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「……おはよう、レナータ」
重々しい声が聞こえたのは、次の授業の前に教室へ向かう途中のことだった。
その声の主は、王太子ジルベール・フォン・クラレンス。金色の髪と端正な顔立ちを持つ彼は、周囲の生徒から常に注目を集めている。
「殿下……今日はまた、珍しく私にお声がけを?」
レナータは驚きを隠せない。ふだんジルベールとは、ほとんど会話らしい会話をしていないのだ。彼は婚約者であるレナータを避けるような素振りを見せることが多い。
「いや、ちょっと……学園行事のことで伝言があって」
ジルベールは視線を逸らしながら言葉を続ける。
どうやら生徒会の打ち合わせで、伯爵家にも協力を依頼したいことがあるらしい。
「わかりましたわ。詳細は後ほど書面でいただけますか?」
冷静に応じるレナータだったが、心の奥ではどこか胸がざわつく。この相手は自分の婚約者。それなのに、まるで他人行儀だ。
「……ああ、そうしてくれ。じゃあ、失礼する」
ジルベールは少し戸惑った様子を見せてから、足早に去っていった。その背中を見送りながら、マリアナがぽつりと呟く。
「殿下、なんだか少し焦っていらしたように見えましたわ」
レナータもその印象を抱いた。以前はもっと無関心に見えたのに、今日はどうにも落ち着きがない。
「私が最近、雰囲気を変えたせいかしらね」
そう言ってレナータは苦笑する。悪い方向ではないはずだが、まだ確信を持つには早い。
「殿下が婚約者であるお嬢様をどう思っていらっしゃるのか、よくわかりませんね」
マリアナの疑問に、レナータは首を傾げる。彼女自身、ジルベールの本心を計りかねていた。
「私も同じよ。もしかして、アメリアさまを好きなのかもしれないし……。それを考えると、私がいるのは邪魔なのかしら」
ほんの少しだけ、胸がチクリと痛む。もともと王太子との結婚に強い憧れはなかったはずなのに、こうして距離を感じると、なぜだか切なくなる。
「お嬢様」
マリアナが優しく呼びかけると、レナータは微笑んでみせる。
「大丈夫よ。私は今、自分を磨くことに専念しているんだから。婚約者の気持ちなんて、今は置いておくわ」
そう思い切って宣言したレナータの瞳には、ほんのわずかな寂しさが映る。けれどその感情を振り払うように、彼女は前へ歩き出す。
「さ、次の授業に遅れないように急ぎましょう」
マリアナもそれ以上は何も言わず、レナータの背中を追いかける。
婚約者とのあいまいな距離感。悪役令嬢の噂。そして“美”を追求する新たな日々。レナータの学園生活は、少しずつ大きく変わろうとしていた。
重々しい声が聞こえたのは、次の授業の前に教室へ向かう途中のことだった。
その声の主は、王太子ジルベール・フォン・クラレンス。金色の髪と端正な顔立ちを持つ彼は、周囲の生徒から常に注目を集めている。
「殿下……今日はまた、珍しく私にお声がけを?」
レナータは驚きを隠せない。ふだんジルベールとは、ほとんど会話らしい会話をしていないのだ。彼は婚約者であるレナータを避けるような素振りを見せることが多い。
「いや、ちょっと……学園行事のことで伝言があって」
ジルベールは視線を逸らしながら言葉を続ける。
どうやら生徒会の打ち合わせで、伯爵家にも協力を依頼したいことがあるらしい。
「わかりましたわ。詳細は後ほど書面でいただけますか?」
冷静に応じるレナータだったが、心の奥ではどこか胸がざわつく。この相手は自分の婚約者。それなのに、まるで他人行儀だ。
「……ああ、そうしてくれ。じゃあ、失礼する」
ジルベールは少し戸惑った様子を見せてから、足早に去っていった。その背中を見送りながら、マリアナがぽつりと呟く。
「殿下、なんだか少し焦っていらしたように見えましたわ」
レナータもその印象を抱いた。以前はもっと無関心に見えたのに、今日はどうにも落ち着きがない。
「私が最近、雰囲気を変えたせいかしらね」
そう言ってレナータは苦笑する。悪い方向ではないはずだが、まだ確信を持つには早い。
「殿下が婚約者であるお嬢様をどう思っていらっしゃるのか、よくわかりませんね」
マリアナの疑問に、レナータは首を傾げる。彼女自身、ジルベールの本心を計りかねていた。
「私も同じよ。もしかして、アメリアさまを好きなのかもしれないし……。それを考えると、私がいるのは邪魔なのかしら」
ほんの少しだけ、胸がチクリと痛む。もともと王太子との結婚に強い憧れはなかったはずなのに、こうして距離を感じると、なぜだか切なくなる。
「お嬢様」
マリアナが優しく呼びかけると、レナータは微笑んでみせる。
「大丈夫よ。私は今、自分を磨くことに専念しているんだから。婚約者の気持ちなんて、今は置いておくわ」
そう思い切って宣言したレナータの瞳には、ほんのわずかな寂しさが映る。けれどその感情を振り払うように、彼女は前へ歩き出す。
「さ、次の授業に遅れないように急ぎましょう」
マリアナもそれ以上は何も言わず、レナータの背中を追いかける。
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