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chrono-27:演技力は、ジェミニ…これも双子座のサーガなのかのぅん…(うん…)の巻
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「『明日香』って言った? アスカって誰だよ僕らの中にそんなのいないよね……?」
自分の中で、いま放たれてきた言葉を受け止めようとして、それは叶わず。力無い反論は、何もない空間に、出したそばから分解して散っていってしまうようで。
「意識」が出してる「声」なのに掠れてしまう。必死に平静を装ってままならない声を裏返らないように気を付けながら発している僕を、目の前で凪いだ顔つきで見据えているのは……誰だ。
明日奈に似ているけど「違う」と判別できてしまう、君は誰だ。
頭が痛い……そして僕は、「僕ら」は誰なんだ。何なんだって……いうんだよっ。いつの間にか周りにはトレースした人たちの姿は無くなっていた。いるのは僕と、「その人物」と、その背後の明日奈のトレース体。でもその明日奈からはもう何と言うか生気みたいなのは感じられない。マネキン……みたいな。と、
「違う、『僕らの中』にしかもう、『来野 明日香』はいないんだ……」
自分の首元にまだしがみつくようにしていた「明日奈」の腕を優しく掴みながら、その人物はそう哀切のこもった言葉を紡ぎ出してくるけど。いや意味が分からないって。
僕らの周りに広がっていた真っ白い大空間の所々に、無音ながら激しくヒビのようなものが縦横に走っていく。中空と、思っていたところにも等しく亀裂は入れられていき、その隙間からチラ見えるのは、暗闇……いやもっと「何もなさそうな」黒い空間みたいなものだったわけで。と、
「僕ら僕らって……僕らは、『来野アシタカ』ってとこはいいんだよね……?」
浅くなってきた呼吸を何とか騙しだましでフラットにした言葉を投げかける。とにかく落ち着くんだ。自分をしっかりと持つ。まずはそれだ。けど、
「……」
目を逸らされた。え? じゃあ僕らはやっぱり「明日香」? でも、だからそんな人物いないだろ?
「聞いてくれ。崩壊してしまう前にすべてを知って判断をしてくれ、それをキミに委ねる、『サーティーン』キミに」
目下の地面にも細かい亀裂と振動が。僕の頭も割れそうだよ意味が分からないよ……ッ!!
そして、
「『来野恭哉』と『キノゥヤッタ=キハルノー』との間に生まれた双子の娘が、来野『明日香』『明日奈』姉妹だ」
ちょっと待った、「明日香」と書いて「アシタカ」だよね、そこからおかしいよ。違うの?えじゃあ僕が「アスカ」? だったってこと? 読みがそうだったの? あ、戸籍名とか? ええ? 自分でもよく分からない何かの言葉を発しようとした僕を、片手を上げて制止するその「人物」。「アシタカ」の中に「アスカ」っていう人格があるってこと? 「32番目の」? ええ? 「双子の娘」ってええ? でも僕は確かに男だけれど。思春期真っ盛りも真っ盛りの。ええ?
思考が定まらなくなってきた。そして身体が動かせないのは、周りの「空間」に混ざり込むようにして自分というものの輪郭が溶け出しているからだ、ということが何故か認識できた。「これは夢だ」、と意識のどこかで理解している夢を見ているような。
「キミの肉体と『七割』の根底意識は、『網代田 天史』。その上に、『30%の来野アスカ』の人格が形成されている。そのような、状態なんだ……」
分からない。相対している人物の言葉の意味が分からない。僕はアシロダ? アスカ? 何なんだよそれ、僕は、来野アシタカは、記憶の三割だかと、能力の九割くらいを失っていたわけじゃあないのかよっ……
え……じゃあ、何で、来野アシタカと、僕は認識しているんだ? 周りもそう、接しているんだ……?
