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庭園
お茶会
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青々しい緑と、色とりどりの花に囲まれながら庭園の奥へと入っていく。
その一番奥にはアンティーク調のテーブルセットが置いてあった。
「さあどうぞ。おかけになって下さい」
いつの間に来たのか、さっきの青年が椅子を引いて私を促す。
私は自分の姿の見えないままぎこちなく椅子に座る。
青年は向かい側の椅子に腰を下ろすと、パチンと指を鳴らした。
すると、目の前にかわいらしいティーセットが現れた。
「紅茶は好きだろうか?お茶会と言えば紅茶だろう」
青年は慣れた手つきでカップに紅茶を注ぐ。
「さあどうぞ。味は保証するよ。といっても、今の君が飲めるのであればね」
少しからかうような口調でカップを差し出す。
今の私は身体が無いようなものだ。カップを持つことなど出来るはずがない。
「それはどうだろうね。試してみたらいかがだろうか」
彼の言葉を聞き、私は恐る恐る自分の手を(といっても何も見えないのだが)動かしてみる。
カップの感触を感じ、そっと両手で包みこむような動作をして持ち上げる。
そして恐らく口があるのであろう部分へとあてがい、少し斜めに傾けた。
こくり
紅茶の香ばしい香りと味が広がる。
私は少しほっとしながらカップを注意深くテーブルに置いた。
「どうだい、味は良いだろう?」
目の前の青年がほほ笑む。
ああ、とても美味しい。
「それは良かった。身体が無くても飲み食いはできるようだね」
そういうと彼も自分のカップに口をつける。
そうだ、身体だ。
どうして彼は私の身体が見えないのに私に気付いたのだろうか。
「それは何といえばいいのか、魂の気配というのを感じたんだよ」
魂の気配。
「そう。人間の魂には何か不思議な気配を感じるんだ。だから姿が見えなくても君の存在がわかったんだよ」
そうだったのか。
それなら私は今魂だけの存在ということになる。
「まあそういえばそうだけれど、本来なら夢の世界でも自分の身体を認識出来るはずなんだよ」
それはどういうことだろうか。
「人間は夢の世界に入ると魂のみの存在となる。でも、夢の中でも自分自身の身体を認識し、見えるように魂が働きかけるんだ。そして、夢の中で動く仮の身体を作り出し、魂の器とする。だが君はその器が無いようだね」
夢の世界、魂、器…。
とてもじゃないが信じられない。
これはただの夢だ。
夢は脳の働きによって見るただの現象にすぎない。
夢の世界などあるわけがない。
「君は今の自分の状態を見てもまだ信じないのかい?まあ仕方がないことだけれど。ここに来る人間は皆同じように言うからね」
ここに来る人間?他にも誰かがこんな訳の分からない世界へ来ると?
「その通り。夢は誰だって見るだろう?人間はそれぞれ自分の夢の世界を持っていて、眠っている間は魂がこの世界に来るんだ。
ここは夢と夢の狭間にある世界だから、時々君みたいに自分の夢から抜け出した魂が彷徨い来るのさ」
夢の世界。
そんなものが本当にあるのだろうか。
しかし、今の状況を考えると「ある」と考えるのが妥当だろう。
「君は割ともの分かりが良いみたいだね。話が早くて助かるよ。
この間話した老人はずいぶん頭が固くて、結局納得せずに帰っていったよ」
彼は面白そうに話した。
そういえば彼は一体何者なのだろうか。
彼も彷徨える魂なのだろうか。
「私はちがうよ。確かに彷徨ってはいるけれど、君たちのように肉体があるわけじゃない。私は『夢の樹』の花から生まれた、言わば花の精霊、というところだろうか」
花の精霊?夢の樹?
