摩訶☗大大大☖異世界 ダイ×ショウ×ギ=レインジャー

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☗3一猫刄(あるいは、超絶/昂神/SATSURIKUのベルがいま鳴らんとす)

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〈か、『神の一手』を一度放ったが最後、例えとしてはアレだが的確に過ぎるので敢えて言わせてもらうのだが、快感絶頂オルガスムスから快感のみを取り去った、とんでもない疲労感・脱力感だけが精神・身体を襲うはず……動くことも、考えることも出来なくなるくらい……の強烈さなはず。四十を過ぎた私などは、どんなに頑張って色々なことをしてみても、『三十分』ほど無になる時間が必要だというのに……若さか、これが若さ……いや、高二男子たる『齊瀬サイセ』でさえ、せいぜい『二十分』とさほど変わらなかったような……ハッ!!〉

 このご時世において軽く糾弾されそうなことを不用意にのたまった牛男が途中で何かに気づいたようにこれでもかの「ハッ」という腹からの発声をしてくるけど。何だっていうの。まあそんな「気怠い感じ」っていうの? 全身から何かを抜き取られるような、そんな感覚は確かに感じたけれど。でも「急速チャージ」のアドバンテージははっきり有利っていうか、局面が局面だったら優勢ないしは勝勢まで有り得るよね……それに残る「輩」たちは「五人」の計算だけれども、そいつらが徒党組んで仕掛けてくることはほぼ確と見積もるべきだろうから、懸念点のひとつである、「多対一」の状況になっても落ち着いてひとりずつ「神撃」で沈めていくというやり方がぎりぎり成り立つかも知れない。「あいだ三分」。その間を恐縮だけれどあたしの頼れる仲間たちに立ち回って護ってもらいながら。

「ハカナ殿、こいつの突進力ってのは癪だが強力だ。捨て駒としての用途は多分自陣敵陣あるいはその中間の、どこにでもありえそうだぜ。ここは脳みそをいい感じにして忠実な木偶として使うのがいいのでは?」

 いや、それだと「転移者であるアドバンテージ」が使えない。すなわち、「神撃」を。あたし一人より、当然撃てる「砲台」が二つになった方が戦略の幅も広がる。そしてそこに考えが至ると、この牛男は「仲間」としてこちらに引き込んでおいた方がいいと思った。不安視されるのはそこまで忠誠を誓ってくれるのかってことだけど、あっさり寝返るなんてこと、うんまあやりそうだよね……そして盤上でそれこそ「方向転換」したら敵方に「成っている」なんてことも、あり得る。当然のように「法則ルール」とやらに組み込まれてんじゃないのかな。

「……」

 でも良手は思い浮かばない。プレートから上半身を立体化させている牛男とゆるりと目を合わせる。ここはもう肚を割って互いにとっての落着点を見つけていくしかないかも。こんな交渉事なんて今までやって来たことなかったけど、相手がいるんだ、「対局」とさして変わらない。相手のことを考えつつ、その立場にもなって物事を考え、そしてその上で自分の主張も通す。とか思っていたら。

〈ひ、ひとつ不躾なことを聞いてしまうのだが……それは私の今後の去就に深く関わるものだからして、是非に正直に答えていただけるとありがたいのだが……〉

 牛男が畏まりつつも何だかまどろっこしい口調でおずおずと切り出してきた。こいつの方が悔しいけど「交渉術」とかその辺のことについては長けてそう。いまこの瞬間でも自分の脳みそがどうにかされちゃう可能性もあるって時によくそんな風に踏み込んで来れたね。そこは何と言うか一目置きたい部分ではある。いや、押し切られないようにしなくちゃ。あたしは軽く頷いて了承の意を示すと、それでもひとつも聞き漏らさないように、相手の意をちゃんと汲めるように背筋に力を入れて真っ直ぐに向かい合う。

〈『復帰』の速さについては『三分未満』ということで把握した。では『神一手』を放てる『回数』についてはどうだろう? 撃ち放ってのち、急速に充填がなるとしてもだね、その次のを即応で放てなければ、我々とさしたる差は生じないと思われる……〉

