摩訶☗大大大☖異世界 ダイ×ショウ×ギ=レインジャー

gaction9969

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☗1三桂(あるいは、辿り着くのは/いつの日も/カオス一番街)

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 五感全部がやっとのことで戻って来たように思えたあたしの目の前で繰り広げられていたのは、全然理解は及ばなかったものの、阿鼻叫喚の「戦国」風景であったわけで。うんだから? って言いたかったけれど、言ってもどうしようも無さそうだから代わりに頭の方に余力を回してみる……

 異世界、転移。つまりは、自分がいた「世界」とは異なるとこに移される、ってことは何となく分かってきてたものの。いや、分かってきてるつもりでいたものの。かと言って自分の身にいざ降り落ちてくると、呑み込めるか呑み込めないかは全く別の話だぁという思考が固まった頭皮の下あたりをうわうわと漂うばかりなので。「異」なり過ぎるでしょうよぅそれともそんなもんなの? そして、

「ぬぁああんだぁぁああ貴様はッ!! 突然現れるとはこれ面妖ッ!! あ、面妖なぁぁぁりィィィィィッ!!」

 目測三メートルも無いくらいの近距離に、見上げるほどの身長の多分男の人。兜に髭面で戦国武将のようないでたち。いかつい甲冑的なものの上には黒地に金銀の刺繍が綺麗な……陣羽織ってやつだよね、前に参加した「人間将棋」で視たっけ。そんなのを身に着けている。赤ら顔まで筋肉質のその壮年くらいの人は、これでもかの腹からのいい胴間声を多分というか確実にあたしに向けて放ってきたのだけれど、それが、その意味が理解できる「日本語」であったのだけれど、逆にそれがありえなさ過ぎて、まだこれが「現実」のこととは思えていない。そして、

 「突然現れ」たのはそうなんだけれど、現わせられた感の方が意味合いが強いみってことを理解してほしいんだけれど、それも言っても無駄だろうな感が電導速度よりも速くあたしの脊椎を駆け登ってきたようで、そこで大脳の思考は震えて止まってしまう。身体もすとりと三十センチくらい上空からこの見渡す限りの戦が原に投下されてからは立ちすくみ以上の硬直感をもってしてただただ棒立ちに突っ立っているばかりなのだけれど。ダメだ。ダメじゃん。何も行動を起こさない、起こせないっていうのは今この現状で最悪の悪手のような気がした。でも。

「……」

 相対した大柄壮年の逡巡は本当に一瞬で、慣れた仕草で腰から抜いたのは嗚呼これは知ってる日本刀だよね……真上からじりと照り付ける白い太陽の光を無駄に反射して閃くのだけれど、わぁあ良く斬れそぉぉぉう……

 「夢なら醒めて」という多分に虚構フィクションに寄り添ったようなセリフが今まさに頭の中を駆け巡る。何が「無限なる将棋パゥワー」だよ「神の一手」だよ、初手から必死級の投了局面じゃあないの、あの猫神めぇぇぇえ……

 いまわの際に落とし込まれたからか、そんな、自分でもやけにやさぐれた思いが噴き出てきていた。子供の頃からずっと、自分の内に、内に、しまい込んでいた思考。そうすることで他の思考……読みは深まるもんだ、実際深まっていた、そんな風に思っていたけれど。

 ……それは違った?

 生命の危機を感じたからか、やけに周りの光景がゆっくり回って見える。事故の瞬間のスローモーション、そんな事も良く聞くよね。うわんと響いていた辺りの怒号とかも殊更にゆっくりになって聞こえる。でも流されるままじゃだめだよ、そうだよ何かを。何らかの「一手」を指さなくちゃ。自分の「外」に働きかけなくちゃ何も変わらないんじゃあ……

 ないの?

「うわあああああああああぁぁぁぁっ!!」

 さっきの、猫神を非難めいて呼ばわった時みたいな、腹からの声が、まったく意味を為さない本能からの叫び声が、いつの間にか出ていた。怒号にまみれたこの混沌の場に、それは結構鋭く響いていて。いや、意味がない、なんてことなんか無い。

「……!!」

 大柄壮年の、隙も無く構えられた体勢が、少し傾いだ、ような。あたしが「何かやってこようとしている」ことが伝わった? 「何か」って、それは何にも考えてはいなかったけれど。ほんの少しだけ、相手に、「伝導」させることが出来た? まるで、盤上この一手的な、自分だけじゃあなく、相手もシビれさせちゃうような。

 シビれとは真逆に、自分の身体が震えるくらいの大声を出したせいか、あたしの身体は何とか動かせるくらいにはなっていて。それでも次の瞬間には壮年の振り上げられた白刃が、一直線に自分の左肩辺り、たぶん首根っこを狙って振り下ろされてきたのが見えて。ああやっぱりどうしようも無いんだ意味なんて無かったんだ……みたいな諦めがよぎったけれどそれでも少しでもそのぎらり輝く刃を防ごうと両腕を無防備にも身体の前に差し出していて。

