で、手を繋ごう

めいふうかん

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第3章

デートと就活と(4)

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緊張していた俺だが、涼さんが自動改札に捕まってからは、少しリラックスできた。

完璧な人間ではない。
その言葉が心を軽くさせてくれる。

俺に比べたらパーフェクトだけど、ドジな涼さんすら可愛いと思った。


俺たちは電車に乗り神田方面へと向かった。急行に乗り換えれば40分程度の道のりだ。涼さんの職場は大手町方面で、神田にはよく飲みにいくらしい。

そんなたわいもない話をしながら、目的の駅へと着いた。改札を出て5分。雑居ビルが並ぶ道を歩くと、そのお店はあった。
かなり年季が入ったビルで、レトロな雰囲気のショーウインドには、ダークグレーのスリーピースのスーツが飾ってあり、まさにモダンという言葉にぴったりだ。

俺1人なら絶対に入れないお店だ。

店のドアには「Open」の札がぶら下がっている。涼さんは「どーも」と声を掛けながらドアからを押して開く。

涼さんの後に続いて入った店内は木目で統一されていた。

「いらっしゃい」

店員の男性は歯を少し見せるように、人懐っこく笑った。年配の店員がいると思ったら、俺と同年代か少し若い男性だった。
ベストとパンツ、そして白いワイシャツの袖は腕まくりをしている。首から下げているメジャーを見ると、いかにもテーラーだった。

「翔ちゃんだよね?」

いきなり親しく話しかけられて、俺は「はい、そうです」とバカ丁寧に返事をした。

「どーも、島崎です。いつも涼がお世話になってます」

話しながら男性は僕らの近くに寄ってくる。
背はさほど高くなく、腰が細かった。髪を短くしているし、喉仏もしっかりしてるのに、どこか女性的だった。

「いえいえ、お世話になっているのは俺です。今日は島崎さんにお世話になります。よろしくお願いします」

深々と頭を下げて、顔を上げると島崎さんは、驚いたように目を見開いていた。

「涼の彼氏になる子だから、もっと破天荒な子かと思ったら真面目ね」

「ちょっと待ってください。間接的に俺のことディスってます?」

「だって、今まで付き合ってきた男の子も女の子も」

「あっあーー!!」

涼さんは大声で島崎さんの言葉を遮った。

「あっ、そうね、翔ちゃんは真面目だから、変なこと吹き込んだらダメよね」

うふふっ、と笑って島崎さんは涼さんを揶揄う。

今の会話から、島崎さんは涼さんがバイであること、俺と付き合っていることを知っている。
だけど、お試し期間のお付き合いだと知ってるのだろうか。

「さて、今日は翔ちゃんがお客さんでいい?」

島崎さんが涼さんに確認をすると、彼は尖った顎をひいた。

「はい。生地を選んで、いくらぐらいになるかを見積りまでで」

涼さんの会話から、島崎さんは涼さんよりも年上なのかもしれない。

「了解」

島崎さんは、涼さんから俺の方へと顔を向ける。

「生地から選ぼうか。うちは明瞭会計だからベスト、パンツ、ジャケットの単品、ジャケとパンツの2点、プラスベストの3点、それぞれの値段が生地のところに書いてある。仕立て代も含まれてる」

島崎さんは説明をしながら、いくつかある生地の中から、適当に1つを取り出し、巻いてある芯のところに書いてある数字を指差す。

「この生地でジャケとパンツを作ると4万5千円プラス税。思ったより高くないでしょう?」

生地は濃紺のウール混生地だった。

「はい。むしろ、この生地ならお得です。オーダースーツなんて、最低10万とかするのかと思ってました」

「それはフルオーダーね。うちは5、6万ぐらいのパターンオーダーが売れ筋かな。後で詳しく説明するね。ちなみに、パターンオーダーは、今なら2着同時に作ってくれると20パーセントオフになるのよ」

「それはかなりお得ですね。2着作っちゃおうかな」

「本当!?」
「まずは1着にして、本当の良さをわかったら次を買いなよ」

喜ぶ島崎さんの声に被せて涼さんは遮る。すぐに島崎さんは不貞腐れたようにうるっとした唇を尖らせる。

「営業妨害じゃない?」

「大丈夫。島崎さんのスーツ、一度きたら虜になるから」

「いやっだっー、それ、私の身体のことじゃないわよね」


島崎さんはしなを作って、スナップを効かせて涼さんの肩を叩く。
見た目女性っぽい雰囲気だったが、実際中身は女性なのか?

「でも、涼のいう通りね。まずは1着から始めましょう」

にっこりと笑って俺に微笑むから、つい釣られて微笑み返す。

「あっ、でもさ、涼ぉ」

島崎さんはくるっと回って、涼と向かい合い甘い声を出す。

「2着って、別に翔ちゃんが1人で買わなくてもいいのよ」

俺は島崎さんの言っている意味を計りかねる。

「なるほど。それなら俺も買おうかな」

「えっ、そんないいですよ。俺のためにそんな」

俺が慌てると、島崎さんは今度は俺に唇を尖らせる。

「いや、俺も新しいの新調してもいいと思ってたから」

「だったら、2人でお揃いの作ったら? 離れて仕事をしている時も、お互いのことを感じることができて素敵」

「嫌ですっ!!」

俺は全力で否定した。店内に一瞬だけ、沈黙が生まれた。

すると、島崎さんは肩を竦めて『涼ったら、あまり思われてないのね』とボヤいた。涼さんも表情を曇らせている。

「そういうんじゃなくて。涼さんの方が身長も高いし、足も長いし、それにがっしりとしたいい身体してるから、同じもの着たら、俺、引き立て役にすらないないぐらい差が出て惨めになります」

「あら、涼のこと誉め殺し」

島崎さんに言われて、涼さんを見ると彼は頬を緩めていた。

「そう言われると素直に嬉しい」

「本当、可愛くてますます翔ちゃんを好きになっちゃうわね」

「うん、ますます好きになっちゃう」

涼さんはそういて、軽く片目を閉じてみせた。

「嫌だ、アンタ、本当に気障な男ね」

島崎さんは手首にスナップを効かせて、やや強めに涼さんの厚い胸を叩いた。

涼さんは、その言葉に苦笑いを浮かべていた。
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