夢見の楽園

十五

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花畑

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 その女性は傍らに眠る愛しい我が子を抱きしめた。
 ずっと待ち焦がれた私の赤ちゃん。
 指で頬をつついては愛おしそうに小さな手を握った。
 市民病院の309号室、そこが彼女のいる部屋だった。
 初めての出産で不安だったが、母子共に異常はなく、安産だった。
 出産後の体調も良く、すぐ退院出来るだろうとのことだった。
 女性が我が子を見守っていると、病室の扉が開いて、背の高い男性が入ってきた。

「無事に産まれたか!」
「ええ、先生も安産で良かったですねと言ってたわ」
「そうか…立ち会いたかったが、仕事が立て込んでいてな…」
「気にしないで。ほら、私達の赤ちゃんよ。抱いてあげて」
「ああ」

 父となった男性はたどたどしく我が子を抱きあげた。

「小さいな」
「ええ、産まれたばかりだし」
「そうか、そりゃそうか」

 二人は顔を見合わせてくすくすと笑った。
 ふと、母親は首を傾げた。

「あれ、何だったんだろう…?」
「どうした?」
「それがその、出産中に変なことがあって…」
「変な事って?」
「出産中、苦しくて痛くて、思わず目を瞑ったの。そしたら…」
「そしたら?」
「目蓋の裏に何かが浮かんできたの。変な落書きみたいな花畑が」
「へえ、そうなんだ。夢でも見たのか?」
「出産中に眠る余裕なんてないわよ」
「そりゃそうか。じゃあ幻覚ってことか」
「幻覚、か…」

 母親は我が子の寝顔を見ながら、あの時見た風景を思い浮かべた。
 色とりどりの花。
 真っ赤な空。
 空を飛ぶ奇妙な姿の鳥。
 なんて不可思議な世界。
 そんな場所に佇む人。
 そうだ、あの景色には誰かがいた。
 長い髪に白いワンピースの彼女が。
 彼女は誰なのだろうか。
 母親にはそれが誰かは分からなかった。
 ただ、きっと彼女は存在しているのだろう。
 自分の空想ではなく、この世界の何処かに。
 いつか会えるなら、可愛い我が子を抱かせたい。
 母親は窓辺に飾られている花を見た。
 今の季節には不釣合いな、小さな向日葵が此方を見ていた。
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