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大隊長ルペル・グレード
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リュードは右手と左手で二人をそれぞれ拘束し、ずんずんと庭を歩いて2人を新人隊まで連行した。新人隊の訓練場ではちょうど剣の稽古が行われているところだった。
「あと半分残ってるぞー!腕が下がってきてる、軸がブレてる、しっかり踏み込め!疲れたからといってフォームを崩すな、体力が付かずにいつまでも辛いままだぞ。きつい者はスピードを気にしなくていい、ゆっくり自分のペースでいいからな。フォームを優先だ、無理に素早く素振りをしても怪我するだけだからな!」
何十人もの新人に指導している男。一人一人をよく見て回っているようだ。
どう呼び止めようかとリュードが考えながら2人を連れて訓練場に入ると、連行されている二人を見た新人たちがざわざわとし始めた。
「ん、どうしたんだ。」
それに気づいた男がリュードたちの方を振り返り、リュードのことが分かったようだった。
男ははにかみながら、小走りでこちらにやってきた。
「リュード!?どうしたんだ、というかこの二人は…。」
「久しぶり、ルペル。やっぱり新人隊だったのか。」
「「っな!リュード・ヴァンホーク!?!?!?!?」」
そういえば連行していた二人にはまだ名前を言っていなかった。
「「っひい!殺される!」」
連行していた二人はリュードの拘束から逃れようとジタバタし始めた。
だが先ほどの件を話し終わるまで当事者二人を離す気はない。リュードは拘束を強めようとした。
「お前ら、静かにしろ。失礼なことをしている自覚はないのか?リュード、すまんな。」
呆れた顔で二人を𠮟責している、リュードにルペルと呼ばれたこの男。リュードの目当ての人物である現5番隊・6番隊、通称新人隊の大隊長を務める、ルペル・グレードである。
少し年は離れているが、リュードが昔から世話になっている兄のような存在の人だ。
「いや、大丈夫だ。それよりこの二人なんだが、先刻そこの北側の庭で女性に無理やり言い寄り、怪我までさせていた。女性にも酷いことを随分と言っていた。この件に関わった以上、防衛隊隊長リュード・ヴァンホークの名においてこの二人を騎士団会議にかけたい。」
「分かった。それは俺も賛成だ。この二人はもともと目に余るところがあったからな。」
「ルペル大隊長そんなぁ!」
「気付いてないとでも思ったのか。他の新人に対する脅迫・恐喝まがいの行為。今日だって体調不良と言って稽古を休んだのに、ピンピンしてるじゃないか。」
「気付いてたのかよ…。」
リュードは中庭でのやりとりを思い出し、少し不思議に思った。ルペルはそのようなことを絶対に見過ごせないほどのお人好しである。
「ルペル、被害にあっている新人がいるのか?」
「ああ、まあ。様子がおかしい子がちらほらいたんだ。だから理由を聞いてみたら、
こいつらが原因だった。」
「でも、あいつら全員騎士団やめてったじゃん!もう騎士団じゃない奴らに関係ないだろ?」
「いや、やめてないぞ。」
「「はあ?」」
「まあ、お前たちにこれ以上話す必要は無い。更生してほしくて色々やったんだがなあ、お前たちはそれを全部サボった挙句、再三の注意や警告にも聞く耳を持たず、改善の余地が見られなかった。近々会議にかけて除籍処分にしようと思っていた。」
「そうか。そしたら連名で騎士団会議にかけるのが一番いいだろうか。」
「そうだな。だがその前に新人隊の大隊長としてその女性に謝りに行きたいんだが、名前は分かったりするか?」
「…すまない。聞いてきていない。だが身分の高い方だとは思う。」
「どんな方か特徴は分かるか?女房に訊いたら分かるかもしれない。」
ルペルは貴族出身であるが、今はこの通り新人隊の大隊長をしていて、社交界や貴族社会とはほとんど縁がない。同じく貴族出身であるルペルの妻が代理で社交界などに顔を出している。
