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第6章
聞きたいけど、聞きたくなかった(1)
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誰かに聞いて欲しかった。
何時もなら彩が聞いてくれるのだが、仕事と合コンで忙しいみたいなので、遠慮することにした。
そんな時にカケルから食事に行こうと誘いが来た。ファミレスで出会ってから翌日の誘いで、短すぎるスパンに少し迷いはしたが、救いにも思えた。だから、俺は彼の誘いに乗った。
俺はカケルと早く会いたかった。正確にいえば、俺の話を聞いて判断して欲しかった。
そして、出来れば、涼さんと会う土曜日より前に会いたかった。
だからといって、カケルにそんな胸の内を明かすほど、彼に心を許しているわけではない。
だが、彼にも思うところがあるのか、近いうちに会うことになり、金曜日、つまり涼さんと会う前日に会う約束をした。
「お待たせ」
手を挙げてやってきたカケルは、ダブルの紺色のピーコートを着ていた。細身のパンツが足の長さを強調させる。
何でもスマートにこなすビジネスマンに見えた。
待ち合わせは新宿の居酒屋が入った雑居ビルの前だった。
約束は6時半だが、俺は5分前には到着していた。カケルは時報のようにぴったりと現れた。
お店はカケルが提案してきたのだが、全国展開しているチェーン店。
新鮮な魚がメインで少々高めだが、全席半個室なので周りを気にせずに話ができる。
金曜日の繁華街の飲み屋だから、当然2時間制だったが、2時間もあれば十分だと思っていた。
「そういえばさ、カケルって仕事何をしてるの?」
まさかモデルとか言わないよね。
ま、言われても驚きはするが納得もする。
「高校教師」
「嘘だろ!?」
「そんなことで嘘ついてどうするんだよ」
エレベーターは乗る人で列をなしていた。
お店は2階なので、俺たちは喋りながら階段へと移動する。
「そうだけど、何か見た目からは想像できない」
「見た目からだと、どんな職業だよ?」
「アパレル関係とかホームページのデザイナーとか。モデルっていわれても、癪だけど納得する」
「昔はよく、そういう事務所から声を掛けられたけどね。今ではめっきり減ったよ」
減ったけど、今でもあるっていうのがスゴイ。
当然、俺は一度もないし。
「でも、聞いたこともない事務所ばかりだから、ついていったら変なところだったかもね」
「芸能界に興味はなかったの?」
「ないね」
あっさりと、まるで下らない質問をされたというように返される。
「教師が夢だったとか?」
「祖父が学校を経営しているんで、教師になれって子供の頃から言われていて、それは素直に受け入れられたんだよね」
意外だ。思いっきり反発しそうなのに。
お店に着くと、カケルは『吉田です』と名前を伝える。
20代半ばの女子店員は、一瞬、カケルの顔を見て、少し驚いたように眉を上げた。それから、俺を見て、すぐカケルに視線を戻す。
俺たちは店の一番奥の席へと通された。
席に着くなり、カケルは女の子に「レモンハイで」と注文した後にメニューを開く。俺はメニューを見ずにビールを注文した。
それからカケルは枝豆、漬物、お刺身の3点盛り、エビとマッシュルームのアヒージョとパケットを頼んで、ぱたんとメニューを閉じる。
『何を食べる?』とか聞かない奴だったな、こいつは。
2度目の出会いだが、カケルのそういうこところはよくわかった。
「今の料理、全部自分で一人で食べるのか?」
「いや、シェアするに決まってるだろう」
そんな注文の仕方がで、シェアするとは思えないけど。
俺は文句を口に出さずに、店員さんに「とりあえず、それでお願い」と言う。店員さんは「はい」と俺をちらっとだけ見て、すぐにカケルに見とれながら注文を繰返した。
「お前、生徒にすっごいモテるんじゃないのか?」
テーブルを離れた店員の後姿を見ながら、俺は小声で言った。
「そこそこね。でも絶対に生徒とは付き合わないから」
「そういうモラルはあるんだ」
「モラルというか、女子高だからね。俺、女には一切興味ないから」
女子校か。
それも想像できなかった。
「でも生徒の方は言い寄って来るだろう?」
「女に興味ないって断るから大丈夫」
「オープンにしてるんだ」
「当たり前だよ。そうでなければ、俺の顔で女子高でなんてやっていけない。オープンにしてたって、いきなり迫ってきてブラウスを脱ぎだすアホな女もいるんだからな」
「マジで」
「マジだよ」
「そういう時はどうするの?」
ゲスな自分の好奇心が質問をしている。
「とりあえず、勃たないことを伝える。できれば、スマホで写真も撮って、大声をあげる。それで大抵は逃げてくれるか、泣き出す」
突拍子もないことを平然と口にする。
高校生には刺激が強すぎないか、それ。
「写真を撮るのは保険ね。振られた腹いせに、変な噂を流されても困るから。でも、本当はさっさと消去するよ、証拠は残さない」
たぶん、こいつはこいつで、過去に色々とあったに違いない。それ故の対応なんだろう。
だからといって、褒められないけれど。
「こういう話は涼さんは知らないから言うなよ」
「涼さんの前では良い子にしてたんだ」
「そういうもんだろう?」
「お前って、本当に素直だよな」
俺は嫌味ではなく、本当に感心した。
「翔まで俺に惚れるなよ」
「それはないから安心して」
「でも、俺が翔に惚れるかもよ」
俺は驚いて言葉を失った。
カケルはそんな俺の顔をじっと見つめる。
まつ毛がやたらと長い。
「翔があと10センチ身長が伸びて、がっちりと身体を鍛えて、鼻をほんの少し高くしてくれたら」
「もう、それは俺じゃないだろうが」
