14 / 54
第3章
デートと就活と(4)
しおりを挟む
緊張していた俺だが、涼さんが自動改札に捕まってからは、少しリラックスできた。
完璧な人間ではない。
その言葉が心を軽くさせてくれる。
俺に比べたらパーフェクトだけど、ドジな涼さんすら可愛いと思った。
俺たちは電車に乗り神田方面へと向かった。急行に乗り換えれば40分程度の道のりだ。涼さんの職場は大手町方面で、神田にはよく飲みにいくらしい。
そんなたわいもない話をしながら、目的の駅へと着いた。改札を出て5分。雑居ビルが並ぶ道を歩くと、そのお店はあった。
かなり年季が入ったビルで、レトロな雰囲気のショーウインドには、ダークグレーのスリーピースのスーツが飾ってあり、まさにモダンという言葉にぴったりだ。
俺1人なら絶対に入れないお店だ。
店のドアには「Open」の札がぶら下がっている。涼さんは「どーも」と声を掛けながらドアからを押して開く。
涼さんの後に続いて入った店内は木目で統一されていた。
「いらっしゃい」
店員の男性は歯を少し見せるように、人懐っこく笑った。年配の店員がいると思ったら、俺と同年代か少し若い男性だった。
ベストとパンツ、そして白いワイシャツの袖は腕まくりをしている。首から下げているメジャーを見ると、いかにもテーラーだった。
「翔ちゃんだよね?」
いきなり親しく話しかけられて、俺は「はい、そうです」とバカ丁寧に返事をした。
「どーも、島崎です。いつも涼がお世話になってます」
話しながら男性は僕らの近くに寄ってくる。
背はさほど高くなく、腰が細かった。髪を短くしているし、喉仏もしっかりしてるのに、どこか女性的だった。
「いえいえ、お世話になっているのは俺です。今日は島崎さんにお世話になります。よろしくお願いします」
深々と頭を下げて、顔を上げると島崎さんは、驚いたように目を見開いていた。
「涼の彼氏になる子だから、もっと破天荒な子かと思ったら真面目ね」
「ちょっと待ってください。間接的に俺のことディスってます?」
「だって、今まで付き合ってきた男の子も女の子も」
「あっあーー!!」
涼さんは大声で島崎さんの言葉を遮った。
「あっ、そうね、翔ちゃんは真面目だから、変なこと吹き込んだらダメよね」
うふふっ、と笑って島崎さんは涼さんを揶揄う。
今の会話から、島崎さんは涼さんがバイであること、俺と付き合っていることを知っている。
だけど、お試し期間のお付き合いだと知ってるのだろうか。
「さて、今日は翔ちゃんがお客さんでいい?」
島崎さんが涼さんに確認をすると、彼は尖った顎をひいた。
「はい。生地を選んで、いくらぐらいになるかを見積りまでで」
涼さんの会話から、島崎さんは涼さんよりも年上なのかもしれない。
「了解」
島崎さんは、涼さんから俺の方へと顔を向ける。
「生地から選ぼうか。うちは明瞭会計だからベスト、パンツ、ジャケットの単品、ジャケとパンツの2点、プラスベストの3点、それぞれの値段が生地のところに書いてある。仕立て代も含まれてる」
島崎さんは説明をしながら、いくつかある生地の中から、適当に1つを取り出し、巻いてある芯のところに書いてある数字を指差す。
「この生地でジャケとパンツを作ると4万5千円プラス税。思ったより高くないでしょう?」
生地は濃紺のウール混生地だった。
「はい。むしろ、この生地ならお得です。オーダースーツなんて、最低10万とかするのかと思ってました」
「それはフルオーダーね。うちは5、6万ぐらいのパターンオーダーが売れ筋かな。後で詳しく説明するね。ちなみに、パターンオーダーは、今なら2着同時に作ってくれると20パーセントオフになるのよ」
「それはかなりお得ですね。2着作っちゃおうかな」
「本当!?」
「まずは1着にして、本当の良さをわかったら次を買いなよ」
喜ぶ島崎さんの声に被せて涼さんは遮る。すぐに島崎さんは不貞腐れたようにうるっとした唇を尖らせる。
「営業妨害じゃない?」
「大丈夫。島崎さんのスーツ、一度きたら虜になるから」
「いやっだっー、それ、私の身体のことじゃないわよね」
島崎さんはしなを作って、スナップを効かせて涼さんの肩を叩く。
見た目女性っぽい雰囲気だったが、実際中身は女性なのか?
