で、手を繋ごう

めいふうかん

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第1章

偶然的に平凡な再会(3)

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主人が7年間不在だったにも関わらず、俺の部屋はそのままになっていた。

ずっと留守にしていても、やはりここは俺の部屋で、いつ戻っても落ち着いていられた。
多くの時間を過ごしていた頃とは明らかに違うのだから、どこか居心地の悪さを感じてもいいものだけど、それがない。
自分の防衛基地として、きちんと機能していた。



7年間、別の場所に住んでいたのだから、それなりに手放せない荷物があった。
この部屋に戻ってくるには、とにかくこの部屋の物を減らさないとならなかった。

本棚は先週戻ってきた時、半分ほど処分した。
最初は全部処分しようと思ったが、いざ、本棚を前にすると捨て難い漫画や小説がいくつもあって、半分ほど手元に残した。
本棚の横にあった古い箪笥とテレビとDVDプレイヤーは処分した。

処分して空いたスペースに、明日届く荷物が入ることになる。

この部屋の物と一人暮らししていた時の物。
更にどれを残すかを検討しないと、物が部屋から溢れるだろう。

これは過去の自分と今の自分を融合させる儀式のように感じた。

俺は部屋を見渡し、コルクボードに貼ってある映画のポストカードに目を留める。
色褪せたポストカードなのに、これは絶対に捨てない。

中学生の時、兄と涼さんが映画に行くことを知った俺は、ワガママを言って、連れて行ってもらうことに成功した。
当時、人気のあったアクション俳優が出る香港映画でかなり話題になっていたから、素直に映画に行きたい気持ちと、ほんの少し涼さんと出掛けたい気持ちがあった。

涼さんは最初から俺を受け入れてくれたが、兄は拒否をした。今思えば男子高校生が後輩と遊ぶのに、中学生の弟を連れて行きたくないのは当たり前だ。

が、当時の俺は兄を意地悪だと思い、快諾してくれた涼さんにはますます心を惹かれた。

俺を拒否していた兄だったが、母さんに臨時収入、つまり子守代を貰って手のひらを返し、俺を映画に連れて行ってくれた。

映画の詳細な内容は覚えてないが、コメディタッチのアクション映画で、お腹を抱えるほど笑ったのを記憶している。

映画を見終えて、パンフレットが欲しかったけど高くて買えなかった。そんな俺を見て、兄は臨時収入の子守代で、ポストカードを買ってくれたのだ。

特別優しい兄ではなかったが、意地悪な兄でもなかった。


俺はその時の主演俳優が今でも好きで、出演している映画をたまに見に行く。
アクションに当時のようなキレはなくなったし、笑いの要素も古臭い時がある。

それでも、映画館を出るときは気持ちがすっとする。そんな映画俳優なのだ。


俺はポストカードから視線を剥がす。

涼さんは、この映画を見たことを覚えているだろうか。

ベッドの上に放ったままのスマホを横目に見た。

涼さんと別れてから2時間しか経っていない。まだ電話はこないだろう。

そうわかってるのに、スマホばかりが気になる。

俺は一度好きになると、アクション俳優でも、男の人でも引きずる性質なのかもしれない。

なんか、俺って女々しい奴なんだな。

「翔」

一階から母さんが呼ぶ声が聞こえる。

「お風呂の掃除してくれない」

面倒くさい、と断りたいところだが、母が腰が痛いと言っていたのを思い出す。

仕方がない、やるか。

もう一度、ベッドの上のスマホに目を向ける。

まだ涼さんは寝てるはずだ。電話は来ない。
だから、風呂掃除にスマホなんて持っていくな。落として濡れたらどうするんだよ。

これ以上、女々しくなりたくなくて、俺は手ぶらで階段を降りていった。


だが、すぐに女々しくてもスマホを持っていけば良かったと後悔することになった。
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