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第3章
デートと就活と(3)
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本音を言えば、今すぐ会いたい。
スーツを買いたいのではなく、涼さんに会いたい。
仕事も休めると言ってくれてるのだから、明日は無理でも明後日にスーツを作りたいと言えば、会えるかもしれない。
最初はワガママを言ってもいい。可愛いとすら思われるかもしれない。
だが、その積み重ねが、面倒な奴やうざい奴になるのではないか。
俺なら確実に、そう思う。
だから、最初でもワガママが言えなくなる。
何でも考え過ぎて、踏み出せないのが自分だと、よくわかっている。
それを変えたいけど、やはり今回は無理だ。
涼さんには、今週末の金曜日、または土曜日か日曜日で予定を聞いた。
ラインで短いやりとりをして、決まったのが土曜日だった。
例のアクション俳優の映画が、今週末から始まるので、スーツを見に行って、ランチ、そして映画に行くことまで決まってしまった。
涼さんは俺に確認はするものの、さっさと話を進める。
このちょっとの強引さが心地いい。
いいなって思ってる人と、デートの真似事をする。少なからず、涼さんは俺を悪いとは思ってないはずだ。相思相愛とは、程遠くても、嬉しい。
明らかに今までの罪悪感を抱いていたデートとは違う。
これは浮かれるなって方が無理だ。
だから、32歳のおじさんなのに、何を着て行こうか、とか、今まではさほど気にしていなかった肌の調子が気になった。
彩に行ったら大笑いされるだろう。
それでもいい。今は何を言われてもいい。
俺は涼さんに嫌われたくない。できれば好かれたい。
そして、お試し期間を無事に過ごして・・・。
朝の10時半に駅前で待ち合わせた。
俺は15分前に駅に着き、ICカードにチャージをして残高を増やしておく。
自動改札で捕まるような、間抜けはしたくない。
チャージをして待ち合わせの駅の入り口に向かう。
腕時計をみる。
10時20分。
俺は自分の服装を確認する。チノパンとシャツは比較的新しいものだが、カーディガン、コート、靴は購入した。
しかも、ショップを何店舗か見て回って、もう訳がわからなくなって、シンプルなものを多く扱ってる落ち着いたお店で、店員さんに相談して、コーディネートしてもらったものだ。
お洒落過ぎるのは、服に着られる感じになってしまうが、シンプルなこの服なら大丈夫、だと思いたい。
「おはよう」
自分の服を再確認して顔を上げると、涼さんが手を上げてこちらに向かってくる。
「おはようごザイマス」
緊張感のせいか、声が完全に裏返る。俺は咳払いをした。
涼さんは口元に、軽く握った拳を当てて笑いを堪えている。
やってしまった。
初手から失敗した俺は、却って肩の力が抜けた。
今日の涼さんはアンクル丈のジーンズにチェスターコート、中はパーカーを着ている。
カジュアルだけど、きちんと大人な服装で、相変わらずかっこいい。
「何? どうした?」
遠慮なくジロジロと涼さんを見ていた。
「どうすれば涼さんみたいにお洒落になるんですか?」
「えっ? お洒落? 嬉しいな」
照れることなくにっこりと微笑む。それから、ゆっくりと並んで歩き出す。
「着るものはね、本当はあんまり気にしないんだ」
「嘘だ! 気にしない人は、そんな服装しないよ」
思わずタメ口になり、責めてしまった。
涼さんはキョトンとするが、すぐに破顔して笑う。
「すみません」
「いいよ、いいよ。距離感縮まるじゃん。これからタメ口にする?」
「それは無理です。たまに出ちゃうのは許してください」
涼さんは「ホント、真面目だな」と苦笑いする。
「でもね、服は本当に気にしないんだ。仲良い友達がうるさくて、服とか買わせられるんだよ。で、その服が着心地がいいから、言われるまま着てる」
「そうなんですか。涼さん、何でも完璧にこなす人だから、服装にもこだわってるのかと」
「俺、しょーちゃんが思うような完璧な人じゃないよ」
涼さんは話しながら、サコッシュからICカードを取り出す。そのまま自動改札に向かい・・・。
キッンコーン、キッンコーン。
改札のランプが光り、出口が閉じた。
「ご、ごめん」
涼さんは振り返り、顔を俯かせる。
「定期切れてる上に残高もなかった」
自動改札からスゴスゴと出てくる涼さんを見て、今度は俺が口に手を当てて笑いを堪える番だった。
