【完結】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ

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5.ふたりの六人目

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「で、それとお前がガリガリ勉強することにどんな関係があるんだよ?」

「退学になった身じゃあ、教師に直接手を出すすべがないでしょう?
で、ですね。推薦入学できたはずの高校の近くにもっとレベルの高い高校があるんです。それこそ全国で有名な。そこに入学する」

だから、もっと成績をあげなくちゃ。そう言って、佐山は椅子から立ち上がった。
これで「愚痴」は終わったのだろう。

「それが復讐なのか?」

「復讐の一部ですよ。もちろん合格だけでは完成しません。ただ、こんなことを話す機会ももう無いだろうから、良かったです。聞いてもらえて」

鞄を持ち上げながら、彼はにこりと微笑んだ。

「どういうこと?」

「べつに。本当は俺だって、権力でねじ伏せられた分は権力で返してみたいんですよ。
良い高校に入って、良い大学に進み、力を得て、俺を追いつめた奴らの社会的地位を脅かすような、そんな立場に立てたら最高じゃないですか」 

「……それは冗談だろ」

「もちろん。妄想にすぎません」

くすくすと笑う男の横で、ため息をつく。色々ぶっちゃけてくれたわりには、結局こいつが何を考えているのかよくわからなかった。

教室を出て廊下を歩きながら、やっぱり佐山は不気味だ、と心の中で呟いた。
現に俺に隠れて何かを企んでいるらしい。

もともと沙穂ちゃんに成りすましてメールを作成した本意だって謎だ。
本人はいたずらだとか抜かしていたが、本当にそれだけだろうか。
きっと、カレンとは別件の何かがまだあるのだ。この教室には。

「亀之湖うわさボット?」

「そうそう。誰が作ったんか知らんけどな。結構おもろいねん。フォローしてみ」

いまだ学校に残っているほかの生徒の雑談が耳に入る。

……ボットってなんだろう。

佐山に聞いてみようとして、口をつぐむ。
彼の口元にはこらえ切れていない笑みが漏れていた。
それに恐怖を覚えた俺は、黙り込んだまま昇降口へと足を進めた。

それだけの「予兆」に勘付いていながら、このときの俺はまだ最優先事項をカレンに置いていた。
実害の出ていない佐山にそれほどの危機感を覚えていなかったことが理由だった。

そしてこの油断を、のちに俺は深く後悔することになる。


「ひさしぶりー」

嬉しそうに手を振る優里に苦笑を返す。どうも彼女は能天気な性格らしい。
1週間ぶりの再会の場は亀之湖大池だった。
管理棟のそばには、人工的に作られた砂浜があり、数個のベンチが並んでいる。

ここを選んだ理由は、ただの消去法だ。
優里の家だとまた母親に追い出される可能性が高いし、俺の家というのも微妙だ。
なんせ相手は女子で、家には祖父母とチカがいる。
彼女の事情も考慮に入れると、学校の近くの喫茶店もまずいだろう。

LINEで連絡を取ったのは昨日のこと。
暇だから明日にでも、と返事が来た次第である。

優里に薦められてベンチに座る。
目の前には相変わらずの広大な池。ウィンドサーフィンを楽しむ人々の姿もある。

「……今、圭輔がアイたちからいじめられてる」

これは直前まで言おうかどうか迷った。
だけど、彼女だってF組の一員だ。この件にまったくの無関係ってわけでもない。現実を知らせることも必要だろう。

優里は、小さく「え」と声を出したあと動かなくなった。
恐る恐る、隣に座る彼女の顔を覗き込む。心臓が痛んだ。優里は目を見開いたまま固まっていた。

「それは……、うちのせい?」

「……」

否定はできないと思った。間接的ではあれ、それは事実だ。

「前にも言うたけど、アイはクラスメイトを恨んどる。あいつからすれば、いじめは優里のためらしい。……なにがあった?」

いきなりすぎるかとも思ったが、俺は本題をぶち込んだ。お互い覚悟はしてきた。余計な前置きなんて嫌味なだけだ。

「……芽衣子先輩の話、覚えとる?」

「ああ」

優里と親しかったらしい、あの派手なショップ店員だ。

「うちが小学生のとき仲良くしてもらってたのは、あのひとだけじゃなくて。十人ぐらいのグループがあったんよ。中学生とかもおって。その中にうちも入れてもらってて」 

「うん」

相槌をうちながら、俺は優里の話に耳を傾けた。
カレンが優里である可能性がほとんど消えた今も、俺はこの話のなかにヒントがあると思っている。
なにより、アイが固執している相手だ。もしカレンと無関係であったとしても、クラスのわだかまりを解消するために彼女は必要な存在だ。

優里によると、すべてのきっかけは彼女が属していた不良グループの、とある計画だったらしい。
中学生の先輩は、小学校に恨みがあった。
小学校からの報告のせいで、中学でも教師から目をつけられている、というものだ。

「小学校の職員室、めちゃくちゃにしてやろう」。単純な復讐だった。
それでも、優里にとっては信じられないことだった。

もともと彼女がそのグループに所属していたのは、小さいころから何かとお世話になった近所のお姉さん、芽衣子先輩がいるからだった。
だから、ほかのメンバーのことはよく知らない。そんな危ないことを考える人間だとは思いもしなかった。

「あんたは抜けてもいいよ」と芽衣子先輩は言ったが、優里は参加することを選んだ。逃げると、もっと怖いものが待っている気がした。


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