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Ally-32:非情なる★ARAI(あるいは、進歩スタンダップ!/緋色になる時それは今)
しおりを挟むそんな風に意気込んだ僕であったけれど、自分の中で何かを燃やしくべていないと、一気に収縮してそこから消えて無くなってしまいそうな、そんな妙な感覚が丹田のさらに下あたりからじんわり広がり昇ってきているのだった。まあ何でこの地下空間で拘束椅子に座らされて下手うつと電撃を喰らわせられるという状況に陥ったのか、朝一の自分の行動から振り返ってみてもやっぱり皆目腑に落ちるということは一ミリも無かったのだけれど。
それでも僕は。
非日常との決別。それを為さんがため、ここ一番の非日常に立ち向かおうとしている……というと聞こえはいいかもだけれど、はっきりここ最近の幸運の流れが逆行して押し寄せている感がして、いま以上の混沌に頭から突っ込んでしまわないか、非常に心配である僕もいて。お遊びはここまでで、とうとう抑えの切り札を投入されてきたか……
ちょっと前にいい感じでやってやる宣言をかましてしまったことが、ことのほかしくじり感、否めなくしてきていて……何でだろう、混沌に引き寄せられるようにして行動してしまったというか、今までの幸運が撒き餌だったのか、とにかく、収まるべくして収まった感も何故か非常にこのソファへの嵌まり具合と比例するかのように精神の根っこにフィットしてくる感はあるけれど。
そんな事を考えている場合じゃない。
自分の、ダメだったエピソードを開陳してそれを評価してもらいボーダーに満たなければ肛門に電流を撃ち放たれる? うん……要約するとそんな感じだけど、そうすればするほど何でなん感は否応増すよね……どぉうしよう……どおしよう。
「それじゃあ中堅……っていうかぁん、『真打』登場って言ってもいいかもねぇん……第三局!! ジローちゃん、いつでも着手OKよぉん」
「尻目」の枕詞はもう「逡巡」一択なのか? と思わせるほどにまたも僕の逡巡は尻目られてそう無情のGOサインは出されてしまう……
ジョリーヌさんの、出会ってからそこまでの時間は経ていないはずだったけど、巨顔の下半分が焦点が合うたびに見た目青く触感(たぶん)ざりざりしてくるという様相にこれぞのリアルアハ体験をさせられつつも、僕は落ち着け落ち着けと呼吸を整えていく。いやそれよりそこまでの過剰なかいかぶりをされても……いやひとまず外野のことからは意識を遮断だ……
大脳に酸素を送って落ち着くんだ……大脳は考えを司る器官……僕に天啓をもたらしてくれる……そうだよ、いろいろあるだろう? 幼き頃よりいまここに至るまで、いつだってしけったおかきのようにしんなりとこの幸薄かった僕になら……「DEP」なんて、束を構築できるほどにあるはずだッ!!
椅子に固定された僕の左手側には僕の身を案じてくれているのか、天使さんの不安そうにこちらを窺ってきているけれど、それはそれで何か身体の中枢付近を甘く震わせてくるような天上のアネモネのような(花シリーズ……いけるやも)表情が僕の深奥を貫いてくるようであり、かと思えば右手側からは単純な「興味」と表現するほかは無いほどの何かこちらを実験動物でも見てくるかのような狂科学者そのものかと見まごうほどの下天のロベリアのような(花言葉「悪意」)歪んだ顔つきが僕のこれまた突いてはいけない内部器官を貫こうとしてくるようであり。そんな相反する気を身体の半分半分に浴びせられて男爵と化してしまいそうな僕がいる……
いや、本当にそんな気分になってる場合でも無い。
自分の人生をッ!! 魂の慟哭をいまッ!! ぶつけてやるッ!!
左手を、四指を揃えてそこまでと思うほどに反らすと、僕は目の前の机に置かれた赤い「着手ボタン」目掛けてそれを勢いよく振り下ろしていく……ッ!!
「……『小学校五年の時、退屈な六時間目の社会科の授業中、隣の席の伊駒さんていうかわいい女の子が、ふとした弾みでぷうとおならをしてしまったのだけれど、小さく可憐な音ながらまどろんでいた教室全体に運悪く響き渡ってしまって大騒ぎで犯人捜しが始まってしまって、真っ赤になってうつむいてしまった彼女を助けようと、よせばいいのに「あはは僕でしたーほら、ぷうっぷっぷー」と柄にもなくおどけて椅子の上に立ってきばったら勢い余って本体がこんにちはしてしまい、前の晩ピビンバをたらふく食べていたこともあってその臭気は尋常ではなく、その日から「ミモデール」という聞きようによっては優雅な渾名で呼ばれるようになった件。伊駒さんは発覚を恐れてか、僕に対して距離を置くようになってしまった件』」
甘苦い思い出が、僕の声帯を通して、忘れたかった過去から笑って話せるエピソードへと昇華していく……
これが……魂の浄化とでも……いうのか……
脳の中に巣くっていた澱のようなものをかき集めて全部吐き出せたような、そんな感じがした。はからずも、衆人環視の場で脱糞をかましてしまった時そのもののような、プラスとマイナス双方のやっちまった感が、僕という形代にぼこぼこ風穴をあけていくかのような。
何と言うか、ニュートラル。平常な自分が、自分の中心に力み無くただ立っているような気がして。
そんなちょっとわけわからないけれど爽快さを感じている僕の目の前のモニターに映る「百の窓」の中の顔や顔が一様に強張って固まっていくのを見て取る。あ……まずい、これ多分独りよがりの奴になっちゃってたかな……来たるべき電流に備えてしっかりと下の口を絞りながらも、僕はやり切った感を全身に感じていたわけで。ごめん……あとは頼んだ、アライくん……
刹那……だった……ッ!!
<評価点:12,388pt>
モニターに提示された数字は、ん? あれあれおかしいですよ? 100人が100ptずつって言ってたよね、あれなんだこの点数……?
「ア……ゴ……ッ」
不審に思ってジョリーヌさんの方に目で問いかけようとした僕だったけれど、相対したその巨顔面が、顔色を失って上が白色/下が青色の二分割に変貌していくのをリアルタイムで観察させられるばかりであって……
あっるぇ~? また僕なんかやっちゃいましたぁ~?
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