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第五章 心
③
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「森山先輩。私たちはあなたが好きです。信頼してるし、尊敬もしてる。だから、ちゃんと知りたい。あなたが何を考えているのか」
ユリの言葉は、その場全員の代弁に思えた。こんなことで見損ないたくない。そんな思いが込められている気がした。
「森山。やっぱりわたし……」
先の言葉が続かない。用意していないのだから当然だ。撤回は駄目。さっきそう考えたばかりなのに。
「柊。大丈夫だってば。そんな顔しないでよ」
ふわり。安心する。それは森山が笑うから。やさしい顔。なにも解決していないのに、気が楽になってしまう。
「……っ」
二人を取り残して、全員が息を呑んだ。緊迫とは違う。あっけにとられたような、そんな静寂が、この教室を包んだ。
「……わかりました。柊さん、とりあえず様子見期間を設けます。偏見で追い出して、万が一あなたに適正があってはいけませんから」
「……え」
仕方なしに、という感じが否めない上、酷すぎる言い分だ。だけど、そんなことは気にならなかった。表現はともあれ、これはつまり肯定だ。
「……まあ、いいんじゃない」
サツキの言葉に、ユリが頷く。いつの間にか、先ほどのとげとげしさが無くなっていた。なにが彼女達の意見を変えさせたのだろうか。まったくわからない。
「あ、がんばります……!!」
でも、なんだっていい。まずは飛び込もう。
もともと、大歓迎なんて期待してなかったし。よくわからないが、とにかく許しが出たなら万々歳だ。
(がんばろう)
動機は不純だった。頭ごなしに否定されても、仕方なかった。
森山に置いてかれたくない。それだけだったから。
学校をより良くとか、興味なかったから。自分は最低だったから。でも。
(がんばろう)
偏見を持たないと言ってくれた人たちに。誠意を返したい。地獄に見えるこの学校を、好きになる。その努力をしたい。
柊はセーターの裾を握り締めた。心臓がドキドキする。なぜだか緊張してきた。
これから先は、自分しだい。叫びたいような、走り回りたいような、泣きたいような。これから、始まる。血がぐるぐる回って抑えられない。とにかく。
(がんばろう)
**
――「波北の波がキタ!!」略して波キタの発行も遂に二桁に突入です。拍手!! サムいと不評だったタイトルも慣れればステキでしょ♪ さてさて今回の担当は歩く白ユリこと放送委員長のユリです♪ ユリリンって呼んでね。そういえば、この前わたし……、
「むりだ……」
柊は机に突っ伏した。参考にもらった先月の校内だよりは、思いのほか強烈だ。こんなふざけた文章を学校中にばら撒くなんて、ユリの心臓には毛が生えている。
今月からは自分の仕事だ。副委員長が向いていないと言ったのは、こういうことか。正直、親父ギャグなタイトルに慣れる日が来るとも思えない。しかし、成功以外に許される道は無い。
「どったのー」
頭上に降って来た声に、弾かれたように顔を上げる。
「要くん?」
窓のさんに手をかけて、彼は「やっほー」とふざけた挨拶を放つ。
「久々だね。今日は一人なんだ? 最近ほら、警察がウロチョロしてて物騒だしさ、危ないんじゃない?」
いつもの笑顔を貼り付けて、彼は手を振る。危ないと言われても、ここは生徒会室だ。こんな風に窓から覗き込まれでもしない限り、危険は無いはずだ。それにしても、他校の敷地でも堂々と侵入してしまうとは。きっと彼も心臓に毛が生えているのだろう。
「普通逆じゃない?」
「ん?」
「警察がウロチョロしてくれてれば安全じゃない。なんでそれが物騒なの?」
「んん? ああ、そっか。だよねー、普通そうなりますよねー」
意味がわからない。柊は首を傾げた。
「で? 要くんは何の用があって来たの。森山なら当分戻らないよ?」
「なにそのセリフ。いいね。夫婦みたいだね」
本当に意味がわからない。絶対何か用事があって来たくせに、いつもはぐらかす。
「その窓閉めて。寒いから」
要が顔を乗り出している窓を指さす。
「はじめから開いてたのに」
「森山が帰ってきたら開けてあげる」
閉める気配がないので、柊は自ら窓に手を伸ばした。
「ちょ、待った待った」
「なんなの?」
全くわからない。慌てて柊の手を制する要。その意図を測りかねて、彼女は眉をよせる。
「あ」
彼を睨んでいると、大事なことを思い出した。いつか文句を言ってやろうと思っていたのだ。
「あなた森山をからかって遊んでるでしょ?」
「へ? ナニソレ」
「だって、千愛とキスしたとか嘘ついて」
彼の反応を見て楽しんでいたのだろうか。まったく質の悪い。