「だね」
そう言ったところで、さっきの女子店員がお通しとドリンクを運んできた。
何時もなら彩が聞いてくれるのだが、仕事と合コンで忙しいみたいなので、遠慮することにした。
そんな時にカケルから食事に行こうと誘いが来た。ファミレスで出会ってから翌日の誘いで、短すぎるスパンに少し迷いはしたが、救いにも思えた。だから、俺は彼の誘いに乗った。
俺はカケルと早く会いたかった。正確にいえば、俺の話を聞いて判断して欲しかった。
そして、出来れば、涼さんと会う土曜日より前に会いたかった。
だからといって、カケルにそんな胸の内を明かすほど、彼に心を許しているわけではない。
だが、彼にも思うところがあるのか、近いうちに会うことになり、金曜日、つまり涼さんと会う前日に会う約束をした。
「お待たせ」
手を挙げてやってきたカケルは、ダブルの紺色のピーコートを着ていた。細身のパンツが足の長さを強調させる。
何でもスマートにこなすビジネスマンに見えた。
待ち合わせは新宿の居酒屋が入った雑居ビルの前だった。
約束は6時半だが、俺は5分前には到着していた。カケルは時報のようにぴったりと現れた。
お店はカケルが提案してきたのだが、全国展開しているチェーン店。
新鮮な魚がメインで少々高めだが、全席半個室なので周りを気にせずに話ができる。
金曜日の繁華街の飲み屋だから、当然2時間制だったが、2時間もあれば十分だと思っていた。
「そういえばさ、カケルって仕事何をしてるの?」
まさかモデルとか言わないよね。
ま、言われても驚きはするが納得もする。
「高校教師」
「嘘だろ!?」
「そんなことで嘘ついてどうするんだよ」
エレベーターは乗る人で列をなしていた。
お店は2階なので、俺たちは喋りながら階段へと移動する。
「そうだけど、何か見た目からは想像できない」
「見た目からだと、どんな職業だよ?」
「アパレル関係とかホームページのデザイナーとか。モデルっていわれても、癪だけど納得する」
「昔はよく、そういう事務所から声を掛けられたけどね。今ではめっきり減ったよ」
減ったけど、今でもあるっていうのがスゴイ。
当然、俺は一度もないし。
「でも、聞いたこともない事務所ばかりだから、ついていったら変なところだったかもね」
「芸能界に興味はなかったの?」
「ないね」
あっさりと、まるで下らない質問をされたというように返される。
「教師が夢だったとか?」
「祖父が学校を経営しているんで、教師になれって子供の頃から言われていて、それは素直に受け入れられたんだよね」
意外だ。思いっきり反発しそうなのに。
お店に着くと、カケルは『吉田です』と名前を伝える。
20代半ばの女子店員は、一瞬、カケルの顔を見て、少し驚いたように眉を上げた。それから、俺を見て、すぐカケルに視線を戻す。
俺たちは店の一番奥の席へと通された。
席に着くなり、カケルは女の子に「レモンハイで」と注文した後にメニューを開く。俺はメニューを見ずにビールを注文した。
それからカケルは枝豆、漬物、お刺身の3点盛り、エビとマッシュルームのアヒージョとパケットを頼んで、ぱたんとメニューを閉じる。
『何を食べる?』とか聞かない奴だったな、こいつは。
2度目の出会いだが、カケルのそういうこところはよくわかった。
「今の料理、全部自分で一人で食べるのか?」
「いや、シェアするに決まってるだろう」
そんな注文の仕方がで、シェアするとは思えないけど。
俺は文句を口に出さずに、店員さんに「とりあえず、それでお願い」と言う。店員さんは「はい」と俺をちらっとだけ見て、すぐにカケルに見とれながら注文を繰返した。
「お前、生徒にすっごいモテるんじゃないのか?」
テーブルを離れた店員の後姿を見ながら、俺は小声で言った。
「そこそこね。でも絶対に生徒とは付き合わないから」
「そういうモラルはあるんだ」
「モラルというか、女子高だからね。俺、女には一切興味ないから」
女子校か。
それも想像できなかった。
「でも生徒の方は言い寄って来るだろう?」
「女に興味ないって断るから大丈夫」
「オープンにしてるんだ」
「当たり前だよ。そうでなければ、俺の顔で女子高でなんてやっていけない。オープンにしてたって、いきなり迫ってきてブラウスを脱ぎだすアホな女もいるんだからな」
「マジで」
「マジだよ」
「そういう時はどうするの?」
ゲスな自分の好奇心が質問をしている。
「とりあえず、勃たないことを伝える。できれば、スマホで写真も撮って、大声をあげる。それで大抵は逃げてくれるか、泣き出す」
突拍子もないことを平然と口にする。
高校生には刺激が強すぎないか、それ。
「写真を撮るのは保険ね。振られた腹いせに、変な噂を流されても困るから。でも、本当はさっさと消去するよ、証拠は残さない」
たぶん、こいつはこいつで、過去に色々とあったに違いない。それ故の対応なんだろう。
だからといって、褒められないけれど。
「こういう話は涼さんは知らないから言うなよ」
「涼さんの前では良い子にしてたんだ」
「そういうもんだろう?」
「お前って、本当に素直だよな」
俺は嫌味ではなく、本当に感心した。
「翔まで俺に惚れるなよ」
「それはないから安心して」
「でも、俺が翔に惚れるかもよ」
俺は驚いて言葉を失った。
カケルはそんな俺の顔をじっと見つめる。
まつ毛がやたらと長い。
「翔があと10センチ身長が伸びて、がっちりと身体を鍛えて、鼻をほんの少し高くしてくれたら」
「もう、それは俺じゃないだろうが」
「だね」
そう言ったところで、さっきの女子店員がお通しとドリンクを運んできた。
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