アッサラーム!アライくん

gaction9969

文字の大きさ
32 / 42

Ally-32:非情なる★ARAI(あるいは、進歩スタンダップ!/緋色になる時それは今)

しおりを挟む

 そんな風に意気込んだ僕であったけれど、自分の中で何かを燃やしくべていないと、一気に収縮してそこから消えて無くなってしまいそうな、そんな妙な感覚が丹田のさらに下あたりからじんわり広がり昇ってきているのだった。まあ何でこの地下空間で拘束椅子に座らされて下手うつと電撃を喰らわせられるという状況に陥ったのか、朝一の自分の行動から振り返ってみてもやっぱり皆目腑に落ちるということは一ミリも無かったのだけれど。

 それでも僕は。

 非日常との決別。それを為さんがため、ここ一番の非日常に立ち向かおうとしている……というと聞こえはいいかもだけれど、はっきりここ最近の幸運の流れが逆行して押し寄せている感がして、いま以上の混沌に頭から突っ込んでしまわないか、非常に心配である僕もいて。お遊びはここまでで、とうとう抑えの切り札かみさまを投入されてきたか……

 ちょっと前にいい感じでやってやる宣言をかましてしまったことが、ことのほかしくじり感、否めなくしてきていて……何でだろう、混沌に引き寄せられるようにして行動してしまったというか、今までの幸運が撒き餌だったのか、とにかく、収まるべくして収まった感も何故か非常にこのソファへの嵌まり具合と比例するかのように精神の根っこにフィットしてくる感はあるけれど。

 そんな事を考えている場合じゃない。

 自分の、ダメだったエピソードを開陳してそれを評価してもらいボーダーに満たなければ肛門に電流を撃ち放たれる? うん……要約するとそんな感じだけど、そうすればするほど何でなん感は否応増すよね……どぉうしよう……どおしよう。

「それじゃあ中堅……っていうかぁん、『真打』登場って言ってもいいかもねぇん……第三局!! ジローちゃん、いつでも着手OKよぉん」

 「尻目」の枕詞はもう「逡巡」一択なのか? と思わせるほどにまたも僕の逡巡は尻目られてそう無情のGOサインは出されてしまう……

 ジョリーヌさんの、出会ってからそこまでの時間は経ていないはずだったけど、巨顔の下半分が焦点が合うたびに見た目青く触感(たぶん)ざりざりしてくるという様相にこれぞのリアルアハ体験をさせられつつも、僕は落ち着け落ち着けと呼吸を整えていく。いやそれよりそこまでの過剰なかいかぶりをされても……いやひとまず外野のことからは意識を遮断シャットだ……

大脳に酸素を送って落ち着くんだ……大脳は考えを司る器官……僕に天啓をもたらしてくれる……そうだよ、いろいろあるだろう? 幼き頃よりいまここに至るまで、いつだってしけったおかきのようにしんなりとこの幸薄かった僕になら……「DEPダメエピソード」なんて、デッキを構築できるほどにあるはずだッ!!

 椅子に固定された僕の左手側には僕の身を案じてくれているのか、天使みつわさんの不安そうにこちらを窺ってきているけれど、それはそれで何か身体の中枢付近を甘く震わせてくるような天上のアネモネのような(花シリーズ……いけるやも)表情が僕の深奥を貫いてくるようであり、かと思えば右手側からは単純シンプルな「興味」と表現するほかは無いほどの何かこちらを実験動物でも見てくるかのような狂科学者マッドサイエンティストそのものかと見まごうほどの下天のロベリアのような(花言葉「悪意」)歪んだ顔つきが僕のこれまた突いてはいけない内部器官を貫こうとしてくるようであり。そんな相反するオーラを身体の半分半分に浴びせられて男爵あしゅらと化してしまいそうな僕がいる……

 いや、本当にそんな気分になってる場合でも無い。

 自分の人生をッ!! 魂の慟哭をいまッ!! ぶつけてやるッ!!

 左手を、四指を揃えてそこまでと思うほどに反らすと、僕は目の前の机に置かれた赤い「着手ボタン」目掛けてそれを勢いよく振り下ろしていく……ッ!!

「……『小学校五年の時、退屈な六時間目の社会科の授業中、隣の席の伊駒イコマさんていうかわいい女の子が、ふとした弾みでぷうとおならをしてしまったのだけれど、小さく可憐な音ながらまどろんでいた教室クラス全体に運悪く響き渡ってしまって大騒ぎで犯人捜しが始まってしまって、真っ赤になってうつむいてしまった彼女を助けようと、よせばいいのに「あはは僕でしたーほら、ぷうっぷっぷー」とキャラにもなくおどけて椅子の上に立ってきばったら勢い余って本体がこんにちはしてしまい、前の晩ピビンバをたらふく食べていたこともあってその臭気は尋常ではなく、その日から「ミモデール」という聞きようによっては優雅な渾名で呼ばれるようになった件。伊駒さんは発覚を恐れてか、僕に対して距離を置くようになってしまった件』」

 甘苦い思い出が、僕の声帯を通して、忘れたかった過去から笑って話せるエピソードへと昇華していく……

 これが……魂の浄化とでも……いうのか……

 脳の中に巣くっていた澱のようなものをかき集めて全部吐き出せたような、そんな感じがした。はからずも、衆人環視の場で脱糞をかましてしまった時そのもののような、プラスとマイナス双方のやっちまった感が、僕という形代にぼこぼこ風穴をあけていくかのような。

 何と言うか、ニュートラル。平常ニュートラルな自分が、自分の中心に力み無くただ立っているような気がして。

 そんなちょっとわけわからないけれど爽快さを感じている僕の目の前のモニターに映る「百の窓」の中の顔や顔が一様に強張って固まっていくのを見て取る。あ……まずい、これ多分独りよがりの奴になっちゃってたかな……来たるべき電流に備えてしっかりと下の口を絞りながらも、僕はやり切った感を全身に感じていたわけで。ごめん……あとは頼んだ、アライくん……

 刹那……だった……ッ!!

<評価点:12,388pt>

 モニターに提示された数字ポイントは、ん? あれあれおかしいですよ? 100人が100ptずつって言ってたよね、あれなんだこの点数……? 

「ア……ゴ……ッ」

 不審に思ってジョリーヌさんの方に目で問いかけようとした僕だったけれど、相対したその巨顔面が、顔色を失って上が白色/下が青色の二分割ツートンカラーに変貌していくのをリアルタイムで観察させられるばかりであって……

 あっるぇ~? また僕なんかやっちゃいましたぁ~?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

処理中です...