で、手を繋ごう

めいふうかん

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第3章

デートと就活と(11)

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映画館を出た後、涼さんの希望で本屋に行く。
目的のビジネス書を手に入れてから、ブラブラと新刊を見てから店を出た。

それから、全面禁煙の珈琲チェーン店に入りお茶をする。

「就活の方はどう?」

涼さんは向かい合って座っているテーブルから、少しだけ身体を右にずらして長い足を組み始める。

俺は滅多に足を組まないが、足を組んでいる男性の姿が結構好きだったりする。
特に涼さんは背筋をぴんとさせて、組み方はコンパクトに、それでいて足の長さが強調されるような座り方なので、俺のストライクど真ん中のポージングだ。

もちろん、本人にそんな意識はないだろうけど。


「何社かにエントリーしていて、返事待ちです」

俺は熱い珈琲に息を2回吹きかけてから、口に運ぶ。

「みんな設計の会社?」

「そうです。一応、経験者優遇されるんで」

「そっか。知ってるだろうけど、うちの会社もエンジニアと会社をマッチングさせることをしてるんだ。設計会社もある。もし、良かったら登録してみたら?」

涼さんはカップの取っ手に指を絡ませ、珈琲を一口飲み「熱つ」と漏らす。
彼はもしかしたら猫舌かもしれない。

「ありがとうございます。でも、まずは自分で探してみます」

「そう言うと思った」

涼さんはクスリと笑う。
呆れた雰囲気もないが、俺は少々卑屈になる。

「可愛げないですもんね、俺」

自分で自分を非難して、肩をくすめてみせる。
また涼さんはクスリと笑って頷いた。

「そうだね」

肯定されて当たり前だけど、少し傷付くのは我儘なのだろう。

「でも、無理してるのかなって、いつも気になる」

『いつも』という言葉が俺の中で引っかかる。
涼さん、俺のこと何かと見ていてくれたのかもしれない。

「実は就活のことはおばさんに頼まれたんだ」

「えっ? 母さんに?」

俺は驚きながらも、あの人なら頼みかねないと思った。

「うん、この前、駅前のスーパーでバッタリ会ったんだ」

「恥ずかしい。もう子供じゃないんだから、放っておいてほしい」

そう言って、俺は両手で自分の顔を覆った。

「親ってそんなもんだよ。うちの親も未だに口うるさい」

そう言われて、俺は涼さんの親御さんのことを全く知らないことに気付いた。

「最近、自炊してるから、しょーちゃんのお母さんとたまにスーパーで会うんだよ」

「涼さん、自炊してるんですか。俺、料理が全然だから、尊敬します」

キッチンに立っている涼さんを想像して、絶対にカッコいい!と勝手に妄想萌えする。

「たいしたものは作れないよ。体調管理の為に1年前から始めたばかりだし」

またキーワードが出る。
1年前。

「どうかした?」

涼さんは俺の顔色を伺うように、少し身を乗り出す。

「いや、涼さんといると1年前という言葉をよく聞くなって思っただけです」

「1年前から色々と変えたからね」

「それは兄さんのせいですか?」

俺にとっては、そうだった。
兄が病気だと知らされた時から、世界の軸がわずかに変わったような気がする。

「まあね。しょーちゃんのことを託されたって言うのもあるけど、命って限りがあるんだと、当たり前のことを実感させられた」

痩せ細った兄さんを見てから、俺も同じことを感じずにはいられない。

「もともと離婚話が出ていて、正式に決まったのも1年前だったし。1年前は色々とあった時期だった」

カケルと会っていたのも1年前まで。
結婚していた時期に付き合っていた?

気にはなるけどおくびにも出さない。

「涼さん、結婚してた時と同じところに住んでいるんですよね?」

兄さんからは、涼さんが結婚をして地元のマンションに住んでると聞いていた。それから引っ越したとは聞いてない。

「ううん。追い出された」

あまり結婚生活を根掘り葉掘り聞くのも申し訳ないが、涼さんはすんなりと話してくれる。

「奥さんにですか?」

「親父。父親が4年前に定年したのを機に母方の田舎に夫婦で引っ込んだんだ。で、2人が住んでいたマンションが空くから、結婚後はそこ住んでた。最寄駅は今の隣になるんだけどね」

計算をすると、涼さんの結婚生活は3年となる。ちょっと短い。

どんな女性だったのだろう。きっと、綺麗な人なのだろう。

「離婚したことを親父は怒ってね、その前に国交省も辞めてるし。で、追い出されて、今のマンションに半年前から住んでるってわけ」

お父さんの気持ちもわかる。国交省、霞ヶ関に勤務してる息子が自慢でもあったのだろうに、それを辞めてしまい、おまけに離婚までしたら、親は心配するものだ。

だが、敢えて、お父さんの話は深追いしないで流しておく。

「追い出されても、涼さんは地元に友達が多いから離れがたくて、近くに住んじゃうんですね」

「それは違う。半年前、この町から出なかったのはしょーちゃんが帰ってくるっておばさんから聞いたから、地元にいることにしたんだ。出来れば同じ駅の方がいいかと思って、今のマンションを選んだ」

思いがけない話の展開に俺は言葉を失う。

「実は、先輩からしょーちゃんの携帯とメアドも聞いていたんだ。だけど、いきなり連絡する勇気がなかった。できれば、自然を装って再開したかった。引っ越してたから、おばさんとスーパーで会うなら、しょーちゃんとだって絶対に何処かで出会える、そう思ってた」

「それじゃ、あの日、ホームで再開したのは」

「偶然だけど、いつかくるという必然だよね。それでも、俺はしょーちゃんをホームで見た時は胸が苦しくなるほど驚いたよ」

涼さんは恥ずかしげもなく、自然体で話を進めていく。
聞いてる俺の方が顔に熱が集中するのがわかった。

「もしかして、俺のこと気持ち悪いと思った?」

「それはないです」

俺はぶんぶんと首を横に振る。涼さんは目を少し開いて、信じられないという表情を作った。

「俺なら俺のこと、とんだロマンティストで気持ち悪いと思うけど」

涼さんの言葉で、つい、俺は意地悪をしたい気持ちになる。

「いや、本人目の前に本当のことは言えないでしょう」

「えっ、それマジで」

俺はあえて無言のまま、にっこりと笑っていた。

「しょーちゃんって、案外S っ気があるんだね」

「俺も初めて知りました」

そう惚けて言ってから、俺と涼さんは同時に吹き出して笑った。




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