14 / 35
14
しおりを挟む
「……なるほど。セシリア様を巡る状況は、やはり意図的なものがあるようですね」
王宮の小さな一室で、アレクシスは集めた報告書を手に取り、軽く息をつく。
調査を進める中で、いくつかの疑わしい点が浮かび上がっていた。
「マーガレット・バローズという令嬢が中心になって、セシリア様を悪役扱いする噂を広めている。それもかなり計画的に」
アレクシスの口調は淡々としているが、その眼差しは鋭い。
一方、報告にあたる近衛騎士の一人は頭を下げながら続ける。
「はい。学園内では、もはやセシリア様が“悪徳令嬢”と見なされる風潮ができております。その裏で、バローズ家と懇意にしている貴族も動いているとの情報も」
「そうですか……。ありがとう、協力に感謝します」
アレクシスは騎士を退室させると、改めて資料を見直す。
王太子ライナスがセシリアとの婚約破棄を公に宣言した背景にも、何者かの思惑が絡んでいる。
そしてマーガレットがその実行役を担った可能性が高い。
(しかし、それだけではないはず。セシリアが“悪役”を演じ続ける理由は、家の事情だけでなく、もっと深いところにあるのではないか……)
そんな思考を巡らせていると、部屋の扉がノックされる。
アレクシスが「どうぞ」と声をかけると、ためらいがちにオスカー・ルーカスが姿を現した。
「アレクシス殿下、突然の訪問をお許しください。少しお話を伺いたくて」
「オスカー。……どうぞ、こちらへ」
アレクシスは来訪を歓迎するように席を勧める。
オスカーは恐縮しながらも腰を下ろし、やや緊張した面持ちで口を開いた。
「セシリアのことについて、です。殿下は彼女に興味をお持ちのようですが……どこまでご存知なのでしょう?」
「マーガレットという令嬢が裏で糸を引いていること、王太子との婚約破棄が誰かの仕組んだ計略である可能性……程度でしょうか」
アレクシスの返答を聞き、オスカーは小さく唇を噛む。
彼の中には葛藤があった。セシリアの秘密を勝手に話していいものかどうか。
「セシリアは……本当は悪役なんかじゃありません。俺は昔から知っています。彼女は心優しく、誰よりも純粋で」
「ええ、僕もそう思っています」
アレクシスの即答に、オスカーは少し驚いた表情を見せる。
そして胸の奥に滾る感情を吐き出すように言葉を重ねた。
「それなのに、彼女はすべてを一人で抱え込み、家門のために自らを犠牲にしようとしている。どうにか助けてやりたいのに、俺には手が足りない」
「あなたがそこまで言うのなら、よほどセシリアを大切に思っているのですね」
「はい。幼馴染としても……いえ、一人の女性として大切に思っています」
オスカーの率直な告白を受け止めたアレクシスは、少しだけまなざしを沈ませる。
しかしすぐに静かな笑みを浮かべた。
「では、共闘しましょう。僕もセシリアを放っておけない。あなたが知り得る情報を、もし教えていただけるなら、僕は王族として動くことができます」
「ありがとうございます。……正直なところ、殿下は『セシリアに興味を持っているだけ』と聞いて、最初は疑っていました。でも、今の殿下を見て、俺は信じることができそうです」
オスカーは決心したかのようにうなずき、セシリアの家の事情、彼女が抱えている苦悩の一端をアレクシスに伝え始める。
ガーネット公爵家が王太子派閥で微妙な立場にあり、父テオドールが何かしらの政治的取引を進めていること。
そして母ローザの病気が一段と重くなり、セシリア自身が家を支えていること――。
「セシリアの本心はわかりません。でも、少なくとも彼女は“本当の自分”を捨てている。それを踏み台にして利用している者がいるなら、何としてでも止めたいんです」
「ええ、僕も同じ思いです。彼女が“悪役”である必要などない。それを証明し、彼女が笑って過ごせるようにしたい」
アレクシスの声には、強い決意がこもっていた。
このままでは、セシリアは破滅の道を歩むことになるかもしれない。
それを回避するためにも、真実を明らかにしなければならないと、改めて確信する。
部屋に差し込む夕日の中、二人の青年の意志は固く結ばれた。
セシリアを救い出すために――そして、彼女が失った笑顔を取り戻させるために。
