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第五章 心
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「千愛はそんな子じゃない。森山一筋だったの」
「ったく。ほんと悪趣味だね。あんたら二人」
なんで自分が入っているんだ。反論しようとして、やめた。面倒だ。また、なんやかんやと茶化してくるに違いない。そんな柊を覗き込んで、要は不気味に笑った。彼の目が、光った気がする。
張り付いていた笑顔が剥がれて、別の笑顔が現れた。
「ねえ、俺の推理を聞かせてあげようか?」
「……推理?」
何の。
「鷹谷は事故死じゃない。殺された」
ぴりっと、心臓に緊張が走る。
「……へ、え。その話は興味があるわ」
「だと思った」
要は満足そうに笑う。今度は一見邪気の無い笑顔。
「最近この辺りをうろつている警察。もちろん鷹谷の事件を捜査してる。彼らはどうやら、ミナミ中学校はもちろん、その近くのとある公衆電話にも興味を示しているみたいで」
「どこでそんな情報を?」
「警察をストーキングした」
「……ああ、そう」
「とにかく。ピーンと来たんだよねえ。鷹谷は殺されたあの日、誰かと電話していた。相手は公衆電話を使っていた」
「…………」
「おそらく、犯人がミナミ中学に呼び出したんだろう」
「どうしてそんなことが?」
「公衆電話だよ? 今時そんなもの使うなんて。身元がばれるのを恐れたからに違いないっしょ。犯罪の匂いがプンプンする」
「……妄想だわ。公衆電話だから犯罪だなんて、こじつけ……」
「かばっちゃうんだ。犯人のこと。なるほどねー」
「犯人をかばう!? 話が飛躍してる!」
「ムキになる所が怪しい」
どうして。話せば話すほど、ボロが出る。自分の言葉のどれが失言だったのか、わからない。
「そんじゃあ、推理ついでにもうひとつ。柊さんに聞いてもらおうかなあ」
「……なに」
まだ、なにかあるのか。こわくなった。でも、要の眼に捕えられて、動けない。
「千愛を殺したの、森山 有だよ」
風が吹いた。
千愛をコロシタの森山 有だよ? 言っている意味がわからない。けれど、きっと彼は嘘をついている。
私の反応を見て楽しんでいる。だから気にしなくていい。どういう意味なのか、考える必要もない。
**
「どう? 参考にならないでしょ。波キタのバックナンバー」
「そうね。まったく」
森山は楽しそうに笑った。いつもどおりだ。当たり前だが。この光景に違和感を覚えることが間違いなのだ。いつもどおりでないのは自分の心情だけなのだから。
「なに? ぼーっとして」
「別になにも」
ありえないありえないありえない。だけど、要くんの、あの眼。今思えば、からかっている感じではなかった。
「何もってことはないでしょ」
確認してもいいだろうか。柊は森山の目を見た。
「千愛のことなんだけど。森山は本当に何も知らないの?」
「……柊は、なにか知ってるの?」
「私はなにも知らない」
「俺もだよ」
その笑顔を、信じたい。セーターの裾を握る。
「さっき要くんが来て、森山が事件に関わってるって……。ちがうの、ごめんなさい、わたし、噂に惑わされる愚かさはわかってるのに……。要くんの眼がすごく怖くて、疑うのが嫌で、それなら森山に否定してもらってスッキリしようって……」
それって結局信じてないってことじゃない? そのくせぐだぐだ言い訳して。ああ、なんで私はこうなの。嫌い。捨てたい。こんな人間いらない。
「なにそれ」
やっぱり。冷えた声。最悪。ぐっと目を瞑る。もう全部おわり。どうしよう。どうって、もう何でもいいじゃない。森山がいなけりゃ、どうせ……私。
「要くん、やっぱり俺で遊んでるんだ。嘘ばっかりだし。千愛とキスしたとかも嘘に決まってるよ。なんだ、あいつ。暇人め」
「は……?」
柊は固まった。予想とかけ離れた反応。悪い夢を見て、目が覚めた時の感覚に似ている。ほっとして、拍子抜けして……。ゆるゆると力が抜ける。怒ってないみたいだ。どうしてだろう。とにかく良かった。
「あいつ俺のこと嫌いみたいだしさ。嫌がらせだよ」
森山は大げさに息を吐いた。森山の信用を無くして、柊との仲を裂こうとでもしたのだろうか。ずいぶんと悪質な嫌がらせだ。しかし、そんなことをして彼に何のメリットがあるのだろうか。
「もしかして要くんってさ、柊のこと好きなんじゃないの?」
「なんでそうなるの。だいたい要くんが好きになるとしたら、私よりむしろ……あ」
途切れた言葉に、森山は首を傾げた。
それに気づかず、柊は口元を手で抑えた。思いつきだが、それが本当のような気がしてきた。要くんの言葉には、何かひっかかると思っていた。
