で、手を繋ごう

めいふうかん

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第3章

デートと就活と(7)

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涼さんが島崎さんに手を叩かれたすぐ後、お店のドアが開いた。
ドアについているベルの音が店中に響く。


「いらっしゃいませ」

島崎さんは反射的に訪問者へ声を掛ける。
先ほどまでの高い声ではなく、たぶん地声だと思われる低い声。
男性にしては少し高めの声だが、思いのほか張りのある男らしいものだった。

まさによそ行き。
俺は思わず笑いそうになるが、我慢をする。


「あらっ、お久しぶり」


すぐに島崎さんは先ほどまでの声に戻る。
俺は思わず背後に立つお客を振り返った。


背が高いが、細身で華奢な印象を与える男性だった。
眉は尻上がりで、意思の強そうな顔をしている。
ダッフルコートを着ているが、子供過ぎずにお洒落に着こなしていた。年は俺とそう変わらない。きっと女性にモテるタイプだ。

「こんにちは」

島崎さんに会釈をした後、彼は涼さんの方へ身体を向ける。


「お久しぶりです、涼さん」


男は白い歯をみせて、ゆっくりとほほ笑んだ。
それはよそ行きとかの次元ではなく、完璧な作られた笑みに思えた。

そして、俺は気付いた。
隣の涼さんが声を掛けられて、一瞬だけ、体を強張らせたことに。


「久しぶりだな、カケル」


「1年ぶりですよ。随分と、身体を絞られたみたいですね」

再び俺は気付く。

このカケルと呼ばれた男が、俺の方に一切目を向けないことに。
存在を無視している、そんな感じだ。


「まあね。中年になると、ちょっとした油断がすぐに贅肉に代わるから」


「涼さんはそのままでも素敵でしたが、もっと素敵になりました」


ここまでくると、この二人がただならぬ関係だとわかる。
そして、カケルは涼さんが好き、もしくは好きだったのではないかと感じる。

「今日はどんな御用かしら? また私のスーツを買いに来てくれたの?」

場の雰囲気を察したように島崎さんが明るく話題を振る。

「はい。今日は思い切ってフルオーダーで作ってもらおうと思って」

カケルはやっと涼さんから視線を逸らした。

「それは、すっごいお得意様」

島崎さんの言葉の後に「ハート」が見えそうだった。

「俺たちはもう行こうか」

涼さんはさりげなく言って、足を踏み出した。

「待って。これ、引換証」

伝票から紙を切って、二つ折りにして小さな水色の封筒に入れる。封筒には小さく『島崎洋服店』と印刷されていた。

その封筒を島崎さんは俺に差し出した。

「就活もあるから、翔ちゃんのを先に作るね。5日後には出来上がってるよ。手直しするかもしれないから、早目に取りに来て」

「わかりました。ありがとうございます」

俺はペコリと頭を下げて封筒を受け取った。

「涼はいつでもいいでしょう? 出来たら電話する」

「承知です」

にっこりと、それこそ営業的な笑みを涼さんは浮かべて「それじゃ、行こうか」と俺を促す。

「カケル。元気でな」

涼さんはカケルに声を掛けるが、目を合わせようとしない。

スマートな仕草で歩き出し外に向かう。俺はその後を続いた。

カケルの横を通った時、初めて彼が俺を見た。

正確に言えば、睨んだ。
その瞳は心なしか潤み、俺に憎しみを持っているのがわかった。

間違いなく彼は今現在、涼さんが好き。

涼さんに出会って、色彩のある世界を知ったが、色にも様々なものがあることを短時間で教えてもらった。
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