婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

文字の大きさ
2 / 40

2

しおりを挟む
「聞きましたわよ、アデル様。婚約破棄されたんですって?」

 

どこからともなく現れたレイラ・ドロワットが、開口一番そんなセリフを投げかけてくる。わたくしは出迎える立場なのに、気の利いた言葉が出てこない。

 

「まぁ、皆さん耳が早いこと。あまり大きな声で言いふらさないでいただける?」

 

「それが、もう貴族街でも城下町でも噂が広まってるみたいですよ。『悪女がとうとう見限られた』とか、『王子が真っ当な判断をした』とか……」

 

レイラはわたくしと同じ女学院の出身で、表向きはライバルのように振る舞っている。でも、本当は昔から気の置けない関係でもあります。口調は辛辣だけど、なにかと心配してくれる優しい人。

 

「……わたくし、そんなに悪女ぶってたかしら?」

 

「『ぶってた』じゃなくて『ぶってる』の間違いでしょ。」

 

レイラはため息をつきながら、ソファに腰を下ろす。わたくしは彼女を前にしても、威厳を保とうと背筋を伸ばして立ち続ける。

 

「でも、ロラン殿下に捨てられたって噂は相当ショックでしょう。大丈夫?」

 

「ええ、わたくしは平気ですわ。悪女ですもの。そんなことくらい……」

 

声がうわずり、言葉の最後が震えてしまう。レイラはそれを見逃さず、じっとわたくしの顔をのぞきこむ。

 

「平気じゃないでしょ。本当はすごく落ち込んでるんじゃない? それとも……なにか心当たりが?」

 

レイラの問いに思わず息を飲む。わたくしがコッソリやっている“あの行い”を、もし殿下が知ってしまったら……。いえ、それが原因とは限らないけど、可能性はある。

 

「……さぁ。婚約破棄の真意はロラン殿下にしかわかりませんわ。」

 

「ふうん。じゃあ、どうするつもり? 婚約破棄を正式に受け入れるの?」

 

「それしか手がないでしょう。殿下はわたくしに『詳しいことは後日話す』と仰った。ならばわたくしはおとなしく待つだけ。」

 

「でも、このままだと“悪女アデル”って評判がさらに悪化するわよ?」

 

わたくしはわざと肩をすくめてみせる。噂など今さら気にしても仕方ない。けれど――本当は怖い。婚約破棄の理由が“実はアデルが本当にとんでもなく悪かった”と公になったら、わたくしの立場は危ういわ。

 

「レイラ、あなたはどう思っているの?」

 

「何を?」

 

「……わたくしのこと。わたくしは、本当に性悪女だと思う?」

 

「さあね。でも、わたしが知ってるあんたは、憎まれ口を叩いても根っこの部分は優しい人だと思ってるわ。」

 

「……」

 

わたくしは返す言葉が見つからず黙り込む。やはりレイラはわたくしの本質に気づいている。だけどその事実をみんなに知られるのは怖い――何が怖いのか、自分でもよくわからないけど。

 

「ありがとう。けれど、わたくしは悪女のままでいるのが性に合ってるみたい。それがわたくしの生き方ですわ。」

 

「……強がりばっかり。」

 

レイラは呆れたように笑う。わたくしは視線をそらして、窓の外の空を見上げる。晴れ渡った青空なのに、胸の奥は土砂降りのようにざわついていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...