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Ally-38:深淵なる★ARAI(あるいは、THAT‘S/ダンシングエロイカ)
しおりを挟むハッ、なぁにコイてんだよこのデブちんはよぅ、とのたまった細マッチョの言葉の「コイ」あたりで僕はもう腰を落として右拳を床に着けていたわけで。「このデブ」あたりでは下半身主体で溜めは充分に作ってあって、「はよぅ」の余韻も収まらないくらいのところで、アライくんの足側にいた二人も巻き込んで、僕は渾身の頭からのぶちかましを放り込みにいっていた。机の島に突進したもんだから、左膝に思い切り金属の脚部の角がめり込むように刺さったけど、不思議と痛みは感じない。
おるべすこ、みたいな呻き声を上げつつ、細マッチョ以下二名はまとめて窓際の方へとたたらを踏んだのち、もつれあって倒れ伏していくけれど、もちろんそれを見送っている暇は無い。角度を変えてまた腰を落とし、今度は逆側にいた二人に突っ込んでいく。全体重を乗せて。ぷらけにる、みたいなくぐもる声を残し、その二人も壁際まで押し出せた。
「……アライくん」
歩み寄った僕の差し出した手を握ってくれたアライくんは上体を起こしながら、だ、大丈夫じゃが、ジロー? と逆に僕を気づかってくれるけど。
……全然大丈夫だって何言ってんの。もぉぉ、アライくんは本当に心配性な人だなぁ。
これでも四か月くらい、自分なりに鍛えたんだ。「A★M★N★C」の訓練ももちろんだけど、それプラスで。……いつか言ってくれてたよね? 「脂肪の下に筋肉をつけたらがば、最強の恵体」だって。それって相撲とかプロレスの鍛え方かなと思って我流でいろいろやってみた。結果、いくら鍛えても小太りの体型は変わらなかったけど、その皮一枚下の体組成はがらっと変わったつもりだ。
それに頭から体当たりしてくる喧嘩なんて、この輩たちは慣れていないはず。もっとも、出会いがしらに顔面に拳とか肘を合わせられようと、膝関節部狙いの蹴りを撃ち込まれようと、そのままぶちかますだけなんだけどね。小学校から中学まで、ずっと謂われないいじめまがいの事を受けて来たんだ、物理的な痛みなんてどうってことない。心が折れない限り、体は動くから。
右脇腹に衝撃を感じたと思ったら、先ほど入り口付近でたむろってた奴らの一人が中途半端な長さの角材を振り回してきただけだった。脇に抱え込んで捻じり取ってやろうと体をひねろうとしたら、その前に机島の上でしゃがんだ姿勢を取り終えていたアライくんが、既に力みなく中空へと跳躍をかましていたわけで。ふわり身体を横倒しにして浮いた残像。僕の斜め背後の角材くんに飛び膝でも喰らわせるのかと思ったら、その首まわりに自分の右脚を巻き付ける流れでそのまま引き倒していた。ごどどむ、と後頭部が床に打ち付けられる音。うわ。なるほどあんまり余分な力は使わないんだね。流石。
僕の方はと言うと、こうして立ち回っている今もまだまだどんどん湧いてくる腹底のじくじくした熱みたいなのが収まらないから、それを発散させるために性懲りも無くまた頭からの愚直つっこみを、立ち上がってきた輩たちに馬鹿みたいに繰り返していくだけなのだけれど……もぐらたたきみたいに。何とも絵的には格好悪いことこの上ないけど、まあそれはしょうがないよね。
<一つ、団員は団長の取りまとめのもと、本活動を速やか且つ的確に遂行すること>
でも相手が十人近くもいるもんで、徐々に場がぐちゃぐちゃになってきていて、遂に僕は後ろから二人がかりで組みつかれ、両腕を後ろで封じられてしまう。その様子を見てようやく調子づいてきたのか件の細マッチョがいやな笑いをまた貼り付かせつつ、結構サマになってる動きで僕の顔面に体重も乗った拳を撃ち込んでくるけど。
