17 / 54
第3章
デートと就活と(7)
しおりを挟む
涼さんが島崎さんに手を叩かれたすぐ後、お店のドアが開いた。
ドアについているベルの音が店中に響く。
「いらっしゃいませ」
島崎さんは反射的に訪問者へ声を掛ける。
先ほどまでの高い声ではなく、たぶん地声だと思われる低い声。
男性にしては少し高めの声だが、思いのほか張りのある男らしいものだった。
まさによそ行き。
俺は思わず笑いそうになるが、我慢をする。
「あらっ、お久しぶり」
すぐに島崎さんは先ほどまでの声に戻る。
俺は思わず背後に立つお客を振り返った。
背が高いが、細身で華奢な印象を与える男性だった。
眉は尻上がりで、意思の強そうな顔をしている。
ダッフルコートを着ているが、子供過ぎずにお洒落に着こなしていた。年は俺とそう変わらない。きっと女性にモテるタイプだ。
「こんにちは」
島崎さんに会釈をした後、彼は涼さんの方へ身体を向ける。
「お久しぶりです、涼さん」
男は白い歯をみせて、ゆっくりとほほ笑んだ。
それはよそ行きとかの次元ではなく、完璧な作られた笑みに思えた。
そして、俺は気付いた。
隣の涼さんが声を掛けられて、一瞬だけ、体を強張らせたことに。
「久しぶりだな、カケル」
「1年ぶりですよ。随分と、身体を絞られたみたいですね」
再び俺は気付く。
このカケルと呼ばれた男が、俺の方に一切目を向けないことに。
存在を無視している、そんな感じだ。
「まあね。中年になると、ちょっとした油断がすぐに贅肉に代わるから」
「涼さんはそのままでも素敵でしたが、もっと素敵になりました」
ここまでくると、この二人がただならぬ関係だとわかる。
そして、カケルは涼さんが好き、もしくは好きだったのではないかと感じる。
「今日はどんな御用かしら? また私のスーツを買いに来てくれたの?」
場の雰囲気を察したように島崎さんが明るく話題を振る。
「はい。今日は思い切ってフルオーダーで作ってもらおうと思って」
カケルはやっと涼さんから視線を逸らした。
「それは、すっごいお得意様」
島崎さんの言葉の後に「ハート」が見えそうだった。
「俺たちはもう行こうか」
涼さんはさりげなく言って、足を踏み出した。
「待って。これ、引換証」
伝票から紙を切って、二つ折りにして小さな水色の封筒に入れる。封筒には小さく『島崎洋服店』と印刷されていた。
その封筒を島崎さんは俺に差し出した。
「就活もあるから、翔ちゃんのを先に作るね。5日後には出来上がってるよ。手直しするかもしれないから、早目に取りに来て」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はペコリと頭を下げて封筒を受け取った。
「涼はいつでもいいでしょう? 出来たら電話する」
「承知です」
にっこりと、それこそ営業的な笑みを涼さんは浮かべて「それじゃ、行こうか」と俺を促す。
「カケル。元気でな」
涼さんはカケルに声を掛けるが、目を合わせようとしない。
スマートな仕草で歩き出し外に向かう。俺はその後を続いた。
カケルの横を通った時、初めて彼が俺を見た。
正確に言えば、睨んだ。
その瞳は心なしか潤み、俺に憎しみを持っているのがわかった。
間違いなく彼は今現在、涼さんが好き。
涼さんに出会って、色彩のある世界を知ったが、色にも様々なものがあることを短時間で教えてもらった。
ドアについているベルの音が店中に響く。
「いらっしゃいませ」
島崎さんは反射的に訪問者へ声を掛ける。
先ほどまでの高い声ではなく、たぶん地声だと思われる低い声。
男性にしては少し高めの声だが、思いのほか張りのある男らしいものだった。
まさによそ行き。
俺は思わず笑いそうになるが、我慢をする。
「あらっ、お久しぶり」
すぐに島崎さんは先ほどまでの声に戻る。
俺は思わず背後に立つお客を振り返った。
背が高いが、細身で華奢な印象を与える男性だった。
眉は尻上がりで、意思の強そうな顔をしている。
ダッフルコートを着ているが、子供過ぎずにお洒落に着こなしていた。年は俺とそう変わらない。きっと女性にモテるタイプだ。
「こんにちは」
島崎さんに会釈をした後、彼は涼さんの方へ身体を向ける。
「お久しぶりです、涼さん」
男は白い歯をみせて、ゆっくりとほほ笑んだ。
それはよそ行きとかの次元ではなく、完璧な作られた笑みに思えた。
そして、俺は気付いた。
隣の涼さんが声を掛けられて、一瞬だけ、体を強張らせたことに。
「久しぶりだな、カケル」
「1年ぶりですよ。随分と、身体を絞られたみたいですね」
再び俺は気付く。
このカケルと呼ばれた男が、俺の方に一切目を向けないことに。
存在を無視している、そんな感じだ。
「まあね。中年になると、ちょっとした油断がすぐに贅肉に代わるから」
「涼さんはそのままでも素敵でしたが、もっと素敵になりました」
ここまでくると、この二人がただならぬ関係だとわかる。
そして、カケルは涼さんが好き、もしくは好きだったのではないかと感じる。
「今日はどんな御用かしら? また私のスーツを買いに来てくれたの?」
場の雰囲気を察したように島崎さんが明るく話題を振る。
「はい。今日は思い切ってフルオーダーで作ってもらおうと思って」
カケルはやっと涼さんから視線を逸らした。
「それは、すっごいお得意様」
島崎さんの言葉の後に「ハート」が見えそうだった。
「俺たちはもう行こうか」
涼さんはさりげなく言って、足を踏み出した。
「待って。これ、引換証」
伝票から紙を切って、二つ折りにして小さな水色の封筒に入れる。封筒には小さく『島崎洋服店』と印刷されていた。
その封筒を島崎さんは俺に差し出した。
「就活もあるから、翔ちゃんのを先に作るね。5日後には出来上がってるよ。手直しするかもしれないから、早目に取りに来て」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はペコリと頭を下げて封筒を受け取った。
「涼はいつでもいいでしょう? 出来たら電話する」
「承知です」
にっこりと、それこそ営業的な笑みを涼さんは浮かべて「それじゃ、行こうか」と俺を促す。
「カケル。元気でな」
涼さんはカケルに声を掛けるが、目を合わせようとしない。
スマートな仕草で歩き出し外に向かう。俺はその後を続いた。
カケルの横を通った時、初めて彼が俺を見た。
正確に言えば、睨んだ。
その瞳は心なしか潤み、俺に憎しみを持っているのがわかった。
間違いなく彼は今現在、涼さんが好き。
涼さんに出会って、色彩のある世界を知ったが、色にも様々なものがあることを短時間で教えてもらった。
0
あなたにおすすめの小説
ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!
はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。
********
癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー!
※ちょっとイチャつきます。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
※長くなりそうでしたら長編へ変更します。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる