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ふたり。(1)
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「おはよ。結ちゃん!」
幸せってこれだ。
「おはよう。」
将くんが学校でも話しかけてくれるようになったこと、さっちゃんが告白の場面を唯一の目撃者だと自慢げに話すこともあって、付き合った日の3日後には学年のほとんどの人が知っていた。噂というのはどうしてこうも人の興味を掻き立てるのだろう。秀ちゃんなんて、さっさと付き合えって思ってたよ~なんて呆れている顔をしている割には、どんな風に言われたの?とかどこが好きなの?いつからなの?と質問攻めしてくる。そして何故かそれに応えるのはさっちゃんだ。
「将がどストレートに好きです、それに結ちゃんがお願いしますって。ドラマかと思ったよ。結ちゃんのこと1年の頃からちょっといいなって思ってたんだって。でも仲良くなるきっかけなかったし挨拶してもそっけなかったんだって。それでこないだの定期考査で仲良くなれて、そこから好きになってったって。」
「え、なにその挨拶の話。」
「将言ってたよー?絶対嫌われてるって思ってたって。」
全く覚えていない。あとで聞いてみよう。そして誤解を解かなきゃ。嫌うも何も、知らなかったもの。いやこれを言ったらまた悲しむかな。
「じゃあこれから一緒に帰れる日も少なくなるね、リア充め。」
「えっいいの?今まで秀ちゃんと帰るつもりだったんだけど。」
「何言ってんの!あんたね、ふたりの時間大切にしないと。クラスも違うしお互い部活動生なんだから。」
そうか、確かにそうだ。
「私、友達にも恵まれてるなぁ。」
「え、何急に。」
「ゆいぴーが惚気た!」
8月。大会に区切りがついた。最終試合は接戦まで持ち込んだものの、ラスト2分、フルコートでプレッシャーをかけられたことに対応しきれず10点差で負けた。先輩達はブザーと同時に悔しそうな表情をしたあと、私達にはやりきった顔をして、来年はもっと上にいけるよと言った。何度も先生に怒られてきた私達を立ち直らせてくれたのは先輩達だった。不安と悔しさと寂しさと感情がぐちゃぐちゃになって、涙が出てきて、顔もぐちゃぐちゃになった。そして、ひとしきり皆で泣いたあと秀ちゃんが
「先輩達に来年成長した姿を見せよう。それが恩返しだよ。」
と言った。せーので、気合いの声をあげた。
付き合ってちょうど1ヶ月が経った頃。男バスも大会を終え、練習時間が短くなった。ふたりとも土日は午前に部活が終わるので、午後に遊びに行こうという話になった。今日はふたりの初デートの日だ。
私はまともにデートなんてしたことがない。人生の中でも初のデートになる。
「俺、夜景見たい!定番すぎるかな?」
「えっいいじゃん。行こうよ!」
私達は少し離れた夜景スポットに行くことにした。展望台までは長い坂道なので、麓に自転車を止めてそこからふたりで歩いた。まだ夕方だったので、そこまで暗くはなかったが着く頃にはちょうどいい位になっていそうだ。普段は制服か練習着しか見ていないので、私服の将くんは新鮮だった。だからちょっと緊張した。
展望台に着くともう既に数人景色を眺めていた。多くがカップルだったが、中には家族で来ている人もいた。柵の前まで行かないと景色は見えない。私達はどんな景色が見えるのか期待を胸に膨らませて一歩ずつ進んでいった。柵の前まできた。あたりはいつのまにかすっかり暗くなっていた。
「うっわぁ。」
「めっちゃ綺麗。」
ふたりで感心して、その綺麗さに呆気にとられ、しばらくして興奮してきた。
「やばい。やばい綺麗すぎる!」
「ね!登ってきた甲斐あったよこれ。」
「俺めちゃくちゃお気に入りかもしれない、ここ。」
「私も。想像以上!」
「俺の家ってあの辺かな?」
「違うよあの看板が見えるってことは私の家がそこでしょ?だから反対の…」
「えっ俺ん家見えないのかよ!なんだよー。」
「でもこうやって見ると人が虫みたいに見えるね。」
「虫って。普通そこはゴミって言うんだけど?」
「いや虫だよ!だってゴミだと動かないじゃん。」
「なんだその理屈。ぜんっぜん理解できないな。」
「…ねぇ私達、こんな綺麗な景色を前にこんな変なことで言い合ってんの阿呆らしくない?」
「…俺も今めっちゃ同じこと思った。ムードもクソもないな。」
ふたりで笑った。
有名な場所なのだろう。気づけば周りには人が増えていた。
「そろそろ降りようか。」
「そうだね。遅くなったらいけないし。」
坂を下り始める。ふたりの時間が終わることを惜しんでいるからなのか、ただ単に下り坂だからなのか分からないが、行き道よりも目的地に着くまでの時間が短いような気がした。
「手。」
坂道を少しだけ下ったところで、将くんが一歩後ろにいた私に手を出した。
いくら初めての好きな人でも、いくら初デートでも私にだってこのことの意味は分かる。
ぶっきらぼうにそう言ってる将くんは、早くと急かしてくる。その不器用さと真っ直ぐさが堪らなかった。私よりもひとまわり大きい手をしっかりと握る。