「…髪は金色、長かった。背丈は私よりも高かったな。踵の高い靴を履いているにしても、私よりも高いはず。上質な外套に、履いていたブーツも上等なものだったと思う。あとは、医学の心得をお持ちで、薬学を修めたと言っていた。騎士団の制服や階級バッジの知識も少し持ち合わせているようだった。ああ、瞳の色はエメラルドかグリーンだ。」
「さすがは防衛隊隊長殿だな。分かった、ありがとう。怪我の具合は?」
「こいつらがその方の両腕を力任せに握っていたせいで、赤く手形が付いていた。ご本人によると軽い内出血だそうだ。」
「そうか。こいつらを訴える準備もしておくか。」
ルペルという男は超が付くほどのお人好しで、めったに怒らぬ穏やかな人間である。人格者でもある故、新人隊の騎士たちから厚く慕われているのだが、その分敵に回した瞬間容赦はない。
リュードもルペルのことは敵に回したくない男第一位だと思っている。
「「はあ!なんでそれくらいで!」」
「軽い内出血とて立派な怪我だ!そもそもそこにリュードが登場していなかったらお前たちはその女性をどうにかしようとしていただろう!!」
「そっそれは…!」
ルペルは言い淀んだ二人を一睨みすると、訓練している新人たちのほうを振り返り休憩を告げた。
「お前たちは同室だったな。リュード、この二人を新人隊の寮に連れて行こう。鍵は俺が管理する。」
「分かった。」
リュードは拘束した二人とともに、先を歩き出したルペルの背中を追った。
「ここだ。」
付いた部屋に拘束していた二人を放り込む。もうリュードを殴ってでも逃げようなどという気力も残っていないようだ。
「いつでも出られるように今日中に荷物をまとめておけよ。」
ルペルはそう言い捨てると部屋のドアを閉めしっかりと鍵をかけてしまった。
「中から開けられたりしないのか?」
訓練場に戻ろうと二人で歩きながらリュードが問う。
「ああ、その点に関しては大丈夫だ。鍵は中から開けられないし、お前ほどの力が無ければ扉は壊れないようにできてるぞ。」
リュード並みの力を持つものはこの国にそうそういない。さっき拘束しているときも体は細かったし、碌に稽古もしていないならば開けられるわけがないかとリュードは納得した。
「そうか。」
「納得するのか。」
「???」
「いや、なんでもない。そういや、リュード。制服はどうした?」
その反応に苦笑したルペルは、リュードが制服を着ていないことに今気が付いたようだ。
「あ。」
リュードも制服の存在をすっかり忘れていた。
「まさか、アイガスに何かされたのか?」
ルペルの周りに怒気が満ちるのを感じ取ったリュードはその問いを素早く否定した。
「違う。」
「じゃあ、その部下?」
「違う。」
「本当に?」
「本当に。」
「剣に誓えるか?」
「剣に誓って。」
そこまでやり取りをするとルペルは顔をしかめた。リュードの性格上、制服を失くしたということが考えられなかったからだ。
ルペルの疑問を感じ取ってかリュードが口を開いた。
「置いてきた。」
「置いてきた?どこに?」
リュードがどこぞに忘れ物をするなど考えられない。防衛隊に入ってからは余計にそれが増した。自分の痕跡は絶対に残さないのだ。
「件の女性のところに。」
そこまで聞いてやっとルペルは納得した。
「ああ、虫よけか。」
「まあ。待ち人が来たら置いておいてくれと言ったからそのまま庭にあると思う。」
「待ち人?」
「荷物が多かった。それにその中に男物のデザインのものが見えた。だから誰かを待っているのかと。」
「はは、さすがとしか言いようがないな!」
ルペルが笑いながらリュードの肩をバシバシ叩く。
肩を叩かれながら一切表情を変えずリュードは先ほどの疑問を口にしていた。
「そういえば、二人の被害に遭った子たちは?」
「ああ、俺の家で稽古を付けてるよ。皆いい子たちだ。回復したらきちんと寮に戻ってもらう。あいつらを更生させるかやめさせるまで、危害が及ばないようにと思ってな。」
「なるほど。」