王宮の小さな一室で、アレクシスは集めた報告書を手に取り、軽く息をつく。
調査を進める中で、いくつかの疑わしい点が浮かび上がっていた。
「マーガレット・バローズという令嬢が中心になって、セシリア様を悪役扱いする噂を広めている。それもかなり計画的に」
アレクシスの口調は淡々としているが、その眼差しは鋭い。
一方、報告にあたる近衛騎士の一人は頭を下げながら続ける。
「はい。学園内では、もはやセシリア様が“悪徳令嬢”と見なされる風潮ができております。その裏で、バローズ家と懇意にしている貴族も動いているとの情報も」
「そうですか……。ありがとう、協力に感謝します」
アレクシスは騎士を退室させると、改めて資料を見直す。
王太子ライナスがセシリアとの婚約破棄を公に宣言した背景にも、何者かの思惑が絡んでいる。
そしてマーガレットがその実行役を担った可能性が高い。
(しかし、それだけではないはず。セシリアが“悪役”を演じ続ける理由は、家の事情だけでなく、もっと深いところにあるのではないか……)
そんな思考を巡らせていると、部屋の扉がノックされる。
アレクシスが「どうぞ」と声をかけると、ためらいがちにオスカー・ルーカスが姿を現した。
「アレクシス殿下、突然の訪問をお許しください。少しお話を伺いたくて」
「オスカー。……どうぞ、こちらへ」
アレクシスは来訪を歓迎するように席を勧める。
オスカーは恐縮しながらも腰を下ろし、やや緊張した面持ちで口を開いた。
「セシリアのことについて、です。殿下は彼女に興味をお持ちのようですが……どこまでご存知なのでしょう?」
「マーガレットという令嬢が裏で糸を引いていること、王太子との婚約破棄が誰かの仕組んだ計略である可能性……程度でしょうか」
アレクシスの返答を聞き、オスカーは小さく唇を噛む。
彼の中には葛藤があった。セシリアの秘密を勝手に話していいものかどうか。
「セシリアは……本当は悪役なんかじゃありません。俺は昔から知っています。彼女は心優しく、誰よりも純粋で」
「ええ、僕もそう思っています」
アレクシスの即答に、オスカーは少し驚いた表情を見せる。
そして胸の奥に滾る感情を吐き出すように言葉を重ねた。
「それなのに、彼女はすべてを一人で抱え込み、家門のために自らを犠牲にしようとしている。どうにか助けてやりたいのに、俺には手が足りない」
「あなたがそこまで言うのなら、よほどセシリアを大切に思っているのですね」
「はい。幼馴染としても……いえ、一人の女性として大切に思っています」
オスカーの率直な告白を受け止めたアレクシスは、少しだけまなざしを沈ませる。
しかしすぐに静かな笑みを浮かべた。
「では、共闘しましょう。僕もセシリアを放っておけない。あなたが知り得る情報を、もし教えていただけるなら、僕は王族として動くことができます」
「ありがとうございます。……正直なところ、殿下は『セシリアに興味を持っているだけ』と聞いて、最初は疑っていました。でも、今の殿下を見て、俺は信じることができそうです」
オスカーは決心したかのようにうなずき、セシリアの家の事情、彼女が抱えている苦悩の一端をアレクシスに伝え始める。
ガーネット公爵家が王太子派閥で微妙な立場にあり、父テオドールが何かしらの政治的取引を進めていること。
そして母ローザの病気が一段と重くなり、セシリア自身が家を支えていること――。
「セシリアの本心はわかりません。でも、少なくとも彼女は“本当の自分”を捨てている。それを踏み台にして利用している者がいるなら、何としてでも止めたいんです」
「ええ、僕も同じ思いです。彼女が“悪役”である必要などない。それを証明し、彼女が笑って過ごせるようにしたい」
アレクシスの声には、強い決意がこもっていた。
このままでは、セシリアは破滅の道を歩むことになるかもしれない。
それを回避するためにも、真実を明らかにしなければならないと、改めて確信する。
部屋に差し込む夕日の中、二人の青年の意志は固く結ばれた。
セシリアを救い出すために――そして、彼女が失った笑顔を取り戻させるために。
2
あなたにおすすめの小説
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる