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第壱章:室戸/ミサキの事情*

#004:迷惑な(あるいは、号泣なる謝罪)

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「あ、お、おーおー。勧誘。勧誘ねー」

 いきなり分かりやすくも目が泳ぎ始めた丸男。そわそわと耳の後ろを掻いたり、無駄にジョッキの向きを変えたりしている。

 顔色は何というか血の気を失ってドス黒くなっており、先ほどまでの縦に赤・白・青のトリコロールカラーから、今はどこの国旗だかわからない配色になっていた。

「お? お前まだいたの? 用は済んだからよお、帰っていいんだぜー」

 そして不自然に隣の普通人にいま気付きましたよなフリをし、座席から通路へと押しやった。

「悪ぃ、兄弟。その件なんだがよお、秋葉原までのしたんだが、収穫ゼロだったわ」

 荷物を手早く抱え、身を縮こませつつ出口に向けて小走りで去っていく普通人を見やり、

「そいつは残念だ。今のヤツがそうかと思ったが」

 アオナギは、にやにやとしながら丸男の真向かいの席についた。

「あ、あいつ? いや、あいつはカネ貸してた野郎でよ」

「カネ? ……ほう、カネをね。おまえさんがか? 珍しいこともあるなぁ」

 薄気味悪い笑みを浮かべた横顔を僕に見せながら、アオナギはメニューに手をやる。と、

「……兄弟ぃぃ!! すまなかったぁぁぁ!!」

 突然、丸男はテーブルに両手を激しく突き、ついでその大きな頭もごつりと勢い良くぶつけたわけで。そのただならない物音に何人かの周りの客がこちらをうかがってくるものの、タチの悪い修羅場風景に慌てて凪ぐように目を逸らしていく。僕はその中心に独り、立ち尽くしたままのわけで。

「俺の方がすげえ面子を連れてくるなんざちゃんちゃら余裕な話っつってた!! あれは嘘だぁぁぁぁ!!」

 いくら騒々しい居酒屋とはいえ、絶叫はどうかと思う。顔をゆがめながら、丸男は体を震わせて嗚咽を堪えている。何なのいったい。

「許してくれぇ兄弟ぃぃぃ。でもまさかよう、まさかお前さんがこんな……」

 ちらりと僕の方を見てくる丸男。だから何だっていうんだ。

「A級の方と知り合いとは知らずにぃぃぃ!! 俺の方はというとぉぉぉ!! あんなしょぼくれただけの野郎にぃぃぃぃ!! ついついこんなもんで行けるだろうとぉぉぉ!!」

 号泣謝罪もやめておいた方がいいと思う。と言うか周りの目とか、気にならないんだ、この人たちは。

「落ち着けよ相棒。済んだことはもういいんだ。それよりどうよ、この少年」

 アオナギが横目で僕に手で座れと合図してくるので、しょうがなくその隣に腰掛ける。丸男と同じ高さで対峙すると、また違った威圧感を感じるけど。

「いや、その……俺もこの業界長いと思ってたが、広いんだなあって今、再確認したとこだぜぇ。あの、ひょっとして関西の人ですかい? あなたさんは」

 丸男が気を取り直して聞いてくるが、言ってる言葉のひとつひとつが訳わからない。

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