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6.嘘つきヒーロー
➁
しおりを挟む「信じられん」
「かといって、嘘には見えないよね?」
「まあ……、そうやけど」
休み時間。俺を除いた6人が教室の隅に固まっていた。よくわからないが、みんなで佐山の携帯を覗き込んでいる。
圭輔のやつだって、いい御身分だよな。俺がターゲットになったおかげで、いじめから解放されたんだから。
こっちはあれだけ心配していたっていうのに酷い扱いを受けるもんだ。
「あ、これ、もしかしてアイ?」
「うん。もともとはこれがきっかけで……」
だいたい、あいつらは何の話をしているんだろう。わざわざ俺をはずしているわりには、話の内容が悪口っぽくない。
……だからって、シカトされてることには変わらないんだけど。
最高にみじめな気分だ。ご丁寧に空気を読んで、すごすごと独りぼっちを受け入れている自分が情けないったらない。
いじめそのものより、クラスのやつらに「いじめのターゲット」として認識されるのが許せない。
放課後。
まだ教室に残るクラスメイトに気付かないふりをして、俺は帰路についた。
あぜ道を歩きながら、今日のことを振り返る。
今回のことで重要なのは、俺がアイの復讐対象外だということだ。
つまり、今までのいじめとは完全に別物になる。
おそらく発端は佐山だと思う。だけど彼はアイから警戒されていたはずだ。
どうやってクラスの空気を動かした? 何があれば、今までの流れを突然ぶった切って俺をターゲットに出来る?
「ただいまー」
勝手口を開けると、奥からばあちゃんの「おかえり」が聞こえてきた。
……落ち込んでいることはばれないようにしないと。
落としていた視線を無理やり持ち上げて、廊下を進む。階段を上がって部屋に入ると、そのまま布団を敷いて寝っ転がった。
夕焼けの光が眩しいけれど、起き上がってカーテンを閉める気力も湧かない。本棚に並ぶくたびれた漫画や、床に転がったゲームソフトのパッケージ。変わらない景色に妙な安心感を抱く。
自分の居場所は、もう此処しか残っていない。とはいえ、いつかは出ていかなければならないのだけど。目を閉じて、朝の光景を思い出す。
登校してきた那子の態度がいつも通りだったことを考えると、事前に示し合せていたわけではなさそうだ。
だとすると、本当に短時間……。みんなが圭輔の周りに集まっていたということは、今朝もいつも通りいじめが行われていたのだろう。
だけど、そこに佐山がやってきた。
あいつは、何らかの手を使ってみんなの注意を引きつけ、俺をターゲットにするきっかけを作った。問題はそこだ。
佐山が言葉であいつらを納得させたのなら、俺をいじめることへのメリット、もしくは正当性を述べたということになる。
じゃあ、そのメリットや正当性って一体何だって言うんだろう。
わからない。特に正当性だけは絶対に無いと言える。
だって、俺の行動はいつだってクラスのためだった。あの教室の中で、俺だけが正しかったと言ってもいいはずだ。
1階の居間から、妹の慌ただしい声が聞こえてくる。
明日から合宿だとか言っていたから、その準備でもしているのだろう。
チカって、悩みが無さそうで良いな。俺と違って明るいし。うらやましい。
「……くるしい」
どこか、この部屋よりもっと狭い場所に閉じこもって、一生そこで暮らしたい。
誰にも見られず、誰からも忘れられたまま、人生を終えてしまいたい。
目覚まし時計のボタンを叩く。
これで3回目だ。5分ごとに鳴っているはずだから、今は7時15分……。そろそろ起き上がらないと。
岩が乗っかっているかのように重い体をひきずって、支度をする。
通学路を歩く最中も、俺は出来るだけ下を向いていた。校舎を見据えながら足を踏み出していく気になれないからだ。
心臓に鉛を詰め込まれたような感覚。「行きたくない」と心が叫ぶ。それに必死で蓋をする。身体が沈んでいくような不安感。全身が痺れるような緊張感。
……耐えろ。「学校へ向かって歩く」、この行為自体が辛いわけじゃない。今は、この砂利道で一歩を踏み出すこと。それだけに集中するんだ。
そうしないときっと逃げ出してしまう。
教室の前。辿り着いてしまった。
戸に手をかけながら、吐き気を抑える。ここでためらっている姿を、クラスメイトに見られたくない。その思いだけで、教室に踏み込んだ。
相変わらず教室の端で固まるクラスメイトは、俺と目が合うと、すぐに逸らす。
拒絶を見つけるたび、心臓が削られていくように痛い。「べつに平気だよ」と、丸わかりの嘘を、大声で叫びたくなる。
表情を動かさないように固定しながら、俺は自分の席へと向かった。
自分の椅子に座ってから、机を凝視する。落書きはない。置きっぱなしの教科書も、異変なし。まだ仲間外れどまりか。
妙だな。多対一の構図は出来上がっているから、さっさと行動に移すものだと思っていたが。
何もされていなことは、もちろん安心すべきことだ。
しかし、これから何がどう爆発するのか未知数だという点では余計に不安を煽る。
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