で、手を繋ごう

めいふうかん

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第3章

デートと就活と(8)

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店を出ても涼さんに変わったところはなかった。

俺は敢えて、カケルのことに触れないようにしている。
けど、本当は俺はカケルが言ったことが頭に引っかかる。

『1年ぶりですよ』

逆に言えば、カケルと涼さんは1年前には会っていた。

兄が亡くなって1年。
たぶん兄さんが涼さんに俺のことを頼んだのも同時期だ。

1年という符号が合うだけで、カケルのことと並列に考えてしまう。その考えは、あながち間違えではないように想える。

「ランチだけど、お腹の具合はどう?」

「減ってます。朝、ヨーグルトしか食べてないんですよ」

まだ行き場所は決まってないのに、足は駅へと向かっている。

カケルから一刻も早く離れたいのか。
そう考える自分にうんざりしてくる。

「女子みたいだな」

軽く笑い声をあげる涼さんの表情は、少し固いように思えた。
このままカケルのことは流すつもりだろう。

「ランチだけど、しょーちゃん行きたいお店とかある?」

「俺、神田はあまり知らなくて。映画は日比谷でしたよね?」

俺から涼さんにカケルのことを聞くことはない。涼さんが流したいのなら、そうする。

だからといって、気にならないわけではない。
気になりながらも流すのだ。

「うん。日比谷に移動してから食ってもいいけど」

「でも、日比谷なんて更に知りません」

「だったら俺が決め手いいかな?」

「その方が助かります」

「それじゃ、タイ料理は大丈夫? 日比谷に美味しい店があるんだ」

涼さんは考える素振りもなく提案してくる。
初めから考えてくれたのだ。

行き場が決まっていないではなく、涼さんの中では決まっていたから、駅に向かっていたのかもしれない。

俺がカケルのことを気にし過ぎなのかも。

俺、本当にそういう、うじうじしたところがある。それが自分の悪いところだってわかってるのに。

「辛いの好きです」

俺は頭の中からカケルを忘れる努力をした。

「俺も辛いの好きなんだよ。でも、パクチーは苦手で」

ぽんぽんとテンポよく会話が弾む。
このまま会話を楽しもう。

「パクチー美味いじゃないですか」

「虫みたいは味がする」

子供みたいなことを言って、涼さんは苦虫を潰したような顔をする。

そんな涼さんが可愛い。
いちいち胸がときめく。

大丈夫、大丈夫。
ちゃんと楽しめてる。

「しょーちゃん、朝飯にヨーグルト。パクチー好きって、女子みたいだな」

「その発想、おっさんですよ」

「そう言われてもおっさんだからね」

自分で言ったくせに、涼さんが自分をおっさんと言うたびに否定したくなる。

だけど、その衝動をぐっと抑える。

おっさんだけど、おっさんじゃない。
俺の中ではいつまでもキラキラしてる。
それを口にするのは恥ずかしい。

「それじゃ、おっさん2人でタイ料理行きましょう」

「いいね。ますますデートっぽくなってきたね」

「そういえば、デートでしたね」

「えっ」

涼さんはみじかく叫んで足を止めた。

「デートだと思ってなかったの?」

涼さんはいつもは涼しげな目を落ちるのではないかと思うほど広げる。あまりの驚きぶりに申し訳なくなる。

「は、はい。涼さんと2人だから緊張とか、失敗しないようにとかが頭を占めていて、デートが抜けてました」

「それじゃ、今からデートだってことを頭の最前線に置いてね」

「承知しました」

俺が真剣に答えると、涼さんはぷっと吹き出して笑った。

だけど俺は、笑われても真剣にデートに取り組むことにした。
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