「……」

 来るだろう衝撃に備えて目を閉じた。その、正にの、

 刹那、だった……

〈『5二白駒はっく』〉

 何か、わざとらしいまである、キンキンの機械音声みたいのが辺りに響き渡って。伸ばした腕に、その先の掌? に凄いシビれ、を感じた。その痛かゆさに思わず目を開けてみたら、眩い黄金の輝きが視界のほとんどを覆っていて。かろうじて自分の掌からそれが放射されているんだろうってことが分かった。ていうか分からされたっていうか。

そしてその光の奔流はまっすぐにその先の大柄壮年に向けられていて。って感じた瞬間にはそこにはもう直径一メートルくらいの「光の球」としか表現できない正にの光球しか無いように見えて。あれ、これ何だろうあのヒトどこ行ったんだろう、あの刀は? とか、とりあえずワケわからないままで、それでも自分の身に向けられていた危険が無くなったことにほっとしてしまうけど。いや、周りにはまだ鎧甲冑の血気盛んそうな男衆たちが群れなしているよそしてこっちを凄い顔で凝視しているよ全然ほっとしてる場合じゃあないよ……

 とか、また性懲りもなく思考も行動も固まらせちゃった、そんなあたしを包むかのように、

〈……マデ、百六十三手ヲモチマシテ、先手ノ勝チトナリマス〉

 またあのキンキン合成音声。どこから聞こえてくるんだろう、というもっともなんだけど今やる思考では絶対ないだろう考えに、それでも必死で縋り付こうとする。そうでもしてないとキャパを超えてぶっ倒れそうな気がしたから。

「……!!」

 でも次の瞬間には、うん、今やっと認識できたんだけれど、この広大な平原全土をくまなく「枡目」のように覆っていた「格子状」の「青白い光線」が緩みほどけて、ぱつ、とかき消えたかと思うや、今の今まで殺気走って大声を上げていた面々のうち半分くらいが、パンチの利いた濃ゆいご尊顔を恐怖かなんかで歪めつつ、今度は何か怖気感じるほどに野太く黄色い悲鳴のような音声を発しながら、一目散に視界の奥面の方向けて走り始めるだけれど。見たことは無かったけど、これ以上ないほどの「敗走」という名の絵面に何故かああこれがはいそうですかとか納得はさせられるんだけれど、うぅん、何が何してどうなっているんだろう……

 持ち時間四時間の対局終盤の捩じり合いに陥ってもここまでは大脳は使うこと無いよねってくらいに脳細胞のひとつひとつが熱を持ってそれぞれ単独で回転しているような感じになっていて。

 ついにあたしは。

………

 ……白い。白い光……? だ。ええと、ああそう、千駄ヶ谷の高架くぐるところで貧血かなんかで倒れちゃったんだっけ……いけないいけない、だいぶ冷え込んできてたし、いくらなんでも路上に寝てちゃあダメだ……でもアスファルトって固いって思ってたけど思ってたより柔らかい……そして何だか暖かい……うぅぅん、対局無い週の日曜のような、お布団の中でまどろんでられるようなそんな、心地よさだ……だめだめ起きないと。と、

――にゃははははぁぁぁん……やはり貴女は見込んだ通りの勇者サマだったにゃおおおおん……

 あれぇ何だろ。すごく良かった心持ちのところにすごいざりっと引っかかれたかのような嫌な感触……ううんと、この声は……

――ネコルニエル、神、さま。
――あれぇすごい冷たいお声ですにゃん……?

 なるほど。やっぱそうか。そんな感じが実はしてた。

――『棋力』がどうとか。あれは何。
――すごぉい据わった目をしてらっしゃるのにゃん……? ちょっと説明チュートリアル的な段取りを踏み間違えてしまった、ただそれだけのことにゃんよ……

 白い空間は、これは「異世界にいるあたしが見てる夢」なんだろう。そんなことだけは分かった。そして何故かそこに例の猫神様が何らかの力をもってして踏み込んできたと。

――そろそろ帰らないと。帰って今日の敗因をAI使って解析しとかないと。
――結果、敵将討ち取ったりったわけですにゃし、初戦は上々。その調子でこの『世界』を存分に闊歩していって欲しいだけにゃのですよ?

 よく言う。殺されかけたんだけど。しかも斬首で。冗談じゃない。

――帰れないなら帰れないで、もうあんな『戦場』には出ない。どんな仕事があるか知らないけど、まっとうに働いて暮らす。
――はにゃあああ……

 目が覚めそうだった。から、夢の中だけれど私は思い切り鼻から息を吸い込んで覚醒しようと試みる。もう付き合ってらんない。一瞬で目の前が暗くなって。それは自分の瞼によるものだと気づいた時には、目を見開くと共に仰向けになっていた体をがばと起こしていた。さっきまでの「戦場」では無かったっぽいけど、長居は無用……と、

 刹那、だった……

「……お目覚めになりましたか、『聖棋士せいきし』殿」

 ベッドに寝かせられていたみたい。和風と思ってたらそうでもないんだ。ってそれより何よりあたしの目線の下で凛とひざまずいている銀髪の整ったお顔のお方はいったいだぁれ

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