婚約破棄された悪役令嬢は、唯一無二の笑顔を知る

神楽坂ゆい

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「……なるほど。セシリア様を巡る状況は、やはり意図的なものがあるようですね」

 

王宮の小さな一室で、アレクシスは集めた報告書を手に取り、軽く息をつく。
調査を進める中で、いくつかの疑わしい点が浮かび上がっていた。

 

「マーガレット・バローズという令嬢が中心になって、セシリア様を悪役扱いする噂を広めている。それもかなり計画的に」

 

アレクシスの口調は淡々としているが、その眼差しは鋭い。
一方、報告にあたる近衛騎士の一人は頭を下げながら続ける。

 

「はい。学園内では、もはやセシリア様が“悪徳令嬢”と見なされる風潮ができております。その裏で、バローズ家と懇意にしている貴族も動いているとの情報も」

 

「そうですか……。ありがとう、協力に感謝します」

 

アレクシスは騎士を退室させると、改めて資料を見直す。
王太子ライナスがセシリアとの婚約破棄を公に宣言した背景にも、何者かの思惑が絡んでいる。
そしてマーガレットがその実行役を担った可能性が高い。

 

(しかし、それだけではないはず。セシリアが“悪役”を演じ続ける理由は、家の事情だけでなく、もっと深いところにあるのではないか……)

 

そんな思考を巡らせていると、部屋の扉がノックされる。
アレクシスが「どうぞ」と声をかけると、ためらいがちにオスカー・ルーカスが姿を現した。

 

「アレクシス殿下、突然の訪問をお許しください。少しお話を伺いたくて」

 

「オスカー。……どうぞ、こちらへ」

 

アレクシスは来訪を歓迎するように席を勧める。
オスカーは恐縮しながらも腰を下ろし、やや緊張した面持ちで口を開いた。

 

「セシリアのことについて、です。殿下は彼女に興味をお持ちのようですが……どこまでご存知なのでしょう?」

 

「マーガレットという令嬢が裏で糸を引いていること、王太子との婚約破棄が誰かの仕組んだ計略である可能性……程度でしょうか」

 

アレクシスの返答を聞き、オスカーは小さく唇を噛む。
彼の中には葛藤があった。セシリアの秘密を勝手に話していいものかどうか。

 

「セシリアは……本当は悪役なんかじゃありません。俺は昔から知っています。彼女は心優しく、誰よりも純粋で」

 

「ええ、僕もそう思っています」

 

アレクシスの即答に、オスカーは少し驚いた表情を見せる。
そして胸の奥に滾る感情を吐き出すように言葉を重ねた。

 

「それなのに、彼女はすべてを一人で抱え込み、家門のために自らを犠牲にしようとしている。どうにか助けてやりたいのに、俺には手が足りない」

 

「あなたがそこまで言うのなら、よほどセシリアを大切に思っているのですね」

 

「はい。幼馴染としても……いえ、一人の女性として大切に思っています」

 

オスカーの率直な告白を受け止めたアレクシスは、少しだけまなざしを沈ませる。
しかしすぐに静かな笑みを浮かべた。

 

「では、共闘しましょう。僕もセシリアを放っておけない。あなたが知り得る情報を、もし教えていただけるなら、僕は王族として動くことができます」

 

「ありがとうございます。……正直なところ、殿下は『セシリアに興味を持っているだけ』と聞いて、最初は疑っていました。でも、今の殿下を見て、俺は信じることができそうです」

 

オスカーは決心したかのようにうなずき、セシリアの家の事情、彼女が抱えている苦悩の一端をアレクシスに伝え始める。
ガーネット公爵家が王太子派閥で微妙な立場にあり、父テオドールが何かしらの政治的取引を進めていること。
そして母ローザの病気が一段と重くなり、セシリア自身が家を支えていること――。

 

「セシリアの本心はわかりません。でも、少なくとも彼女は“本当の自分”を捨てている。それを踏み台にして利用している者がいるなら、何としてでも止めたいんです」

 

「ええ、僕も同じ思いです。彼女が“悪役”である必要などない。それを証明し、彼女が笑って過ごせるようにしたい」

 

アレクシスの声には、強い決意がこもっていた。
このままでは、セシリアは破滅の道を歩むことになるかもしれない。
それを回避するためにも、真実を明らかにしなければならないと、改めて確信する。

 

部屋に差し込む夕日の中、二人の青年の意志は固く結ばれた。
セシリアを救い出すために――そして、彼女が失った笑顔を取り戻させるために。
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