もはや言葉すら発することの出来なくなった僕だけど、それだけは確かなことと言える。僕は確かに来野アシタカとして生活をし、そこに在った。それは、絶対真実だよ……でももしそれが。
「察しの通りだよサーティーン。『来野アシタカ』は『来野アスカ』が自らの中で形成した人格、そのことは、キミ以外の周囲の人間は知っている。知って……いてキミを『来野アシタカ』として扱っているんだ」
察せてないし、何でそんなことをするのかの意味も分からないよ。何だって……何だっていうんだよちくしょう……それに何だよこの手足末端から痺れていくような感覚はっ。
「さかのぼって説明するよ。時間も無いから手短に。『来野恭哉』のふたつ下の弟が『網代田恭志』。二人が幼少期の時に両親は離婚し、兄弟は生き別れた。だが互いに別の人生を歩んでいた二人が、とあるTV局が企画した番組制作によって再会することになる。プラハのカレル大学で」
何らかの時間制限でも迫ってきてるとでもいうのか、それとも何も僕に言わせずに淡々と進めたいのか分からないけど、極めて事務的な喋りでつらつらと述べ始めてきたよ、僕が、知らなかったことを……頭が、脳がついていけない……ッ。
「偶然の出会いをふたりともが歓迎し、二人はのちに家族ぐるみでの付き合いを持つようになる。恭志が日本の企業に就職してからは、さらに密に」
「アシロダ キョウシ」が僕の本当の父親ということなんだろう。そして僕が父親と思っていたあのバタくさい壮年はその兄……伯父、だったってことだ。何でそんなところまで伏せられていたんだよ。何で僕をみんなして騙してたんだよ……
「『恭志』の妻『オトゥーツィ=キハルノー』は、『キノゥヤッタ』の妹。そしてその間に生まれたのがそう、キミ……『網代田 天史』。つまり明日香明日奈とキミはいとこ同士ということになる。母方も父方もきょうだいという、珍しい組み合わせのね」
その人物……いまやもう「明日香」としか認識できなくなったその……明日奈と似ているけど違う少女の人影が、その瞬間、ブレる。いや、周りの「世界」も紐がほどけるようにして少しづつバラバラになっていっているような……
この経緯の、行き着く先が、少しづつ、見えてきてしまっていた。それはこの僕の中で……アシロダの記憶が蘇りつつあるからなのかも知れない。揺れ動く視界に視点も定まらなくなってしまっているまま、それでも僕は「明日香」の声を最後まで、聞きたいと思い始めている。
……はたして。
「成瀬と町田、当時近場に住んでいたふたつの家族は、双方同じくらいの時期に子供も生まれ、ますます家族同士での付き合いを深めていった。平穏で平和な幸せの日々。でも、そんな中、幼い天史に病魔が襲う。それこそまったくの突然に」
感情を抑えつつ殊更に事実だけを述べようとする明日香の声に、僕はもう無言で耳を傾けるだけだ。そうか……そうだった……そうだったよ……僕はでも、助かったんだ……
「急性骨髄性白血病。詳しいことは省くけど、治療として選択されたのは骨髄移植。そしてこれもイレギュラーだったけど、そのドナーとして最適だったのが当時五歳の明日香だったんだ……」
普通はこの年齢でドナーとなることは無い。けど、HLAが四座完全一致してた……まさにの「最適」だったために、細心の注意をもって移植は行われたんだ。僕の病状がヤバかったってのもある。そうだ思い出してきた……
「移植はこれ以上ない成功を収め、天史は健康を取り戻した。そう、まるで奇跡のように。が、でも……絆を深めた両家族だったけれど、そこに、そこに……悪夢のように次に襲ったのは……襲ってきたのは……」
それ以上言わせたくなかった。だから僕は明日香の言葉を遮り、もつれる舌を叱咤しつつ言葉を絞り出す。
「家族旅行で乗ったバスが高速の防音壁を貫いて、十一名の死者が出た。その中にアシロダの両親と……明日香も含まれていた」
封じ込めておきたかった記憶は、これ、なのだろうか……こんな哀しくて、こんな大事なことを忘れようとしたのだろうか……分からない。僕にはもう分からないよ。
