Current Me!!~転生したら異世界だった件

gaction9969

文字の大きさ
15 / 46

#015:平坦だな!(あるいは、愛のネ/喰らいネ/ナハトムGIC)

しおりを挟む
「ッ阿呆アホウなのッ!? 今日からドの付く阿呆アホウなのッ!?」

 ネコルの叱責により気絶から目覚めた俺が、い、いやあ、傷口が残らなくて何よりでしたなあ……とおもねりつつ、その刺された跡が何故か俺と違ってまったく残っていない猫脇腹を指でこしこしと擦ってやると、ゴロゴロ音を出して何とか奴さんは機嫌を直してくれたのだが。

 とは言え、だいぶ日も傾いてきやがった。仰臥状態から立ち上がりぐいと腰を伸ばしつつ見渡せば、俺の見知ったる天空の赤き球体……「太陽」的なものが、「西」なのかどうかは分からないが、遥か彼方の山際に沈んでいこうとしている。夕焼けはこの世界でもやはり赤い……ということに、ここは前いた世界から突拍子も無くかけ離れたとんでもない異世界じゃなさそうだという安堵感も覚えながら、俺は取りあえず倒れ伏したままの長髪ロンゲの元へと向かう。

「……」

 息はあるようだ。先ほど撒き散らした「カード」たちの上に仰向けになったまま動きは見せないが、掠れて不規則な呼吸音が近づくにつれて聞こえてきた。と、

「銀閣さんっ、そいつは憎きクズ女神ミィしんが手先ッ!! 下手に情け心出してまた襲われたら目も当てられま……ってあ、ああ……そ、そうそう手慣れてますね……」

 金目のモノは無いか、まずは手早く長髪の懐辺りを改め始めた俺に、ネコルが小うるさく何か言おうとして言い淀んでくるが、構わずざっと野郎の所持品を並べてみる。が、

 短剣ナイフ、ランプ、ひときれのパン、それだけだった。こいつカネも持たずに出歩いてたってことか? あわよくば大金を掴んで異世界豪遊でもしゃれこもうと考えていた俺は、それでも突如襲って来た空腹に、そのひからびてスカスカなパンを前歯で丹念にしゃぶり咀嚼しながら歯噛みをすれども。

そんな「絶望」の二文字を両頬に浮かべているかのような俺の傍らに、ネコルがひょこひょこ近づいて来たかと思うや、顎をしゃくって地面を示す。

「『カード』ですよ。これって『換金』とか、あるいは本当に『通貨』みたいにも使えるんです」

 !! ……そいつは僥倖。奴の周りにいまだ散らばっている札は百枚はくだらねえと見た。「豪遊」、その二文字が再び俺の額と顎辺りに浮かんでくるが。

「ネコル君……先ほど言ってた『街』までは、ここからメートル法でどのくらいの距離だい?」

 手早くそして根こそぎ落ちていたカードを拾い集めた俺は、ついでに奴の羽織っていた漆黒のマントも頂戴して、懐の温まった者特有の余裕ある口調にて問う。

 ええ……「42km」くらいですけど……みたいな気の抜けた声で返してくるネコルだったが、

「よしゃ!! そんなら全力ダッシュだ~、乗り遅れんなよ~」

 俺は勢いよく地を蹴り、鼻唄なんぞを響かせつつマントをはためかせながら走り始める。気合い入れりゃあ二時間ちょっとくらいでたどり着けるだろーよ。そんで街に着いたらこのカードで豪遊だっつーの。

「ええええ、大金を掴んだ途端、この軽さ、この浅さ!! カネとか、権力とか、諸々を持っちゃいけない人材ヒトな気がしてきたんだけど今ッ!! だ、大丈夫かなぁ~」

 後ろをそんな腐った猫声が追って来るが、構ってる場合じゃねえ。三時間切りサブスリーを目標に掲げ、俺は繰り出す脚のピッチを上げていくのであった。

……

 ……体感3時間後。夜も更けかけてきた頃、結構なほうほうの体で「街」の外れにようやっと辿り着いた俺の脚はぱんぱんだ。おまけに膝もゆっくり歩くだけで痛みを呈してくるほどになっている。「回復」……しときましょうか? とかネコルがまた空怖ろしいことを言ってくるのを制しながら、「カード屋」とかいう、これまたノー身も蓋な店舗へと、ひとまずは案内してもらうのだが。

「……」

 途中で目に入った街並みは、予想していたような「中世ヨーロッパ」的ないわゆる剣と魔法のファンタジー世界といった趣きじゃあなく、昭和30年くらいのアメリカ辺りの片田舎街っぽい様相を呈していて、無論平成生まれ東京育ちの俺はそんな風景は知識として頭にあるだけで、郷愁を覚えることなどついぞ無かったが、それでも何か不思議と落ち着く妙な感じは受け取っていた。

