23 / 42
Ally-23:濃厚なる★ARAI(あるいは、妖かしぃの/キリングインザハート)
しおりを挟む護身術……唐突なることをいきなり呈示されるのは出会った最初の頃から分かり過ぎるほど分かっていた僕だけれど、それでも、うぅぅん、という声にならない声がこの薄暗い高架下のコンクリートの橋桁に諸行無常に吸い込まれていくかのようであり……と、
「た、例えば、ナイフを持った暴漢ばが、いきなり襲い掛かってきたとする」
そんな物騒なことを言いつつ、腰に付けていたホルスターらしき物からナイフのような物をさも当然かのようにすらりと抜き出す御大。本物じゃないよね? と一応聞いてみたら、大丈夫たい、とのひとことだけが返ってきたけれど、何がどう大丈夫かまでは分からなかった。
「こ、こう突き出されてきたら、ど、どげんかせんとぉば? 赤郎よ」
右手に得物を保持したまま、とんと車止めから降りると、その正面の猿人氏の分厚そうな胸板向けて、そのまま腕を伸ばしつつアライくんは歩を進めていく。
「お、押忍、相手の刃先が届く前に、この自慢の右拳を顔面に叩き込むでありますッ」
筋肉が喋ったのかと思いまごうほどの単純な言葉を放ちつつ、ゆっくりと、内部に人毛をみっしりと詰めた挙句、隙間から満遍なくその縮れ毛が漏れ生えているような(どんなだろう)キャッチャーミットの如くの巨大な手を握り込む猿人氏。
「やってみろ」
何か今日はクールな教官口調で凛々しい御大がそう命ずる。い、いいんですかい? と躊躇する猿人氏であったものの、本気だばで来んかっどメダルは没収するがに、との言葉に何故か異常に危機感を感じたのか、振りかぶった巨拳が、完全にその射程距離に入ったと思われるアライくんの張り出した前髪辺りに次の瞬間撃ち込まれていく……
猿人氏はその見た目のガタイに違わず、何らかの格闘周りの経験はありそうだ。それともこのくらいは普通なのか分からないけど、とにかく結構な速度でのその体重の乗っていそうなパンチが、普段あまり運動とかしていなさそうな御大の傲岸な顔面へとダイレクトで放り込まれたかに見えた。
「!!」
しかして、紙一重でその拳の脇をすり抜けていたアライくんは、大して力も入っていなさそうな所作でその懐に入ると、右手に持ったナイフの先を、肋骨に阻まれないように刃先を水平に寝かせるという冷徹な余裕を見せながら猿人の分厚い左胸板辺りに突き刺していったのである……!!
ついに殺っちまったのか感で背筋がぞわとなった僕だったけど、流石の御大も無益な殺生をやるほどのタマでは決して無かったわけで。
こんばとぅらたい、と抜き出したナイフからはドス黒い血が滴るということもなく、さらにその白銀に光る切っ先の頂点を指で押して見せると、ぬぬぬと柄の方へと引っ込んでいった。ああーそういう「ビックリ小道具」的なのも1985年辺りにはあったよね……と、ここに来ての必死とも思える急な1985感を醸し始めた(しかも緩い)「場」の様相に逆になんだか背筋がわぞとなってしまう……
「……『条件反射』っちょばあるあいんよなぁ……目の前にいきなし手ぇとかば突き出されたらち思わず目ぇち瞑っちばうことやら、肩叩かれたばらそっちの方へ顔ば向けちょばることがうら……大脳を通さず、脊髄反射で応対する。そうやらぁ、急な攻撃にも『体で』、体の最速で対応できるっちゅう事ばら」
ナイフを納め、腕組みしつついいタメを作ったアライくんだけど、しかして今の体捌きは素直に格好良かったと思えるわけで。猿人氏も髪人氏もあまりのことにいつものねちっこい反応を見せることすら忘れてポカン顔を晒している。多分僕も似たような顔をしているのだろう。
「……『実戦』を主に構えた『生き残るための戦闘術』、そいがイスラエル軍発祥の『クラヴマガ』。我ぁの、お、お母上も、そいの習熟者がっぱったい、子供の時とぉばにいろいろ教えてもろちゃったばとよ」
……何と言うか、亡くなったお母さんに関することを、僕は今はじめて聞いたような気がする。ふんぞり返りながらも、どこか遠い目をした御大……「父親の1985年」と同じく、これもまた……思い出のひとつなのかも知れない。アライくんの奇抜奇怪な行動のひとつひとつは、全部が全部、そういうことのために実は為されているのかも……
「そしてそいつを!! 数々の修行ぎゃによって自分の中で煮詰め昇華し、我ちょなりの再構成を施した最強の護身術がば、『A★M★N★C』どぎゃらっしょい……ッ!!」
ああーいやそれは言い過ぎか!! 慕情に浸るにはギラつきに過ぎる命名素質にもまた1985年を如実に感じた(それほど?)僕は、この諸々が単にただ自慢がしたいだけの度外れた承認欲求の権化からの度し難い露悪的発露なだけなのかも、との至極自然な結論に帰結していくのを全・毛穴で感じ取っている。
そもそもいくら大都会・TOKYOとは言え、そこまでの危険がありそうな秋葉原じゃないと思えるし、そう鑑みてみると何だろうこれはあれかな、団内部における分かりやすい上下関係構築のための行為に過ぎない気がしてきたようぅん何かそう考えると一番しっくりくる……
じ、ジロちゃんにはアタイが直々に教えてやるちょこざい感謝すんドめとよッ、との誰に頼まれたわけでもないのに超速で繰り出された濃厚なる希少性格のようで絶対にそうでは無かろう物言いに、せっかく体に貯蔵しかけていた三ツ輪弁当分のカロリーの8分の5くらいを一気に持っていかれるような気がして、僕の呼吸は徐々に浅くなっていく……
その次はオムライスね……ムライスね……イスね……との、おおお美味しかったよありがとうう、とだけ何とか言えた僕に返してくれたその天上のエルパソのような(また地名か!)言葉だけを記憶野に反芻させつつ、喜色満面の御大のレクチャーを甘んじて真顔で受けるほかは無い自分を感じている。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる