【完結】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ

文字の大きさ
44 / 67
6.嘘つきヒーロー

しおりを挟む
肘をつきながら、一時間目に使うノートを取り出した。
無意味にページをめくって、居心地の悪さをやり過ごす。授業がこんなに待ち遠しくなる日が来ようとは。
チャイムの音を聞きながら、ほっと息をつく。指定された座席に座って、解くべき問題を片づけていく。
そんな自由の利かない時間が一番過ごしやすい。このときだけは、F組の一員として紛れ込めるから。

シャーペンの芯をノートのページにこすりつける。
数学の時間は好きだった。計算が好きだった。余計なことはなにも考えずに済むから。
だけど、今はそうもいかない。涙をこらえて喉が詰まるたび、嫌な思い出がよみがえる。

――あいつも、こんな気分だったのかな。

そう考えると、自分の弱腰にも罪悪感を覚える。強いふりをしよう。せめて、あいつに恥ずかしくない被害者でありたいと思う。



昼休み。
昼食のカレーパンは喉を通らなかった。仕方なく、教室を出て目的もなく廊下を歩く。
ちょうどその時、スマホに着信があった。チカだ。確か、東京で合宿だと言っていたはずだが。

「もしもし、どうしたん?」

LINEはともかく、チカからの電話は珍しい。

「もしもし。梶 森也さんですか?」

「……は?」

一瞬、思考が停止した。ディスプレイにはチカって表示されていたよな? じゃあ、この声は……、この女は一体。

「だれ……、チカは……」

「妹さんなら、自分とこの応援よ。今、練習試合してるの。このスマホは借りてる。それより否定しないってことは森也本人ってことでいい?」

「……あんたは誰なわけ」

「練習相手チームのマネージャーよ。それより良かった。電話帳から探してもなかなか見つからないんだもの。まさか、しんちゃんで登録されてるとはね。似合わないあだ名じゃない」 

「え、なに……、俺の知り合い? チカの友達?」

「満華ちゃんとは今日初めて会ったわ。亀之湖で梶っていうから、あんたの妹だろうとは思ったんだけど。
良い子よね。スマホ忘れたって言ったら快く貸してくれたわ。まさか、こんな使われ方してるとは思ってないだろうけど」

なんだ、誰だ。東京で合宿……。東京。まさか、転校前の……?

「それよりあんた、聞いたわ。野球部に入らなかったのね。うちのエースが気にしてたのに」

「エースって誰だよ。俺に何の関係が……」

「まだわからないの? 相変わらず薄情なやつ。れんが不憫でならないわ」

「れ……、んって、まさか、
お前、凛歌りんか……?」

声が上擦る。殺していた記憶が、突然生き返って俺を見つめる。その大きな目玉が俺の姿を捉える。途端、今まさに彼らと繋がっているのだと恐怖が襲う。電話を切るという選択肢すら思い浮かばないほどに、混乱していた。
ふふ、と不敵な笑い声が耳に入り込む。

「やっと気づいてくれた。声だけでわかってくれるかなって期待してたから少し残念よ。それより森也。久しぶりね。そっちの学校はどう? 楽しい?」

「だったら、なに……」

「冷たいこと言わないでよ。あれから私たち、あなたのことずっと心配していたのよ。向こうの学校でうまくやっていけてるのかどうか……」 

「嘘はやめろ」

「相変わらず酷いわね。そう、あんたは楽しくやっているんだ。ふうん。蓮に伝えておくわ」

「……」

「ああ、それから。ちょっと気になったんだけど、あんたの妹さん、部で浮いているんじゃない?」

「え?」

「避けられてるっていうのかしら。お兄さんなんだから、気にしてあげた方がいいわよ。窓から飛び降りたりされちゃ、たまらないでしょ?」

くすくすと笑いながら、凛歌は「じゃあね」と電話を切った。
スマホの画面が通話中からホーム画面に戻っても、俺はそのまま動けなかった。
汗がひどい。もう、関わることなどないと思っていた。いつも思い出さないようにしていた。逃げ続けてた。

「電話、誰からやったん?」

「は!?」

ぎょっとして、振り返る。そこには、心配そうに俺の顔を覗き込む那子の姿があった。

「誰でもええやろ……。なに」

なんで喋りかけてくるんだ。罠なのか? 佐山たちが隠れて様子を見ているのか? 

「いや、様子がおかしかったから……。電話の相手、女のひとやったよね? 彼女?」

立ち聞きされていたのだろうか。先程の電話が原因で、俺の警戒心はいつも以上に膨れ上がっていた。

「どうでもええやろ。佐山になに言われた……。俺を馬鹿にするネタでも探ってんのか……」

「馬鹿にする? まさか。森也は勘違いしてるんよ。うちは、ただ単純に気になったから……」

「だから、なにを気にすることがあるねんって。よってたかって俺を陥れるつもりのくせに」

「待って! ちゃうねん、うちが、みんなが森也を避けてたのはただ……」

那子が声を荒げたのは、初めてだった。驚いて目を見開く。
訴えかけるような、真剣な顔。演技には、見えない……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...