夢見の楽園

十五

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庭園

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 白い世界。
 どこまでも広がる白い世界。
 白いキャンパスの中のようなそんな場所に私は立っていた。
 
 ここはどこだろう。
 私はどうしてこんなところにいるのだろう。
 自分の姿を確認しようと視界を動かすが、身体を確認することができない。
 そうか、これは夢なんだ。
 ただいつも見ているような、見慣れた町を徘徊したり、知人が出てくるようなありふれた夢とは少し違う。
 ただ白いだけの夢。
 
 白い空間がどこまで続いているのか気になり、私は少し歩きまわってみた。
 歩いても歩いても白。
 どのくらいの時間が経ったのかも分からない。
 そして、自分が前に進んでいるのか引き返しているのかもよくわ からなくなってきた。

「ここにお客さんとは珍しいなあ」
 
 突然目の前に青年が現れ、私は驚いた。
 長身で黒い燕尾服を着ていて、まるでどこかの執事のようだ。
 
「驚かせてしまってすまない。でもこちらも驚いているのでね」
 
 彼は私に近づくと、興味深そうな目で私を観察し始めた。
 彼には私の身体は見えているのだろうか、熱心に観察している。
 一通り観察したらしく、小さく息を吐きながら彼は言った。
 
「長い間彷徨ってきたけれど、身体のないお客さんは初めてだよ。」
 
 やはり彼にも私の身体は見えなかったらしい。
 しかし、そうするとどうやって彼は私の存在を確認したのだろうか。
 そして彼は一体何者なのだろうか。
 彼もまた私の夢に出てくる名も無き存在なのだろうか。
 
「君がそうやって疑問に思うことは当たり前だろうね」
 
 彼の声に私は驚いた。
 私の考えが彼に読まれている…。
 
「読む、というより聞こえている、と言った方が正しいかな。君が考えることはここでは筒抜けだよ。なにせ君の夢だからね」
 
 夢。やはり夢なのか。
 私は少しほっとした。
 夢であればおかしなことが起こっても不思議ではない。
 この間も空を自由に飛びまわる夢を見たばかりだ。
 
「空を飛ぶ、なかなか興味深い夢だね。私も見てみたかった」
 
 また心の声を聞かれて私はどきりとした。
 いくら自分の脳が作り出した存在とは言え、考えが相手に分かるというのは良い気分ではない。
 
「君は勘違いをしているね。私は君の夢にはいるが、君の想像力が生み出したものではない。そしてこの世界も、夢ではあるが夢ではない。」
 
 夢であって夢ではない…。
 ではここは何なのだ?
 
「そうだねえ、夢と夢の狭間のようなもの、かな。」
 
 彼はさらりと答える。
 夢と夢に狭間などあるわけがない。
 そもそも夢とは脳の働きによって見てしまうただの現象だ。
 
「まあ、詳しい話はゆっくりお茶でも飲みながらしようじゃないか」
 
 彼はそういうと右手を軽く振った。
 そうすると、目の前に頑丈そうな門が現れた。
 
「さあどうぞ、中へお入り下さい」
 
 青年が仰々しく会釈をすると門の扉がゆっくりと開いた。
 彼が導くままに門をくぐる。
 
 門の向こうに広がっていたのは、花の溢れる庭園だった。
 今までいた白の世界とは違う、その美しく華やかな庭園を見て、私は思わずため息をついた。
 綺麗に整えられた垣根と、そこに咲く多くの花々。
 テレビや映画で見るような素晴らしい庭園だった。
 私は吸い込まれるようにその庭園へと入っていった。
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