「人の見る夢を養分にして生きる樹、それが夢の樹さ。それはこの夢の狭間にあって、どこまでも長く根を伸ばしている。もちろん君の夢にもね。この樹は時々気まぐれに花を咲かせるんだ。そしてその中には私のような肉体のない魂だけの存在がいる。君たちはこういう存在のことを精霊と呼ぶのだろう?」
精霊か…。
確かにロマンチックに言うとそうなるのだろうが、目の前の執事のような青年が精霊とはとても思えない。
「君の想像とは違うみたいで申し訳ないね。私も好きでこの姿に生まれた訳ではないからね。偶然夢に出てきた青年を夢の樹が気に入ってしまってこういう姿になったようだよ」
彼はくすくすと笑った。
私は彼の話を聞いて自分の身体について考えてみた。
彼のような精霊にも身体がある。
そして人は夢見る間仮の身体がある。
だが私はどうだろうか。魂だけの中途半端な存在ではないか。
「そうなんだ。君にはあるべきはずの身体が無い。もしかすると…」
言いかけて彼は口を閉ざした。
何か戸惑っているようだ。
一体私の身体に何が起こっているのだろうか。
知りたい。
教えてほしい。
私は無い身体を乗り出した。
「いや、その…言いにくいんだがね、君の身体は…肉体の方が限界なのではないかと思ってね。現実世界で何らかの原因があって君の肉体は魂が感じることのできない状態になっている。たとえば肉体と魂が分かれてしまっているとか」
魂と肉体が分かれる…つまり、私は死んでいるということになるではないか。
「まだそうだと決まったわけではない。現に君はこの夢の狭間にいる。夢は生きている人間が見るものだ。だから君はまだ死んでいない。だがかなり危険な状態だとは言える」
つまりは死が近い…ということか。
どうすればいい?私は何も出来ずにこのまま死んでしまうというのか?
そんなのはいやだ!私はまだ死にたくない…。
「…いいだろう。少しだけ助けてあげよう。折角久々にお客様が来たんだ、何もせずに死なせてしまうのは気が引ける。君を身体の在り処へと導いてあげよう」
彼は指を鳴らした。すると、庭園も何もかもなくなって暗黒の世界へと変わっていった。
どこまでも広がる暗黒の世界。私は恐怖を覚えた。
「大丈夫、私がそばにいる。少し彷徨うだけだ」
彼は見えないはずの私の手を握り、優しく囁いた。
それが私にはとてもうれしく、安心した。
その一番奥にはアンティーク調のテーブルセットが置いてあった。
「さあどうぞ。おかけになって下さい」
いつの間に来たのか、さっきの青年が椅子を引いて私を促す。
私は自分の姿の見えないままぎこちなく椅子に座る。
青年は向かい側の椅子に腰を下ろすと、パチンと指を鳴らした。
すると、目の前にかわいらしいティーセットが現れた。
「紅茶は好きだろうか?お茶会と言えば紅茶だろう」
青年は慣れた手つきでカップに紅茶を注ぐ。
「さあどうぞ。味は保証するよ。といっても、今の君が飲めるのであればね」
少しからかうような口調でカップを差し出す。
今の私は身体が無いようなものだ。カップを持つことなど出来るはずがない。
「それはどうだろうね。試してみたらいかがだろうか」
彼の言葉を聞き、私は恐る恐る自分の手を(といっても何も見えないのだが)動かしてみる。
カップの感触を感じ、そっと両手で包みこむような動作をして持ち上げる。
そして恐らく口があるのであろう部分へとあてがい、少し斜めに傾けた。
こくり
紅茶の香ばしい香りと味が広がる。
私は少しほっとしながらカップを注意深くテーブルに置いた。
「どうだい、味は良いだろう?」
目の前の青年がほほ笑む。
ああ、とても美味しい。
「それは良かった。身体が無くても飲み食いはできるようだね」
そういうと彼も自分のカップに口をつける。
そうだ、身体だ。
どうして彼は私の身体が見えないのに私に気付いたのだろうか。
「それは何といえばいいのか、魂の気配というのを感じたんだよ」
魂の気配。
「そう。人間の魂には何か不思議な気配を感じるんだ。だから姿が見えなくても君の存在がわかったんだよ」
そうだったのか。
それなら私は今魂だけの存在ということになる。
「まあそういえばそうだけれど、本来なら夢の世界でも自分の身体を認識出来るはずなんだよ」
それはどういうことだろうか。
「人間は夢の世界に入ると魂のみの存在となる。でも、夢の中でも自分自身の身体を認識し、見えるように魂が働きかけるんだ。そして、夢の中で動く仮の身体を作り出し、魂の器とする。だが君はその器が無いようだね」
夢の世界、魂、器…。
とてもじゃないが信じられない。
これはただの夢だ。
夢は脳の働きによって見るただの現象にすぎない。
夢の世界などあるわけがない。
「君は今の自分の状態を見てもまだ信じないのかい?まあ仕方がないことだけれど。ここに来る人間は皆同じように言うからね」
ここに来る人間?他にも誰かがこんな訳の分からない世界へ来ると?
