてきたんだ?」
「ん?あぁ、気になったから。好きな人ができるってどんな感じなんだろうって。」
「初恋、まだなの?へぇ意外。」
「いや好きだなって人はいたよ。それなりに。そうなの、それなりになの。そこに情熱みたいなもんがないの。」
「でもまぁ、学生のうちなんてそんなもんじゃない?高校生から付き合って結婚しましたーなんて人たちもいるけどさ。そういう人達も、"それなりに"好きだった人いたはずだよ。」
光陽は休み時間だというのに机に向かいながら、並行して私のくだらない話をちゃんと聞いてくれる。光陽が話すことは、なんだか妙に説得力がある気がしてくるから不思議だ。
「そういうものなのかな。まぁいいんだけど。私は部活が恋人でも!」
「中城がその気でも相手にその気がなかったら恋人なんて成り立たないぞ。もうすぐ大会だろ?」
「ははっなにそれ。そうなの、まだ予選なんだけどね。」
「俺は将の応援に行くから試合は観れないだろうけど。中城も頑張れよ!」
「ありがとう。頑張る!」
そういえば、将くんは好きな人いるのかな。
体育館の中は熱がこもって暑い。大会前で皆の熱気が影響しているのか、教室とは比べ物にならない。集中力、上げないと。
「今のプレーさ、ディフェンスが寄ってると思ってセンターにパス出さなかったんだけど、秀ちゃんの位置から見てどうだった?」
「たしかに、ゆいぴーの位置からだと出せなかったね。だから右にいた咲幸にパスしてそこから出すといいかも。」
「なるほど。展開するのか。ありがとう!」
「咲幸もここから出すパス苦手だから練習しないといけないなぁ。今のプレーもう1回やってみようよ。」
さっちゃんや秀ちゃんとはよくこうして意見を交換する。ライバルでもあるが良きパートナーだ。私が毎日練習に励めているのは2人のおかげだと言っても過言ではない。
翌日。私の朝の日課。ホームルームが始まる前に体育館に行く。放課後の練習はチームでの練習がメインなため、こうした朝の時間に基礎を見直す。朝早くの誰もいない体育館で自分のドリブルの音だけが響く感覚が好きだった。
けれど最近は隣のコートに先客が居る。お互いがお互いに気づいてはいたが、特に話すことはない。ただ負けてられないという気持ちは2つのボールの音と一緒に体育館に伝わっていた。
放課後の練習が終わり、疲れを残さない為にその日は早めに帰る準備を始めた。門に近づいた時、
「あれ、日渚瀬くんじゃん!」
と秀ちゃんが言った。
「おつかれ。何してるの?」
「女子もおつかれ。結ちゃん待ってた。」
え?私?
秀ちゃんがそれを聞いた途端、私と将くんを交互に見て、今日急いで帰らなきゃなんだとわざとらしく声に出して帰っていった。
「久しぶりに一緒に帰らないか?」
「一緒に帰るって言ったって、逆方向じゃん?」
「結ちゃん家まで送る。」
「そんないいよ、じゃあこの間のお礼ってことで今日は将くんの家の方に行こう。」
結局、お互い譲らず近所の公園に寄ることになった。足が余ってしまうほど低いブランコに2人でそれぞれ腰掛けた。こうして2人で話すのは久しぶりかもしれない。お互い、相手が友達といる時は気を遣ってなのか話しかけないし、将くんに関しては私が1人でいて目が合ってもせいぜい手を振ってくるくらいだ。
「俺、結構話しかけるの緊張してんだ。」
「私だってそうだよ。」
「ほんとに?でも唯ちゃんきてくれるやん?」
「話したいから、話しかけてる。」
そっか、私話したいんだ。言葉に出て初めて本心に気づく。
「やめろよ、照れるって。」
やめてよ、照れられると反応に困る。
「結ちゃんってさ、好きな人いないの?」
あぁそれ、私が気になってたやつ。
いないよ。
と声に出せなかった。
お調子者だったりするけど、周り見てて気が利くとこ。
優しくて面倒見いいとこ。
ペットの猫とか妹とか、家族大事にするとこ。
努力家で自分の決めたことにまっすぐなとこ。
落ち込んでたとしてもなんかもう、それさえ見れたらどうでもよくなっちゃうような笑顔。
"結ちゃん"って呼んでくれる声。
光陽が言ってた言葉が蘇る。
いいな、と思い始めたら、もう止まらなかった。
どんどん溢れてきた。
いいな、を見つけるたび、どきっとしてた。
これはもう認めざるを得なかった。
かと言ってどうしていいのか、分からなかった。
どうするつもりもなかった。
だけどまぁ、
「いるよ。」
とだけ答えた。
「もしかして、俺?」
相変わらず、すごい自信だ。
「そうかも。」
__え? 私、何言ってんだ。
将くんが軽く漕いでいたブランコを止めてこっちを向いたのが分かった。
だけどすぐに正面に視線を戻した。
「ふーん。そっか、俺かぁ。」
あーあ、私の初恋あっけなく終了。
こんな平々凡々なミスで終わるなんて。
失恋の涙も出ない。
結局これも"それなりの好き"だったのだろうか。
将くんが座っていたブランコから勢いよく立ち上がりスタスタと歩き出す。
そうだよね、気まずいよね、ごめん。
「じゃあ両思いってことだ。」
そう言った彼の顔はあまり見えなかったが、少し赤いような気がした。
黄昏時だった。
「ん?あぁ、気になったから。好きな人ができるってどんな感じなんだろうって。」