「いやいや、なんで嘘なのよ、失礼しちゃう。確かに千愛は森山先輩のこと好きだったけどさ。
だからって他の奴とキスしてない証拠にはならんだろー」
ユリの言葉は、その場全員の代弁に思えた。こんなことで見損ないたくない。そんな思いが込められている気がした。
「森山。やっぱりわたし……」
先の言葉が続かない。用意していないのだから当然だ。撤回は駄目。さっきそう考えたばかりなのに。
「柊。大丈夫だってば。そんな顔しないでよ」
ふわり。安心する。それは森山が笑うから。やさしい顔。なにも解決していないのに、気が楽になってしまう。
「……っ」
二人を取り残して、全員が息を呑んだ。緊迫とは違う。あっけにとられたような、そんな静寂が、この教室を包んだ。
「……わかりました。柊さん、とりあえず様子見期間を設けます。偏見で追い出して、万が一あなたに適正があってはいけませんから」
「……え」
仕方なしに、という感じが否めない上、酷すぎる言い分だ。だけど、そんなことは気にならなかった。表現はともあれ、これはつまり肯定だ。
「……まあ、いいんじゃない」
サツキの言葉に、ユリが頷く。いつの間にか、先ほどのとげとげしさが無くなっていた。なにが彼女達の意見を変えさせたのだろうか。まったくわからない。
「あ、がんばります……!!」
でも、なんだっていい。まずは飛び込もう。
もともと、大歓迎なんて期待してなかったし。よくわからないが、とにかく許しが出たなら万々歳だ。
(がんばろう)
動機は不純だった。頭ごなしに否定されても、仕方なかった。
森山に置いてかれたくない。それだけだったから。
学校をより良くとか、興味なかったから。自分は最低だったから。でも。
(がんばろう)
偏見を持たないと言ってくれた人たちに。誠意を返したい。地獄に見えるこの学校を、好きになる。その努力をしたい。
柊はセーターの裾を握り締めた。心臓がドキドキする。なぜだか緊張してきた。
これから先は、自分しだい。叫びたいような、走り回りたいような、泣きたいような。これから、始まる。血がぐるぐる回って抑えられない。とにかく。
(がんばろう)
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――「波北の波がキタ!!」略して波キタの発行も遂に二桁に突入です。拍手!! サムいと不評だったタイトルも慣れればステキでしょ♪ さてさて今回の担当は歩く白ユリこと放送委員長のユリです♪ ユリリンって呼んでね。そういえば、この前わたし……、
「むりだ……」
柊は机に突っ伏した。参考にもらった先月の校内だよりは、思いのほか強烈だ。こんなふざけた文章を学校中にばら撒くなんて、ユリの心臓には毛が生えている。
今月からは自分の仕事だ。副委員長が向いていないと言ったのは、こういうことか。正直、親父ギャグなタイトルに慣れる日が来るとも思えない。しかし、成功以外に許される道は無い。
「どったのー」
頭上に降って来た声に、弾かれたように顔を上げる。
「要くん?」
窓のさんに手をかけて、彼は「やっほー」とふざけた挨拶を放つ。
「久々だね。今日は一人なんだ? 最近ほら、警察がウロチョロしてて物騒だしさ、危ないんじゃない?」
いつもの笑顔を貼り付けて、彼は手を振る。危ないと言われても、ここは生徒会室だ。こんな風に窓から覗き込まれでもしない限り、危険は無いはずだ。それにしても、他校の敷地でも堂々と侵入してしまうとは。きっと彼も心臓に毛が生えているのだろう。
「普通逆じゃない?」
「ん?」
「警察がウロチョロしてくれてれば安全じゃない。なんでそれが物騒なの?」
「んん? ああ、そっか。だよねー、普通そうなりますよねー」
意味がわからない。柊は首を傾げた。
「で? 要くんは何の用があって来たの。森山なら当分戻らないよ?」
「なにそのセリフ。いいね。夫婦みたいだね」
本当に意味がわからない。絶対何か用事があって来たくせに、いつもはぐらかす。
「その窓閉めて。寒いから」
要が顔を乗り出している窓を指さす。
「はじめから開いてたのに」
「森山が帰ってきたら開けてあげる」
閉める気配がないので、柊は自ら窓に手を伸ばした。
「ちょ、待った待った」
「なんなの?」
全くわからない。慌てて柊の手を制する要。その意図を測りかねて、彼女は眉をよせる。
「あ」
彼を睨んでいると、大事なことを思い出した。いつか文句を言ってやろうと思っていたのだ。
「あなた森山をからかって遊んでるでしょ?」
「へ? ナニソレ」
「だって、千愛とキスしたとか嘘ついて」
彼の反応を見て楽しんでいたのだろうか。まったく質の悪い。
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