「その通り。夢は誰だって見るだろう?人間はそれぞれ自分の夢の世界を持っていて、眠っている間は魂がこの世界に来るんだ。
ここは夢と夢の狭間にある世界だから、時々君みたいに自分の夢から抜け出した魂が彷徨い来るのさ」
夢の世界。
そんなものが本当にあるのだろうか。
しかし、今の状況を考えると「ある」と考えるのが妥当だろう。
「君は割ともの分かりが良いみたいだね。話が早くて助かるよ。
この間話した老人はずいぶん頭が固くて、結局納得せずに帰っていったよ」
彼は面白そうに話した。
そういえば彼は一体何者なのだろうか。
彼も彷徨える魂なのだろうか。
「私はちがうよ。確かに彷徨ってはいるけれど、君たちのように肉体があるわけじゃない。私は『夢の樹』の花から生まれた、言わば花の精霊、というところだろうか」
花の精霊?夢の樹?
「人の見る夢を養分にして生きる樹、それが夢の樹さ。それはこの夢の狭間にあって、どこまでも長く根を伸ばしている。もちろん君の夢にもね。この樹は時々気まぐれに花を咲かせるんだ。そしてその中には私のような肉体のない魂だけの存在がいる。君たちはこういう存在のことを精霊と呼ぶのだろう?」
精霊か…。
確かにロマンチックに言うとそうなるのだろうが、目の前の執事のような青年が精霊とはとても思えない。
「君の想像とは違うみたいで申し訳ないね。私も好きでこの姿に生まれた訳ではないからね。偶然夢に出てきた青年を夢の樹が気に入ってしまってこういう姿になったようだよ」
彼はくすくすと笑った。
私は彼の話を聞いて自分の身体について考えてみた。
彼のような精霊にも身体がある。
そして人は夢見る間仮の身体がある。
だが私はどうだろうか。魂だけの中途半端な存在ではないか。
「そうなんだ。君にはあるべきはずの身体が無い。もしかすると…」
言いかけて彼は口を閉ざした。
何か戸惑っているようだ。
一体私の身体に何が起こっているのだろうか。
知りたい。
教えてほしい。
私は無い身体を乗り出した。
「いや、その…言いにくいんだがね、君の身体は…肉体の方が限界なのではないかと思ってね。現実世界で何らかの原因があって君の肉体は魂が感じることのできない状態になっている。たとえば肉体と魂が分かれてしまっているとか」
魂と肉体が分かれる…つまり、私は死んでいるということになるではないか。
「まだそうだと決まったわけではない。現に君はこの夢の狭間にいる。夢は生きている人間が見るものだ。だから君はまだ死んでいない。だがかなり危険な状態だとは言える」
つまりは死が近い…ということか。
どうすればいい?私は何も出来ずにこのまま死んでしまうというのか?
そんなのはいやだ!私はまだ死にたくない…。
「…いいだろう。少しだけ助けてあげよう。折角久々にお客様が来たんだ、何もせずに死なせてしまうのは気が引ける。君を身体の在り処へと導いてあげよう」
彼は指を鳴らした。すると、庭園も何もかもなくなって暗黒の世界へと変わっていった。
どこまでも広がる暗黒の世界。私は恐怖を覚えた。
「大丈夫、私がそばにいる。少し彷徨うだけだ」
彼は見えないはずの私の手を握り、優しく囁いた。
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