さすがお人好しである。お人好しでなくては、ここまでリュードと仲良くはならなかったのだが。
訓練場が見えてくるとリュードはルペルへの本来の用事を思い出した。
「そうだ、ルペル。防衛隊隊長として話があるんだが。」
「どうした。」
ルペルは瞬時に真面目な顔つきとなった。
「新人の育成方針か訓練のメニューに基礎体力の向上を入れてはくれないだろうか。」
「ほお、防衛隊には付いていけなかったか。」
「いや、よく訓練されていると思う。ただ、最近山賊の出没が多い。奴らは山の中をちょこまかと走り回る。どれほど剣が上手く扱えても、捕まえるときに体力がなくなっていては捕まえられるものも捕まえられない。それに山の中は危ないしな。」
「なるほど。分かった、メニューに組み込もう。貴重な意見感謝する。リュード。」
「ありがとう、ルペル。出来るだけ怪我をさせたくない。それに、隣国の治安が不安定だと聞く。いつ何があるか分からない。鍛えて回避出来る危険なら回避したいんだ。」
「…。」
いつの間にか着いた訓練場の入り口で二人は足を止めた。リュードがルペルに向き直ると、ルペルは少し暗い表情でリュードの目を見つめていた。
ルペルは訓練場へ、リュードは中庭へ行かねばならない。それに今日中にリュードは防衛隊の駐屯所に帰るのだ。またしばらく会えなくなる。
「ルペル?」
「いや、隣国の王には血気盛んな方が就かれたと聞いた。現国王は病に臥せっているしな。何があるかわからない。気を付けてくれ、リュード。」
「ああ。」
そう短く答えた肩を持ち、ルペルは念を押す。
「死ぬなよ。」
「ああ。」
ルペルはそっと肩を離すと、先ほどまでの暗さを引っ込め事務的な話をしだした。
「彼の女性の名前が分かったら連絡する。あとは、あいつらのことでまたここに来てもらうことになるかもしれないが、その時はよろしく頼む。」
「ああ。すまない、よろしく頼んだ。ルペル。じゃあ、また。」
「ああ、またな。」
リュードは別れを告げると中庭に向かって歩き出した。
「お前は昔から本当に笑わないな、リュード。」
ルペルは誰に聞かせるでもない独り言を溜息とともに吐き出すと、訓練場へと戻っていった。
「あと半分残ってるぞー!腕が下がってきてる、軸がブレてる、しっかり踏み込め!疲れたからといってフォームを崩すな、体力が付かずにいつまでも辛いままだぞ。きつい者はスピードを気にしなくていい、ゆっくり自分のペースでいいからな。フォームを優先だ、無理に素早く素振りをしても怪我するだけだからな!」
何十人もの新人に指導している男。一人一人をよく見て回っているようだ。
どう呼び止めようかとリュードが考えながら2人を連れて訓練場に入ると、連行されている二人を見た新人たちがざわざわとし始めた。
「ん、どうしたんだ。」
それに気づいた男がリュードたちの方を振り返り、リュードのことが分かったようだった。
男ははにかみながら、小走りでこちらにやってきた。
「リュード!?どうしたんだ、というかこの二人は…。」
「久しぶり、ルペル。やっぱり新人隊だったのか。」
「「っな!リュード・ヴァンホーク!?!?!?!?」」
そういえば連行していた二人にはまだ名前を言っていなかった。
「「っひい!殺される!」」
連行していた二人はリュードの拘束から逃れようとジタバタし始めた。
だが先ほどの件を話し終わるまで当事者二人を離す気はない。リュードは拘束を強めようとした。
「お前ら、静かにしろ。失礼なことをしている自覚はないのか?リュード、すまんな。」
呆れた顔で二人を𠮟責している、リュードにルペルと呼ばれたこの男。リュードの目当ての人物である現5番隊・6番隊、通称新人隊の大隊長を務める、ルペル・グレードである。
少し年は離れているが、リュードが昔から世話になっている兄のような存在の人だ。
「いや、大丈夫だ。それよりこの二人なんだが、先刻そこの北側の庭で女性に無理やり言い寄り、怪我までさせていた。女性にも酷いことを随分と言っていた。この件に関わった以上、防衛隊隊長リュード・ヴァンホークの名においてこの二人を騎士団会議にかけたい。」
