来野∋31

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chrono-05:観察力は、スカル? それは見えない骨まで見透かすほど(苦)の巻

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 紺色の、視認出来る範囲ではどこまでも奥面方向に広がっていそうな空間に、ぴりぴりと肌を刺すような緊迫感のようなものが走ってきていた。そして眼前では何と言うか外連味たっぷりに両腕をゆらと振り薙ぎながら、何らかのポーズじみた姿勢を取り始めた【14】番がおるわけで。と、まばたきの瞬間、その青い全身タイツが瞬時に真っ赤に染まったように見えた。

「な……」

 にこれ、と続けたかった僕の言葉は声帯手前で止まってしまって。なんか客観的に見たくはなかった己の乱痴気姿をのちに素面で衆人の中、鮮明な映像で供されるみたいないたたまれさが第一に僕の心中で沸き上がってきたものの、それ以上に昇華された「敵意」が真っすぐなベクトルでこの正にの僕に向かって突き刺さって来てる、と思ってる暇も無かった。

「……ッ!!」

 いきなり腕を引っこ抜かれる勢いで左手を引っ張られる。空中宙空でたたらを踏まされた僕だったけど、その相手、ファイブに非難の声を上げかけた背後で、凄い熱量を持った「球」状のものが凄まじい勢いで通り過ぎたのだった……形容する語彙が抜け落ちてしまうほどのそれは「すごすさまじさ」を伴って。ええー。今までも何となく奇天烈感はあったものの基本ぼんやりとした「空間」だったから、その落差に顔の右半分が攣るほどに慄いてしまうよぅ。

「【14】から【20】まではほぼほぼ『脳筋』が居並ぶ面子構成なんだ……話し合いとかはまず通じない、というかまずそこに持っていくことすら出来ない言語野と脳の中枢が繋がっていない輩と、そう脳に刻み込むんだ、サーティーン」

 珍しく焦り苛立ち気味のファイブだけれど、そんな注意を今されても!! でも……毎月の中盤あたり、妙にテンションが上がることも今まで多々あったような……いやいや今やる思考じゃあない。それよりも「熱球」の出どころ、彼我距離を見ておいた方がいいよ、とゲームに飼い慣らされたような危機感に押されてではあったけど、肩越しに確認したその姿は、

「……今のは挨拶代わりだ……溜めるほどに溢れてくる、この精神の力は【気力】ッ!! そしてそれすなわち【ヒート】ぉぁぅッ!!」

 はからずもファイブの評した人物像の通りの大脳と直結してなかろうな物言いのイキれた輩(外観・自分)だった。しかしてその「力」ははっきり攻撃力高そ目だよこっちにもそれ用の「力」って備わってたりしないのぉぉおぉ……早くも慟哭待った無しの僕に、余裕げにかけられたのは、何番かは分からないけど上方な感じの「違う僕」の言葉。

「安心するのやで、ワイらの力を合わせれば、『単独』で迂闊にも来おったヤロウなんざ、まったくもっての敵やあらへんどすのやで」

 うぅん、こっちの布陣にも言語野が安定しない面子がおりますが、大丈夫なのですかねい……

「……!!」

 と、日常生活においても多々陥りがちな、静なるパニック状態の僕だったけど、他の「七人」は割と慣れてますよ風に各々がまた不敵な笑みを浮かべたままに、何かよく分からないけれど「光の球」としか形容できないそれはもう白く光輝く球へと同時に変化したかと思うや、それらは僕の身体に無理やり皮膚という薄膜を突き破らんかの勢いで捻じり挿入されてきたのであった……

 瓜が割れるような痛みが来るかと身構えたけれど、次の瞬間訪れたのは、奇妙なほどに意識が冴えわたる、「万能感」「全能感」みたいな強力な感覚、だったわけで。でも、

<キミに委ねるよ……我らが『能力』を使って、あいつを倒すんだサーティーン……そうすれば……奴の『支配権』も奪うことができる……>

 ファイブの声がいきなり自分の「中心」的なところから響いてきて清々しさの反面ひどく気持ちも悪くなるのだけど。それでもそんななバトル展開に、まったく高揚していないと言えば嘘になる。

 中二男子たるもの、己に無条件に無根拠にもたらされた摩訶不思議な力を行使できるという主人公的立ち位置に……鼓動が内側から鼓膜を脈動させるくらいに、心臓が躍動するかのような昂りをォ、感じないわけがないんだッ!!

 が、だった……

<【観察力05】【集中力11】【魅力18】【統率力23】【発言力25】【協力28】【コミュ力29】……それに君の【成長力13】を合わせた八つの無敵パワーを使って、あのイキレマンを伸し倒すのだッサーティン……ッ!!>

 え? 多分に戦闘力の低そうな布陣を示されて、一瞬固まってしまう僕がいる。

「え? いやどう……えどうやって? ええ?」

 キョドい質問が矢継ぎ早に舌を震わせてしまうものの、「コミュ力」とかって、いま有用? ええと……さんざか取りざたされてたけど、話通じない系ですよ、相手はッ!!

