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第五章 心
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「違うんだってば。柊はもう生徒会の一員だから、ここにいても大丈夫なんだよ」
「はああ!?」
絶叫。声で、教室が崩れるんじゃないかと思った。
「え、と。そういうことなので……」
「そういうことってどういうこと? 知ってますか? 生徒会は学校の代表です。波北の看板です。当然そこにはクリーンさが求められる」
何が言いたいのか、すぐにわかった。言われて当然と、覚悟もしていた。
「クリーンって、政治家じゃないんだから。それに、柊はすっごい清潔だよ。髪の毛サラサラだし。毎日洗ってる感じじゃん?」
「森山、毎日洗ってないの?」
「まさか。洗ってるに決まってるでしょ」
ですよね。柊は苦笑いを返した。これは、まずい気がする。ちらりと、副会長の様子をうかがう。
「そういう意味じゃありません!! よからぬ噂が付き纏う彼女は相応しくないと……」
「副会長。いい加減にしなよ」
「…………!」
冷たい眼。責めるというより、失望したような。初めて見るそれに、ぞっとした。
(平気なのに……)
言われ慣れてる。いまさら。ううん、今までなら傷ついていた。
でも森山がデマだって知っていてくれるから、私は平気なんだよ。
「いいです。わかりました」
副会長は泣き出しそうな顔を見せ、教室を出て行った。
(ごめんなさい)
罪悪感が、襲った。傷ついたに違いない。森山にあんな眼で見られたら、立ち直れない気がする。
普段が穏やかな分、すごく怖かった。庇ってくれたことへの感謝より、恐怖が勝った。
「ごめんね。俺がふざけてばっかいるから副会長、イライラしてあんな事言っただけで。ほら、本当は優しい子なんだよ」
「うん。大丈夫、わかってる」
「ありがと」
森山は目を細める。柊も、笑顔を返した。副会長への信頼が、伝わる。本当は優しい子なんだよって、知らない。そんなの。べつに聞いてないよ。
「じゃあ放課後、生徒会のメンバーに挨拶だね。初めはいろいろあるかもだけど、すぐに慣れるよ」
「……ん」
柊は、頷いた。また、英語の長文に向き合う森山。今度は英文じゃなくて、彼を眺めた。
(そっか。サツキとユリもいたんだ)
とんでもないことになってしまった。
そう実感するには遅すぎた。たくさんの目がこちらを向いている。歓迎の色は、もちろん見当たらない。ひとに見られると、無条件に自分が居てはいけない人間に思える。
生徒会以前に、世の中に存在するに相応しくない。言葉にすると大げさだが、そういう気分だ。注がれる視線が自分をボロ炭に戻す。それが、本来在るべき姿なのだと。
「柊には広報を担当してもらうから。今まで役員でローテーションしてたやつ、大変だったでしょ。これからは負担減るよ」
いやー、助かる助かる。笑いながら柊の肩を叩く森山。
この、何とも言えない空気を読めていない筈がない。生徒会室が広い。視界が揺れてきた。怖くて動けない。
「公私混同じゃないんですか?」
ひやりとした声。ユリだ。わかってた反応なのに、心臓がバックリ切り刻まれたみたいに痛い。
「こーしこんどー?」
森山の悪いクセだ。わかっているくせに馬鹿なフリをする。これが、場を和ませることももちろんある。でも、みんなを苛立たせてしまうことだって。
「だって森山会長と柊さん、付き合ってるって噂ですよ」
その場が頷くのがわかった。やはりそうだ。私は彼に近づきすぎたのだ。こんなことを言われてしまうほど。
「えー、付き合ってないってば。みんなそっち方面で考えたがるんだから。まいるよ、ほんと」
「でも、付き合ってなくたって仲良いじゃないですか。柊さんが広報に適任だとも思えないし、会長の好みで選んでいるとしか……」
ずっと黙っていた副会長が発言した。静かにしておくのも限界だったのだろう。
「うん。仲いいよ。みんなもすぐ仲良くなれると思う。
だって柊いい子だもん。確かに広報に向いてそうだからって許可したわけじゃない。けど、居てくれると助かると思うんだ」
「それは、誰が助かるんですか?」
「へ?」
質問したのはサツキだった。森山はその本意を掴みかねているようだった。生徒会にとって助かる。他意はなかった。
(最悪)
柊は、今すぐにでも泣き出したい気分だった。自分のせいで森山の信用が失われようとしている。馬鹿なことをしてしまった。生徒会に入りたいなんて、上手くいくはずなかった。
でも、今更撤回などしようものなら、それはさらに森山の顔に泥を塗るだけだ。ぎゅっと目を瞑る。どうしよう。ううん、何もできない。
