アッサラーム!アライくん

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Ally-24:鮮烈なる★ARAI(あるいは、グッドイナフな/甘栗ボイィズ)

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 とは言え。

「……す、素手・素立ちの状態から即応対応ば出来るちゅうんが、『A★M★N★C』の実戦に即しちゃるばとこだやし」

 名前の突拍子無さとは正反対に、御大流護身術というものは実に理にかなったものであったりしたことが徐々に分かってきたわけでもあって。背後から首を絞められた場合とか、正面から胸倉を掴まれた場合とか、こちらが腕を極められた場合とか、事細かな状況シチュエーションにおける対処法がそれぞれ確立されていて、その全てが「力の無い人間でも手順に従えば簡単にできる」こともあり、意外と僕を始め赤氏・黄色氏もすこんと嵌まりのめりこんでしまうほどなのであった。

「……ええと、巻き付いている相手の右の手首を内側からつかんで……」

 そして「修行」二日目からは天使みつわさんも参加してくれるようになったのだけれど。

「……」

 柑橘と何かの花の香りが相まったような、それでいて柔らかなシルクのようなミルクのような甘やかさも混じり合い、天上の芳香パフューム刻目のっちング丘陵ヒルズ恋人ラバー的なというか(どういうことだろう)、いやそれ以前に僕の言語野が既にやられている感があるほどの威力のフレグランスが僕の胸元より漂ってきておる……そして何より、

 三ツ輪さんを、背後から軽く抱きしめている……手錠ワッパを打たれることなくこのような黄金体験が出来るなんて、数日前の僕ならば想像も出来なかったことだろう。もちろん「修行」の一環だということは分かっている。分かっているというよりは、それを大脳以下の中枢器官全てに刻み銘じておかなければ、本当にお縄になってしまう可能性もあるので、僕は脳内でがっぷり四つに組み合ってせめぎ合っている理性・野性・獣性(理性不利では)のバランスを何とか取らんと、なまじの不審者もかくやと思わせるほどの顔筋攣りまくりの顔で耐え難きを耐え忍んでいる。

 しかして、またまた御大の神ヅモにより、このような恩恵にあずかることが出来ていることは最早疑いようも無くなってきているわけで、何と言うかそういうところは上に立つべくして立つという瘴気オーラを感じさせられるのだけれど。と、

「げ、『元老院』も今んっきゃば、ぁらに干渉はしてきてねえがじょ? 今後どんなきたにゃか手ぇば使っとぉて阻止してくるかば、分からんちょれいも。用心するに越したこっちゃば無こう思うどる。心配性さばがり巻き一人前だけ出前、ちゃっど思われるかも知れんぎが」

 最後の比喩は1Åも分からなかったけれど、確かにあれだけの狼藉をカマしておいて、ノー報復である可能性は薄いよね……こちらの手札であるところの××動画にしても、開き直られたら効力を失ってしまうだろうし。バックには何かガラの悪そうなのも見受けられたことだし。

 あまりそんな物騒なことは考えたくはないけれど、万が一を考えて、自分の身を守れるくらいにはなっておいた方がいいよね……願わくば三ツ輪さんも守れるような男に……いやまあ今回その心配はまず無さそう。身内だし向こうも手荒な真似はしないか。でもそれ以外でも何が起こるかは分からないし、女子を護るのは元来男子たる者の務め……僕はこれまでにあり得なかったほどの真剣さでこの『A★M★N★C』に取り組んでいる。

 そんな、にわかに「団」というか「部活動」のような趣きを呈してきた「1Q85団」であった……もちろん初志(と言うほどのものでもないかもだけど)を忘れたわけでもなく、土曜の11時に秋葉原駅の電気街改札前で待ち合わせということを、「修行」4日目の金曜日に告げられ解散の運びとなったけれど。

 充実感……

 何と言うか、日々体を動かしていることもあって、最近はよく眠れる。そして昼は栄養のバランスの至極取れた天使のお弁当をいただいていることもあって、体も頭も調子がいい。んんん……そして週末極めてデートっぽい、いや極めてグループ交際っぽいイベントが待ち受けているわけで、これはもうリア充と言っても過言では無い域に達しつつあるのかも知れない……

 そんな遠足前のような高揚感に包まれながら、布団の中で当日の緻密な想定構想シミュレーションを組み立てつつ、まんじりとも出来ないままに、その日がするっとやって来た。

 前述の通り、アライくんと僕の最寄り駅は京急長沢で同じなので、そこから一緒に行くのかと思いきや、わ、ぁはちょっつら用事ごばあるとじゃに、先行くば、とのことで集合場所までは別行動となっている。三ツ輪さんたちは堀ノ内なので途中で合流も出来なくは無かったけど、アライくん不在の状況下で三姉弟と同席というのも何を話していいか戸惑うこともあって、結局みんな秋葉原現地集合ということに相成った。ちなみに三ツ輪さんも弟二人とは別に向かうらしい。本当に冷淡ですなあ……

 爽やかに目覚めた僕は、二段ベッドの下段からのそのそと這い出すと、カーテンと窓を開け放つ。清々しい、朝である……天気は快晴。五月の、ほどよく冷気を孕んだ風が、僕の期待で火照る体を優しく冷ましていってくれている……

 ついつい興奮のあまり、母さんには今日のことを喋ってしまっていたこともあり、朝食の席で冷やかされながらも、じゃあちょっと小遣いでもやんなきゃねえ、と三千円也を臨時で貰ってしまい、思わぬ後押しに恐縮しつつも家を出るのであった。

 母さん、今日は何だかいけそうな気がする……

 何故か男前になっているだろう顔で振り返りながら、僕はリュックを背負いなおすと最寄駅向けて確かな歩様で歩き出すのであった……いざ秋葉原……ッ!!

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