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第壱章:室戸/ミサキの事情*

#005:饒舌な(あるいは、噛み合わないまま進む不毛)

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「出身は宮城です。今はこっちの大学に通っていてひとり暮らしですが」

 何とか会話の軌道を修正を、と試みた僕の説明にほうほう、と頷く丸男だが、

「で、何でまた、俺らのような旬の過ぎたDMと組んでいただけることになったんで?」

 噛み合わない。というか人の話を聞いてくれ。

「待てよ相棒。こちらの少年はなあ、シロウトさんよ」

 アオナギはひとりこの状況を楽しんでいるかのように終始気味の悪い笑顔だ。いつの間に注文したのか、僕らの前には生と突き出しが運ばれてきていたけど。店員さんの器の上げ下げが心持ち素早い。このテーブルからいっこくも早く遠ざかりたいんだろう。同感です。

「まさ、かだ、ろ! いやいやいや、どう見たって……」

 大声を張り上げる丸男だが、アオナギに手で制されるとやっと口をつぐんだ。しかしその凶悪に濁り切った目は僕を見たまま驚愕で見開かれている。だから何だって。

「見つけたんだよ。偶然に、いや必然だったのかも知れねえが」

 こちらに顔を向けてふへへ、と笑いかけてくるアオナギ。不気味にテカる長い髪の間から覗く面構えはやっぱりアウトの部類と思われる。

「あの、いちから、素人にもわかるようにですね、説明をお願いしたいって言うか……」

「おーおーおー、わかってるって少年。こっちで盛り上がっちまってすまねえ。まあ飲んだらどうよ」

 アオナギは自分もジョッキを傾けつつ言う。

「俺はよう! 衝撃を受けてるんだ。あなたさんという、その、天使が降臨したことによ」

 丸男が鼻息荒く被せるように言ってくるが、ひとまずこの人の発言は流しておこう。現況の把握。それが何よりだ。

「少年、DNCについて少し説明しないといかんよな」

 まず、知らない単語をいきなり出すのをやめて欲しい。

「ダメ人間コンテストは、さっきも軽くふれたが、ダメ人間が己のダメさを晒して戦う……いってみれば格闘技的なモノだ」

「格闘技っつっても、ほんとに殴り合ったりするわけじゃねえよ。ま、その辺はあなたさんならおわかりのこととは思いやすが」

 アオナギの説明の後を丸男が畳み掛けてくるが、あなたはどうにも口調が定まらないな!

「『詩のボクシング』ってあるよな? タイマンで詩を朗読しあって勝敗を決めるっつー……あれに気持ち似てなくもない。イメージできるか?」

 アオナギが僕の方に顔を向けて聞いてくる。「詩のボクシング」ならニュースか何かでちらりと見た微かな記憶がある。しかし。そのダメ人間版というと……晒しもの以外の何でもないじゃないか。そもそも僕は人前でのスピーチとかプレゼンとか自己アピールとかが心底苦手だし。

「大丈夫だ。不安そうな顔すんなって。少年にならたやすい。いともたやすい話だ。勝負は早けりゃ5秒で終わる。お前さんは俺の見立てたところ、一発を持ったハードパンチャーだ」

 アオナギのわけの分からない評込みで、全く読めないまま話は進行していくが、ひとまずビールでもあおってひと息入れよう。出口につながる経路(逃走用)を横目で確認しつつ、僕はすっかり汗をかいているジョッキに手をやる。

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