摩訶☗大大大☖異世界 ダイ×ショウ×ギ=レインジャー

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☗1九仲人(あるいは、結着する二次元三次元/マンインザ混沌シャドウ)

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 〈……マデ、百九十二手ヲ持チマシテ、上手ノ勝チデゴザイマスにゃん♪〉

 ほどけた。緊張と。あと何だろう、諸々に絡みついて色んな方向にあたしの身体と精神をぎちぎちと、引っ張り散らかしていた感情の糸のようなものが。

 あたしの声に応えてくれたみんなの一斉攻撃は、戦略とか戦術とかそんなのを吹っ飛ばすほどの勢いで盤面中央の相手方を見る間に圧倒していき。強固に囲われていたはずの相手の「王」を護ってなきゃいけなかったはずの傍らの「金」に至っては、ポカとスゥの問答無用の連続突っ込みの前によたよたと斜め前、前へと上擦らされてしまっていて。最後、こちら側の「角」さんが「自らの意思」で敵陣深くまで切り込み、成ると同時に横に一歩、ステップを踏んでいたかと思った時には、

「……☖6九馬ッ!! お願い決めてッ!!」
「御意」

 あたしの間の抜けた指示よりも遥かに速く。

「……」

 敵方の「王」を、その手の中に現れた極大の「鉈」みたいな物で一刀両断していたわけで。金色の光球が放つ光と共に、青白い光線に区切られていた「空間」もほどけるようにして消滅していった。

 猫神さまの甲高い終局を告げる声が、さんざん酷使した脳内に響き渡ってくることによってとどめを刺された感じのあるあたしは、その場に崩れ落ちるように両膝を赤白タイルへと突き込ませつつ、さらには前のめりになって倒れ込んでいっちゃうのをどうしようもないままで、まあもうどうでもいいやと、顔面から突っ込んでいきつつも、自分を傍観しつつ、流していくほかは無かったわけで。けど、

「……ッ!!」

 あたしと地面とが為すその隙間空間に素早く駆け込んで来て。その小さい身体に力を込めつつ抱き止めてくれたのは。

 さっきも助けてもらった。おかっぱの少女だったわけで。声が……もう出ないよ、でも伝えたいよ……

「あふっ……す、スゥ……ありっ……ありが、と……」
「ハカナさま……もったいなきお言葉」

 その華奢な身体に体重を預けちゃいながら、残ってた力でその薄い背中を抱き締めちゃいながら、思考も言葉も顔面もぐちゃぐちゃになってるあたしはまたも脳をうしろの方へ引っ張られるようにして、意識を飛

 ――

「……お目覚めになりましたか、ハカナ殿」

 夢だったのかなそれともデジャヴかな、と思ったけど、あたしの呼び方とか、さらには安らぎといたわりとあと何か、が込められたかのようなジェスの甘い声に、ああまた気を失っちゃったんだこれは本当の二回目だよとひとり納得し、身体の痛みとかはあまり感じなかったので、くいと腹筋を使って上体を起こしてみる。先ほども寝かされていた部屋。もう夕方になったのかな。寝かされていたベッド右脇の小窓から滲んで来る光はうっすらと赤みを帯びている。

「……見事なる対局。フムントス殿も予想以上との評価をくだされておりました。そして不肖私もまた……貴女の鮮やかな指し回しに、心底驚嘆いたしますれば。何卒、これよりはこのジェスを御供に使ってやってはいただけないでしょうか……ッ!!」

 ちょっと待って近い近い近い。今まで父親以外の男の人と接してきた最短距離なんて、盤を挟んだ一メートルくらいあるのが普通だったから、ここまで接近されるといかに顔つきの整った銀髪の美形だとしても少しのけぞってしまう。そして手放しの賞賛……いやいや最初から最後まで徹頭徹尾慌ただしい諸々だったでしょうよぅ……とは思うものの、フムントス殿……おそらくはあの「将」殿のことと思うけど、あのひとにも認められたということ? うぅん大分わやくちゃやってしまったという雑感でございますが……初っ端つくっていた立ち居振る舞いキャラだって、ねえ? 最後号泣だったし。うん、今さら恥ずかしいな……うんうん、でも、向き合わなきゃだよね。私は息を大きくお腹の底まで落とし込む呼吸をしてから言葉を紡いでいく。

「……いろいろと聞かせてもらってもいい? 正直に言うけど、あたしはあなたの想像している『聖棋士ドノ』とは多分違うし、装ってたほどここでの『流儀』みたいのが分かってるわけでもないの。それでも……」

 目の前で熱心にその蒼く揺蕩う瞳に真摯な光を滲ませたひとと視線を絡ませ合うだけで頬骨から耳の上辺りが紅潮してくるのは自覚できてるけど。それでも言わなきゃ。言わなくても伝わることもあるって、それもさっき実感できたんだけど、「言う」という行為そのものに意味があることだってあるわけだし。

「みんなの役に立ちたい。あたしが何かを出来るんだとしたら、その何かを成し遂げたい。その……あたしの、仲間、たちと一緒に、ってことだけど」

 後半ぐだぐだになっちゃったけど、吐いた言葉に嘘は無い。「ここ」に来た当初はもっと傲岸なコト考えてたような気がしたけど、それはやっぱり間違ってるっていうか、自分には合っていないような気がしてた。「自分」っていうのが、まだはっきりとは分かっていないあたしだけれど。だからもう、色々溜め込まないでどんどん出していくことにした。そうしていく中で、試行錯誤しながらかな、少しづつ「自分」のことにに向き合っていければいい、とそんな風に思えるようになっていた。

