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花畑
終
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その女性は傍らに眠る愛しい我が子を抱きしめた。
ずっと待ち焦がれた私の赤ちゃん。
指で頬をつついては愛おしそうに小さな手を握った。
市民病院の309号室、そこが彼女のいる部屋だった。
初めての出産で不安だったが、母子共に異常はなく、安産だった。
出産後の体調も良く、すぐ退院出来るだろうとのことだった。
女性が我が子を見守っていると、病室の扉が開いて、背の高い男性が入ってきた。
「無事に産まれたか!」
「ええ、先生も安産で良かったですねと言ってたわ」
「そうか…立ち会いたかったが、仕事が立て込んでいてな…」
「気にしないで。ほら、私達の赤ちゃんよ。抱いてあげて」
「ああ」
父となった男性はたどたどしく我が子を抱きあげた。
「小さいな」
「ええ、産まれたばかりだし」
「そうか、そりゃそうか」
二人は顔を見合わせてくすくすと笑った。
ふと、母親は首を傾げた。
「あれ、何だったんだろう…?」
「どうした?」
「それがその、出産中に変なことがあって…」
「変な事って?」
「出産中、苦しくて痛くて、思わず目を瞑ったの。そしたら…」
「そしたら?」
「目蓋の裏に何かが浮かんできたの。変な落書きみたいな花畑が」
「へえ、そうなんだ。夢でも見たのか?」
「出産中に眠る余裕なんてないわよ」
「そりゃそうか。じゃあ幻覚ってことか」
「幻覚、か…」
母親は我が子の寝顔を見ながら、あの時見た風景を思い浮かべた。
色とりどりの花。
真っ赤な空。
空を飛ぶ奇妙な姿の鳥。
なんて不可思議な世界。
そんな場所に佇む人。
そうだ、あの景色には誰かがいた。
長い髪に白いワンピースの彼女が。
彼女は誰なのだろうか。
母親にはそれが誰かは分からなかった。
ただ、きっと彼女は存在しているのだろう。
自分の空想ではなく、この世界の何処かに。
いつか会えるなら、可愛い我が子を抱かせたい。
母親は窓辺に飾られている花を見た。
今の季節には不釣合いな、小さな向日葵が此方を見ていた。
ずっと待ち焦がれた私の赤ちゃん。
指で頬をつついては愛おしそうに小さな手を握った。
市民病院の309号室、そこが彼女のいる部屋だった。
初めての出産で不安だったが、母子共に異常はなく、安産だった。
出産後の体調も良く、すぐ退院出来るだろうとのことだった。
女性が我が子を見守っていると、病室の扉が開いて、背の高い男性が入ってきた。
「無事に産まれたか!」
「ええ、先生も安産で良かったですねと言ってたわ」
「そうか…立ち会いたかったが、仕事が立て込んでいてな…」
「気にしないで。ほら、私達の赤ちゃんよ。抱いてあげて」
「ああ」
父となった男性はたどたどしく我が子を抱きあげた。
「小さいな」
「ええ、産まれたばかりだし」
「そうか、そりゃそうか」
二人は顔を見合わせてくすくすと笑った。
ふと、母親は首を傾げた。
「あれ、何だったんだろう…?」
「どうした?」
「それがその、出産中に変なことがあって…」
「変な事って?」
「出産中、苦しくて痛くて、思わず目を瞑ったの。そしたら…」
「そしたら?」
「目蓋の裏に何かが浮かんできたの。変な落書きみたいな花畑が」
「へえ、そうなんだ。夢でも見たのか?」
「出産中に眠る余裕なんてないわよ」
「そりゃそうか。じゃあ幻覚ってことか」
「幻覚、か…」
母親は我が子の寝顔を見ながら、あの時見た風景を思い浮かべた。
色とりどりの花。
真っ赤な空。
空を飛ぶ奇妙な姿の鳥。
なんて不可思議な世界。
そんな場所に佇む人。
そうだ、あの景色には誰かがいた。
長い髪に白いワンピースの彼女が。
彼女は誰なのだろうか。
母親にはそれが誰かは分からなかった。
ただ、きっと彼女は存在しているのだろう。
自分の空想ではなく、この世界の何処かに。
いつか会えるなら、可愛い我が子を抱かせたい。
母親は窓辺に飾られている花を見た。
今の季節には不釣合いな、小さな向日葵が此方を見ていた。
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