「言っただろう? 完璧な人間じゃないって」
照れ臭そうにいう涼さんが、俺には可愛くて身近に感じることができた。
スーツを買いたいのではなく、涼さんに会いたい。
仕事も休めると言ってくれてるのだから、明日は無理でも明後日にスーツを作りたいと言えば、会えるかもしれない。
最初はワガママを言ってもいい。可愛いとすら思われるかもしれない。
だが、その積み重ねが、面倒な奴やうざい奴になるのではないか。
俺なら確実に、そう思う。
だから、最初でもワガママが言えなくなる。
何でも考え過ぎて、踏み出せないのが自分だと、よくわかっている。
それを変えたいけど、やはり今回は無理だ。
涼さんには、今週末の金曜日、または土曜日か日曜日で予定を聞いた。
ラインで短いやりとりをして、決まったのが土曜日だった。
例のアクション俳優の映画が、今週末から始まるので、スーツを見に行って、ランチ、そして映画に行くことまで決まってしまった。
涼さんは俺に確認はするものの、さっさと話を進める。
このちょっとの強引さが心地いい。
いいなって思ってる人と、デートの真似事をする。少なからず、涼さんは俺を悪いとは思ってないはずだ。相思相愛とは、程遠くても、嬉しい。
明らかに今までの罪悪感を抱いていたデートとは違う。
これは浮かれるなって方が無理だ。
だから、32歳のおじさんなのに、何を着て行こうか、とか、今まではさほど気にしていなかった肌の調子が気になった。
彩に行ったら大笑いされるだろう。
それでもいい。今は何を言われてもいい。
俺は涼さんに嫌われたくない。できれば好かれたい。
そして、お試し期間を無事に過ごして・・・。
朝の10時半に駅前で待ち合わせた。
俺は15分前に駅に着き、ICカードにチャージをして残高を増やしておく。
自動改札で捕まるような、間抜けはしたくない。
チャージをして待ち合わせの駅の入り口に向かう。
腕時計をみる。
10時20分。
俺は自分の服装を確認する。チノパンとシャツは比較的新しいものだが、カーディガン、コート、靴は購入した。
しかも、ショップを何店舗か見て回って、もう訳がわからなくなって、シンプルなものを多く扱ってる落ち着いたお店で、店員さんに相談して、コーディネートしてもらったものだ。
お洒落過ぎるのは、服に着られる感じになってしまうが、シンプルなこの服なら大丈夫、だと思いたい。
「おはよう」
自分の服を再確認して顔を上げると、涼さんが手を上げてこちらに向かってくる。
「おはようごザイマス」
緊張感のせいか、声が完全に裏返る。俺は咳払いをした。
涼さんは口元に、軽く握った拳を当てて笑いを堪えている。
やってしまった。
初手から失敗した俺は、却って肩の力が抜けた。
今日の涼さんはアンクル丈のジーンズにチェスターコート、中はパーカーを着ている。
カジュアルだけど、きちんと大人な服装で、相変わらずかっこいい。
「何? どうした?」
遠慮なくジロジロと涼さんを見ていた。
「どうすれば涼さんみたいにお洒落になるんですか?」
「えっ? お洒落? 嬉しいな」
照れることなくにっこりと微笑む。それから、ゆっくりと並んで歩き出す。
「着るものはね、本当はあんまり気にしないんだ」
「嘘だ! 気にしない人は、そんな服装しないよ」
思わずタメ口になり、責めてしまった。
涼さんはキョトンとするが、すぐに破顔して笑う。
「すみません」
「いいよ、いいよ。距離感縮まるじゃん。これからタメ口にする?」
「それは無理です。たまに出ちゃうのは許してください」
涼さんは「ホント、真面目だな」と苦笑いする。
「でもね、服は本当に気にしないんだ。仲良い友達がうるさくて、服とか買わせられるんだよ。で、その服が着心地がいいから、言われるまま着てる」
「そうなんですか。涼さん、何でも完璧にこなす人だから、服装にもこだわってるのかと」
「俺、しょーちゃんが思うような完璧な人じゃないよ」
涼さんは話しながら、サコッシュからICカードを取り出す。そのまま自動改札に向かい・・・。
キッンコーン、キッンコーン。
改札のランプが光り、出口が閉じた。
「ご、ごめん」
涼さんは振り返り、顔を俯かせる。
「定期切れてる上に残高もなかった」
自動改札からスゴスゴと出てくる涼さんを見て、今度は俺が口に手を当てて笑いを堪える番だった。
「言っただろう? 完璧な人間じゃないって」
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