で、手を繋ごう

めいふうかん

文字の大きさ
13 / 54
第3章

デートと就活と(3)

しおりを挟む
本音を言えば、今すぐ会いたい。
スーツを買いたいのではなく、涼さんに会いたい。

仕事も休めると言ってくれてるのだから、明日は無理でも明後日にスーツを作りたいと言えば、会えるかもしれない。

最初はワガママを言ってもいい。可愛いとすら思われるかもしれない。
だが、その積み重ねが、面倒な奴やうざい奴になるのではないか。
俺なら確実に、そう思う。
だから、最初でもワガママが言えなくなる。

何でも考え過ぎて、踏み出せないのが自分だと、よくわかっている。
それを変えたいけど、やはり今回は無理だ。

涼さんには、今週末の金曜日、または土曜日か日曜日で予定を聞いた。

ラインで短いやりとりをして、決まったのが土曜日だった。

例のアクション俳優の映画が、今週末から始まるので、スーツを見に行って、ランチ、そして映画に行くことまで決まってしまった。
涼さんは俺に確認はするものの、さっさと話を進める。
このちょっとの強引さが心地いい。


いいなって思ってる人と、デートの真似事をする。少なからず、涼さんは俺を悪いとは思ってないはずだ。相思相愛とは、程遠くても、嬉しい。
明らかに今までの罪悪感を抱いていたデートとは違う。
これは浮かれるなって方が無理だ。

だから、32歳のおじさんなのに、何を着て行こうか、とか、今まではさほど気にしていなかった肌の調子が気になった。

彩に行ったら大笑いされるだろう。
それでもいい。今は何を言われてもいい。
俺は涼さんに嫌われたくない。できれば好かれたい。
そして、お試し期間を無事に過ごして・・・。




朝の10時半に駅前で待ち合わせた。

俺は15分前に駅に着き、ICカードにチャージをして残高を増やしておく。
自動改札で捕まるような、間抜けはしたくない。

チャージをして待ち合わせの駅の入り口に向かう。
腕時計をみる。
10時20分。
俺は自分の服装を確認する。チノパンとシャツは比較的新しいものだが、カーディガン、コート、靴は購入した。
しかも、ショップを何店舗か見て回って、もう訳がわからなくなって、シンプルなものを多く扱ってる落ち着いたお店で、店員さんに相談して、コーディネートしてもらったものだ。

お洒落過ぎるのは、服に着られる感じになってしまうが、シンプルなこの服なら大丈夫、だと思いたい。


「おはよう」

自分の服を再確認して顔を上げると、涼さんが手を上げてこちらに向かってくる。

「おはようごザイマス」

緊張感のせいか、声が完全に裏返る。俺は咳払いをした。

涼さんは口元に、軽く握った拳を当てて笑いを堪えている。

やってしまった。
初手から失敗した俺は、却って肩の力が抜けた。

今日の涼さんはアンクル丈のジーンズにチェスターコート、中はパーカーを着ている。
カジュアルだけど、きちんと大人な服装で、相変わらずかっこいい。

「何? どうした?」

遠慮なくジロジロと涼さんを見ていた。

「どうすれば涼さんみたいにお洒落になるんですか?」

「えっ? お洒落? 嬉しいな」

照れることなくにっこりと微笑む。それから、ゆっくりと並んで歩き出す。

「着るものはね、本当はあんまり気にしないんだ」

「嘘だ! 気にしない人は、そんな服装しないよ」

思わずタメ口になり、責めてしまった。
涼さんはキョトンとするが、すぐに破顔して笑う。

「すみません」

「いいよ、いいよ。距離感縮まるじゃん。これからタメ口にする?」

「それは無理です。たまに出ちゃうのは許してください」

涼さんは「ホント、真面目だな」と苦笑いする。

「でもね、服は本当に気にしないんだ。仲良い友達がうるさくて、服とか買わせられるんだよ。で、その服が着心地がいいから、言われるまま着てる」

「そうなんですか。涼さん、何でも完璧にこなす人だから、服装にもこだわってるのかと」

「俺、しょーちゃんが思うような完璧な人じゃないよ」

涼さんは話しながら、サコッシュからICカードを取り出す。そのまま自動改札に向かい・・・。

キッンコーン、キッンコーン。
改札のランプが光り、出口が閉じた。

「ご、ごめん」

涼さんは振り返り、顔を俯かせる。

「定期切れてる上に残高もなかった」

自動改札からスゴスゴと出てくる涼さんを見て、今度は俺が口に手を当てて笑いを堪える番だった。

「言っただろう?  完璧な人間じゃないって」

照れ臭そうにいう涼さんが、俺には可愛くて身近に感じることができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話 ※長くなりそうでしたら長編へ変更します。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...