「でも、涼のいう通りね。まずは1着から始めましょう」
にっこりと笑って俺に微笑むから、つい釣られて微笑み返す。
「あっ、でもさ、涼ぉ」
島崎さんはくるっと回って、涼と向かい合い甘い声を出す。
「2着って、別に翔ちゃんが1人で買わなくてもいいのよ」
俺は島崎さんの言っている意味を計りかねる。
「なるほど。それなら俺も買おうかな」
「えっ、そんないいですよ。俺のためにそんな」
俺が慌てると、島崎さんは今度は俺に唇を尖らせる。
「いや、俺も新しいの新調してもいいと思ってたから」
「だったら、2人でお揃いの作ったら? 離れて仕事をしている時も、お互いのことを感じることができて素敵」
「嫌ですっ!!」
俺は全力で否定した。店内に一瞬だけ、沈黙が生まれた。
すると、島崎さんは肩を竦めて『涼ったら、あまり思われてないのね』とボヤいた。涼さんも表情を曇らせている。
「そういうんじゃなくて。涼さんの方が身長も高いし、足も長いし、それにがっしりとしたいい身体してるから、同じもの着たら、俺、引き立て役にすらないないぐらい差が出て惨めになります」
「あら、涼のこと誉め殺し」
島崎さんに言われて、涼さんを見ると彼は頬を緩めていた。
「そう言われると素直に嬉しい」
「本当、可愛くてますます翔ちゃんを好きになっちゃうわね」
「うん、ますます好きになっちゃう」
涼さんはそういて、軽く片目を閉じてみせた。
「嫌だ、アンタ、本当に気障な男ね」
島崎さんは手首にスナップを効かせて、やや強めに涼さんの厚い胸を叩いた。
涼さんは、その言葉に苦笑いを浮かべていた。
完璧な人間ではない。
その言葉が心を軽くさせてくれる。
俺に比べたらパーフェクトだけど、ドジな涼さんすら可愛いと思った。
俺たちは電車に乗り神田方面へと向かった。急行に乗り換えれば40分程度の道のりだ。涼さんの職場は大手町方面で、神田にはよく飲みにいくらしい。
そんなたわいもない話をしながら、目的の駅へと着いた。改札を出て5分。雑居ビルが並ぶ道を歩くと、そのお店はあった。
かなり年季が入ったビルで、レトロな雰囲気のショーウインドには、ダークグレーのスリーピースのスーツが飾ってあり、まさにモダンという言葉にぴったりだ。
俺1人なら絶対に入れないお店だ。
店のドアには「Open」の札がぶら下がっている。涼さんは「どーも」と声を掛けながらドアからを押して開く。
涼さんの後に続いて入った店内は木目で統一されていた。
「いらっしゃい」
店員の男性は歯を少し見せるように、人懐っこく笑った。年配の店員がいると思ったら、俺と同年代か少し若い男性だった。
ベストとパンツ、そして白いワイシャツの袖は腕まくりをしている。首から下げているメジャーを見ると、いかにもテーラーだった。
「翔ちゃんだよね?」
いきなり親しく話しかけられて、俺は「はい、そうです」とバカ丁寧に返事をした。
「どーも、島崎です。いつも涼がお世話になってます」
話しながら男性は僕らの近くに寄ってくる。
背はさほど高くなく、腰が細かった。髪を短くしているし、喉仏もしっかりしてるのに、どこか女性的だった。
「いえいえ、お世話になっているのは俺です。今日は島崎さんにお世話になります。よろしくお願いします」
深々と頭を下げて、顔を上げると島崎さんは、驚いたように目を見開いていた。
「涼の彼氏になる子だから、もっと破天荒な子かと思ったら真面目ね」
「ちょっと待ってください。間接的に俺のことディスってます?」
「だって、今まで付き合ってきた男の子も女の子も」
「あっあーー!!」
涼さんは大声で島崎さんの言葉を遮った。
「あっ、そうね、翔ちゃんは真面目だから、変なこと吹き込んだらダメよね」
うふふっ、と笑って島崎さんは涼さんを揶揄う。
今の会話から、島崎さんは涼さんがバイであること、俺と付き合っていることを知っている。
だけど、お試し期間のお付き合いだと知ってるのだろうか。
「さて、今日は翔ちゃんがお客さんでいい?」
島崎さんが涼さんに確認をすると、彼は尖った顎をひいた。