「分かった。それは俺も賛成だ。この二人はもともと目に余るところがあったからな。」
「ルペル大隊長そんなぁ!」
「気付いてないとでも思ったのか。他の新人に対する脅迫・恐喝まがいの行為。今日だって体調不良と言って稽古を休んだのに、ピンピンしてるじゃないか。」
「気付いてたのかよ…。」
リュードは中庭でのやりとりを思い出し、少し不思議に思った。ルペルはそのようなことを絶対に見過ごせないほどのお人好しである。
「ルペル、被害にあっている新人がいるのか?」
「ああ、まあ。様子がおかしい子がちらほらいたんだ。だから理由を聞いてみたら、
こいつらが原因だった。」
「でも、あいつら全員騎士団やめてったじゃん!もう騎士団じゃない奴らに関係ないだろ?」
「いや、やめてないぞ。」
「「はあ?」」
「まあ、お前たちにこれ以上話す必要は無い。更生してほしくて色々やったんだがなあ、お前たちはそれを全部サボった挙句、再三の注意や警告にも聞く耳を持たず、改善の余地が見られなかった。近々会議にかけて除籍処分にしようと思っていた。」
「そうか。そしたら連名で騎士団会議にかけるのが一番いいだろうか。」
「そうだな。だがその前に新人隊の大隊長としてその女性に謝りに行きたいんだが、名前は分かったりするか?」
「…すまない。聞いてきていない。だが身分の高い方だとは思う。」
「どんな方か特徴は分かるか?女房に訊いたら分かるかもしれない。」
ルペルは貴族出身であるが、今はこの通り新人隊の大隊長をしていて、社交界や貴族社会とはほとんど縁がない。同じく貴族出身であるルペルの妻が代理で社交界などに顔を出している。
「…髪は金色、長かった。背丈は私よりも高かったな。踵の高い靴を履いているにしても、私よりも高いはず。上質な外套に、履いていたブーツも上等なものだったと思う。あとは、医学の心得をお持ちで、薬学を修めたと言っていた。騎士団の制服や階級バッジの知識も少し持ち合わせているようだった。ああ、瞳の色はエメラルドかグリーンだ。」
「さすがは防衛隊隊長殿だな。分かった、ありがとう。怪我の具合は?」
「こいつらがその方の両腕を力任せに握っていたせいで、赤く手形が付いていた。ご本人によると軽い内出血だそうだ。」
「そうか。こいつらを訴える準備もしておくか。」
ルペルという男は超が付くほどのお人好しで、めったに怒らぬ穏やかな人間である。人格者でもある故、新人隊の騎士たちから厚く慕われているのだが、その分敵に回した瞬間容赦はない。
リュードもルペルのことは敵に回したくない男第一位だと思っている。
「「はあ!なんでそれくらいで!」」
「軽い内出血とて立派な怪我だ!そもそもそこにリュードが登場していなかったらお前たちはその女性をどうにかしようとしていただろう!!」
「そっそれは…!」
ルペルは言い淀んだ二人を一睨みすると、訓練している新人たちのほうを振り返り休憩を告げた。
「お前たちは同室だったな。リュード、この二人を新人隊の寮に連れて行こう。鍵は俺が管理する。」
「分かった。」
リュードは拘束した二人とともに、先を歩き出したルペルの背中を追った。
「ここだ。」
付いた部屋に拘束していた二人を放り込む。もうリュードを殴ってでも逃げようなどという気力も残っていないようだ。
「いつでも出られるように今日中に荷物をまとめておけよ。」
ルペルはそう言い捨てると部屋のドアを閉めしっかりと鍵をかけてしまった。
「中から開けられたりしないのか?」
訓練場に戻ろうと二人で歩きながらリュードが問う。
「ああ、その点に関しては大丈夫だ。鍵は中から開けられないし、お前ほどの力が無ければ扉は壊れないようにできてるぞ。」
リュード並みの力を持つものはこの国にそうそういない。さっき拘束しているときも体は細かったし、碌に稽古もしていないならば開けられるわけがないかとリュードは納得した。
「そうか。」
「納得するのか。」
「???」
