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「セシリア、入るぞ」
公爵邸の書斎に呼び出されたセシリアは、父テオドールの厳しい声に従い、扉を開ける。
中には数名の貴族が顔を揃えていたが、皆むっつりと黙っている。
「……お呼びでしょうか、父様」
セシリアは一礼するが、テオドールは娘を見つめるその瞳に憤りを滲ませている。
「お前、学園での行いがさらに目立っているようだな。セシリア・ガーネットという名が、悪い意味であちこちで語られている」
「……はい。私が“悪役令嬢”だと囁かれていることは承知しております」
「わかっているなら、もっと周りを欺く演技を上手くやれ。お前がこうも騒がれては、我が家の立場がますます危うくなる」
強い口調で叱責するテオドールに、セシリアは眉をひそめながら答える。
最初から言われているように、悪役を演じるとはいえ、過剰に注目を浴びるつもりはなかったのだ。
「……しかし、私にどうしろと? 少しおとなしくしていても、周りが勝手に私を攻撃してきます。これ以上動きを抑えようがありません」
「言い訳はやめろ。お前が見下すような態度を取るから、周囲も敵対心をむき出しにするのだ」
「それは……!」
セシリアは言葉に詰まる。
確かに“悪役令嬢”を演じるために、あえて高慢な態度を取ってきた面は否定できない。
しかし、それもすべては父に命じられ、家を守るために選んだ道だ。
「このままでは、ガーネット家が王太子派閥の支持を完全に失う恐れがある。それだけではない。バローズ家の者たちが、我が家に取り入ろうと画策しているようだ」
テオドールの言葉に、セシリアは胸がざわつく。
バローズ家……つまりマーガレットの家のことである。
「マーガレット・バローズは、表向きは殿下の支援者ということになっているが、その裏で我が家にも接触を試みている。お前への嫌がらせと同時に、情報を引き出そうとしているようだ」
「そんな……つまり、私が悪役として振る舞うことで、バローズ家がますます我が家へ影響を及ぼそうとしていると?」
「そうだ。お前が悪名を広げれば広げるほど、ライナス殿下は我が家を見限りやすくなる。だが同時に、別の派閥が我が家を取り込もうと動く可能性も高まる」
テオドールは机に拳を叩きつける。
その表情は焦燥に満ちていた。
公爵家としては、王太子派閥を裏切るような行為は許されない。
しかし、その王太子本人からも信用を失いつつある状態なのだ。
「父様、今後どうされるおつもりなのですか。私も協力いたします」
セシリアが問いかけると、テオドールは深く息をついた。
「まずは、お前がこれ以上問題を起こさないようにすることだ。……だが今となっては、ほとぼりを冷ますには時間がかかるだろう。バローズ家の思惑を見極めながら、王太子殿下の機嫌も損ねないようにしなければならん」
「私にできることは……」
「黙って悪役を演じ続けろ。それが一番の安全策だ。派閥争いに巻き込まれたとしても、最終的には我が家が生き残れる余地を作らねばならない」
セシリアはぎゅっと拳を握る。
黙って悪役を演じ続けろ――それが父から与えられた選択肢だとわかっていても、今の事態をどうにかしたいという気持ちが募る。
(このままでは、私だけじゃなく、お母様も苦しむ。家門を守るどころか、破滅の道を早めているのでは……)
不安を抱えたまま部屋を出ると、廊下で執事が待ち構えていた。
彼はセシリアを見るなり、一礼して小声で告げる。
「セシリア様、第三王子殿下より、内密にお会いしたいとのご伝言が届いておりますが……いかがいたしましょう」
「アレクシス殿下が……? いえ、今はお会いできないと伝えてください」
即答したものの、胸の奥で葛藤が渦巻く。
アレクシスに頼れば、事態が好転する可能性があるかもしれない。
しかし、それがまた別の混乱を呼び起こす危険性も大きい。
セシリアはしばし廊下に立ち尽くす。
悪役として生きる道が、次第に暗く、そして重いものになっていく感覚に苛まれながら――。
