自惚

喜多ミナミ

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ふたり。(2)

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 私達はそれからも都合の良い日を合わせて、一緒に時間を過ごした。街で有名な"恋人の聖地"だなんて代名詞のタワーにも行った。ふたりで話した公園でも無邪気に遊んだりした。部活終わりの帰り道はふたりともすごくお腹が空いていたので、近くのハンバーガー屋さんだとかラーメン屋さんに行った。いろんな場所に行ってくだらないことで笑ったが、その中でも何度も行ったのは、海だった。将くんは小さい頃から海によく行っていたらしく、私も友達を無理矢理連れて、あるいはひとりでも海に行くくらい好きだったので、特に何をするわけでもなかったが楽しかった。波打ち際ではしゃいだあと、砂浜に座って波の音をBGMにふたりで雑談する時間が幸せだった。夕陽と海に反射した光に照らされた将くんはいつもに増してかっこよく見えた。
「私さ、海の近くに家建てるのが夢なんだよね。もう玄関でたら、すぐ砂浜!海!みたいな。そこで家族で遊ぶの。」
「うわ、めちゃくちゃいいじゃん。子供は何人ほしい?あ、じゃあせーので言おう。…いくぜ?せーのっ。」
「「2人!」」
「うわぁでたでた、すぐ真似する。」
「真似じゃないでしょ、一緒に言ったじゃん!じゃあさ、女の子と男の子の順番は?」
「俺は、女の子で男の子。優しい子に育ちそうだろ。」
「えー、私は逆だ。男の子で女の子。あ、でもお姉ちゃんも欲しいな。じゃあ3人でもいいな。」
「絶対大変だぞー。グレたらどうする?」
「私結構厳しいよ。多分将くんの方が甘やかす。特に女の子とか、ママには内緒だぞとか言ってお菓子とか買うの。」
「うわぁ、想像つく。うん。絶対そうなる。俺絶対怒れない。」
「それじゃあ子供が1人増えたのと一緒じゃん。私、猫とだって暮らしたいのに。」
「えぇ?!いやいや、犬だろ。犬の方がいいって。」
「えぇ?絶対猫だよ。てか将くん猫飼ってるでしょ?」
「うん、可愛いよ。可愛いけど絶対に犬。猫飼って後々俺に犬がいいなんて言ってきても知らないぞ?」
「私だって譲れないもん。ずっとずっと夢だもん。将くんの方こそ後悔するんじゃない?」
将くんの想像している未来に、私が登場していることが嬉しかった。

 「私さ、好きな人できるかも。」
これ、将くんと公園で話す日の2日前。光陽との会話。
「…へぇ。よかったじゃん、誰?」
「言わないよ。私の勘違いだったら恥ずかしいし。」
「なんだよ勘違いって。俺も好きな人いるかも。」
「えぇ?ついこないだいないって言ってたくせに!誰なの?」
「そんなの中城もそうだろ。中城が教えてくれないんだから俺だって言わないよ。」

 「付き合った。」
これ、将くんと付き合った日の次の日。光陽との会話。
「知ってる。おめでとう、やっぱり将だったんだ。」
「えっやっぱりなの?そんなバレバレだった?」
「うーん、なんとなくそうかなって思ってた。良かったじゃん念願の好きな人。」
「私ね、今回は今までと違う気がしてるの!きっとここまで人を好きになったことがなかっただけだった!光陽は?順調なの?告ったりしないの?」
「あぁ。多分勘違いだった。」
「えぇ、残念。なにか進展あったら言ってよね!」

 そして、今。付き合って4ヶ月が経った。
私と光陽は変わらない仲だが、心なしか将くんと光陽の距離は遠くなっている気がした。喧嘩でもしたのだろうかと思っていたが、普通に話しているのも見るしお互いの名前が話題に出ても気まずそうな感じはなかった。私の思い過ごしだろうか。まぁ、何もないならそれでいい。今日は久しぶりに将くんと一緒に帰れる日だ。
私は授業なんてそっちのけで、一日の終わりを楽しみに浮かれていた。
門のところにはすでに人影が見えた。
「将くん、ごめんお待たせ。帰ろ。」
「うん。」
ふたりで自転車にまたがる。
いつもなら将くんが疲れた~とか、最近のこととかを話しだすのだが今日は時折小さく鼻歌を歌うだけだ。そっぽを向いて。よほど疲れているのだろうか。そんな日もあるだろうから、その日は私から話をして、将くんに聞いてもらった。
だけどやっぱりおかしかった。
どんだけきつい練習があったあとでも、将くんが笑わないことはなかった。今日は、話は聞いてくれているが、無理して笑っているような気がする。
「体調、悪い?」
「なんで?大丈夫だよ。」
「なんか、いつもと違う。」
「大丈夫だよ。」
だけどやっぱり、目が合わない。
信号が赤になる。
ブレーキをかけて青に変わるのを待つ。
将くんがこちらに顔を向けないまま、一言放った。
「あれ、嫌だったなぁ。」
ひとりごとのようにつぶやいた。不意に聞こえたのと珍しく声が細かったので、私は少し将くんの近くに寄った。
「...あれって?」
信号はまだ変わらない。将くんは言うのを躊躇っているのか中々次の言葉を出してくれなかった。
「俺、こんな小せえこと気にしてんのかよって思われるの嫌でさぁ。だからずっと気にしないようにしてたんだよ。だけどさぁ、やっぱモヤモヤして。ごめん。」
なんの話なのか検討がつかないのと、将くんが見たことのないほど弱々しい表情をするのとで、私はなんて声をかけていいか分からなかった。
今日初めて、将くんがわたしの方を見た。
ゆっくりと口が動く。
「ごめん。距離を置きたい。」
わたしの思考回路が止まった瞬間、信号は青に変わった。
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