「はい。生地を選んで、いくらぐらいになるかを見積りまでで」
涼さんの会話から、島崎さんは涼さんよりも年上なのかもしれない。
「了解」
島崎さんは、涼さんから俺の方へと顔を向ける。
「生地から選ぼうか。うちは明瞭会計だからベスト、パンツ、ジャケットの単品、ジャケとパンツの2点、プラスベストの3点、それぞれの値段が生地のところに書いてある。仕立て代も含まれてる」
島崎さんは説明をしながら、いくつかある生地の中から、適当に1つを取り出し、巻いてある芯のところに書いてある数字を指差す。
「この生地でジャケとパンツを作ると4万5千円プラス税。思ったより高くないでしょう?」
生地は濃紺のウール混生地だった。
「はい。むしろ、この生地ならお得です。オーダースーツなんて、最低10万とかするのかと思ってました」
「それはフルオーダーね。うちは5、6万ぐらいのパターンオーダーが売れ筋かな。後で詳しく説明するね。ちなみに、パターンオーダーは、今なら2着同時に作ってくれると20パーセントオフになるのよ」
「それはかなりお得ですね。2着作っちゃおうかな」
「本当!?」
「まずは1着にして、本当の良さをわかったら次を買いなよ」
喜ぶ島崎さんの声に被せて涼さんは遮る。すぐに島崎さんは不貞腐れたようにうるっとした唇を尖らせる。
「営業妨害じゃない?」
「大丈夫。島崎さんのスーツ、一度きたら虜になるから」
「いやっだっー、それ、私の身体のことじゃないわよね」
島崎さんはしなを作って、スナップを効かせて涼さんの肩を叩く。
見た目女性っぽい雰囲気だったが、実際中身は女性なのか?
「でも、涼のいう通りね。まずは1着から始めましょう」
にっこりと笑って俺に微笑むから、つい釣られて微笑み返す。
「あっ、でもさ、涼ぉ」
島崎さんはくるっと回って、涼と向かい合い甘い声を出す。
「2着って、別に翔ちゃんが1人で買わなくてもいいのよ」
俺は島崎さんの言っている意味を計りかねる。
「なるほど。それなら俺も買おうかな」
「えっ、そんないいですよ。俺のためにそんな」
俺が慌てると、島崎さんは今度は俺に唇を尖らせる。
「いや、俺も新しいの新調してもいいと思ってたから」
「だったら、2人でお揃いの作ったら? 離れて仕事をしている時も、お互いのことを感じることができて素敵」
「嫌ですっ!!」
俺は全力で否定した。店内に一瞬だけ、沈黙が生まれた。
すると、島崎さんは肩を竦めて『涼ったら、あまり思われてないのね』とボヤいた。涼さんも表情を曇らせている。
「そういうんじゃなくて。涼さんの方が身長も高いし、足も長いし、それにがっしりとしたいい身体してるから、同じもの着たら、俺、引き立て役にすらないないぐらい差が出て惨めになります」
「あら、涼のこと誉め殺し」
島崎さんに言われて、涼さんを見ると彼は頬を緩めていた。
「そう言われると素直に嬉しい」
「本当、可愛くてますます翔ちゃんを好きになっちゃうわね」
「うん、ますます好きになっちゃう」
涼さんはそういて、軽く片目を閉じてみせた。
「嫌だ、アンタ、本当に気障な男ね」
島崎さんは手首にスナップを効かせて、やや強めに涼さんの厚い胸を叩いた。
涼さんは、その言葉に苦笑いを浮かべていた。
0
あなたにおすすめの小説
ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!
はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。
********
癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー!
※ちょっとイチャつきます。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
※長くなりそうでしたら長編へ変更します。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる