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第4章
アドバイスという名の(1)
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地図を開いたスマホを片手に神田の町を歩く。
5日前、涼さんと来た時は周りを見る余裕がなかったので、あまり道順を覚えていない。
どちらかといえば一度来た道は忘れない方なのに、自分の記憶の曖昧さを考えると、あの日はよほど緊張していたのだとわかる。
島崎さんのお店をネットで調べて、地図を探そうと思ったが、公式ホームページはなかった。
だけど、口コミが結構あって、概ね評判がいい。
たまに『店主が独特』とか『オネエが面白い』とかスーツとは違うコメントも多かった。
お店の地図は見つけられなかったが、水色の小さな封筒に住所があったので、それをスマホの地図で調べた。
改札を出て5分。
雑居ビルが並ぶ道をきょろきょろしながら歩いていると、見覚えがあるお店があった。
かなり年季が入ったビルで、レトロな雰囲気のショーウインドには濃紺ウール生地のスーツが飾られている。
重厚な木のドアには「Open」の札がぶら下がっていた。
前回とは違った緊張でお店のドアを開けると、ベルの音が店中に響く。ウッド調で統一された店内には人の姿はなかったが、すぐに店の奥から見知った顔が出てきた。
「あら、いらっしゃい」
島崎さんは変わらずのオネエ口調で登場した。
ベストとパンツ、そして白いワイシャツの袖は腕まくり、そして首にはメジャー。
これが島崎さんのユニフォームなのかもしれない。
「こんにちは。スーツを受け取りに来ました」
「ちゃんと出来上がってるわよ」
そういって、再度、店の奥に戻り、ハンガーにかかったスーツを手に戻ってくる。
僅かに明るい紺色のスーツは、とてもスタイリッシュに見える。
「かっこいいですね」
「当たり前じゃない、私が作ったんだから。早速、着て見せて」
そう言ってスーツの後ろに隠れていた、もう一つのハンガーを手前に出す。
そこには白いワイシャツがかかっている。
島崎さんに促されて、更衣室に向かう。
「俺、中にワイシャツ着てますから借りなくても大丈夫ですよ」
「これ、試着用のワイシャツじゃないわよ。涼に言われてワイシャツも作ったの」
「えっ」
俺は驚いて歩いていた足を止める。
「お金は涼からもらっているから安心して」
「いや、むしろ安心できないですよ。自分で買います」
島崎さんは「本当だ」と大きな目をさらに開いて驚いた顔をする。
当然、俺には何が「本当」なのかはわからない。
「涼がね、翔ちゃんがお金のことを心配すると思うけど、絶対に受け取らないでって言われているの」
「でも」
「ホント、翔ちゃんは今まで涼が付き合ってきた人達とは違うタイプね」
喋りながら島崎さんは「dressing room 」と書かれたドアを開き、中のフックにスーツとワイシャツをかける。
「とにかく、料金は涼からもらう。私は受け取らないから、涼とやりとりしてね」
そういって、男らしい力強さで俺の背中を押して、更衣室へと入れる。そして、有無も言わせず、ぱたんとドアを閉めた。
涼さん、そんなに気を使わなくてもいいのに。
ワイシャツに触ると、パリッとしているのに、それでいて見た目より柔らかい生地だった。
島崎さんが言ってた、涼さんが今まで付き合ってきた人って、男のことだよな。
俺みたいなタイプは、涼さん自ら選んで付き合ったりしないんだよな、きっと。
付き合う前から恐れていたことが、一瞬、頭を掠める。
だが、俺はそれを忘れようと頭を振った。
5日前、涼さんと来た時は周りを見る余裕がなかったので、あまり道順を覚えていない。
どちらかといえば一度来た道は忘れない方なのに、自分の記憶の曖昧さを考えると、あの日はよほど緊張していたのだとわかる。
島崎さんのお店をネットで調べて、地図を探そうと思ったが、公式ホームページはなかった。
だけど、口コミが結構あって、概ね評判がいい。
たまに『店主が独特』とか『オネエが面白い』とかスーツとは違うコメントも多かった。
お店の地図は見つけられなかったが、水色の小さな封筒に住所があったので、それをスマホの地図で調べた。
改札を出て5分。
雑居ビルが並ぶ道をきょろきょろしながら歩いていると、見覚えがあるお店があった。
かなり年季が入ったビルで、レトロな雰囲気のショーウインドには濃紺ウール生地のスーツが飾られている。
重厚な木のドアには「Open」の札がぶら下がっていた。
前回とは違った緊張でお店のドアを開けると、ベルの音が店中に響く。ウッド調で統一された店内には人の姿はなかったが、すぐに店の奥から見知った顔が出てきた。
「あら、いらっしゃい」
島崎さんは変わらずのオネエ口調で登場した。
ベストとパンツ、そして白いワイシャツの袖は腕まくり、そして首にはメジャー。
これが島崎さんのユニフォームなのかもしれない。
「こんにちは。スーツを受け取りに来ました」
「ちゃんと出来上がってるわよ」
そういって、再度、店の奥に戻り、ハンガーにかかったスーツを手に戻ってくる。
僅かに明るい紺色のスーツは、とてもスタイリッシュに見える。
「かっこいいですね」
「当たり前じゃない、私が作ったんだから。早速、着て見せて」
そう言ってスーツの後ろに隠れていた、もう一つのハンガーを手前に出す。
そこには白いワイシャツがかかっている。
島崎さんに促されて、更衣室に向かう。
「俺、中にワイシャツ着てますから借りなくても大丈夫ですよ」
「これ、試着用のワイシャツじゃないわよ。涼に言われてワイシャツも作ったの」
「えっ」
俺は驚いて歩いていた足を止める。
「お金は涼からもらっているから安心して」
「いや、むしろ安心できないですよ。自分で買います」
島崎さんは「本当だ」と大きな目をさらに開いて驚いた顔をする。
当然、俺には何が「本当」なのかはわからない。
「涼がね、翔ちゃんがお金のことを心配すると思うけど、絶対に受け取らないでって言われているの」
「でも」
「ホント、翔ちゃんは今まで涼が付き合ってきた人達とは違うタイプね」
喋りながら島崎さんは「dressing room 」と書かれたドアを開き、中のフックにスーツとワイシャツをかける。
「とにかく、料金は涼からもらう。私は受け取らないから、涼とやりとりしてね」
そういって、男らしい力強さで俺の背中を押して、更衣室へと入れる。そして、有無も言わせず、ぱたんとドアを閉めた。
涼さん、そんなに気を使わなくてもいいのに。
ワイシャツに触ると、パリッとしているのに、それでいて見た目より柔らかい生地だった。
島崎さんが言ってた、涼さんが今まで付き合ってきた人って、男のことだよな。
俺みたいなタイプは、涼さん自ら選んで付き合ったりしないんだよな、きっと。
付き合う前から恐れていたことが、一瞬、頭を掠める。
だが、俺はそれを忘れようと頭を振った。
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