<この『ロビー』内では、キミが思ったように感じたように、『根源不明』の『妄想イメージ』こそが『力』になり得るッ!! イメ―ジをうまくオマージュすることで、それは確固たる『カタチ』を為すんだ!! 振りかぶれキミの心の『オマジュネーション』をォッ!!>

 ファイブと思しきヒトが、人の脳内でぐわんとそう叫ぶのだけれど。初出の単語をいきなりこれでもかと振り回してくるのは勘弁だよ……とか、

「……」

 表面上ではそう思った僕だったけれど、心の奥の、底の底ではもう、理解は終えていたようで。

「……【集中】は【ダイブ】」

 自然に口をついて出て来た言の葉が、周囲三百六十度を取り囲む紺色空間に、電流のように閃き伝わっていったような感覚が、僕のこのラメ紫タイツに包まれた身体に走る……と思うやいなや、その色が何故か真っ白に変化し、両手両足の先だけ深い藍色に染まっていく……

<目覚めたッ!! それだよサーティーンッ!!>
「こざかしいわッ!! 【気力】の炎でッ!! 中の七人諸共焼き尽くしてくれるわァッ!!」

 無邪気に喜ぶファイブの内部からの声と、テンプレ台詞感満載の【14】の怒鳴り声が、僕と外界を隔てる皮一枚のところあたりでハウリングしているかのようで非常に気分が悪いのだ↑が→。しかしてピィィィィイイ、という音と共に【14】の身体が紅蓮の炎の球に包まれていくよさらにその径がどんどん増大しているよ本当そういうシンプルに強そうな奴っていいよね……

 いや、「能力」は使いようだ。なんだって、きっとそうなんだ。だから、最大限それを使いこなすッ!! が、そんな気合いを入れたその瞬間には、

「!!」

 粗野な見た目とは程遠い精密な狙いをもってして、その僕の身長くらいありそうな「炎の球」が僕向けて投げつけられてきていて。でも、

 ……【集中】することでその軌道や着弾予想点は視えている。ふよふよ浮かんでいて素早い動き出来るかな、とか思っていた僕だけれど、いつの間にか右手には「魚雷」のようなものが握られていて、それがいきなり振動し、推進し始める。

 意識してやったことなのか、無意識の行動なのかは分からなかった。というか、分からない曖昧な意識下での方が、「能力」は動かしやすいのかも知れない……僕の身体は真っすぐに右方向へと引っ張られるようにして紺色空間を飛翔するかのように移動していて、

「かわしたァッ!! だとォォッ!?」

 随分芝居っけの入ったような物言いだけど、本当に驚いてくれているようだ、【14】。次の攻撃に備え【集中力】を高めていく僕だけれど、それに呼応して身体の周りに先ほどの「魚雷」たちが護衛してでもくれるかのように、ひとつ、またひとつと現れて来る。が、

<いけないッ!! 無駄撃ちはダメだよサーティーンッ!!>
「そうだぜ間抜けめッ!! この『能力』はなあ、一発撃つごとに一発ッ!! ふはは『ヌく』のに相当するエネルギーを消耗するんだぜぇッ!! 俺は【気力】を司るゆえ、この最大級炎烈弾を二発まで気力で撃ち放つことが出来るが、キサマはさっきののしょぼい一発で打ち止めで今は動くことも出来ないだろうがよぉッ!! そぉら消滅しろぉぉぉぉッ!!」

 そんな声が双方からかかるけど。でも、うぅん多分にファイブと【14】が掛け合いじみた息の合い方を見せてくるのはわざとじゃなかろうか、とか思えるほどには、僕は凪いでいた。凪いでいたはいたけど、それは爽快さの後に来る賢しき者の気怠さ、

「……」

 みたいなものでは断じて無かったわけで。理解した。この能力たちの一端を……ッ!! すなわち、

「……なるほど? であれば一日に『28発』は……!! 放てる計算になる……ッ!!」

 瞬間、え? というような彼我問わない、すっぽ抜けたような「え?」が、沈黙静寂が支配し始めていたこの紺色時空を通り過ぎていく……

 そして僕の口から放たれた言葉は、実際に三角錐のような「かたち」を為して、前方で青ざめた顔を見せる【14】のどてっぱらに回転しながら撃ち込まれていったのであった。溜めていた途中の「炎の球」は、想定外の一発を受けて面食らいでもしたのか、ぷしゅんと消え失せてしまう。よし。

「【発言力】は【ドリル】……だんだん分かってきた」

 僕の纏った全タイはまたその色を光学迷彩のように変えていて、今度は灰色地に臙脂。どうやら「能力」を使うたびに変わるみたいだ。意味は分からないけれど。と、

「に、にじゅうはっぱつゥッ!? い、いくら思春期の健康体でも、そ、そんなんクレイジーに過ぎるだろうがよぉぉぉッ!?」
<こ、これが【成長力】というわけなのかいッ!? 【性超力】の間違いじゃないのかいッ!?>

 阿吽で驚愕する敵味方を内外で感じながら、僕は、遂に僕のターンが回ってきたことの愉悦を、噛み殺しきれずに半笑いと半泣きの狭間のようなキモいとよく称される表情を浮かべつつ次の一手を放とうとしているのであった……
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