「いや、なんでもない。そういや、リュード。制服はどうした?」
その反応に苦笑したルペルは、リュードが制服を着ていないことに今気が付いたようだ。
「あ。」
リュードも制服の存在をすっかり忘れていた。
「まさか、アイガスに何かされたのか?」
ルペルの周りに怒気が満ちるのを感じ取ったリュードはその問いを素早く否定した。
「違う。」
「じゃあ、その部下?」
「違う。」
「本当に?」
「本当に。」
「剣に誓えるか?」
「剣に誓って。」
そこまでやり取りをするとルペルは顔をしかめた。リュードの性格上、制服を失くしたということが考えられなかったからだ。
ルペルの疑問を感じ取ってかリュードが口を開いた。
「置いてきた。」
「置いてきた?どこに?」
リュードがどこぞに忘れ物をするなど考えられない。防衛隊に入ってからは余計にそれが増した。自分の痕跡は絶対に残さないのだ。
「件の女性のところに。」
そこまで聞いてやっとルペルは納得した。
「ああ、虫よけか。」
「まあ。待ち人が来たら置いておいてくれと言ったからそのまま庭にあると思う。」
「待ち人?」
「荷物が多かった。それにその中に男物のデザインのものが見えた。だから誰かを待っているのかと。」
「はは、さすがとしか言いようがないな!」
ルペルが笑いながらリュードの肩をバシバシ叩く。
肩を叩かれながら一切表情を変えずリュードは先ほどの疑問を口にしていた。
「そういえば、二人の被害に遭った子たちは?」
「ああ、俺の家で稽古を付けてるよ。皆いい子たちだ。回復したらきちんと寮に戻ってもらう。あいつらを更生させるかやめさせるまで、危害が及ばないようにと思ってな。」
「なるほど。」
さすがお人好しである。お人好しでなくては、ここまでリュードと仲良くはならなかったのだが。
訓練場が見えてくるとリュードはルペルへの本来の用事を思い出した。
「そうだ、ルペル。防衛隊隊長として話があるんだが。」
「どうした。」
ルペルは瞬時に真面目な顔つきとなった。
「新人の育成方針か訓練のメニューに基礎体力の向上を入れてはくれないだろうか。」
「ほお、防衛隊には付いていけなかったか。」
「いや、よく訓練されていると思う。ただ、最近山賊の出没が多い。奴らは山の中をちょこまかと走り回る。どれほど剣が上手く扱えても、捕まえるときに体力がなくなっていては捕まえられるものも捕まえられない。それに山の中は危ないしな。」
「なるほど。分かった、メニューに組み込もう。貴重な意見感謝する。リュード。」
「ありがとう、ルペル。出来るだけ怪我をさせたくない。それに、隣国の治安が不安定だと聞く。いつ何があるか分からない。鍛えて回避出来る危険なら回避したいんだ。」
「…。」
いつの間にか着いた訓練場の入り口で二人は足を止めた。リュードがルペルに向き直ると、ルペルは少し暗い表情でリュードの目を見つめていた。
ルペルは訓練場へ、リュードは中庭へ行かねばならない。それに今日中にリュードは防衛隊の駐屯所に帰るのだ。またしばらく会えなくなる。
「ルペル?」
「いや、隣国の王には血気盛んな方が就かれたと聞いた。現国王は病に臥せっているしな。何があるかわからない。気を付けてくれ、リュード。」
「ああ。」
そう短く答えた肩を持ち、ルペルは念を押す。
「死ぬなよ。」
「ああ。」
ルペルはそっと肩を離すと、先ほどまでの暗さを引っ込め事務的な話をしだした。
「彼の女性の名前が分かったら連絡する。あとは、あいつらのことでまたここに来てもらうことになるかもしれないが、その時はよろしく頼む。」
「ああ。すまない、よろしく頼んだ。ルペル。じゃあ、また。」
「ああ、またな。」
リュードは別れを告げると中庭に向かって歩き出した。
「お前は昔から本当に笑わないな、リュード。」
ルペルは誰に聞かせるでもない独り言を溜息とともに吐き出すと、訓練場へと戻っていった。
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