(ごめんなさい。ごめんなさい)
本当に。森山の邪魔しかしてない。
「はああ!?」
絶叫。声で、教室が崩れるんじゃないかと思った。
「え、と。そういうことなので……」
「そういうことってどういうこと? 知ってますか? 生徒会は学校の代表です。波北の看板です。当然そこにはクリーンさが求められる」
何が言いたいのか、すぐにわかった。言われて当然と、覚悟もしていた。
「クリーンって、政治家じゃないんだから。それに、柊はすっごい清潔だよ。髪の毛サラサラだし。毎日洗ってる感じじゃん?」
「森山、毎日洗ってないの?」
「まさか。洗ってるに決まってるでしょ」
ですよね。柊は苦笑いを返した。これは、まずい気がする。ちらりと、副会長の様子をうかがう。
「そういう意味じゃありません!! よからぬ噂が付き纏う彼女は相応しくないと……」
「副会長。いい加減にしなよ」
「…………!」
冷たい眼。責めるというより、失望したような。初めて見るそれに、ぞっとした。
(平気なのに……)
言われ慣れてる。いまさら。ううん、今までなら傷ついていた。
でも森山がデマだって知っていてくれるから、私は平気なんだよ。
「いいです。わかりました」
副会長は泣き出しそうな顔を見せ、教室を出て行った。
(ごめんなさい)
罪悪感が、襲った。傷ついたに違いない。森山にあんな眼で見られたら、立ち直れない気がする。
普段が穏やかな分、すごく怖かった。庇ってくれたことへの感謝より、恐怖が勝った。
「ごめんね。俺がふざけてばっかいるから副会長、イライラしてあんな事言っただけで。ほら、本当は優しい子なんだよ」
「うん。大丈夫、わかってる」
「ありがと」
森山は目を細める。柊も、笑顔を返した。副会長への信頼が、伝わる。本当は優しい子なんだよって、知らない。そんなの。べつに聞いてないよ。
「じゃあ放課後、生徒会のメンバーに挨拶だね。初めはいろいろあるかもだけど、すぐに慣れるよ」
「……ん」
柊は、頷いた。また、英語の長文に向き合う森山。今度は英文じゃなくて、彼を眺めた。
(そっか。サツキとユリもいたんだ)
とんでもないことになってしまった。
そう実感するには遅すぎた。たくさんの目がこちらを向いている。歓迎の色は、もちろん見当たらない。ひとに見られると、無条件に自分が居てはいけない人間に思える。
生徒会以前に、世の中に存在するに相応しくない。言葉にすると大げさだが、そういう気分だ。注がれる視線が自分をボロ炭に戻す。それが、本来在るべき姿なのだと。
「柊には広報を担当してもらうから。今まで役員でローテーションしてたやつ、大変だったでしょ。これからは負担減るよ」
いやー、助かる助かる。笑いながら柊の肩を叩く森山。
この、何とも言えない空気を読めていない筈がない。生徒会室が広い。視界が揺れてきた。怖くて動けない。
「公私混同じゃないんですか?」
ひやりとした声。ユリだ。わかってた反応なのに、心臓がバックリ切り刻まれたみたいに痛い。
「こーしこんどー?」
森山の悪いクセだ。わかっているくせに馬鹿なフリをする。これが、場を和ませることももちろんある。でも、みんなを苛立たせてしまうことだって。
「だって森山会長と柊さん、付き合ってるって噂ですよ」
その場が頷くのがわかった。やはりそうだ。私は彼に近づきすぎたのだ。こんなことを言われてしまうほど。
「えー、付き合ってないってば。みんなそっち方面で考えたがるんだから。まいるよ、ほんと」
「でも、付き合ってなくたって仲良いじゃないですか。柊さんが広報に適任だとも思えないし、会長の好みで選んでいるとしか……」
ずっと黙っていた副会長が発言した。静かにしておくのも限界だったのだろう。
「うん。仲いいよ。みんなもすぐ仲良くなれると思う。
だって柊いい子だもん。確かに広報に向いてそうだからって許可したわけじゃない。けど、居てくれると助かると思うんだ」
「それは、誰が助かるんですか?」
「へ?」
質問したのはサツキだった。森山はその本意を掴みかねているようだった。生徒会にとって助かる。他意はなかった。
(最悪)
柊は、今すぐにでも泣き出したい気分だった。自分のせいで森山の信用が失われようとしている。馬鹿なことをしてしまった。生徒会に入りたいなんて、上手くいくはずなかった。
でも、今更撤回などしようものなら、それはさらに森山の顔に泥を塗るだけだ。ぎゅっと目を瞑る。どうしよう。ううん、何もできない。
(ごめんなさい。ごめんなさい)
本当に。森山の邪魔しかしてない。
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