「……!!」
気が付くと、僕は目の前の明日香の身体を、自分のそれできつく抱きしめていた。背後から抱き着いている格好の、「明日奈」の身体も一緒に。そうすることしか、もう出来そうもなかった。それ以上のことはもう、委ねるしかない。僕に決められるはずなんか、最初から無かったんだ。
僕の腕の中で、笑ったんだか、泣いたんだか分からないけど、顔を歪めた明日香の顔が、「僕」が見た最後の光景で。
急激にシャットしていく視界を認識しつつ、僕は、悪くないな、とかいう意識を最後に残しながら。
……宙に、溶けていったわけで。
自分の中で、いま放たれてきた言葉を受け止めようとして、それは叶わず。力無い反論は、何もない空間に、出したそばから分解して散っていってしまうようで。
「意識」が出してる「声」なのに掠れてしまう。必死に平静を装ってままならない声を裏返らないように気を付けながら発している僕を、目の前で凪いだ顔つきで見据えているのは……誰だ。
明日奈に似ているけど「違う」と判別できてしまう、君は誰だ。
頭が痛い……そして僕は、「僕ら」は誰なんだ。何なんだって……いうんだよっ。いつの間にか周りにはトレースした人たちの姿は無くなっていた。いるのは僕と、「その人物」と、その背後の明日奈のトレース体。でもその明日奈からはもう何と言うか生気みたいなのは感じられない。マネキン……みたいな。と、
「違う、『僕らの中』にしかもう、『来野 明日香』はいないんだ……」
自分の首元にまだしがみつくようにしていた「明日奈」の腕を優しく掴みながら、その人物はそう哀切のこもった言葉を紡ぎ出してくるけど。いや意味が分からないって。
僕らの周りに広がっていた真っ白い大空間の所々に、無音ながら激しくヒビのようなものが縦横に走っていく。中空と、思っていたところにも等しく亀裂は入れられていき、その隙間からチラ見えるのは、暗闇……いやもっと「何もなさそうな」黒い空間みたいなものだったわけで。と、
「僕ら僕らって……僕らは、『来野アシタカ』ってとこはいいんだよね……?」
浅くなってきた呼吸を何とか騙しだましでフラットにした言葉を投げかける。とにかく落ち着くんだ。自分をしっかりと持つ。まずはそれだ。けど、
「……」
目を逸らされた。え? じゃあ僕らはやっぱり「明日香」? でも、だからそんな人物いないだろ?
「聞いてくれ。崩壊してしまう前にすべてを知って判断をしてくれ、それをキミに委ねる、『サーティーン』キミに」
目下の地面にも細かい亀裂と振動が。僕の頭も割れそうだよ意味が分からないよ……ッ!!
そして、
「『来野恭哉』と『キノゥヤッタ=キハルノー』との間に生まれた双子の娘が、来野『明日香』『明日奈』姉妹だ」
ちょっと待った、「明日香」と書いて「アシタカ」だよね、そこからおかしいよ。違うの?えじゃあ僕が「アスカ」? だったってこと? 読みがそうだったの? あ、戸籍名とか? ええ? 自分でもよく分からない何かの言葉を発しようとした僕を、片手を上げて制止するその「人物」。「アシタカ」の中に「アスカ」っていう人格があるってこと? 「32番目の」? ええ? 「双子の娘」ってええ? でも僕は確かに男だけれど。思春期真っ盛りも真っ盛りの。ええ?
思考が定まらなくなってきた。そして身体が動かせないのは、周りの「空間」に混ざり込むようにして自分というものの輪郭が溶け出しているからだ、ということが何故か認識できた。「これは夢だ」、と意識のどこかで理解している夢を見ているような。
「キミの肉体と『七割』の根底意識は、『網代田 天史』。その上に、『30%の来野アスカ』の人格が形成されている。そのような、状態なんだ……」
分からない。相対している人物の言葉の意味が分からない。僕はアシロダ? アスカ? 何なんだよそれ、僕は、来野アシタカは、記憶の三割だかと、能力の九割くらいを失っていたわけじゃあないのかよっ……
え……じゃあ、何で、来野アシタカと、僕は認識しているんだ? 周りもそう、接しているんだ……?