公爵邸の書斎に呼び出されたセシリアは、父テオドールの厳しい声に従い、扉を開ける。
中には数名の貴族が顔を揃えていたが、皆むっつりと黙っている。
「……お呼びでしょうか、父様」
セシリアは一礼するが、テオドールは娘を見つめるその瞳に憤りを滲ませている。
「お前、学園での行いがさらに目立っているようだな。セシリア・ガーネットという名が、悪い意味であちこちで語られている」
「……はい。私が“悪役令嬢”だと囁かれていることは承知しております」
「わかっているなら、もっと周りを欺く演技を上手くやれ。お前がこうも騒がれては、我が家の立場がますます危うくなる」
強い口調で叱責するテオドールに、セシリアは眉をひそめながら答える。
最初から言われているように、悪役を演じるとはいえ、過剰に注目を浴びるつもりはなかったのだ。
「……しかし、私にどうしろと? 少しおとなしくしていても、周りが勝手に私を攻撃してきます。これ以上動きを抑えようがありません」
「言い訳はやめろ。お前が見下すような態度を取るから、周囲も敵対心をむき出しにするのだ」
「それは……!」
セシリアは言葉に詰まる。
確かに“悪役令嬢”を演じるために、あえて高慢な態度を取ってきた面は否定できない。
しかし、それもすべては父に命じられ、家を守るために選んだ道だ。
「このままでは、ガーネット家が王太子派閥の支持を完全に失う恐れがある。それだけではない。バローズ家の者たちが、我が家に取り入ろうと画策しているようだ」
テオドールの言葉に、セシリアは胸がざわつく。
バローズ家……つまりマーガレットの家のことである。
「マーガレット・バローズは、表向きは殿下の支援者ということになっているが、その裏で我が家にも接触を試みている。お前への嫌がらせと同時に、情報を引き出そうとしているようだ」
「そんな……つまり、私が悪役として振る舞うことで、バローズ家がますます我が家へ影響を及ぼそうとしていると?」
「そうだ。お前が悪名を広げれば広げるほど、ライナス殿下は我が家を見限りやすくなる。だが同時に、別の派閥が我が家を取り込もうと動く可能性も高まる」
テオドールは机に拳を叩きつける。
その表情は焦燥に満ちていた。
公爵家としては、王太子派閥を裏切るような行為は許されない。
しかし、その王太子本人からも信用を失いつつある状態なのだ。
「父様、今後どうされるおつもりなのですか。私も協力いたします」
セシリアが問いかけると、テオドールは深く息をついた。
「まずは、お前がこれ以上問題を起こさないようにすることだ。……だが今となっては、ほとぼりを冷ますには時間がかかるだろう。バローズ家の思惑を見極めながら、王太子殿下の機嫌も損ねないようにしなければならん」
「私にできることは……」
「黙って悪役を演じ続けろ。それが一番の安全策だ。派閥争いに巻き込まれたとしても、最終的には我が家が生き残れる余地を作らねばならない」
セシリアはぎゅっと拳を握る。
黙って悪役を演じ続けろ――それが父から与えられた選択肢だとわかっていても、今の事態をどうにかしたいという気持ちが募る。
(このままでは、私だけじゃなく、お母様も苦しむ。家門を守るどころか、破滅の道を早めているのでは……)
不安を抱えたまま部屋を出ると、廊下で執事が待ち構えていた。
彼はセシリアを見るなり、一礼して小声で告げる。
「セシリア様、第三王子殿下より、内密にお会いしたいとのご伝言が届いておりますが……いかがいたしましょう」
「アレクシス殿下が……? いえ、今はお会いできないと伝えてください」
即答したものの、胸の奥で葛藤が渦巻く。
アレクシスに頼れば、事態が好転する可能性があるかもしれない。
しかし、それがまた別の混乱を呼び起こす危険性も大きい。
セシリアはしばし廊下に立ち尽くす。
悪役として生きる道が、次第に暗く、そして重いものになっていく感覚に苛まれながら――。
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