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「アデル、さっきはどうしてあんなに逃げるように……」
城下町の視察を終えたロラン殿下が、夕刻になってわたくしの屋敷を訪ねてきた。突然の来訪に驚きつつも、嫌な予感が胸をよぎる。先ほどの“子ども救出”シーンを問いただされるのかしら。
「殿下こそ、急にどうなさいましたの?」
「少し話がしたくてな。……お前がああいう優しい行動をするのは珍しい。」
やっぱりそのこと。わたくしは表情を変えないよう必死になる。部屋には二人きり。サラには遠慮して外してもらった。
「別に、あれは優しさなんかじゃありませんわ。あの子が泣いていたから、たまたま目の前で助けただけ。」
「そうか……だが、あの男の子は『ありがとう、お姉ちゃん!』と笑っていたぞ。」
「……」
わたくしは何も言えなくなる。子どもの無邪気な声が思い出されて、少し胸が痛い。ロラン殿下は何を考えているのか、少し寂しげな瞳でわたくしを見つめる。
「お前は、昔からそういうところがあった。なのに、周囲にはまるで気づかせようとしない。」
「……殿下には関係のないことですわ。」
「関係ない、か。お前との婚約はもう破棄した身だから、そう言われるのは仕方ないかもしれない。」
殿下は一瞬、言葉を飲み込むように口を閉じる。そして、そっと目を伏せた後に小さく呟く。
「……それでも俺はお前に感謝している。ずっと、言えないままだったが。」
「感謝……?」
わたくしは思わず聞き返す。ロラン殿下がわたくしに感謝する理由なんてあるのかしら。むしろ悪女として迷惑ばかりかけたはず。
「細かいことは今は言えない。でも、お前が思っているほど俺はお前を嫌ったわけじゃない。」
「……だったら、どうして婚約破棄を……!」
思わず声を上げてしまう。ロラン殿下は苦しげな表情を浮かべるけれど、すぐに目をそらす。
「今はそれしか方法がなかった。今は……な。」
「それ、どういう意味ですか?」
問い質そうとするわたくしに、殿下は首を振る。
「すまない。もう少し待ってくれ。」
「待ってって……」
殿下はそれ以上は語らず、踵を返して部屋を出ようとする。わたくしは苛立ちを隠せない。
「待てと言われても、わたくしは婚約破棄を受け入れた身ですわ。殿下が何を企んでいるのか知りませんが、これ以上わたくしの心をかき乱さないで!」
「……すまない。」
静かな謝罪を残して、ロラン殿下は去って行った。部屋に一人取り残されたわたくしは、うまく整理できない感情に翻弄される。
(殿下はわたくしに感謝している……でも婚約は破棄された。何がどうなっているの?)
悪女だと噂されるわたくしに、殿下がどういう思いを抱いているのか。わからないことだらけ。それでも、殿下の瞳にあった悲しげな光だけは忘れられない。まるで、無理に何かを隠しているみたいだわ。
わたくしはその夜、一睡もできずに朝を迎えることになった。
城下町の視察を終えたロラン殿下が、夕刻になってわたくしの屋敷を訪ねてきた。突然の来訪に驚きつつも、嫌な予感が胸をよぎる。先ほどの“子ども救出”シーンを問いただされるのかしら。
「殿下こそ、急にどうなさいましたの?」
「少し話がしたくてな。……お前がああいう優しい行動をするのは珍しい。」
やっぱりそのこと。わたくしは表情を変えないよう必死になる。部屋には二人きり。サラには遠慮して外してもらった。
「別に、あれは優しさなんかじゃありませんわ。あの子が泣いていたから、たまたま目の前で助けただけ。」
「そうか……だが、あの男の子は『ありがとう、お姉ちゃん!』と笑っていたぞ。」
「……」
わたくしは何も言えなくなる。子どもの無邪気な声が思い出されて、少し胸が痛い。ロラン殿下は何を考えているのか、少し寂しげな瞳でわたくしを見つめる。
「お前は、昔からそういうところがあった。なのに、周囲にはまるで気づかせようとしない。」
「……殿下には関係のないことですわ。」
「関係ない、か。お前との婚約はもう破棄した身だから、そう言われるのは仕方ないかもしれない。」
殿下は一瞬、言葉を飲み込むように口を閉じる。そして、そっと目を伏せた後に小さく呟く。
「……それでも俺はお前に感謝している。ずっと、言えないままだったが。」
「感謝……?」
わたくしは思わず聞き返す。ロラン殿下がわたくしに感謝する理由なんてあるのかしら。むしろ悪女として迷惑ばかりかけたはず。
「細かいことは今は言えない。でも、お前が思っているほど俺はお前を嫌ったわけじゃない。」
「……だったら、どうして婚約破棄を……!」
思わず声を上げてしまう。ロラン殿下は苦しげな表情を浮かべるけれど、すぐに目をそらす。
「今はそれしか方法がなかった。今は……な。」
「それ、どういう意味ですか?」
問い質そうとするわたくしに、殿下は首を振る。
「すまない。もう少し待ってくれ。」
「待ってって……」
殿下はそれ以上は語らず、踵を返して部屋を出ようとする。わたくしは苛立ちを隠せない。
「待てと言われても、わたくしは婚約破棄を受け入れた身ですわ。殿下が何を企んでいるのか知りませんが、これ以上わたくしの心をかき乱さないで!」
「……すまない。」
静かな謝罪を残して、ロラン殿下は去って行った。部屋に一人取り残されたわたくしは、うまく整理できない感情に翻弄される。
(殿下はわたくしに感謝している……でも婚約は破棄された。何がどうなっているの?)
悪女だと噂されるわたくしに、殿下がどういう思いを抱いているのか。わからないことだらけ。それでも、殿下の瞳にあった悲しげな光だけは忘れられない。まるで、無理に何かを隠しているみたいだわ。
わたくしはその夜、一睡もできずに朝を迎えることになった。
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