「初恋、まだなの?へぇ意外。」
「いや好きだなって人はいたよ。それなりに。そうなの、それなりになの。そこに情熱みたいなもんがないの。」
「でもまぁ、学生のうちなんてそんなもんじゃない?高校生から付き合って結婚しましたーなんて人たちもいるけどさ。そういう人達も、"それなりに"好きだった人いたはずだよ。」
光陽は休み時間だというのに机に向かいながら、並行して私のくだらない話をちゃんと聞いてくれる。光陽が話すことは、なんだか妙に説得力がある気がしてくるから不思議だ。
「そういうものなのかな。まぁいいんだけど。私は部活が恋人でも!」
「中城がその気でも相手にその気がなかったら恋人なんて成り立たないぞ。もうすぐ大会だろ?」
「ははっなにそれ。そうなの、まだ予選なんだけどね。」
「俺は将の応援に行くから試合は観れないだろうけど。中城も頑張れよ!」
「ありがとう。頑張る!」
そういえば、将くんは好きな人いるのかな。
体育館の中は熱がこもって暑い。大会前で皆の熱気が影響しているのか、教室とは比べ物にならない。集中力、上げないと。
「今のプレーさ、ディフェンスが寄ってると思ってセンターにパス出さなかったんだけど、秀ちゃんの位置から見てどうだった?」
「たしかに、ゆいぴーの位置からだと出せなかったね。だから右にいた咲幸にパスしてそこから出すといいかも。」
「なるほど。展開するのか。ありがとう!」
「咲幸もここから出すパス苦手だから練習しないといけないなぁ。今のプレーもう1回やってみようよ。」
さっちゃんや秀ちゃんとはよくこうして意見を交換する。ライバルでもあるが良きパートナーだ。私が毎日練習に励めているのは2人のおかげだと言っても過言ではない。
翌日。私の朝の日課。ホームルームが始まる前に体育館に行く。放課後の練習はチームでの練習がメインなため、こうした朝の時間に基礎を見直す。朝早くの誰もいない体育館で自分のドリブルの音だけが響く感覚が好きだった。
けれど最近は隣のコートに先客が居る。お互いがお互いに気づいてはいたが、特に話すことはない。ただ負けてられないという気持ちは2つのボールの音と一緒に体育館に伝わっていた。
放課後の練習が終わり、疲れを残さない為にその日は早めに帰る準備を始めた。門に近づいた時、
「あれ、日渚瀬くんじゃん!」
と秀ちゃんが言った。
「おつかれ。何してるの?」
「女子もおつかれ。結ちゃん待ってた。」
え?私?
秀ちゃんがそれを聞いた途端、私と将くんを交互に見て、今日急いで帰らなきゃなんだとわざとらしく声に出して帰っていった。
「久しぶりに一緒に帰らないか?」
「一緒に帰るって言ったって、逆方向じゃん?」
「結ちゃん家まで送る。」
「そんないいよ、じゃあこの間のお礼ってことで今日は将くんの家の方に行こう。」
結局、お互い譲らず近所の公園に寄ることになった。足が余ってしまうほど低いブランコに2人でそれぞれ腰掛けた。こうして2人で話すのは久しぶりかもしれない。お互い、相手が友達といる時は気を遣ってなのか話しかけないし、将くんに関しては私が1人でいて目が合ってもせいぜい手を振ってくるくらいだ。
「俺、結構話しかけるの緊張してんだ。」
「私だってそうだよ。」
「ほんとに?でも唯ちゃんきてくれるやん?」
「話したいから、話しかけてる。」
そっか、私話したいんだ。言葉に出て初めて本心に気づく。
「やめろよ、照れるって。」
やめてよ、照れられると反応に困る。
「結ちゃんってさ、好きな人いないの?」
あぁそれ、私が気になってたやつ。
いないよ。
と声に出せなかった。
お調子者だったりするけど、周り見てて気が利くとこ。
優しくて面倒見いいとこ。
ペットの猫とか妹とか、家族大事にするとこ。
努力家で自分の決めたことにまっすぐなとこ。
落ち込んでたとしてもなんかもう、それさえ見れたらどうでもよくなっちゃうような笑顔。
"結ちゃん"って呼んでくれる声。
光陽が言ってた言葉が蘇る。
いいな、と思い始めたら、もう止まらなかった。
どんどん溢れてきた。
いいな、を見つけるたび、どきっとしてた。
これはもう認めざるを得なかった。
かと言ってどうしていいのか、分からなかった。
どうするつもりもなかった。
だけどまぁ、
「いるよ。」
とだけ答えた。
「もしかして、俺?」
相変わらず、すごい自信だ。
「そうかも。」
__え? 私、何言ってんだ。
将くんが軽く漕いでいたブランコを止めてこっちを向いたのが分かった。
だけどすぐに正面に視線を戻した。
「ふーん。そっか、俺かぁ。」
あーあ、私の初恋あっけなく終了。
こんな平々凡々なミスで終わるなんて。
失恋の涙も出ない。
結局これも"それなりの好き"だったのだろうか。
将くんが座っていたブランコから勢いよく立ち上がりスタスタと歩き出す。
そうだよね、気まずいよね、ごめん。
「じゃあ両思いってことだ。」
そう言った彼の顔はあまり見えなかったが、少し赤いような気がした。
黄昏時だった。
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