もはや言葉すら発することの出来なくなった僕だけど、それだけは確かなことと言える。僕は確かに来野アシタカとして生活をし、そこに在った。それは、絶対真実だよ……でももしそれが。
「察しの通りだよサーティーン。『来野アシタカ』は『来野アスカ』が自らの中で形成した人格、そのことは、キミ以外の周囲の人間は知っている。知って……いてキミを『来野アシタカ』として扱っているんだ」
察せてないし、何でそんなことをするのかの意味も分からないよ。何だって……何だっていうんだよちくしょう……それに何だよこの手足末端から痺れていくような感覚はっ。
「さかのぼって説明するよ。時間も無いから手短に。『来野恭哉』のふたつ下の弟が『網代田恭志』。二人が幼少期の時に両親は離婚し、兄弟は生き別れた。だが互いに別の人生を歩んでいた二人が、とあるTV局が企画した番組制作によって再会することになる。プラハのカレル大学で」
何らかの時間制限でも迫ってきてるとでもいうのか、それとも何も僕に言わせずに淡々と進めたいのか分からないけど、極めて事務的な喋りでつらつらと述べ始めてきたよ、僕が、知らなかったことを……頭が、脳がついていけない……ッ。
「偶然の出会いをふたりともが歓迎し、二人はのちに家族ぐるみでの付き合いを持つようになる。恭志が日本の企業に就職してからは、さらに密に」
「アシロダ キョウシ」が僕の本当の父親ということなんだろう。そして僕が父親と思っていたあのバタくさい壮年はその兄……伯父、だったってことだ。何でそんなところまで伏せられていたんだよ。何で僕をみんなして騙してたんだよ……
「『恭志』の妻『オトゥーツィ=キハルノー』は、『キノゥヤッタ』の妹。そしてその間に生まれたのがそう、キミ……『網代田 天史』。つまり明日香明日奈とキミはいとこ同士ということになる。母方も父方もきょうだいという、珍しい組み合わせのね」
その人物……いまやもう「明日香」としか認識できなくなったその……明日奈と似ているけど違う少女の人影が、その瞬間、ブレる。いや、周りの「世界」も紐がほどけるようにして少しづつバラバラになっていっているような……
この経緯の、行き着く先が、少しづつ、見えてきてしまっていた。それはこの僕の中で……アシロダの記憶が蘇りつつあるからなのかも知れない。揺れ動く視界に視点も定まらなくなってしまっているまま、それでも僕は「明日香」の声を最後まで、聞きたいと思い始めている。
……はたして。
「成瀬と町田、当時近場に住んでいたふたつの家族は、双方同じくらいの時期に子供も生まれ、ますます家族同士での付き合いを深めていった。平穏で平和な幸せの日々。でも、そんな中、幼い天史に病魔が襲う。それこそまったくの突然に」
感情を抑えつつ殊更に事実だけを述べようとする明日香の声に、僕はもう無言で耳を傾けるだけだ。そうか……そうだった……そうだったよ……僕はでも、助かったんだ……
「急性骨髄性白血病。詳しいことは省くけど、治療として選択されたのは骨髄移植。そしてこれもイレギュラーだったけど、そのドナーとして最適だったのが当時五歳の明日香だったんだ……」
普通はこの年齢でドナーとなることは無い。けど、HLAが四座完全一致してた……まさにの「最適」だったために、細心の注意をもって移植は行われたんだ。僕の病状がヤバかったってのもある。そうだ思い出してきた……
「移植はこれ以上ない成功を収め、天史は健康を取り戻した。そう、まるで奇跡のように。が、でも……絆を深めた両家族だったけれど、そこに、そこに……悪夢のように次に襲ったのは……襲ってきたのは……」
それ以上言わせたくなかった。だから僕は明日香の言葉を遮り、もつれる舌を叱咤しつつ言葉を絞り出す。
「家族旅行で乗ったバスが高速の防音壁を貫いて、十一名の死者が出た。その中にアシロダの両親と……明日香も含まれていた」
封じ込めておきたかった記憶は、これ、なのだろうか……こんな哀しくて、こんな大事なことを忘れようとしたのだろうか……分からない。僕にはもう分からないよ。
「……!!」
気が付くと、僕は目の前の明日香の身体を、自分のそれできつく抱きしめていた。背後から抱き着いている格好の、「明日奈」の身体も一緒に。そうすることしか、もう出来そうもなかった。それ以上のことはもう、委ねるしかない。僕に決められるはずなんか、最初から無かったんだ。
僕の腕の中で、笑ったんだか、泣いたんだか分からないけど、顔を歪めた明日香の顔が、「僕」が見た最後の光景で。
急激にシャットしていく視界を認識しつつ、僕は、悪くないな、とかいう意識を最後に残しながら。
……宙に、溶けていったわけで。
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