 牛男の言いたい事は何となく察せられた。牽制含みで聞いてきたってことはそれは重要ってことなんだろう。それは確かにって思うところもあった。でもどうなんだろう、実際に「神撃連発」した経験は無いんだよね。いまここで実演した方が早いのかなとも思ったけど、あいにくもう「対局」は終わっちゃったから放つのもあれだよね……誰に放つのかもってのもあれだし……でも待って、あのアレの「気怠い感」と同じであれば、そこから推し量れること無いかな……うんそうだよね……「実施」が叶わないのならば、確からしい推測に基づいた推論を述べるっていうのは有効かも知れない。それによって相手との意識の擦り合わせも出来たりなんかして。うんうん、あたし結構、他のヒトとも話し合ったりしてうまくやっていくこと、本当は出来るのかも知れないね……でもそんな驕るとこでもない。そんなんじゃ相手には伝わらないから。

「『神撃』そのものじゃあ無くて、あくまでそれに類似した実体験に基づくものだから話はんぶんで聞いて欲しいんだけど」

 あたしはこれまで無かったくらいに、頭の中でよく吟味してから言葉を発しようとしている。「交渉」。そうこれは重要な交渉。牛男を素のまま、「神撃要員」としてのまま、自軍に引き込めるか否かの瀬戸際だ。大袈裟かも知れないけど、やっぱり今後の死活なんじゃないかって思ってる。でも「良手」「妙案」なんて無いから、であれば真摯に。もう抜き身の自分でぶつかるまでだよね。あたしはしっかりと呼吸を深く落とし込みつつおもむろにチェアから立ち上がると、目の前のプレートから突き出てきている牛面とかっちりと視線を絡める。どうか。どうかあたしの思いよ伝わって。でも、

「……あの、例会での大事な対局でね、うまい具合に中盤くらいで優勢くらいまで押し込めてたんだけどね、最終盤も最終盤の大詰めのところでね、後で考えると何でもない二択を間違っちゃってね……頓死しちゃったことがあったのね……」

 それに付随する記憶は、やっぱりあたしをこの期に及んでも肺とか食道の辺りを冷たい針で刺すかのように苛んで来ていて。はっきり喋ろうと気を張ったのに、「ね」が語尾に絡みつく、そんな歯切れの悪い言葉になってしまう。牛男の、何を言い出したんだこいつ、とでもいうかの困惑顔。心配してあたしの周りにそれとなく集まってきてくれていた面々の、がんばれ、というような励ましを込めた切実な表情。ふいと肩に優しい感触。ゼルメダの流麗な顔が、紅い流れを湛えたその両目が、あたしを柔らかくじっと見ている。頑張らなきゃ、でも、

 やっぱりあたしはまだ「将棋」に未練がたらたらなんだ。この「世界」でのし上がってやろうとか無理やりにも息巻いていたのはやっぱりの現実逃避のポーズだったのかも知れない。でも。

 それでも。

「その局面を思い浮かべるだけで、首の後ろがぞわついちゃって、何も考えられなくなっちゃって。固形物がまともに喉に通らなくなっちゃって。スマホとかで流れてくる情報も読むのが怖くなっちゃって。お母さんには体調が悪いって言って学校にも行かずに外にも出ずにただただベッドの上で丸くなってぼんやりするだけになっちゃって」

 吐き出そう、全部を。牛男とも、ここにいる仲間たちとも、共有するんだ、あたしはこんな人間ですってことを、常に発信していかなきゃ、多分相手もほんとのことなんか共有してくれないよね。恐れずに、恥ずかしがらずに、虚勢をはらずに、嘘はつかずに。

「……それで眠りも浅いものになっちゃったから、もう、時間の感覚も無くなっちゃってきていて。このままじゃ絶対ダメになるって、そんな焦りだけはずっと頭の中でぐずぐずに渦巻いてて。だからあくまで深い眠りにつかせるためだけの、その、行為を。……結構連続でやっちゃってた経験はあるの」

 待った、と声が入った。目を向けると牛男がやけに優しい目をして制してくるのが見えたけど。

〈わかった。それ以上言わなくていい。キミの身の上話はもう結構だ〉

 拒絶の言葉。には聞こえなかった。

〈なるほどなるほど、先ほどの対局の時にも感じたが、その可愛らしい見た目とはそぐわないほどに、骨太な胆力をお持ちのようだねぇ。それはキミの今まで培ってきた『体験』にあると……それを躊躇せず開陳できるってのは、並みの大人でも難しいことと私なんかは思うねえ……ましてや他の『転移者』たちの、上っ面だけの稚拙な欲望の充足ではまったく無い、芯のこもった意志を感じるよ、ふふふふ……〉

