婚約破棄された悪役令嬢は、唯一無二の笑顔を知る

神楽坂ゆい

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「アレクシス殿下、準備が整いました」

 

王宮内の一室で、オスカーがアレクシスへ報告する。
机の上には、セシリアがこれまで行ってきた“表に出ない善行”の記録がずらりと並んでいた。

 

「これほどまでに、セシリアが人知れず慈善活動をしていたとは。学園の孤児院支援や、母ローザ夫人のために薬師や研究者を探すなど、かなりの労力を注いでいますね」

 

アレクシスは記録を目で追いながら、その中身に感嘆の息を漏らす。
表面上は高慢な悪役令嬢を装っているが、実際には何度も財政的支援を行い、多くの人々を救ってきたのだ。

 

「彼女がそれを公にしないのは、“悪役”としての立場を崩したくないからでしょう。だからこそ、周囲はまったく気づいていない」

 

オスカーの説明に、アレクシスは頷く。
セシリアの優しさが、悪役というイメージに埋もれてしまっている現状が歯がゆい。

 

「これらの事実をうまく周囲に示すことができれば、彼女の評価は一変する。少なくとも、マーガレットたちが流す噂を抑える一助にはなるでしょう」

 

「はい。ただ、セシリア本人はあまり表立った称賛を望まないかもしれません」

 

「わかっています。でも、彼女を守るためには、少しだけ光を当てさせてもらう必要があるんです」

 

アレクシスはそう言って目を伏せる。
セシリアの尊厳を守りながら、周囲の悪意を退けるためにも、一部の真実を世に知らしめる作戦が必要だ。

 

「殿下、具体的にはどう動かれるのでしょう?」

 

「まず、学園での寄付記録や慈善活動の報告書を、一部の有力者に見せます。彼女の“真の姿”を知って、味方になってくれる方々がいれば、風向きが変わるかもしれない」

 

アレクシスは資料をまとめ、近衛騎士の者たちにも協力を要請する。
セシリアが学園で支えてきた孤児院の関係者や、医療施設の従事者にも証言を得られれば、噂を打ち消す大きな力となるはずだ。

 

「殿下、マーガレットたちが動いているのに対し、こちらも応戦するということですね」

 

「はい。正面からの対決ではなく、さりげなく情報を広める形にしたい。セシリアの名誉を回復するためには、まず真実を知る人を増やさなければ」

 

オスカーは納得したように頷きながら、苦笑を浮かべる。

 

「セシリアが聞いたら、また怒るかもしれませんね。悪役に徹する私を勝手に救おうとするな、と」

 

「かもしれません。でも、僕は彼女を放っておけない。あなたも同じでしょ?」

 

「もちろんです。俺も、セシリアが誤解されたまま傷ついているのは許せない」

 

二人は視線を交わし、決意を新たにする。
こうして始まった“セシリア再評価”のための作戦は、少しずつ形を帯びていった。

 

数日後、学園では妙な噂が広まり始めた。
あの悪役令嬢セシリアが実は寄付活動に熱心で、貧しい孤児たちを救っているらしいという内容だ。

 

「そんなバカな……あのセシリア様が? あり得ないわ」

 

「でも、最近そういう証言をする人が増えているのよ。孤児院の関係者とか」

 

戸惑う生徒たちの中には、半信半疑ながらも興味を示す者も出てきた。
セシリアを毛嫌いしていた一部の令嬢すら、「もし本当なら話が違う」と動揺を見せ始める。

 

「マーガレット様、どうしましょう。このままだとセシリア様に同情する人が増えてしまいます」

 

取り巻きの令嬢たちが不安げに囁くと、マーガレットは苛立ちを露わにする。

 

「何故そんな話が今頃になって出てくるの。セシリアが慈善活動なんて、噂に過ぎないわ。どうせ作り話よ」

 

しかし、事実を否定するにはあまりにも具体的な証言が出始めている。
マーガレットは焦燥感を募らせながら、ライナスにも相談するべきか迷った。

 

(アレクシス殿下が背後にいるのかもしれないわね。……だけど、私も黙ってはいられない)

 

マーガレットの野心と、アレクシスたちの“救済作戦”が激突する時は、もはや目前に迫っていた。
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