 と、ゲヒィ、みたいな妙な声が響いたかと思ったら、目の前の美形イケメンが感極まったのか、せっかくの整い顔をこれでもかと歪ませて湧き上がる感情に耐えているのかでも耐えきれてない部分が顔筋全部に伝播しちゃってるよそこまで我慢するんだったらもう感情のおもむくままに吐き出しちゃえばいいのに……

「……」

 ここで噴き出してしまうのは悪手中の悪手であることくらいは人づき合いが相当希薄だった自分でも分かる。のでさりげなく掛け布団の中で左手の甲の人差し指と中指の間のいちばん痛いところを左手の親指の先を最大限突き立ててこみ上げてくる笑いの衝動を痛みというものにてぶつけ相殺させる作業に没頭していく。と、

「ヘイヘイヘイヘイッ!! いっつもてめーは何なんだッ!! ハカナ様の側近気どり振る舞うのは十手二十手は早ぇえっつってんだろ、この早漏ヤローが」

 またしても既視感覚える物言いで、部屋にかつかつと入ってきたのは黒髪黒衣のゼルメダであって。あれここのくだりはずっと一緒なのかな……というあたしのそんな詮無い不安を掻き消すかのように、

「ハカナ~無事でござるか~」
「よかったでござる~オイラたちを活躍させてくれてありがとう候~」
「静かに」
「はにゃ~やはり私が見込んだ通りの御仁でしたニャ~わざわざのチュートリアルなど無粋、でしたかにゃん~?」

 その後からぞろぞろと。それはぞろぞろと先ほど実際にあたしと共に戦ってくれた面々が騒がしくも入室してきた。けど、語尾が定まらない喧噪の中で、ひとりさりげなく自分の立ち位置を修正しようとしてきてるのがいるよね……

「ジェス、その入り込んで来た黒いのをつまみだして」
「御意」
「ちょ待っ!! そういう態度はよろしくありませんですニャよ儚奈ッ、モガガ、一度仕切り直して私のお話に耳を傾けてみる、そんな選択肢もあろうというものですニャよぅ……フガフガ」

 うぅん……まあそこまで邪険に扱わなくてもいいか、って自分でも一歩引いた感じで見てたんだけど。と、

「喋る猫さん、ってのもまあ規格外ですねぇ、やはりハカナ殿は面白い人材、なのかも知れませぬ」

 ゼルメダの方も割と流し気味な感じで、ベッド脇で一度畏まってから、そんな少し砕けた調子で声をかけてくれる。その顔に浮かぶのは少し悪戯っぽいっていうか、それ込みで何となくの好意、みたいのを感じ取ることが出来た。と思う。たぶん。あたしはその表情に釣られるようにして、よく考えを自分の中で熟成しないまま口を開いてしまうけれど。

「さっきの対局でも分かったと思うけど、あたしはそこまでの者じゃないの。何度も言うけど『聖棋士』でも無い。今までウソつこうって思ってたわけじゃないけど、ハッタリ振り回して振舞っちゃってごめん。でもここにいる人たちの、役に立ちたいって思ってることはホント。だからもう少しだけ、ここにいさせてもらって、やれることを探していきたい。それに協力してもらえるのなら……」

 うん、いざ言葉にして出そうとすると、全然まとまらない。でもまとまらないままでも、外に出さないと何も伝わらないってのは何度も知らしめられてきたことであって。と、

 エヒィ、みたいな引き攣る声を上げたかと思うと、ゼルメダはその褐色の整った顔をも引き攣らせちゃった。うん……まだあたしヒトとの接し方に難あんだろうな……伝えたいことを伝えるのってやっぱそう簡単にはいかないよね……

「……ゼルメダ、お前が何を言おうと私はハカナ殿のしもべとなる。先ほどの対局の中で、確かに光を。確かな光を見たのだ」
「うぅるせんだ、てめーはッ!! 次そのしたり顔したら戦場だろうとそのガラ空きのケツにねじ込んでやるからなッ!!」

 この二人はでも仲悪ぅい……でも二人ともちょっと待ってとか軽く言ったら即座に双方胸に手を当てて畏まっちゃった。いや、そういうのはもう望んでないのよぉぅ……

「にゃふふふ……やはり統べるべくして統べる勇者サマなのにゃん……さあ!! いい加減自らの使命を受け止めて、この世界を救う戦いへ身を投じるのだにゃお゛おおんッ!!」

 しれっと被せてきた黒猫をジェスの胸元から摘まみ上げると、創造主が自分の創った「世界」をどうとも出来ないのはどういうこと? と、慣れない強張った笑顔で極めて優しく問いかけてみるものの、保持している首の後ろの皮がずり落ちそうなほど震え始めちゃった。うぅん、やっぱりコミュニケーションって難しい……と、

「ハカナ殿、失礼する。追って我が将から依頼をされるだろうが……ここより北西への敵支城、『ムルデスタ』への出立まであまり時が無い。感じでは受けていただけそうだが、であれば用意の方を速やかにお願いしたいと思ってな。おっと、俺はツァノン。『桂』だ」

 これまたしれっと扉口から流れるような体裁きで入ってきたのは、黒革のつなぎみたいな質感の装束をした、真緑の髪を根元から立ち上げた上で、ぱらりと垂らしているという変わったヘアスタイルの青年? であったわけで。

 てめーは口の利き方を知らねーのかッ!! と怒鳴るゼルメダを宥めながら、え、何か話の方もしれっと進んでる? とか思って吊り下げたままだった黒猫の方を見やるけど全力でそのジンジャーエール色の猫目を逸らされた。

 この異世界の流儀が少しづつ分かってきたと思われるあたしだけれど、分かったところでどうともしようがないということもまた分かりかけてきている……うん……

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