 牛男はいろいろ拡大解釈してくれてしまったみたいだけど、それでもとにかく、

〈……キミとならやっていけそうだ。なかなかにこちらの心を揺さぶる良い『演説』だったよぉ……おじさんが思わず照れてしまうほどにはね……はっは、残る『五人』が束で来ようと揺らぐことの無いつよさ、のようなものを感じた。『力を貸す』というのもおこがましいが、この洞癬うろたむし 蓼男りぐお、キミのもとで働かせてもらおうじゃあないか〉

 伝わった。良かった……と力が抜けてまた座り込みそうになるあたしの両肩を、脇にいたゼルメダがしっかり抱き止めてくれて、そしてちょっと悪戯っぽい微笑を向けてくれる。

「まさかこの敵意むき出しの規格外を取り込めるなんて思っていなかったんだよっ」
「こんな牛々とした見た目をしてるから当然怪物モンスターと決めつけていて御免なのだよっ」

 ふたりの幼女もきゃいきゃいはしゃぎ始めて、それでようやく緊張の糸、というか網状のものから気持ちが開放されたような気がした。〈→1:メシカカエル〉を心の中で上書いて、〈仲間にする〉、と誰にも聞こえないくらいの声で呟いてみる。牛男の身体はその瞬間、プレートから完全に排出されると、あたしの目の前にその巨体を露わにした。不思議ともうその異形の姿に恐怖も嫌悪も感じない。こんな格好になってしまったのにも何かの理由があるんだろう。次なる「決戦」に向けて、得られる情報は全て収集しておいた方がいいよね……でも取り敢えずは。

「改めてよろしく。ふたりで補い合えば、あ、『補い合うことが出来る』ということを相手に示しておけさえすれば、それだけで強力な抑止力になりそうだから。互いのクーリング時間も稼げるしね……一足す一が二に留まるってことは無さそう」

 そう言って、右手を差し出す。らしくないけど、この壮年なら受け止めてくれると思ったから。ごつい毛むくじゃらの掌に思ったより優しく包まれる。悪くない。ははぁ……考えが一段も二段も深いねえ流石は奨励会……と、明確に告げたわけでもないのにこっちの素性を的確に言い当てられもしたけど、このヒトやっぱり洞察が鋭いよね……と、

「とは言え『奴ら』は緩いながらも協力関係にある。なあなあな馴れ合いが私には若干気に食わなかったのだがね……そして怖ろしく『自分ごと』となると慎重だ。ゆえに本当に『五人』が結託して同時に『対局』を仕掛けてくる、そんな事態を基本として踏まえていた方がよいまである」

 なるほど。五人ともなるとやっぱり相応の準備は必要だよね……例えば「頭数」とか。向こうが数で押してくることは当然想定はしてる。数には数。多勢に多勢。そこは「決戦」までに何とかしておかないとだ。その上であたしと牛男は「五人」を直で落とす算段をつけなきゃあならない。結構な困難、難局。それは肝に銘じるべきだ。

「言うまでもないが私が目くらまし的にやった『駒打ち』、もっと言うと『身代わり』だが、それは当然やってくると見ていい。こちらの『神一手』……『神撃』と呼称も統一しようか、を、『空撃ち』させることに主眼を置いてくる、臆病で痩せた指し回し……だがそれが有効なのも確か。実際試してみたが、ひとりが『入駒エントラ』出来る数は『アニマ』の数字が限度となることが判明している。『0から9』、平均『5』と見ておけばよいが、奴ら『五人』はひとり『9』がいたが、残りは『5』『4』『3』『1』と低めに偏っていたのが救いと言えば救いかも知れない。計『二十二』。それらをかいくぐるべく、何かこちらも策を練らないと残弾がいくつあっても足りないことになる」

 うぅん、考察が深い。そしてやっぱり向こうさんの情報をかなり掴んでいるこの牛男を引き込めたのは相当だった。そしてそこまで情報をもらったのなら、あたしの方も出来る限り開示していくべきだと思った。ので、

「あ、まあ、もちろん節約していくのは必要だけれど、機を見たら一気に、ってのも手じゃないかな……あのあれの類似体験に即して言うのならだけど、あたし一日に『28発』は……放てる計算に……なるから……」

 最後の方は意識も昂り過ぎてて正確にカウントは出来てなかったかもだけど、それでもあたしの記憶力は伊達じゃない。とまたも、らしく無く意気込んで溜め気味の掠れ声で言い放ってしまったあたしだったけれど。

 刹那、だった……

「……え? え『28』? え『完全数』え?」

 何故か牛男の牛面が、これまでに無いほどに恐怖に歪み固まったのを視認するばかりなのだけど。

 あれぇ、あたしまた何か空気読めないこと言っちゃったかしらぁぁ……?
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