ふたりで歩いた。
幸せってこれだ。
「おはよう。」
将くんが学校でも話しかけてくれるようになったこと、さっちゃんが告白の場面を唯一の目撃者だと自慢げに話すこともあって、付き合った日の3日後には学年のほとんどの人が知っていた。噂というのはどうしてこうも人の興味を掻き立てるのだろう。秀ちゃんなんて、さっさと付き合えって思ってたよ~なんて呆れている顔をしている割には、どんな風に言われたの?とかどこが好きなの?いつからなの?と質問攻めしてくる。そして何故かそれに応えるのはさっちゃんだ。
「将がどストレートに好きです、それに結ちゃんがお願いしますって。ドラマかと思ったよ。結ちゃんのこと1年の頃からちょっといいなって思ってたんだって。でも仲良くなるきっかけなかったし挨拶してもそっけなかったんだって。それでこないだの定期考査で仲良くなれて、そこから好きになってったって。」
「え、なにその挨拶の話。」
「将言ってたよー?絶対嫌われてるって思ってたって。」
全く覚えていない。あとで聞いてみよう。そして誤解を解かなきゃ。嫌うも何も、知らなかったもの。いやこれを言ったらまた悲しむかな。
「じゃあこれから一緒に帰れる日も少なくなるね、リア充め。」
「えっいいの?今まで秀ちゃんと帰るつもりだったんだけど。」
「何言ってんの!あんたね、ふたりの時間大切にしないと。クラスも違うしお互い部活動生なんだから。」
そうか、確かにそうだ。
「私、友達にも恵まれてるなぁ。」
「え、何急に。」
「ゆいぴーが惚気た!」
8月。大会に区切りがついた。最終試合は接戦まで持ち込んだものの、ラスト2分、フルコートでプレッシャーをかけられたことに対応しきれず10点差で負けた。先輩達はブザーと同時に悔しそうな表情をしたあと、私達にはやりきった顔をして、来年はもっと上にいけるよと言った。何度も先生に怒られてきた私達を立ち直らせてくれたのは先輩達だった。不安と悔しさと寂しさと感情がぐちゃぐちゃになって、涙が出てきて、顔もぐちゃぐちゃになった。そして、ひとしきり皆で泣いたあと秀ちゃんが
「先輩達に来年成長した姿を見せよう。それが恩返しだよ。」
と言った。せーので、気合いの声をあげた。
付き合ってちょうど1ヶ月が経った頃。男バスも大会を終え、練習時間が短くなった。ふたりとも土日は午前に部活が終わるので、午後に遊びに行こうという話になった。今日はふたりの初デートの日だ。
私はまともにデートなんてしたことがない。人生の中でも初のデートになる。
「俺、夜景見たい!定番すぎるかな?」
「えっいいじゃん。行こうよ!」
私達は少し離れた夜景スポットに行くことにした。展望台までは長い坂道なので、麓に自転車を止めてそこからふたりで歩いた。まだ夕方だったので、そこまで暗くはなかったが着く頃にはちょうどいい位になっていそうだ。普段は制服か練習着しか見ていないので、私服の将くんは新鮮だった。だからちょっと緊張した。
展望台に着くともう既に数人景色を眺めていた。多くがカップルだったが、中には家族で来ている人もいた。柵の前まで行かないと景色は見えない。私達はどんな景色が見えるのか期待を胸に膨らませて一歩ずつ進んでいった。柵の前まできた。あたりはいつのまにかすっかり暗くなっていた。
「うっわぁ。」
「めっちゃ綺麗。」
ふたりで感心して、その綺麗さに呆気にとられ、しばらくして興奮してきた。
「やばい。やばい綺麗すぎる!」
「ね!登ってきた甲斐あったよこれ。」
「俺めちゃくちゃお気に入りかもしれない、ここ。」
「私も。想像以上!」
「俺の家ってあの辺かな?」
「違うよあの看板が見えるってことは私の家がそこでしょ?だから反対の…」
「えっ俺ん家見えないのかよ!なんだよー。」
「でもこうやって見ると人が虫みたいに見えるね。」
「虫って。普通そこはゴミって言うんだけど?」
「いや虫だよ!だってゴミだと動かないじゃん。」
「なんだその理屈。ぜんっぜん理解できないな。」
「…ねぇ私達、こんな綺麗な景色を前にこんな変なことで言い合ってんの阿呆らしくない?」
「…俺も今めっちゃ同じこと思った。ムードもクソもないな。」
ふたりで笑った。
有名な場所なのだろう。気づけば周りには人が増えていた。
「そろそろ降りようか。」
「そうだね。遅くなったらいけないし。」
坂を下り始める。ふたりの時間が終わることを惜しんでいるからなのか、ただ単に下り坂だからなのか分からないが、行き道よりも目的地に着くまでの時間が短いような気がした。
「手。」
坂道を少しだけ下ったところで、将くんが一歩後ろにいた私に手を出した。
いくら初めての好きな人でも、いくら初デートでも私にだってこのことの意味は分かる。
ぶっきらぼうにそう言ってる将くんは、早くと急かしてくる。その不器用さと真っ直ぐさが堪らなかった。私よりもひとまわり大きい手をしっかりと握る。
ふたりで歩いた。
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