婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

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「お嬢様、ちょっとよろしいですか!」

 

朝の身支度を整えていると、サラが何やら慌ただしくやって来る。メイド服のままで失礼かもしれませんが、彼女はもともとこういう子なのよね。

 

「なにかしら。そんなに慌てて……」

 

「その……城下町のお子さんがまた、アデル様に会いたいって言ってるんです!」

 

「城下町の……わたくしには関係ありませんわ。」

 

それだけを言い放ち、鏡越しに自分の髪を確認する。サラはそれでも引き下がらず、わたくしの背後で手をもじもじさせながら口を開く。

 

「でも、アデル様がこっそり寄付してるあの孤児院、今ちょっとした問題が起きてまして……」

 

「シッ! そんなこと大声で言わないでちょうだい!」

 

思わず声を荒らげてしまう。わたくしは昔から、困っている人を見捨てられない性格。けれど、それを公にすると皆が『悪女じゃなかったのか』と混乱するし、それ以上に“同情される”のが怖い。だから地道に寄付を続けてきたのだし、たまに顔を出しては子どもたちにお菓子を配ったりしている。でもそれは秘密なの。

 

「は、はい……すみません。つい……」

 

「わたくしが今さら孤児院に顔を出したところで、わたくしは婚約破棄された伯爵令嬢。それどころじゃありませんわ。」

 

そうは言いつつも、内心は落ち着かない。孤児院の子どもたちは元気にしているかしら。何か大変なことが起きているなら手助けしてあげたい。でも、今はわたくし自身が事件の渦中。そんな余裕がないはずなのに。

 

「……わかりました。それじゃあ私がそれとなく様子を見てきますね。」

 

「ええ、お願いするわ。あまり深入りしないように。」

 

サラはこくんと頷き、部屋を出て行こうとする。しかし、ドアを開けたところで急に振り返り、キラキラした表情でわたくしを見つめる。

 

「ところで、アデル様が街の子を助けてたって噂が先日ちょっと広まったんです。ですが、すぐに“悪女の作り話だ”ってかき消されたとか……」

 

「そ、そう。よかったわね。」

 

(おかしいわね、本当のことなのにどうして誰も信じないの……って、悪女の噂が強すぎるのよ。)

 

わたくしは小さく息をついて、窓から外を見やる。どこまでも澄んだ青空が、かえってもどかしい。もしロラン殿下が“あの孤児院のこと”を知ってしまったら? わたくしが裏で善行をしていたことを咎められることはないだろうけれど、それを「偽善」だと糾弾されたら立ち直れないかもしれない。

 

「さて……わたくしはどう動くべきかしらね。」

 

声に出しても誰も聞いていない。わたくしはわずかに揺れる心を抑え込み、鏡の前で悪女の微笑みを作る。殿下が婚約破棄を言い渡した真意なんて、わからない。だけど、いずれにせよ今はわたくし自身を守るために、周囲を警戒しなくては。

 

(絶対にバレたら面倒なことになる。わたくしの秘密の行いは、このまま闇に葬り去ってしまわないと。)

 

わたくしはそう自分に言い聞かせながら、次なる王宮の行事に向けて準備を始める。気丈に振る舞うためにも、完璧なメイクとドレス選びを怠らないように――それが、悪女としてのわたくしの矜持ですわ。
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