「……!!」
左目の視界が飛んだ。うえ、こいつだけ他のとは違うよ別格の強さだよ……とか思う間も無く、返す刀で肝臓辺りにもえぐられる痛み。まずい……
刹那だった。
「うおおッ!! やっぱここだぜっ!!」
「フッ……我が団長殿と書記殿……助太刀いたす」
援軍ッ、ありがたいッ……三ツ輪さんが呼んでくれたのか。
入口付近にいた輩たちと揉み合いながら、普段はありがたみを微塵も感じさせない大柄と細身のシルエットが僕の右視界に……僕は一瞬全身の力を抜いて後ろで掴んでいる奴らに体重を預けると、反発して押し返してきた瞬間を狙って、そのまま前方に頭から倒れ込んでいってやる。僕の沈む重さに耐えられなかったか、巻き込まれて自分らも倒れるのが嫌だったのか、拘束は外れた。額を思い切りぶつけたけれど、床に這いつくばった姿勢をすかさず作った僕は、両手両足を踏ん張ってまさにのカエル跳びみたいに、またも頭から目の前にあった細マッチョの膝向けて飛び込んでいく。
<二つ、団員は団長の求めに応じて、持ちうる力を惜しみなく供出すること>
けどこれはあっさりかわされた。バックステップ気味に相手はそのまま五歩くらい間合いを取る。場は既に混戦模様。怒声罵声がわやくちゃに反響する中、そいつだけは落ち着いて半身に構えて僕と相対してくる。何かやってんのかな格闘技……どうしよう、僕のぶちかましも、もうまともに当たらなそうだし、片目が塞がってきてるから距離感からしてまず掴めない……どうすれば。思考も身体も固まってしまった。
……ファイナル刹那、だった……
「……みんなッ」
決意と凛々しさが込められた、それでいてほころぶ可憐さを孕んだ、天上の盟神探湯のような(どういうものだろう)声が室内に通った。
かと思った瞬間、この腐り果てた場に舞い降りていた天使が、机島の上に革靴のまま軽やかに登るやいなや、
「……ッ!!」
その制服の、深緑のチェックのスカートのッ、御裾をォォッ……!!
「く……」
御みずからの、御両手の、御指先で、おずおずと、焦れるような速度でたくし上げていきッ……!!
その奥に隠されていた全人類的至宝を下天の我らに晒してきたのである……ッ!! それも極めて嫌そうな、それでいて恥辱に耐えつつ顔を赤らめ唇を引き結びながら必死の、これは何だ? 表情でもこちらを殺しに来ている……?
光放つ(かのように見えた)、至宝の輝きは、
エィンジェゥブルぅぅ……ィンジェゥブルぅぅ……ェゥブルぅぅ……
ネイティブのような発音で、呆けた僕の唇から流れ出ていたのは、そのようなこだまする言の葉たちだった。パステルブルーよりも淡くパウダーブルーよりも色鮮やかな、至高の逆三角形が、その上辺中央部に燦然と輝くベビーピンク色の極小のリボンの色と相まって、「完全」とは何か、ということを脳髄に撃ち込むようにして突き付け知らしめてくる……
な、これは夢かッ!? いやそれよりも残されし右の目がぁー、目がぁぁぁッ!!
天上の梓杏的天空城滅放射大開帳の前では、一様に誰もが目を奪われ、それを網膜以下視細胞にコンマ一秒でも長く鮮明に焼き付ける作業に徹することのみを余儀なくされるのであった……
ただひとりを除いて。
「……!!」
隙を見せていた細マッチョの背後から、相手に抵抗させる間もなく素早くその腕を回してがちりと裸締めの態勢に入っていたのは、他ならぬアライくんであったわけで。
<三つ、みんなでがんばろう!>
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