 道は舗装はされてなく、それでも撞き固められた黒っぽい地肌に申し訳程度に石畳らしきものが埋め敷き詰められている。街路樹もそれに沿って植えられていたりするが、何となくの埃っぽさだ。行きかっているのは馬車か? 曳いてるのは四足歩行で馬っぽいが、どこか鹿っぽい顔をしてたりでそこは少しの違和感は感じるものの。

木造らしき白壁の家々が並び、何の力は分からんが、そこかしこには「光」を灯した「街灯」めいたものもあったり、中心部へ連なると思われる大通りには、にぎやかな食事処や飲み屋とかが軒を連ねていたりして、漏れ出て来る酔っぱらい大声は何故か俺の耳に馴染んだ言葉であるのが逆に違和感はあるが、おおむね俺が想定していたような感じの「街」だった。

そして、そこにはなかば予期していた通りに「ヒト」が大勢いて、生活を営んでいたわけであって。それに安心感を覚える。

 髪の色だけは、赤・青・黄・紫など突飛な感じであったが、うちのばあちゃんも晩年はそんな感じだったのであまり気にはならず、それよりも目が3つ、とか、尋常じゃない犬歯、みたいなのは持っておらずで安心し、肌の色も緑、とか生理的な気色悪さを呈してくるものでもなかったので、まあ概ね俺は受け入れられる見た目ビジュアルであった。

 何より「日本語」っていうのがココロの「障壁」みたいなんを感じさせなくていいやな……書いてある文字も<3,000¥TB ポッキリ>とか、<60分 9,000¥TB>とかで何か眺めているだけで癒される……

 ここですが、と、そんな弛緩した表情を醸していただろう俺に、下方からそんな冷たい猫声がかかる。そうだそうだまずは先立つものの調達だぜえ、と、俺は気を取り直して、路地裏にあった店舗というよりは景品交換所みたいな、カウンターで仕切られた小スペースな奥まったところで交渉を始める。

「……40,500¥TBワイティービィになりますねえ」

 そこの店主オヤジは土気色だが脂のノリがいいという摩訶不思議な顔色をしながら、やる気なさげにそう言ってくる。相場そんなもんか? と俺はネコルに小声で問うが、まあそのくらいかと、との言葉に了承の意を示す。

「……」

 トレーに置かれて差し出されたのは四枚の紙幣と一枚の黄色味を帯びた金属色の硬貨。限りなく俺の知っている一万円札まんさつと五百円玉に似ている気もするが気のせいなのだろう。おお、まともな通貨もやっぱあんのか、と、ひさびさの現金げんナマの感触にほくほくしてしまうが。それにしても「ワイティービィ」って単位……直球で「円」とかかと思ったが、なんか由来でもあんのか? とネコルに聞いてみると、

 「YEN TOWN BAND」の略ですね、名作になぞらえ私が命名したのですふふふ……とか言われるが、何故にスワロウ/テイル/バラフラーイ……

 真顔になっちまったが、晩飯アンド取りあえずの本日の宿を求めて、俺は暖かくなった懐に手をやりながらネコルの案内のもと、夜の街へと繰り出していく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【第一部完結】転生99回目のエルフと転生1回目の少女は、のんびり暮らしたい!

DAI
ファンタジー
【第一部完結!】 99回のさよならを越えた、究極の『ただいま』 99回転生した最強エルフは、のんびり暮らしたいだけなのに――なぜか家族が増えていく。 99回も転生したエルフの魔法使いフィーネは、 もう世界を救うことにも、英雄になることにも飽きていた。 今世の望みはただひとつ。 ――森の奥の丸太小屋で、静かにのんびり暮らすこと。 しかしその願いは、 **前世が日本人の少女・リリィ(12歳)**を拾ったことで、あっさり崩れ去る。 女神の力を秘めた転生少女、 水竜の神・ハク、 精霊神アイリス、 訳ありの戦士たち、 さらには―― 猫だと思って連れ帰ったら王女だった少女まで加わり、 丸太小屋はいつの間にか“大所帯”に!? 一方その裏で、 魔神教は「女神の魂」と「特別な血」を狙い、 世界を揺るがす陰謀を進めていた。 のんびり暮らしたいだけなのに、 なぜか神々と魔王と魔神教に囲まれていくエルフ。 「……面倒くさい」 そう呟きながらも、 大切な家族を守るためなら―― 99回分の経験と最強の魔法で、容赦はしない。 これは、 最強だけど戦いたくないエルフと、 転生1回目の少女、 そして増え続ける“家族”が紡ぐ、 癒しと激闘の異世界スローライフファンタジー。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...