――鷹谷が憎かった。他のものなんて何も見えないくらい。
――確かに千愛は森山先輩のこと好きだったけどさ。
「ったく。ほんと悪趣味だね。あんたら二人」
なんで自分が入っているんだ。反論しようとして、やめた。面倒だ。また、なんやかんやと茶化してくるに違いない。そんな柊を覗き込んで、要は不気味に笑った。彼の目が、光った気がする。
張り付いていた笑顔が剥がれて、別の笑顔が現れた。
「ねえ、俺の推理を聞かせてあげようか?」
「……推理?」
何の。
「鷹谷は事故死じゃない。殺された」
ぴりっと、心臓に緊張が走る。
「……へ、え。その話は興味があるわ」
「だと思った」
要は満足そうに笑う。今度は一見邪気の無い笑顔。
「最近この辺りをうろつている警察。もちろん鷹谷の事件を捜査してる。彼らはどうやら、ミナミ中学校はもちろん、その近くのとある公衆電話にも興味を示しているみたいで」
「どこでそんな情報を?」
「警察をストーキングした」
「……ああ、そう」
「とにかく。ピーンと来たんだよねえ。鷹谷は殺されたあの日、誰かと電話していた。相手は公衆電話を使っていた」
「…………」
「おそらく、犯人がミナミ中学に呼び出したんだろう」
「どうしてそんなことが?」
「公衆電話だよ? 今時そんなもの使うなんて。身元がばれるのを恐れたからに違いないっしょ。犯罪の匂いがプンプンする」
「……妄想だわ。公衆電話だから犯罪だなんて、こじつけ……」
「かばっちゃうんだ。犯人のこと。なるほどねー」
「犯人をかばう!? 話が飛躍してる!」
「ムキになる所が怪しい」
どうして。話せば話すほど、ボロが出る。自分の言葉のどれが失言だったのか、わからない。
「そんじゃあ、推理ついでにもうひとつ。柊さんに聞いてもらおうかなあ」
「……なに」
まだ、なにかあるのか。こわくなった。でも、要の眼に捕えられて、動けない。
「千愛を殺したの、森山 有だよ」
風が吹いた。
千愛をコロシタの森山 有だよ? 言っている意味がわからない。けれど、きっと彼は嘘をついている。
私の反応を見て楽しんでいる。だから気にしなくていい。どういう意味なのか、考える必要もない。
**
「どう? 参考にならないでしょ。波キタのバックナンバー」
「そうね。まったく」
森山は楽しそうに笑った。いつもどおりだ。当たり前だが。この光景に違和感を覚えることが間違いなのだ。いつもどおりでないのは自分の心情だけなのだから。
「なに? ぼーっとして」
「別になにも」
ありえないありえないありえない。だけど、要くんの、あの眼。今思えば、からかっている感じではなかった。
「何もってことはないでしょ」
確認してもいいだろうか。柊は森山の目を見た。
「千愛のことなんだけど。森山は本当に何も知らないの?」
「……柊は、なにか知ってるの?」
「私はなにも知らない」
「俺もだよ」
その笑顔を、信じたい。セーターの裾を握る。
「さっき要くんが来て、森山が事件に関わってるって……。ちがうの、ごめんなさい、わたし、噂に惑わされる愚かさはわかってるのに……。要くんの眼がすごく怖くて、疑うのが嫌で、それなら森山に否定してもらってスッキリしようって……」
それって結局信じてないってことじゃない? そのくせぐだぐだ言い訳して。ああ、なんで私はこうなの。嫌い。捨てたい。こんな人間いらない。
「なにそれ」
やっぱり。冷えた声。最悪。ぐっと目を瞑る。もう全部おわり。どうしよう。どうって、もう何でもいいじゃない。森山がいなけりゃ、どうせ……私。
「要くん、やっぱり俺で遊んでるんだ。嘘ばっかりだし。千愛とキスしたとかも嘘に決まってるよ。なんだ、あいつ。暇人め」
「は……?」
柊は固まった。予想とかけ離れた反応。悪い夢を見て、目が覚めた時の感覚に似ている。ほっとして、拍子抜けして……。ゆるゆると力が抜ける。怒ってないみたいだ。どうしてだろう。とにかく良かった。
「あいつ俺のこと嫌いみたいだしさ。嫌がらせだよ」
森山は大げさに息を吐いた。森山の信用を無くして、柊との仲を裂こうとでもしたのだろうか。ずいぶんと悪質な嫌がらせだ。しかし、そんなことをして彼に何のメリットがあるのだろうか。
「もしかして要くんってさ、柊のこと好きなんじゃないの?」
「なんでそうなるの。だいたい要くんが好きになるとしたら、私よりむしろ……あ」
途切れた言葉に、森山は首を傾げた。
それに気づかず、柊は口元を手で抑えた。思いつきだが、それが本当のような気がしてきた。要くんの言葉には、何かひっかかると思っていた。
――鷹谷が憎かった。他のものなんて何も見えないくらい。
――確かに千愛は森山先輩のこと好きだったけどさ。
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